ハイスクールD×D 学級崩壊のデビルマン   作:赤土

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Will35. 遥かな忌憶の彼方より

岩戸山の洞窟に入るなり、外が妙に騒がしい気がしたが、ここで引き返すわけにもいかない。

バオクゥは戦闘は本職では無いが、ここは彼女を信じて先に進むしか無かろう。

そう考え、俺達は洞窟を奥へと進むことにした。

 

ひっそりと静まり返った、どこか神秘的な雰囲気も湛えた洞窟の岩壁。

坂道を照らしている松明や立て札の存在が、ここに人が入った事のある証左になっている。

やはり、鏡の泉と合わせて何かしらのパワースポット的な存在だったのだろう。

それが、噂の力で「心を映し出す力を持つ」なんてなっている――

 

考えられるカラクリは、そんなとこだと思うが。

 

「……ひ、ひっそりとし過ぎてて、逆に怖いです……」

 

「ギャー助。洞窟が静かなのは当たり前だろ」

 

蝙蝠に化けて洞窟内部を偵察しているギャスパーが独りごちる。

洞窟に蝙蝠って時点で凄く似合いすぎているが、そんな姿で怖いといわれても

全く説得力が無い。鏡見ろ。吸血鬼は鏡に映らないかもしれないけど。

 

「ですが、僕達を待ち構えているにしては確かに静かすぎますね」

 

そうなのだ。まだ歩き出してそれほど経っていないが

はぐれ悪魔にも、デーモン族にも、アインストにも出くわしていない。

ロックシードを持ってさえいれば一般人でも能動的に呼び出すことのできる

インベスでさえも、だ。

 

光実(みつざね)の指摘に、これは俺の早合点だったかと考えだしたところで

俺達の目の前に立て札が現れる。どうやら、この先が鏡の泉らしい。

 

「……一応、言っておく。

 何が映し出されても、必要以上に追求するのはやめにしないか?

 なんてことも無い事を映し出されるか、嫌なものを映し出されるかは

 何とも言えないのだし」

 

「あ、ああ。そうだな。珍しく意見が一致したじゃねぇか」

 

俺の提案に、兵藤が賛成する。正直、こいつの賛成を貰っても

逆に何かあるんじゃないかって疑いたくなるが……

それ以上に、俺があまり追及されたくない。

兵藤がどうこうじゃなくて、完全に自己保身だ。少し嫌になる。

それっぽく纏めて言ってるが、保身に走る口実ってのがなんとも……

 

……ここ最近、自分の事が嫌になってばかりだな。

 

「……じゃ、先に進むぞ」

 

意を決して、俺達は鏡の泉の前に立つことになった。

 

 

――――

 

 

泉が映し出したのは、何処かの街。雰囲気的には、沢芽(ざわめ)市に近いだろう。

その中で、龍玄(りゅうげん)――光実が見たことも無い黒いアーマードライダーと対峙している。

 

 

黒いアーマードライダーがおもむろに変身を解くと、少女の姿になる。

どうやら、何かしらの方法で無関係の人物を洗脳して戦わせているようだ。

完全に人質になっている。

 

どうすることもできないのか、光実は変身を解き、少女の隣にいた

黒いイナゴの怪物にいいようにやられている。

 

「あ、あのままじゃ光実さんが!」

 

「落ち着けアーシアさん。あれは映像だ」

 

映し出されている映像にどうにもできないのはわかっているが

確かにこれをどうにかできないかと思っていると

光と共に、白銀の鎧を纏った金髪の青年が現れた。

 

……その光ってのがリンゴみたいな形をしていた事には、まあ触れないでおこう。

 

青年の力で、イナゴの怪物は倒され、人質にされていた少女も解放された。

さらに、青年は見たことも無い白銀の南蛮鎧を思わせるアーマードライダーに変身。

 

 

――一緒に戦おうぜ、ミッチ!

 

 

青年の声に応えるように再び龍玄に変身した光実と共に

黒いアーマードライダーを撃破したのだった。

 

 

紘汰(こうた)……さん?」

 

「知っているのか? 光実」

 

 

映像が終わると、光実は懐かしいものを見たかのように目に涙を湛え

ふと、聞きなれない名前を呟いていた。

 

「え……? いえ、僕の知り合いに紘汰って人は……いない……はず……なんですけど……

 でも……忘れちゃいけない……よく知っている……一体、これは……?」

 

映し出された映像に、光実は混乱を隠しきれていない。

記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)を向けるべきだったかと悔いても、仕方がない。

一応、カメラ越しでも記録や読み取りは出来るが。

 

「……虚憶(きょおく)、だと思うぜ」

 

「虚憶、だと?」

 

「ナイア先生が言ってた。ここじゃない、どこか別の世界で自分じゃない自分が経験した記憶。

 俺もよくわからなかったけどよ、確かにあった事なんだと思うぜ。

 実感湧かねぇけどよ、前世の記憶がなんたら~って奴みたいなもんじゃね?

 部長の部屋にあった古い雑誌に、よくそういう投稿が載ってたぜ」

 

兵藤がやけに饒舌に語る。

……ん? 布袋芙(ほていふ)先生に虚憶とやらに教わったのはいい。その機会はいくらでもあっただろ。

だが問題は、こいつどのタイミングでそんなピンポイントな情報を得たんだ?

まさか……やっぱりこいつ、ここに来たことがあるんじゃないか?

その時に自分の虚憶を見て、それで布袋芙先生に教わった……ってとこか?

 

「じゃあ……今映し出されていたのは……」

 

「……ある意味、心を映し出したってところか。

 ただ、その映し出した心はどの世界の自分の心かまるっきりわからないってところだが。

 しかし前世とは大きく出たな。まさか前世もお前は兵藤一誠で

 こんなような出来事を体験してたってのか?」

 

「実感が湧かねぇつったろ」

 

正直、俺は兵藤についてどこまで知っているのか問い質したいところだった。

だが、今はそんなことをしている場合じゃない。

いきなりガツンと情報で叩かれたが、当初の目的を果たすのが先だ。

白音さんの救出。それを果たしてからでもこいつを問いただすのは遅くあるまい。

 

……が、虚憶について一応検索だけ軽くかけてみるか。

 

 

ERROR!!

 

 

……ダメか。文字化けも何も出ない、エラーとだけ返されるって事は

やっぱり、他の世界にまつわることなのかもしれない。となれば開示には禁手(バランスブレイカー)が必要だが

それこそ今そんなことをしている場合じゃない。

とんでもない謎を残してくれたが、優先順位をはき違えるわけにはいかない。

 

「あっ! 泉の映像が……!」

 

アーシアさんの言葉で泉に向き直ったときに映し出されていたのは、何処かの教会だった。

そこで対峙しているのは……兵藤と天野さん? ……いや、レイナーレか。

これは……兵藤の過去か? それとも、俺の……?

 

兵藤が赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)でレイナーレを倒す。ここまでは俺の記憶通りだ。

そしてその後、俺がブチ切れて兵藤の体を勝手に使ってレイナーレを半死半生にしたんだが

その事件が起こる前に、グレモリー先輩がレイナーレを消し飛ばした。

 

 

……なに? こんな顛末だったか? それとも兵藤の中ではこう記憶が改竄されているのか?

いや、そんなはずはない。そもそもレイナーレはまだ生きている。

この時にレイナーレが消えては、現実と齟齬が起きるどころの話じゃない。

 

アーシアさんも首を傾げている。

俺が話した顛末と、今映し出されている顛末が食い違っているのだ。

そりゃあ、あの時は怒りで前後不覚だったから多少の記憶の混乱はあったかもしれないし

そもそもあの時、俺の記憶混乱してたもんな。

この時の顛末をよく知らないギャスパーや光実は、アーシアさんとは違う意味で首を傾げていた。

 

「……本当なら、セージが横槍入れなくとも部長がレイナーレを消して

 めでたしめでたし、だったはずなんだ」

 

兵藤の言ったことが気になるが、深く追求するのはやめようって言った矢先だ。

舌の根も乾かないうちに問い質すのはよくない。

 

……にしても、黒幕消して大団円、ねえ。

今思えば、レイナーレもディオドラの掌の上だったかもしれんが。

まあ、自分の汚点を消すのに他人に頼ってる時点で俺はどうかと思うがね。

満身創痍だったとはいえ、赤龍帝の籠手って武器はあったはずなのに。

……なんなら、俺がやったみたいに暴走させてもよかったんだし。

ま、それは悪手も悪手ではあるが。

 

などと考えていると、映像はさらに移り変わった。

 

 

今度は……ライザー・フェニックスとの戦いか。

だが、これも俺の記憶とは全く顛末が違う。

あの時、俺は間違いなくライザーと聖水のプールに自分諸共飛び込むことで

聖水漬けにして、強引に勝利をもぎ取ったはずだ。

それなのに、ここではグレモリー先輩が投了(リザイン)している。

その後、結婚式典に兵藤が乱入する形でライザーを下したのだ。

 

……決まり事を後から台無しにするのって、どうなんだろうね。

俺は事情を知っているからノーコメントを貫けるが

事情を知らない人から見たら、これって重大なルール違反だと思うんだが。

実際、光実はすごい怪訝な顔をしている。

一応、事の顛末をかい摘んで説明したが。

 

「……これ、少なくとも僕にはきちんとした取り決めを

 後から力業でふいにした、って風にしか見えないんですが」

 

「安心しろ光実。俺の記憶では、こんなことは起きてないし

 兵藤だってそんな約束破りなんて不誠実な真似をしていない」

 

俺の一言に、兵藤が少し不機嫌そうな顔をしているが……俺何か言ったか?

今映し出されているのは、この世界で起きた事じゃないだろ。

言っちゃなんだが、お前とも無関係の話のはずだ……だよな?

 

そうじゃないとしたら……これは、混乱による記憶の改竄なんてもんじゃないぞ。

クロスゲートの向こう側にあるかもしれない世界の出来事、って言った方が

まだ納得できるレベルでの改竄が起きている。

 

鏡の泉は、心を映し出す泉じゃなかったのか?

これが心だとしたら、現実改変なんてレベルじゃないぞ……?

まさか本当に、前世の記憶だとでもいうのか……?

こんな、クロスゲート超えた先の世界って言った方が納得できる話がか?

 

俺が疑問に思っている間にも、映像は変わっていく。

今度はコカビエルとの戦いだ。ここはあまり変わらないが……

 

「そう言えば、さっきからセージさんがいませんね?」

 

「一番最初の時は、イッセーさんに取り憑いているって思ってたんですけど

 それ以降はそうでもなかったはずなので、それなのにセージさんがいないってのは

 やっぱり……」

 

光実とアーシアさんの指摘で、凄く根本的なことに気づいた。

 

 

――俺がいない!

 

 

映し出されている映像には、どれも俺がいないのだ。

兵藤は赤龍帝の籠手を発現させ、ライザー戦では禁手にも至っているようなので

使いこなせていない、なんてことは見る限りではなさそうだし

このコカビエル戦でも祐斗は聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)を手にしている。

 

ただ、俺の存在だけがごっそり抜け落ちているのだ。

いや、もう一つ抜け落ちているものがある。超特捜課だ。

まあ、これは接点が無いって理由で映し出されていないだけの可能性もあるんだが。

 

その後も映像は流れていき、神仏同盟とアインストのいない駒王学園での会談。

身に覚えのないシトリー眷属とのレーティングゲーム。

そして何故だか北欧神話の来日の警護に就いているオカルト研究部。場所も沢芽市じゃない。

そんな中でも、覇龍(ジャガーノート・ドライヴ)での暴走は起きているが……レーティングゲーム空間だ。

駒王町を消し飛ばしかねない状況ではない。

 

あまりにも、あまりにも俺の記憶と違いすぎる。一体これはなんなんだ!

 

 

「……これは、少なくとも俺の心じゃないな。俺の記憶にも、心にもあんな出来事は無い」

 

「……いや、あれが正しい歴史なんだ。俺も最初は……」

 

言いかけた兵藤が、はっとした表情で口をふさぐ。

今の口ぶり……こいつ、やはり本当はここに来たことがあるんじゃないのか?

とは言え、深く追求しないといった手前こいつに問い質すこともできないが。

 

「……お前の虚憶、とやらか。あの場に光実や俺がいなかったり

 大なり小なり変化が起きているのは、この世界じゃない別の世界に

 生を受けたお前が経験したことか。

 確かに、クロスゲートなんてもんがある以上、そう言う出来事も起こりうるか。

 

 ……だがな兵藤。俺の所見だが、今映し出された虚憶とやらが

 何もすべて正しいとは思えんぞ。

 まして前世の記憶だとして、それをバカ正直に信じるのも流石にな。

 少なくとも、今あるものを否定してまで不確かな虚憶に縋るのは、どうかと思――」

 

「お前に何がわかるんだよ!! 俺はな、虚憶の中ではハーレムも持てて

 魔王様にも認められて、平和を脅かす悪い奴らも撃退出来て

 何不自由なく過ごせていたんだ!! 今なんかよりずっとな!!」

 

言い終わる前に、物凄い剣幕で兵藤にまくし立てられた。

そりゃ、夢みたいなものを「自分が経験したことです」なんて言われて

現実とのギャップに苦しまない方が無理があるとは思う。思うが……

 

……今を、生きてる世界を蔑ろにしていい理由にはならない。そう俺は思うんだがね。

それに、前世の記憶だとしても……結末が同じになるとは、限らないじゃないか。

現に、お前の言い分だと前世にいない光実や俺がこうしている訳なんだし。

 

「あの……そ、そろそろ先に進みませんか?

 まだ、洞窟は続いてるみたいですし、何より……」

 

「……ん、そうだな。虚憶だ前世だ並行世界だ、そんな話をしに来たんじゃない。

 指摘ありがとうよ、足止めさせてなんだが先に行こうか。

 あんまり、白音さんを待たせるのもよくない」

 

ギャスパーの指摘通りだ。そんな途方もない話をしにこんなところに来たわけじゃない。

要らん足止めを喰らうよりも、さらに先に進んだ方がいいだろう。

まだ洞窟は奥に続いてるみたいだし。

 

 

――――

 

 

鏡の泉を抜けた先に、何か宝物を隠しておくような、そんなタイムカプセルじみた

古びた箱がぽつんと置かれている小部屋のような空間があったが

当然のようにそこには何もなかった。

多分、昔ここで遊んでいた子供が何か隠したんだろう。

こんなところに隠すってのは、よほど大事にしたいものか……

もしくは、誰の目にも触れられたくないものを隠したか。

ま、俺はその子供じゃないからわからないし

本当にそんなことがあったのかどうかは知る由もない。

 

奥に進むにつれ、洞窟も入り組み始めてくる。

しかし、やはり何かが出てくる気配は一向にない。

敵がいないのはありがたいが、それだけに不安になる。

まして、さっきあんなものを見せつけられては。

 

「……本当に何も出てこねぇな。気味が悪いぜ」

 

「レーダーにも何も反応は無い。場所が場所だから効かないだけかもしれないが」

 

敵が出てこない、ただ静まり返った洞窟の中を進んでいくだけと言う状況。

音と言えば、俺達の足音か鍾乳石から滴り落ちる水滴か。

これは、この奥に犯人がいるとなると精神的に摩耗したところを狙う魂胆だろうな。

願わくば、白音さんだけ見つけて犯人の対処は後日改めてと行きたいところだが。

 

 

だが、そんな俺の気持ちを嘲笑うかのように二つ目の鏡の泉が現れた。

確かに、バオクゥから貰った地図には四つ、泉があるとされているが。

 

……さっきみたいなのを、あと三回も繰り返すのか。

これは確かに、精神を摩耗させるのが目的かもしれないな。




虚憶絡みは本当に話がややこしくなる……

>最初に映し出された映像
TV版鎧武最終話です。一話で群雄割拠してる場面とどっちにしようかと思いましたが
まあ、こっちの方が虚憶の解説にはいいかなと。

そしてこの世界ではミッチは「紘汰の事を知らない」はずなのですが
こうして虚憶には映し出される。

この世界の鎧武、かなり歪な設定なんですよね。
ユグドラシル関係は中盤なのだけど、紘汰も戒斗も舞もいない。
この3人がいない=最終話後のはずなんですが……
DJサガラが普通に動いている事を考えるとやっぱり何かありそう。

とりあえず黒ミッチ全盛期を映し出されなくてよかったね。

>虚憶
改めて調べてみると、メタ発言をそれっぽく言ってるだけかと思ったら
前世だの輪廻転生だの破界と再世だの……
本当にややこしすぎるので、とりあえず原作イッセー=拙作イッセーの前世、と
OG感覚での虚憶だとなることになりますね。

まあ、アーリィさんの世界は原作世界とはまた違いますし。
拙作世界よりは原作よりですが。

実はすでに虚憶こそが真実と言う説への反論である
「イレギュラーが存在している」が言及されてるんですよね。
そりゃあ、イッセーもセージを目の敵にするわ。

と言うか、前世を真実だと思い込むって
それイシュキックで既に通った道……
まあ、イッセーがイシュキックなんざ知ってるはずもありませんし
なんなら虚憶ってワードを初めて使ったユーゼスでさえ……
あのユーゼスは殊更にポンコツでしたが。

>鏡の泉を抜けた先の小部屋
不死鳥戦隊のお面(或いは何か札)が隠されていた場所。
実は初プレイ時に赤だけ回収し忘れてアポロ不在だった思い出。
流石に時を経ているので、ここには何もないですし
セージ達もここで何があったのかなんて知りません。
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