ハイスクールD×D 学級崩壊のデビルマン   作:赤土

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A dear and abominable memory. Aパート

――宮本家。

 

珠閒瑠(すまる)市の騒動は遠く離れたこの駒王町にも伝わっていた。

ましてや、家族が珠閒瑠市に赴いているのだから

その心理的影響は計り知れない。

 

「……まさか、合同学習で行った先であんなことになるなんてねえ。

 セージもだけど、白音ちゃんは大丈夫?」

 

「白音も猫魈(ねこしょう)にゃん。ちょっとやそっとで、どうにかなるほど

 柔な育ちはしてない……はずにゃん。

 それに、セージもついてるなら大丈夫にゃん」

 

言葉とは裏腹に、黒歌の声には不安が多く含まれていた。

何せ、彼女は白音が体がそれほど強くないことを知っている。

そんな白音を守るために、一度は妖怪でありながら悪魔に身を窶したのだから。

セージもついている。そう言い聞かせることで、なんとか納得させようとはしていたのだが。

 

「……でも、未だに実感がわかないわ。

 まさかセージが、とんでもない力を持っていて

 テロリストとも渡り合えるほどの可能性を秘めているだなんて。

 

 ……そりゃあ、昔一度だけ大喧嘩してくれたことはあったけれど」

 

「へえ。そういう方面でもやることはしっかりやってるにゃん。

 逆にちょっと安心したにゃん」

 

思わぬセージの母の告白に、黒歌はともすれば茶化すような口ぶりではあったものの

感心の意味合いも込めて、思わずつぶやいていた。

 

「その話、詳しく聞いてもいいにゃん?」

 

「……ごめんね? これはセージ自身があんまり言いたがらない事でもあるし

 本人のいない場所ではちょっと、ね」

 

本人に口止めされているのか、セージの過去について

この場ではこれ以上語られることは無かった。

しかし、それについて黒歌はセージの母を責めるでもなく

寧ろ「誰しも脛の傷の一つや二つくらいあるわよね」と、気にも留めなかった。

本人にも脛に傷があるのだから、当たり前と言えば当たり前ではあるのだが。

 

 

――しかし、今その脛の傷が暴かれようとしているのであった――

 

 

 

――――

 

 

 

――岩戸山。

 

 

二つ目の鏡の泉を前に、セージ達一行は中に入るのをやや躊躇いがちであった。

しかし、ここを通らなければ先に進むことはできない。

確信は無いが、ここに白音がいるかもしれない。

以上の理由から、この先に進まざるを得ないとして、意を決して泉の前に立つこととなった――

 

 

 

 

――光と共に現れた光景は、何処か古さを感じる宮本家の風景。

家の前には、老夫婦とやや年のいった女性がおり、その女性の影に

幼い少年が隠れている。

 

(あれは……母さんに爺さん、婆さん……間違いない、俺の記憶だ!

 しかも……身に覚えのない記憶じゃない! これは……)

 

向かい合う先には、少年よりはいくらか年上の少女がいる。

周囲に大人がいないところを見るに、一人で宮本家を訪ねてきたのだろう。

 

「――今度、隣に越してきた牧村です!」

 

「あら、えらいわねえ。一人で挨拶しに来たの?

 ほら、セージ」

 

祖母に促される形で、おずおずと母の影から前に出るセージ。

この頃のセージは、神器(セイクリッド・ギア)が無い事は当然の事ながら

その引っ込み思案からうまく周囲に溶け込めず、友達どころかいじめの標的にされがちであった。

本人もそれを幼いながらに学んだのか、一人遊びに耽ることが多かったのだ。

 

「み、みや……みやもと、せいじ……です」

 

「セージ……セーちゃんね! 私は明日香。牧村明日香(まきむらあすか)、よろしくね、セーちゃん!」

 

挨拶が済むや否や、おもむろにセージを手を取り、遊びに出ようとする明日香。

越してきたばかりで土地勘が無く、近くの公園を紹介されることとなり

二人で公園に遊びに行ったのであった――

 

 

「これも……セージさんの虚憶(きょおく)、ですか?」

 

「いや。これは身に覚えがある。小さい頃のこととはいえ、忘れるものか。

 初めて……姉さんに会った日だ」

 

先ほど光実とイッセーの心を映し出したものとは違い

今回は「当人が確かに経験したこと」を映し出したのだ。

とは言え、その証言は本人のもののみであるのだが。

 

「ほんとかよ? 姉さんって確か、いつだったか病院で……」

 

「ああ。その姉さんだ」

 

セージがまだイッセーに憑依せざるを得なかった頃

病院に入り込んだ先で偶然出くわしたことはある。

しかし当然、向こうにしてみればイッセーしか視認できなかったのだから

その時にセージと会った、と言う認識は全くない。

 

「この時からあんな美人のお姉さんと面識があったのかよ……やっぱリア充だろお前!」

 

イッセーのやっかみにも、セージは何も言い返さず沈黙を返すのみである。

相手をするのが面倒なのか、或いは過去に思いを馳せているのか。

いずれにせよ、色々と複雑な事情を超えた先に今があるという事もあり

これ以上、セージとしては詮索してほしくなさそうではあった。

 

 

そうこうしているうちに、映像はめまぐるしく変わっていく。

その光景は、幼き日のセージと、明日香が共に遊ぶ姿。

セージが小学校に入り、進級をしていきながら明日香とは毎日のように遊んだり

学校の宿題を見てもらったりしていたのだ。

 

「そうだ。これが虚憶でないことを示す証拠がある……

 ……これだ」

 

セージはおもむろに懐から生徒手帳を取り出す。

その中には、忍ばせるような形で明日香と共に撮った写真のシールがあったのだ。

青い帽子をかぶった雪だるまのキャラクター――ジャックフロストが描かれたフレームの中に

幼き日のセージと明日香が、並んで写っている。

 

確かに、鏡の泉が映し出した光景の中にも二人で並んで写真撮影機に入り込んだ映像があった。

二人ともそこそこに背はあったので、子供だけでもなんとかなったのだ。

元来セージは好奇心のある性格だったらしく、それが明日香との出会いで刺激されており

明日香当人もまた、セージを引っ張る位には行動力があったのだ。

 

「あ、確かに並んで撮ってますね。

 でもセージさん、これくらいの年からこんなことしてたなんて……進んでますね」

 

「…………姉さんと一緒なら、何でもできると思ってたんだ」

 

ちょっとだけ茶化すようなアーシアの言葉にも、セージは感慨深そうに語るのみであった。

その様子にただ事ではない事を察したアーシアは、慌てて謝るが

セージは別段気に留めている様子もなさそうであった。

 

「あ、ご、ごめんなさい!」

 

「悪気があっての事じゃないなら、別にいいさ。

 ……そう。確かに、姉さんには色々なことを、世界を教えてもらった。

 

 ……あの時も……」

 

 

再び映像が移り変わると、そこは公園で遊ぶセージと明日香の姿。

二人で、何やらおまじないのようなものをしようとしているのだが――

 

 

「そうだセーちゃん。セーちゃんは将来の夢とか……ある?」

 

「うん。お姉ちゃんといつまでも一緒にいたい! お姉ちゃんに似合うような人になりたい!」

 

無邪気に応えるセージだが、対する明日香の方は少し神妙な顔をしていた。

思わず「変なこと言った?」と聞くセージに明日香は意識を現実に戻される。

 

「あ、ご、ごめんね? ちょっとボーっとしちゃってた。

 そっか、私と一緒にいたいんだ。なんだかお姉ちゃん嬉しいな。

 じゃあ、そんな自分になれるかどうか確かめてみる方法があるんだけど……やってみる?」

 

明日香の提案に、将来を知るという恐怖心はあったもののすぐに好奇心が上回り

セージは明日香の提案に乗る形になった。

 

「――『ペルソナ様』って言うんだけどね。

 これをやると、将来の自分を知ることが出来る……って聞いたことがあるの。

 でも、これ一人じゃできなくて……セーちゃんと一緒なら、できるかなーって」

 

明日香が聞いていたやり方を教わるセージ。いざ試してみようとするが

ここでセージがふとあることに気づく。

 

「――ねえお姉ちゃん。これ、出来なくない?

 だって『ペルソナ様、ペルソナ様、お越しください』って言いながら

 隣の人にタッチするんでしょ? お姉ちゃん、誰にタッチするの?」

 

「だから不思議なのよ。私の聞いたやり方だと、四人でやってたけど

 それだって最後の一人は誰にもタッチできないじゃない?

 それなら、最後の一人はタッチする必要が無いって事じゃない?

 だったら、二人でもできるかな、って。

 

 で……セーちゃん、やる?」

 

明日香の提案に頷き、セージ達はペルソナ様遊びを始めたのであった。

二人だけで行うそれは、二人だけの不思議な儀式のような雰囲気を醸し出しており

言葉に言い表せない雰囲気を醸し出していたのだ。

 

 

「……『ペルソナ様遊び』。そうか、俺ここでやってたのか。

 だから、あの時フィレモンは……」

 

「なあセージ。ペルソナ様ってなんだよ?」

 

イッセーの質問にセージは「話すとややこしいし、長くなる」として応えようとしない。

ただでさえ虚憶などと言うややこしい話が出たばかりだ。

これ以上、ややこしい話をするのも憚られる。

 

「じゃ、後でナイア先生にでも聞いてみるか」

 

「いや、それは……」と、喉まで出かかるがそれを口に出すことは無かった。

布袋芙(ほていふ)ナイアがニャルラトホテプだというのは、ほぼ間違いない話なのだが

そのニャルラトホテプがどう自分達に悪影響を及ぼしているのか。

それを少なくともイッセーは知らない。

セージとて、ニャルラトホテプの話は周防(すおう)兄弟から聞いた程度なのだ。

断片と対峙している事こそあれど、本格的にニャルラトホテプと戦っているわけではない。

一応、まだ自分たちの主たる敵は禍の団(カオス・ブリゲート)――アインストであり、インベスであり、デーモン族なのだ。

セージの場合はそこにサーゼクスを筆頭とする四大魔王が入る形になるが。

 

 

幼き日のセージ達がペルソナ様遊びを終えたところで、映像は終わった。

しかし、まだ洞窟は先に続いている。白音はいない。

まだ、先に進まなければならないのだ。

 

光実(みつざね)とイッセーが映し出したのは虚憶で、俺のは言わば実憶……

 この違いは、何か意味があるのか……?)

 

鏡の泉が映し出した光景。

それは、実体験を伴わない虚憶であるのか、それとも物的証拠を伴った実憶なのか。

どういう仕組みかもわからない以上、調べることもできない。

 

(せめて、どういうメカニズムかわかればやりようもあるのかもしれないが……

 こうなったら、やはり禁手(バランスブレイカー)で――)

 

そう考え、セージは思い切って禁手を発動させようとするが

それはアーシアによって阻まれてしまった。

 

「待ってください。もし白音ちゃんを誘拐した犯人がいたら、戦いは避けられないと思います。

 その時に、セージさんがベストコンディションじゃないとなると

 かなり危険な状態になると思うんです。

 なので……白音ちゃんが見つかるまで、禁手は使うのを控えてもらってもいいですか?」

 

「ん、確かにそうだな。俺が軽率だった」

 

アーシアに宥められる形で、セージは禁手の使用を取りやめる。

その光景に、イッセーの顔は苛立ちを見せていた。

 

(けっ。こんな奴いなくったって、俺の赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)さえあれば

 誘拐犯なんか一瞬で叩きのめしてやれるってのによ)

 

(……『俺の』か。確かに神器の所有者はこいつだが、俺の自由意思はまるで無視してくれる。

 反省はしとらんが、これも『神如き』と彼奴を侮ったが故の結末か。

 こうして体の自由を奪われ、ただ意志だけが残された状態で

 俺や白いの(アルビオン)の力を何も知らない人間が勝手に行使する。

 全く、神も随分と陰湿な仕返しをしてくれたものだな)

 

その苛立ちに対し、赤龍帝の籠手の中にあるドライグは達観した様子で思いを馳せていた。

 

 

鏡の泉を越え、点在するタイムカプセルのような小部屋をやり過ごしながら

松明で照らされた下り坂を降りていく。

 

「光実さん、足元気を付けてくださいね」

 

「ああ、ありがとうアーシアさん」

 

足場が悪く、視界も悪い下り坂と言う危険な場所を移動するにあたり

アーシアが光実の手を取って下って行ったのだ。

ギャスパーは蝙蝠に変身したままなので足場は関係ないし

セージもあまりにも視界が悪かったり足場が悪いときにはアモンに交代している。

となれば、面白くないのはイッセーだ。

 

「けっ。これだからイケメンって奴はよ」

 

「僻むな。別にアーシアさんが誰と仲よくしようが当人の自由だろ」

 

まるで「アーシアは自分のものだ」と言わんばかりのイッセーの態度。

だがそれは、図らずも自らが否定し打ち砕かんとしたディオドラ・アスタロトと

何ら変わることの無い思想そのものであった。

それが透けて見えたのか、先刻の鏡の泉から口数がさらに減っていたセージでさえも

とうとう口を開いたのだった。

 

「へーへー。ガキの頃から美人のお姉さんに可愛がってもらってた奴は言う事が違うねえ」

 

「…………っ!!」

 

次の瞬間、静まり返った洞窟に乾いた破裂音が炸裂した。

セージがイッセーを殴りつけたのではなく、アーシアがイッセーの頬を叩いたのだ。

 

「……人の思い出を、茶化すような真似はやめてください!」

 

「あ、アーシア……!?」

 

一瞬の出来事に、再び洞窟を静寂が支配する。

しかし、こうなったのは必然とも言えた。

映し出された記憶はわけありのもの。少女に好かれる男に対する嫉妬。

自分も好意を寄せられている立場であるにもかかわらず、それを顧みようともしない言動。

それらがふいに言動になって噴出してしまった際、アーシアの怒りに触れてしまったのだ。

 

「……そこに泉がある。『トリッシュの泉』って書いてあるって事は

 鏡の泉じゃなさそうだ。一先ず、そこで休もう。

 このコンディションで先に進むのは、それこそ危険だ」

 

空気が悪くならないうちに、セージは休憩を提案した。

その泉はアイスの露店販売も行っていたりと至れり尽くせりではあるのだが

如何せん、費用が高すぎる。それこそ、高級アイスなど比ではないくらいに。

丁度いいとばかりにアイスを買おうとしたセージ達だったが

相場価格の優に100倍はあろうかと言う価格に目玉が飛び出してしまい

結局、イッセーが店主のトリッシュを「洋服破壊」することで値切って

人数分のアイスを確保したのであった。

 

「Boo!! 洋服代後で請求するかんね!」

 

(……アイス代と差し引きでいいだろ)

 

図らずも、ぼったくりでボロ稼ぎした分をこうして支払わされる羽目になったトリッシュ。

普段イッセーのセクハラじみた行為に難色を示すセージでさえ

今回は何ら咎めることを言わなかったのだ。

善行には善行の、悪行には悪行の報いがある。

その理屈で、こうしてトリッシュはイッセーにひん剥かれる形になってしまったのだ。




唐突ですが、とうとうセージの記憶が暴かれる形になりました。

>セージ
虚憶どころか、実憶として過去の大事な所を暴かれた形。
しかもこれ、まだ続きがあるような感じ。
姉さんとの確執にペルソナ様遊びと結構重要なことを
こうして何の脈絡もなくさらりと。

一緒に撮った写真はまさにプリクラ。
あれアトラス制作ですし、ジャックフロストもプリクラ太郎でしたし。

>イッセー
相手が光実だのセージだのだから失言も出るってもの。
少なくとも、男女間で対応の温度差はかなりあるとは思ってますので。
そして、アーシアに固執するのもディオドラと何が違うのかと。
今回別にミッチといちゃついてたわけでは無いですし。
セージの過去映像ではいちゃついてたかもしれませんが
明日香姉さんとイッセーに接点は無い……はずだけど
それでもやれてしまうのは……

>ドライグ
何気に言及されたのはかなり久々。
原作では無二の相棒とか言われてますが、やってることと言えば
「体の自由を利かない形にされて、力を何も知らない人間に勝手に行使される」
と言う、ともすれば屈辱ともいえる処遇だと思うのです。
まあ、これをやってくれたのは四文字神なので
あの神ならばそういう陰湿な事してもおかしくないような。
HSDDの四文字神もあまり……でしたので。

拙作の四文字神は……うん、まあ……

>トリッシュ
P3仕様のレポーターじゃないです。
相変わらずの守銭奴っぷりを見せつけてましたが、今回相手が悪かった。
一応材料とかは買いそろえて自分で作っているので
所謂転売には当たらない、イベント会場の自動販売機価格なので
そこまでボロクソに叩かれる謂れは無い……はず。
でも悪徳商法ばりの価格で、それが原因で妖精界追放されたらしいので
今回は珍しく(?)イッセーにお仕置きされた形。

因みにゲーム相場とは言え円単位で一人分ン万~ン十万と言うふざけた価格設定してくれているので(ちなみに、喫茶店のカレーとかは現実とそう変わらない値段)
ハー〇ンダッツとかがかわいく見えるレベルです。念のため。
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