岩戸山・最奥
4つ目の鏡の泉を湛えた、比較的広い空間。
天井も高く、岩の色も相俟って今まで以上に神秘的な雰囲気を醸し出している。
白音を探すために岩戸山の捜索を続けていたセージ達だったが
残すのはこのエリアのみとなった。
ここにいなければ、完全な無駄足だ。
「白音さん!」
「小猫ちゃん!」
セージとイッセーが最奥の空間に入るなり、呼び掛けて周囲を探す。
しかし、辺りは未だしんと静まり返っている。
――そんな中である。
まるで、射貫くような視線と、悍ましい気配が奥から漂ってきたのは。
「…………よく来たな。やはり、俺の思った通りだ。
イッセーの方はともかく、お前の方はちょっとやそっとの餌じゃ食いつかないからな。
同時に釣り上げる餌を選別するのに、苦労したぞ」
「お、お前は…………!!」
声の主は、宮本成二その人であった。
しかし、その瞳は真紅にぎらついており、その目つきも今入ってきたセージに輪をかけて悪い。
それ以外の特徴は、セージと瓜二つ。見分ける方が難しいレベルだ。
――言うなれば、
そう、シャドウ成二とも言うべき存在だ。
「セージさんが……二人!?」
「
確かに、禍の団――アインストに対象を模造する能力はある。
しかし、生命を理解していないアインストがアルトアイゼンなどの機械人形はともかく
生物である人間を精巧にコピーできるかと言われると怪しいところだ。
模造品にしては、あまりにも精巧すぎる。その表情だけが、悪意に満ち溢れているだけで。
「偽者……偽者か。クッククク…………」
「な、何がおかしいんだよ!?
まさか、お前の方が本物のセージだとでも言うのかよ!?」
イッセーの指摘に、シャドウ成二は笑いを返す。
あたかも不正解を嘲笑うような、悪質な笑い方ではあるが。
「改めて名乗ってやろう。俺は宮本成二。
リアス・グレモリーの元『
ちょうどお前――兵藤一誠と対になる名前だったな」
「名前まで一緒かよ……!?」
イッセーの零した感想をも、シャドウ成二は嘲笑う。
まるで、相手の無知を愚弄するかのように。
そして「自分こそが宮本成二その人である」と言わんばかりに。
「名前だけでは無いぞ? 宮本成二の食べ物の嗜好、去年のテストの成績に
ここに来る前に家で作った献立まで言い当ててやれるぞ?」
「……まどろっこしい真似はやめろ。お前は俺なんだろう?」
追い打ちをかけるように、シャドウ成二は嘲笑を交えながら
セージ本人しか知り得ない情報を曝け出そうとしている。
その内容は、セージが遮ることで語られることは無かったが。
「へえ。さすが俺とでも言っておいてやろうか。
てっきり『お前が俺であるはずがない!』位言ってくれるかと思ったが。
まあ、俺が影で真なる俺であることに変わりは無いが……
それとも、単なる強がりか? どちらでもいいがな」
「え? で、でもセージはここまで俺達と一緒に来たよな?
それが何で小猫ちゃん攫って……あっ! 分身か!」
「……残念だが、俺は分身を出してない。少なくとも、あの手紙を受け取って以降はな」
イッセーの指摘に、セージは
シャドウ成二は何もない右手を指し示す。
紫紅帝の龍魂は、其々一切起動していない。そもそも鏡の泉に入ってからフリッケンはだんまりだ。
これによって、シャドウ成二はセージの分身などではないという事が証明された。
「……これで俺の無実は証明できたか?
こいつは言うなれば俺の心の中にある影。その影が何らかの理由で実体化した存在だ。
それがどうして、このタイミングで仕掛けてきたのかまではわからんが」
「あっ……もしかして、D×Dに6人目がいるって噂されているのって……」
「ご名答だ、アーシアさん。
俺こそがそのD×Dの6人目……って事らしい。
まあ、俺はD×Dなんぞにこれっぽちも興味は無いが
D×Dってのは自称とは言えテロ対策チームなんだろ?
だったら、今までやってることとそれほど変わりはないさ」
まるで自分もテロリスト――禍の団やデーモン族等と戦っているという風な口ぶりである。
実際、セージはそうしているのだから間違いではないのだが
目の前の存在はそのセージとは違う――はずだ。
「な、何でセージがD×Dにいることになってるんだよ!?」
「俺に聞くなよ。そういう風に噂されてるんだから仕方ないだろう。
さっきも言った通り、俺はD×Dなんてものには興味が無いってのにな。
それともお前は、無責任に噂を流布した一人一人に対して責任を追及するつもりか?」
シャドウ成二の指摘に、イッセーは「そう言う訳じゃねえけど……」としか返せなかった。
噂の根源を探るなど、ネット社会においても困難だ。
まして、情報が混乱している今のご時世で噂の根源を探り当てるなど不可能と言っていい。
――だからこそ、噂の現実化などと言う荒唐無稽な出来事が真実味を帯びてしまっているのだが。
現実が噂として流れるのではなく、流れている噂が現実のものとなる、と言う因果の逆転が。
「……そんな事はどうだっていい。白音さんを返せ」
「ああ、そうだったな。彼女はお前達を呼び寄せるための餌であり、大事な観客だ。
丁重に扱わせてもらったが……そろそろ返してやろう。ほら、そこだ」
セージが本題に話の軌道を戻すなり、シャドウ成二が指示した先には、横たわる白音がいた。
見た限りでは怪我もなく、肩を動かしているところから息もある。
駆け寄ったセージに揺り起こされる形で、白音は目を覚ますが
目の前にいたセージに目を丸くしていた。
「え……? セージ……先輩……?
え……? でも、私をここまで運んだのも……え?」
「てめぇっ! 小猫ちゃんに何もしてないだろうな!?」
「見ての通りだ、傷一つないだろ。俺は害をなすものは徹底的につぶす主義だが
無益な殺生は好まない主義でな。さっきも言った通り、丁重に扱わせてもらったぞ。
それとも…………『何かした』方がよかったか?
この顔だったら、それほど抵抗なくやれたと思うがなあ?」
白音に傷が無いのは確かである。念のため駆け寄ったアーシアが
取り立てて変化はない。負傷していない者の傷を癒すことなど不可能だ。
しかし、その後のシャドウ成二の挑発にはセージ自身が思わず相手を睨みつけていた。
「……どういう意味だ!」
「ククッ、ここでしらばっくれるか。気づかない程唐変木でもないだろう、お前も。
そこの白猫の少女が、どういう目をお前に向けているか。
そして、その向けられる目に対して『満更でもない』って感じてる自分の存在を。
……知らないとは、言わせんぞ?」
「えっ…………!?」
全く悪びれる様子もなく、シャドウ成二はセージの非難ものらりくらりと躱している。
それどころか、セージに対する白音の気持ち、その気持ちに対するセージの気持ちを
あっさりとばらしてしまっている。
当然、意識がようやく覚醒した白音にもそれは筒抜けであった。
あまりにも、ムードと言うものが欠けている中で相手の気持ちが判明してしまう。
「セージ! こんな……小猫ちゃんにまで……!!
そもそもてめぇ、美人のお姉さんがいるんじゃなかったのか!?」
「だよなあ? 今尚忘れられない人がいて、それでいて他の人に心を動かすなど
不誠実な奴のやる事だよなあ?
わかっているのか? お前のやっていることは、他人の好意を己の欲望のために利用し
踏み躙っている、って事なんだぞ? 姉を救った恩を売って、己の欲望を満たす……
……お前に、イッセーの事を悪く言える資格があるのか?
寧ろ、自分を欺かない分イッセーの方がいい奴なんじゃないか?」
(……それは……同意しかねる……!!)
シャドウ成二の言っていることは、半分は正論でもう半分は暴論だった。
保身のために過失による部分があるとはいえ、殺人を犯すものが「いい奴」と言えば疑問だ。
これだけは、如何に後ろめたいセージと言えど肯定しきれなかった。
「お前は、どこまで自分を欺くつもりだ?
自分を欺くような奴が、誰かに信用されると思っているのか?
嘘つきは犯罪者の始まりだぞ?
……いや、『既に犯罪者』だったなあ?
警察との利益供与以前にも、重大なことがあるだろうが。
思い出せよ、あの時を」
「う……うぐ…………!!」
シャドウ成二の指摘に、セージは黙り込んでしまう。
しかし、その沈黙は肯定とも取れかねない流れであり
それは白音にとっても、少なくないショックを与える話であった。
「せ……セージ先輩…………?」
「だんまりか。だがお前に黙秘権は存在しないし無駄なことだ。
何故なら俺は全部知っている。俺はお前だからな。
だからお前が黙っていても無駄な足掻きだ」
徹底的にセージを煽るシャドウ成二。
そもそも、影に隠しておいたはずの己の暗部。
その影を称するものが目の前にいる以上、隠し通せる道理は全くないのだが。
「セージの……隠してたことって……!?」
「こいつには幼い頃から一緒に過ごしてきた、大切な姉とも……いや、それ以上だな。
そう言う存在がいるって事は、お前達も見てきただろう?
で、宮本成二。お前はその心の中にある忘れられない存在――明日香姉さんに対して
一体お前は何をした? 忘れるな。思い出せ。これ以上目を背けることは許されない」
「――――ッ!!!」
シャドウ成二の指摘に、セージの顔が青褪める。
それは、まるで自分の心の中にある秘密を暴かれていく恐怖。
隠しておきたかった、隠さねばならなかった秘密を、自分の似姿が勝手に暴いていく恐怖。
「せ、セージさん! 気を確かに!」
「思ったより観客は少ないが……まあいい。手紙の書き方が悪かった部分もあるしな。
じゃあ、宮本成二の知られざる思い出――その最終回をここでお披露目と行こうか。
よく見てあの日を思い出すんだな……クハハハハハハハッ!!」
「や、やめろおおおおおおおっ!!」
セージの絶叫と共に、鏡の泉は風景を映し出す。
その風景は、今までの光景から続くセージの過去。
牧村明日香と宮本成二の幼き日の思い出の、最後の一幕とも言えた――
セージを指名したのは、そういう理由でした。
イッセーの指名理由については次回。
単独行動していたところを狙われたとはいえ、そういう意味では白音は適任だったわけです。
なので、もし単独行動していたのがアーシアだったらアーシアが狙われた可能性もありますが……
そうなると、原作の余計なフラグ拾っちゃいそうですしね。
今回は今まで以上にペルソナ(特に2)意識してる部分が。
相手が相手だから仕方ないね。
>シャドウ成二
ここに来るまでにちらほら出ていた「セージのそっくりさん」。
そっくりさんどころかある意味本人なんですけどね。
「ゴースト」時代から割と悪ぶった口調になることが多かったので
その時のセージ意識したセリフ回しだったりします。
今回は罪の「噂が混合した結果生まれた影」と罰の「ニャルの化身としての色が強い影」の折半。
やってることはほぼ罪シャドウそのものなんですがね。
本体の後ろめたい部分をねちねち突くのは罪罰どころかP4シャドウにも共通するところですが。
因みに白音に「何かする~」のは、イッセーの思った通りの内容です。
こちらforXで補完する予定はありませんが。
>白音
セージが「満更でもない」とか本人(の影)にバラされちゃってる。
自分でも「もしかして~」とか「だったらいいな~」程度だったのに
いきなりこれ。しかもこんなところで。
ただ、同時に「現状どうしても勝てない」状態なのもバラされてますが。
>イッセー
シャドウを偽者呼ばわりしてるのはシャドウに関して明るくないから仕方ない。
なんの予備情報も無しにそっくりさんをシャドウ――別なる本人と断定できる方が無理ゲー。
一番シャドウ、それも人類全体のシャドウ(の化身)と接触してるのに、と言うべきか
だからこそ、と言うべきか。
>セージ
こっちもベルベットルームでの予習が無ければ「お前なんか俺じゃない」って言ってた可能性も無きにしも非ず。
ただ「お前は俺だろ」と言ってはいるものの、P4みたく受け入れたとは
全く別のお話なので……
※11/07追記
矛盾点が発覚したため修正。
シャドウにはアモンもフリッケンもいません。ガワだけ真似ることは可能ですが。