次の日、友希那から「みんなに話がある」と連絡があり、CiRCLEに向かった。
スタジオに着くと既に紗夜、あこ、燐子が集まっていた。
「みんな、お疲れ」
「あ、悠にぃ!おつかれー」
「あとは湊さんと今井さんだけね」
しばらくするとリサと友希那が来た。
「おっす、おはよ〜。アタシ達が最後だったかー」
「突然呼び出してごめんなさい。今日は、改めてみんなに話しておきたいことがあるの」
「話したいこと…?」
「ええ。昨日聴いてもらったあの曲だけど……。あの曲は私の父の曲なの」
「ええーっ!」
「友希那さんの……お父さん…?」
「あの曲を初めて聴いたとき、私はこの曲を歌いたいと、思った。だけど……」
「自信が持てなかったのか?」
「似たようなものね。今の私にあの曲を歌う資格があるのかわからなかった。少なくとも、胸を張って言えないと思ったの」
「資格……」
「あの曲が持つ、音楽への純粋な情熱を今の私では歌いきれないと、そう思ったのよ」
「曲がレベルに似合ってないって…そういうことだったんですね」
「だけど、あの曲と向き合いたいという気持ちは本物だと……それも音楽への情熱なんだと……それに気付かせてくれた人がいた」
「友希那……」
「……そんな事情があったんですね…」
「もし、機会をもらえるのなら私は…あの曲を歌いたい。あの曲にもう一度命を吹き込みたい。それが私に出来る向き合い方だと思うから……」
「………向き合う」
「ライブまで日がない上に、私情で申し訳ないと思ってる……。でも、私は……」
「駄目だなんて言ってません。…ただ少し、驚いただけです」
「あこは大賛成です!」
「私も、みんなとあの曲を…演りたいです……」
「だってさ、友希那?」
「…みんな。ありがとう」
よかった…。あとは、ライブまでの少ない日数でどれだけ仕上げられるか、だけど…Roseliaなら問題ないだろう。
「リ〜サ姉」
「ん?悠、どうしたの?」
「無理したら駄目だからな」
「……だいじょーぶ、倒れたら元も子もないもん」
リサは一人で背負い過ぎるからなぁ。それが空回りしなきゃいいけど……。
「明日からあの曲の練習をするから、各自、体調管理をしっかりするようにして」
「はーい」
「もちろんです」
「はい……」
「もっちろん」
「今日は解散ね。お疲れ様」
帰ろうとしたところを友希那に呼び止められた。
「あ、悠。明日から来なくていいわ」
「……言葉が足りてないぞ。みんな驚いてる」
「ごめんなさい…。サプライズというのかしら?貴方を驚かせたいから…当日のライブだけ来てちょうだい」
「言うと思ったよ。了解。楽しみにしてる」
「ええ。最高のライブにすることを約束するわ」
友希那がこんなことを言うようになったのか。Roseliaのおかげか?少し丸くなった気がする。……体型のはなしじゃないぞ?
それからRoseliaのライブまで暇だと思っていたのだが、むしろ忙しかった。
なんか事務所に呼び出されて歌とダンスの練習とかギター、ベース、ドラム、キーボードの演奏をレコーディングした。
何曲もというわけではなく、今度使うからといった理由で一曲だけだった。今度っていつだろう?でもまさか、『オトモダチフィルム』の作詞作曲者のオーイシさんが歌とダンスを教えに来てくれるとは……。もともと動画を見たりしてたから割とスムーズにいき、すぐに踊れるようになった。
オーイシさんに感謝だな。
いろいろやっているうちにRoseliaのライブの日になった。チケットは友希那から貰っていたから優先的に入ることができた。
ライブまで少し時間があるみたいだし、みんなの様子でもみてこようかな。
楽屋に着くとRoseliaは既にステージ衣装に着替えていた。
「みんな、緊張してる?」
「悠?どうしてここに?」
「時間あったし、緊張してっかなぁって」
「いいえ、むしろ気合いが入ってるわ」
「じゃあ、紗夜は?」
「いえ、私も緊張はしていません。練習は本番のように本番は練習のように。自分にそう言い聞かせてますから」
「あこは?」
「楽しみで緊張なんてしないよぉ」
「燐子は?」
「わ、私も…楽しみで…」
「……リサ?」
「え!な、なに?」
「緊張してるの?」
「あははー、大丈夫大丈夫!」
「そうか?」
どっからどう見ても緊張してることがわかる。でも、悪い方の緊張ではないみたいだ。なら大丈夫かな。
「じゃあ、向こうに戻るよ。また、ライブが終わったら来る」
「ええ。楽しみにしてなさい」
元の場所に戻ると他の人がいた。
どこかで見たことがあるような?
注意深く見てみると、ミュージックスクールに通っていた頃に何度か臨時教師として来てくれた湊先生だということに気づいた。
近づいて話しかけてみる。
「こんにちは。あの…もしかして湊先生、ですか?」
「ん?君は……。如月君かい?」
「はい!お久しぶりです」
「懐かしいね。あんなに小さかった君が……平均身長には届かないものの大きくなって」
「…身長のことは放っておいてください。それにしても湊先生はどうしてここに?」
「娘にライブをするから聴きに来てと言われたものでね。友希那というんだが……」
「友希那のお父さんだったんですか、湊先生は」
「なんだもう知っていたのか。……おっと、もう始まるみたいだね」
会場が暗転する。ちょっと間があいてRoseliaの『BLACK SHOUT』のイントロが聞こえてくる。そしてステージにライトが当たる。ライトアップされたステージに立つRoseliaのメンバー。
観客たちは一気に盛り上がって直ぐに静まる。みんな友希那の歌や楽器の演奏をしっかりと聴きたいからだろう。
あっという間に二曲が終わり、三曲目に入るらしい。
「次で、最後の曲となります。次の曲は……私が一番尊敬するミュージシャンの曲をカバーしたものです。…それでは、聴いてくださいーー」
友希那のそのMCを聞き、思わず湊先生を見る。湊先生は目元を押さえて肩を震わせていた。
「……友希那。ありがとう」
どういった意味で呟いたのかはわからない。でも、男の涙は見ていいものではない。湊先生の方を見ないようにしてライブに集中した。
そして、Roseliaの演奏が始まる。
ギターのジャリっとした音が聞こえる。イントロが終わり、友希那が歌い始める。
「裏切りは暗いままーーー」
やっぱりこの曲は湊先生が歌ってくれた曲だ。
「この曲には僕のいろいろな感情がこもっているんだ」
と言って少し笑っていた。
「この曲は僕のいろいろな感情がこもっているんだ……」
隣にいる湊先生は泣きながら言った。
「前も同じこと聞きましたよ」
「そうだったね…」
曲も終盤に差し掛かったとき湊先生は移動し始めた。
「さすがに娘に泣いてる顔を見せたくないから、楽屋に書き置きしに行ってくるよ」
「そうですか。湊先生、いい曲でした」
「如月君、あれはもう僕の曲じゃなくて娘の曲だよ。友希那に託したんだ、僕の夢を」
「残念です。もう、湊先生の歌を聴けないなんて」
「はは、ありがとう。じゃあ、行ってくるよ」
ふと、ステージの方を見ると友希那の後ろに湊先生の姿がぼんやりと見えた気がした。
「はっ、そっくりじゃん。流石、親子だな」
瞬きをすると湊先生の姿は見えなくなった。
演奏が終わったようだ。
「今日は来てくれてありがとう。以上、Roseliaでした」
観声と拍手に包まれながら退場していくRoselia。
「俺も楽屋に行くかな」
〈楽屋〉
「お疲れー」
「悠、聴いてくれてありがとう」
「あれ?そのスコアは……」
「これ?これは…私のお父さんのスコア。…ここに今日の感想を書いて帰ったみたい」
『いいライブだった 父より』
「不器用だなぁ、湊先生も」
「……先生?」
「ミュージックスクールのとき何回か来てくれたんだ」
「そうだったの…」
「それにしても湊先生…、泣いてるところを見せたくないって意地張って、それはないでしょ」
「えっ?お父さんが泣いてた?……本当に?」
「本当だって。ほら、スコアのところに涙の後があるだろ?」
「……これね。お父さん……」
「リサ、あとはよろしく。俺、ちょっと用事あるから」
「え、ちょ、…あー、行っちゃった」
つい、逃げてしまった。用事あるってのは本当だけど、急ぎではなかったんだけどな。
「一日で親子の涙を見るとか俺じゃ耐えられんわ」
まぁ、俺が泣かせたわけじゃないからいいけど。
それにしても事務所からまた呼び出しをくらった。なんだろ?テレビ出演とかそんな感じかな?仕事だから行かないといけないんだよなぁ。
面倒だなぁとか、やだなぁとか思いながら事務所へと向かった。