HRが終わり、帰ろうとしたところで千聖に声を掛けられた。
「今日は早めに終わったから喫茶店に行かない?」
「あー、わかった。花音も来るのか?」
「ええ、花音も一緒よ」
「……おい、花音は今どこに居る」
「え?花音なら私と一緒に、来てる…はず……嘘?」
「はぁ…探しに行くぞ」
「そうね。……ごめんなさい」
「別にいいよ、慣れたし」
少し目を離すとすぐ迷子になってしまうからなぁ、花音は。あまり、怒る気にはならない。……慣れって怖いな。
色々探したんだが、まず2年の教室や廊下には居なかった。体育館やテニスコートに行くのはめんどくさいから後回しにしよう。
居そうなのは1年の廊下あたりか?
そう思い、千聖と1年の廊下に向かった。
ここに居なかったら嫌だなぁ、と思いながら歩いていると誰かとぶつかってしまった。
「ごめん、考え事をしていたから気付かなかった」
「これくらい大丈夫ー……あれ?悠?」
「あ、花」
どうやらぶつかったのは花、花園たえのようだ。花とは昔、ミュージックスクールに通うっていた時に知り合った。懐かしいなぁ…。他にもレイや有咲とも仲良かったんだよなぁ。
「やっぱり大丈夫じゃないかもー」
「さっき大丈夫って言ってたよな?」
「言ってないよ」
「言ってますー」
「ん、んん」
千聖の咳払いにより、会話が一時的に中断された。
「知り合いに会ったら話すのもわかるけれど、花音を探すことを優先すべきよ」
「ごめん、千聖」
「人探し?」
「まー、そんな感じ。髪が水色っぽくてふぇぇ、って言ってる女の子見なかった?」
「あー。みたよ。あっちの方」
「ありがとう、花。あと、明日オーナーに会いに行くって伝えておいて」
「わかった。オーナーに伝えておくね」
「また明日」
「明日〜」
良かった。こっちの方に花音が来てて。花が言っていた方に進んでいくと、「ふぇぇ」と聞こえてきた。
「良かった、居た」
「花音にはいつも驚かされてばかりね」
「へー、千聖だって電車の乗り継ぎ出来ないくせに」
「……いつもお世話になってるわ」
「少しずつ慣れていけば良いさ」
あ、花音がこっちに気づいた。手を振りながらこっちに向かってくる。
「千聖ちゃん、悠君。探したよー」
「てい!」
「痛っ」
花音の頭に軽くチョップを入れる。
「探したのはこっちの方だ。花音」
「うぅ、冗談だったのに……」
「花音、あなたの場合、冗談に聞こえないのよ」
「ち、千聖ちゃんまでー…」
「少し……いや、割と遅くなったけど、今から行くぞ」
「いつもの場所で良いわよね?」
「羽沢珈琲店だな」
「行こ、千聖ちゃん、悠君」
…………。
「千聖」
「ええ、わかってるわ」
「やっぱりこうなるんだよね……」
花音がはぐれないように千聖に花音と手を繋いでもらった。二人とももう慣れたんだろう。俺がそうさせたんだけど。
学校からの商店街へと向かった。
ここの商店街はパン屋や精肉店、珈琲店など種類が豊富で栄えている。なぜかパン屋はチョココロネが品切れになりやすいし、パンが突然減ったりする。
しばらく歩いていると羽沢珈琲店が見えきた。花音もはぐれずに済んだ。
……流石に今日は蘭居ないよな?
〈羽沢珈琲店〉
「いらっしゃいませ、三名様ですか?」
「うん、三人」
「お好きな席にどうぞ」
今はつぐみは居ないみたいだな。
千聖がいるから少し奥の方に座る。やっぱりチェーン店と違って落ち着く。
「お水とメニューです」
「ありがとう」
「それではごゆっくりとどうぞ」
店員さんから水とメニュー表を渡された。今日はケーキにしようかな?
「私はこのイギリスのショートケーキにするわ」
「えーと、私はこれ。チョコシフォンケーキ」
「じゃあ俺はマロンモンブランにしよう」
マロンモンブラン(通常より栗が多め!)と書いてある。そういうことか。
「飲み物は紅茶か?」
「ええ、アップルティーね」
「わ、私はコーヒー」
「俺もコーヒーだけど……うーん、深煎りで」
ここの店員さん凄いな。メニューを言い合っている間に来てメモを取ってる。
「かしこまりました。すぐにお持ちしますね」
今回頼んだのはケーキ系だから早めに来るだろう。
それにしても……千聖がわざわざ今日喫茶店に行きたいなんて。何か相談ごとか?
「お待たせしました。こちらご注文にありました、ケーキ三つとアップルティー、コーヒー、深煎りコーヒーでございます」
「ありがとう、わざわざ一度にこんな量を持ってこなくても……」
「もう、慣れましたので」
凄いバランス感覚だった。スポーツでもやっているのか?……あ、いや、やめておこう。多分、弦巻家の使用人だ。
「美味しそうだね」
「ふふ、そうね」
「いただくとするか」
モンブランを一口食べる。栗の味と控えめながらも主張してくる甘さが丁度いいバランスを保っている。つまり
「美味しいな…」
「悠君、一口いいかしら」
「いいぞ、ほれ」
フォークで一口分に切り、千聖の口に放り込む。
「……良いわね。悠君、口開けなさい」
「あーん。美味いな」
イギリスのショートケーキ、どんなものかわからなかったがなるほど……生地がサクサクしていて少しクッキーぽい。歯ごたえがあって美味しい。
「ち、千聖ちゃん……!わ、私も。悠君あ、あーん」
「?あーん。うん美味しい」
チョコシフォンケーキ。しつこくないビターなチョコの甘さとシフォンがマッチしたケーキ。
ん?
花音が口を開けて何かを待っている。あーそういうこと……。
「はい、花音」
「……うん、美味しい、な」
一口あげたから、一口くれ。ということだな。まぁ、毎回やってることだし慣れた。
ケーキを食べ切り、コーヒーを飲む。
やっぱりここのコーヒーは別格だな。他のところより美味しい。メニューも豊富だし、期間限定とかマスターオリジナルとかもあるし、試作品なら無料で提供される。
コーヒーも飲み終わり、本題を切り出す。
「なぁ、千聖。何かあったのか」
「え?……そうね。ちょっと事務所からある話がきたの」
「やっかいごとか?」
「アイドルをやれって。『アイドルバンド』を結成するらしいの」
「アイドルバンドか……。いいんじゃないか?」
「そう、そうよね…。何を迷っているのかしら私は」
「失敗が怖いのか」
「!そ、んなことはないわ」
「……急がば回れ」
「何か言った?」
「……なんでもないよ」
失敗を恐れているのか。女優として周りから求められてきたもんな。リアリストぶってるけど千聖はそんなに器用じゃない……。それにアイドルバンドか…。いや、まだ決まったわけじゃない。上手くいくことを願うしか…。
「うし、帰るか」
「そうね、花音」
「ふぇ?う、うん」
レジで会計を済ませ、店を出る。
「じゃ、花音を頼んだ千聖」
「ええ、帰りましょ花音」
「うん、またね」
千聖たちと別れ、家に帰った。
今年は本当にいろんなことが起きそうだ!
そのことが楽しみな俺がいた。