ナティシア ー平凡幼女はハードモードな世界を生きるー 作:かげはし
計画は順調。復讐に身を焦がす火は大きく燃え盛っている。
周囲の様子を見る限り、騒ぎは大きくなっているようだった。
僕の耳に届いている情報は様々。
行動するチームを2つに分け、他の被害者となったモンスターを救出するチームと、混乱している連中を捕えるチームで分ける。
アリスちゃんたち隠密軌道に長けたモンスターに変異した仲間たちは、研究員を殺したり捕えたりとするチームへ。
僕を含めたチームは他の檻がある部屋に行って、仲間を救うために行動する。
どうやら聞こえてくるのは雑多ばかりだ。「どうしてモンスターが檻の外から出ているんだ!?」という声があり、それがアルメリアの仕業となっていることに苦笑する。
なんとも無様に「モンスターの動きがおかしい、これは絶対に検体0が何か操っているんだ!」と叫ぶ声のおかげで、連中は逃げ惑いながらもアルメリアを必死に探している様子が見てとれた。
彼女には多大な誤解をさせてしまって少々同情する。罪悪感だってある。
だが、計画通りだ。
僕としてはその方が一番いい。
アルメリアを捕えればこの騒動が収まるとでも思っているのか。まあ確かに僕たちの動きは通常のモンスターでは有り得ない動きを見せているのだから当たり前か。
モンスターを操る実験体として研究員たちに注目されていたのだから、モンスターの動きがおかしいと思えばそれは当然アルメリアのせいになる。
事実は彼女とは無関係なんだけど……。
「オォォ」
「騒がしいな全く……」
「ルクれス、こっちじゃナい」
「おおそうかい」
廊下の奥でアリスちゃんたちが活動しているのだろう。捕えた連中の泣き喚く声が多く聞こえ、「知らない。私達は知らなかったんだ!」という愚かなものに嘲笑しつつ、リザードマンの身体に変異した仲間の誘導に従って歩く。
研究員たちが知らないと泣き喚いていても意味はない。というか、もう遅いんだよ。
むしろ知らなかったことこそ罪だ。そう皆思っているだろう。
僕たちがまだ理性がないと偽る前に仲間たちが何度も何度も言っていたじゃないか。
異形の姿に変えられたんだと。
人間で、モンスターじゃないと何度も言っていたじゃないか。それを無視した奴らはただ僕たちの仲間を殺処分にした。
ただ、人間のように喋れるというだけのモンスターを危険視した。それだけのために何度も切り刻み身体を確かめモンスターとしての性能を実験し、身も心もズタズタに切り裂いてしまったではないか。
僕の大事な仲間たちを物のように扱った。
壊れたらすぐに殺して、そのまま彼らをなかったことにした。
僕たちの言葉を信じず、己のやらかした過去の罪深い行動を後悔すると良い。
僕たちはまだ殺すつもりはない。まあ全員を生き残らせるつもりはないけれど、とりあえず5人くらいはいてくれたら助かるかな。
研究員は20人。僕たちを抑え、行動を抑制する魔術師が5人。
何人かがいなくなっても構わない。どうせみんな好き勝手に行動するだろうし、復讐心のままに暴れたいと思うから最低でも研究員と魔術師が何人か捕まえられたらいい。
アリスちゃんがどうにかやってくれるだろうと信じよう。
「ガゥゥ」
「うんそうだね。混乱してる今ならやれるだろう」
石造りの扉や無数の曲がり角、そして床に張り巡らされた魔術防御の能力低下の力が煩わしく感じる。
だがその先。扉を開けた先に檻がある部屋へ繋がっているはずだ。
混乱の中で聞こえてくる悲鳴を背に、僕はゆっくりとその扉を開けた。
「あ?」
視界が急に狭まった。というよりも、いつも見えていたはずの視界が急に閉じたように真っ暗になっている。これはどういうことだろう。
「はぁ……はぁ……」
聞こえてきたのは荒い息遣い。そして部屋の奥にいるであろうモンスターたちのどよめき。
恐る恐る両手で頭の部分を探って確かめるが、特に問題は――――――。
「ルくレス、頭がつぶレテるぞ」
「ああなるほど、斧で刺されたのか」
斧で切られたらしく、頭がへこんでいる。痛みはないが、おそらく見た目はかなり酷い状態になっているだろう。血は出ていないし、
「ヒッ! な、何で生きてやがる!? あた、頭を潰したんだぞ!!? 人間じゃない。ば、化け物の見た目でも頭を潰せば殺せるんじゃ……」
「それは本体の話だろう?」
片手で頭に突き刺さってる斧を取り外す。
視界は良好だが、その拍子にある程度編み込んでいた身体が崩れたために、僕を攻撃しおぞましい姿を見て尻餅をついている人間が声を震わせる。
「い、糸……?」
「ハハハっ。ああそうだよ、僕の身体は糸で出来てる。そしてこれが本体だ」
糸で覆われた身体を崩していき、
研究員は絶句する。二本の線が血のように赤い模様となって身体の背に刻まれた姿を。八本の脚、そして小さな毒の牙。
害虫と呼ばれ蔑まれ、そして鉄製の檻を覆うような形でガラスに入れられた哀れな姿を見て、その恐ろしさに身体を震わせている。
「レッドキラー……だとっ!?」
レッドキラー。通常の蜘蛛と似た体形をした、小型のモンスター。頑丈な糸と毒が特徴であり、それより格が上の蜘蛛のモンスターに遣えるだけのただの雑魚。
普通なら有り得ない糸で繕い能力で操る人間のような姿に、研究員はただ絶句する。
「小型の蜘蛛のモンスターが、人の姿をして動くだなんて。レッドキラーは毒糸だけが特徴のモンスターなはず。に、人間に……糸で人間になって行動するとか有り得ん……そんな馬鹿な……ことが……」
「馬鹿だと思うなら、とりあえず眠ってなよ」
「オォ」
「ゴフッ!?」
背後に潜んでいた仲間によって奴は頭を攻撃され昏倒する。
いや……?
「あーあー、死んじゃったじゃないか。もうちょっと手加減したらどうなんだい?」
「オオアッ」
「無理ダといッてルゾ」
「伝わってるよそれぐらい」
目玉から後頭部にかけて、頭が一枚の紙のようにへこんでいる。
まあモンスターとしての力が半減していたとしてもこのぐらいか。偽っていたところもあるし、それに奴は攻撃を無効化する魔術師じゃない。単独で行動してた愚かな研究員だから死んだ。それだけの事実を知ればもういい。興味はない。
動かなくなった肉体を足蹴にし、その奥へ足を進めた。
いくつもの檻の中にいるモンスターたちが、僕たちに視線を向ける。
「さて、君たちはどうする?」
僕たちと同じく様々な辛い目に遭った被害者たち。
アルメリアと同じ故郷に、別の集落の者たち。
「君たちは復讐を選択するかい? それなら僕たちが―――――――いや、アルメリアちゃんが先導してくれるよ」
肩を揺らしたのは複数。オーガにウィスプに……あと、複数。
全員とは言わないが、絶望しきっていた目に光が宿るのは見えた。僕たちもモンスターだから、君たちがどう思っているのか伝わるよ。
……さて、僕たちに反抗しあの研究員たちを憐れんで助けようとする馬鹿はいるのかな。
いないことを祈ろう。いたら処分しないといけないな。肉とか残骸とかめんどくさいからスライムなアリスちゃんの栄養分になってもらおうかな。