ナティシア ー平凡幼女はハードモードな世界を生きるー   作:かげはし

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14話 知らない間に誤解は広まる

 

 

 

 

 

 

 

 

 気が付いたら全て終わってた件について。

 というか、目が覚めたらオーガな母さんが薄暗い部屋にぼんやり浮かんでるようにいてびっくりして気絶しそうになった状況なんだけど、どうなってんのかさっぱり分からない。

 

 誰があの女を倒したんだ? 怪我とかは大丈夫なのか?

 何が起きてるのか分からねえんだけど、とりあえず誰か説明して。

 

 

 いつもの檻とはまた違った、人間が2人程ゆったりと入れるような部屋。そこに俺と母さんがいた。

 前世から見れば少々安そうだが、村にいた頃よりも柔らかめのベッドに俺を眠らせて、椅子に座った母さんが机に肘を乗せて俺の様子を窺っていたのが見えた。

 パチリと目を開ければ、母さんが勢いよく立ちあがって近づく。

 それと同時に近くにあった机の角をぶっ壊しながらも俺へ近づき、恐る恐る頭を触ってくる。ただ接触しただけで机を派手にぶっ壊した母さんの破壊力に戦々恐々していたというのに、拍子抜けするほど母さんの触り方は凄く優しかった。

 

 

 

「身体はだイじょウぶ?」

「う、うん。大丈夫だよ母さん」

 

「ソう、良かッタ」

 

 

 

 今の母さんにはこの部屋でさっき見たように椅子に座っているだけでも視界的にかなり窮屈そうだった。

 だが、俺を心配しているのは分かった。

 頭はとくに痛くない。倒れて頭をぶつけたわけじゃないのに心配し過ぎだ。いや、どう倒れたのか分からないから頭をぶつけたかもしれないけれどさ。

 

 

 

「母さん、俺なんで寝てたの? 皆はどうなった? あの女は?」

「……覚えてナイの? あンた、母さン達を助ケてクレたンだよ」

「はい?」

 

 

 

 いや全然覚えがない。

 というか、なんか気が付いたら眠ってたこと自体おかしい。

 

 助けたってどうやって……。

 

 

「母さん、ルクレスさん達の所に行きたい。いろいろと話がしたいし」

「……そウネ、行こウ」

 

 

 俺をその大きな腕で抱き上げて部屋から出て行く。どうやら俺を自ら歩かせるつもりはないようだ。

 部屋の外は廊下で――――――ここはあの実験施設の建物内なんだと分かった。さっきの部屋はたぶん……研究員たちの宿泊施設の一つだろう。

 実験施設以外の区域を歩いたことがないから見覚えがなかっただけかもしれない。

 

 少し広い廊下にはチラホラとモンスターがいるのが見える。

 母さんの腕の中で見えたその光景は、凄く平穏そのものだった。

 二足歩行の小さな兎たちが小熊を連れて笑いながら歩いている姿。何処から入手したのか、斧を片手に歩くゴブリンたちの姿。

 

 様々な色をしたスライムたちがぽよぽよと身体を丸ませて談笑し、蝙蝠たちが天井を飛び回る。

 ちゃんとした人間の生き物は俺以外にいないが、殺伐とした空気はない。

 

 あの憎しみしかなかった実験施設が、自由になったと言うだけで凄く良い印象を抱かせる。

 何も知らない人間から見れば恐ろしい光景かもしれないが、俺にはそうは見えなかった。

 

 なんというか、俺の理想そのものがこの廊下にあったんだ。

 

 

「着イたわ。アるメりぁ」

「うん、母さん」

 

 

 

 立ち止まった先は、鉄製の扉。

 それを片手で開けた母さんが、俺を抱えたまま中へ入る。

 

 どうやらもともと何かの会議で使う場所だったらしい。

 あの化け物の女がいたホールより一回り小さいが、普通の部屋よりも大きな空間。天井も母さんがジャンプしても余裕なほど高く、壁には本棚が埋め込まれていた。

 

 真ん中奥に机が置かれており、そこに大きな一枚の地図を広げて話し合っているルクレスさんとモンスターたちがいる。

 ルクレスさんも蜘蛛の姿ではなく人間の姿で対応してるな。

 

 

 だが、俺達が入ってきたことによって地図から目を離し、すぐに俺達の前へ出て……。

 

 

 

「……は?」

 

 

 

 有り得ない光景が、俺の目の前にあった。

 

 

 

「長らく目覚めなかったので何かあったのかと心配いたしました、アルメリア様」

「うぇっと……」

 

 

 

 あれ。何で皆、母さんに跪いて話してんの?

 ってか何で母さんが当然のように受け入れてんの?

 

 いやまって、違う。

 母さんにじゃなくて俺?

 

 

 ルクレスさんが一番前に出て最初に話しかけてきた。

 それ以外の十数ものモンスターたちも跪いたり身体を縮めて頭らしい部分を下げたりとしている。

 

 

 

「身体に異常はナいデスか?」

「いやないですけども……」

「何かアレバ指示を」

 

「いやちょっ――――――待った! ちょっと待ってくれ皆おかしいぞ! なんで俺に敬語!? アルメリア様ってなに!? いつものでいいっての! というか、俺何やったの!?」

 

 

 

 慌てて母さんから降りて皆と同じぐらいの視線になるようにしゃがみこむ。

 よく分からず冷や汗が流れる。マジで俺何をやったんだ?

 まさか何か俺の中にいて、内なる俺が暴走した結果がアレ……いや、有り得ねえだろ。厨二か。

 

 現実逃避して遠い目でルクレスさんを見る。

 彼は難しい表情を浮かべながらも俺と視線が交わった。

 

 

 

「……覚えていないのですか?」

「敬語止めてくださいルクレスさん。俺何も知らないですから。気が付いたらベッドの上で寝てましたから」

 

「………そうなのかい? そうか。未熟な力の覚醒は一部分だけと聞くが……まさか……」

「はい? 覚醒ってなに?」

「ああそうだね。それについてもそうだが……僕たちの計画も含めて話をしないと……」

 

 

 

 真剣そうな表情で俺に向かって「椅子に座ってくれるかい? 話をしよう」と言ってくるルクレスさん。

 そしてソファへと誘導しようとしてくるコボルトの一匹。

 

 ……というか待って。

 

 

 

「とりあえず跪くの止めてくれませんか。そんなことされるようなことした覚えないんで」

 

 

 

 そう呟くと、何故か全員視線を逸らした。

 

 

 

 跪くのを何とか止めてもらって話をしてくれる。

 ルクレスさんが本来立てた計画の事。情報収集が十分進んでから俺が囮となって全員で襲撃をしようとしていたこと。

 あの女の攻撃で使用した咆哮は実験施設全体を巻き込んでいたために、ホール以外にもいた全員が死にかけていたこと。女を俺が倒したこと。回復魔法で全員が救われたこと。その全てを。

 

 

 

「そうだったのか。俺は……」

「うん、だから僕は君に対して酷いことをしたと思ってる」

「ルクれスだけじゃナいぞ。俺達ダッてそう思っテル」

 

「う、うん。まあそこは大丈夫。どっちみち俺は囮になって連中の注意をひきつけておこうと思ってたし」

「アルメリア……」

「そりゃあ話してほしいとは思ったよ。やっぱり何も聞かないより聞いた方がいろいろと動きやすいし……それにルクレスさん達を信用してたからね」

 

 

 じゃなければあそこで絶望して死んでいただろう。

 憎しみで何も策がないまま研究員を襲って殺して、逆に酷い目に遭っていただろう。

 

 ルクレスさんと話しをして冷静になれたから、今があるんだ。

 

 

 

「……ありがとうアルメリア。僕たちを信用してくれて」

「うん。でも次は止めてください」

「分かってるさ。もう二度と。ああそうさ、もう絶対に君を裏切るような真似はしない。そんなことをしたら僕は自らの命を絶とう」

 

 

 真面目な様子で頷いたルクレスに俺も頷く。

 一応はこの事実を覚えておくだけでもう終わりにしよう。裏切りとか言ってるけどあまり気にしてないし、皆が自由になれたのは事実なんだから。

 

 問題は―――――――。

 

 

 

「俺が、女を倒して回復魔法を皆にかけた……か……」

「そうだよ。その時のことは覚えてないかい?」

「いや、全然……母さんを助けようとして走って……でも無理かもしれないって思って……えっと……」

 

 

 そういえばその時誰かの声がしなかったか?

 聞き覚えのある声で、俺に『契約成立だ』って言っていたような……。

 契約ってなんだ?

 

 いやでも、ただの夢の可能性もあるし……ううむ……。

 まだ確定するわけにはいかないか。寝ている間に勝手に行動したとしても、仲間たちを救うために行動したという意味なら許容範囲だ。

 いろいろと調べてみるつもりだけれど、焦る必要はないかな。

 

 

 

「……そういえば人間たちはどうなったんだ? そいつらも回復したんだろ?」

「ああ。研究員の連中はあのまま楽に死なせるつもりはないから檻の中に縛って入れてあるよ。魔術核になった女の方もね。尋問とかもしている最中だ」

「尋問?」

「モンスターになったせいか、人肉を主食とするモンスターに変異した仲間たちが彼らの肉を欲してしまってね。一部の肉だけでも提供することになったんだ。死なない程度にいたぶりながらね」

「あー」

 

 

 そういえばそういうモンスターもいたなぁ。実験で俺の腕を噛み千切った人が……。

 

 

「……それって俺も危ない?」

「いいや! そんなことはないよ! というか君は僕たちの命の恩人だ。だから絶対に被害は出さない!」

「あ、うん」

 

 

 ルクレスさんが焦りながら答えられたのでとっさに真顔で頷く。

 本当に寝ている時の俺って何やらかしたんだ……? ルクレスさんがここまで畏まるって有り得なくないか?

 

 視線をうろつかせていると―――――――ふと、最初に部屋に来た時に目に留まった大きな地図が見えた。

 

 

「あーっと……それって何に使うの?」

「ああこれかい。これからの計画についてだよ……そうか、アルメリアも一緒に話をしよう。アルメリアのお母さんは……」

 

「私モ一緒にイルわ」

「分かった。じゃあこっちにアルメリアが座る椅子を……よし」

 

 

 机は俺が立っても地図が見えない高さにあったので、コボルト達が用意した大きな椅子へ誘導してくれたまま、話を聞く。

 

 

「この地図はメリア大森林……って知ってるかい?」

「えっと、俺たちの故郷……だよな」

「そう。アルメリアの故郷でもあり、僕たちの村がある森林でもある。そしてこの地図はメリア大森林の勢力図となっているんだ」

「勢力図?」

「ああ。ちょうど国家と帝国の二つの領土となっていてね。こっちが国家で、こちらが帝国なんだ」

 

 

 ルクレスさんが指差した地図は赤と青で塗られており。様々な村が点在しているのが見えた。少なくとも三つ以上。大森林というだけあって、森はかなり大きめの場所らしかった。母さんが一つの村を指差してくれたから、そこが俺の故郷なんだろう。それは赤い色で塗られている。

 赤い色はレジスト国家で、青い色がコノエ帝国か。

 

 

「大森林には他の村も点在する。被害に遭ってない方だが……話し合った結果、ドラゴンの宝玉を使用している奴らがまたメリア大森林にある他の村を襲う可能性が出てきた」

「そっか……そういえばアレイなんちゃら候っておっさんが言ってたな」

 

 

 新しいモンスターを補充するとか何とか、そういう感じのことを言っていた気がする。

 顔を見上げながらルクレスさん達に言うと、彼らは真剣な表情で頷く。モンスターの中には表情が分からないのもいたが、まあ雰囲気で分かる。

 

 

「アレイルクス候は国家の―――――――レジスト国家の領主だ。そしてこの真ん中に位置している村……コノエ帝国の領土となっていたのに襲ってきた僕たちの村があった。だから次に狙うとしたらまた真ん中に位置する村だろうと予想したんだ」

「俺達は皆、悲劇を繰り返シタくなイんだ」

「ああ、捕まえた奴らを尋問して奴らがこの村を襲うと確定しているからね。まだ予定は先だけれど……だから僕たちは反撃をして村を守りつつも宝玉を奪うことを目的として行動する。それにドラゴンにも会わないといけない」

 

「……うん、それは俺も同じ考えだよ」

 

 

 あいつにはいろいろと話をしなくちゃいけない。

 でもそれ以外にも言わなくちゃいけないことがあるんだ。

 ルクレスさん達も俺に微笑みを浮かべている。リザードマンの一匹に頭を撫でられながらも、ぼんやりとこの先の未来を考えた。

 

 

 

「……アルメリア、それ以外にも何かいい案はあるかい?」

「良い案? そうだなぁ……」

 

 

 

 何故か真剣な表情をしているルクレスさんに促されて考える。

 村を守りながらも宝玉を奪うことには賛成。ドラゴンに会うのも賛成。それ以外とすると……。

 

 

 

「ねえルクレスさん達。レベル上げに興味ってない?」

「うん?」

 

「そのままじゃたぶん返り討ちに合うかもしれない。モンスターらしい姿をしてるのに人間みたいに攻撃してたから……中途半端に守っても何も成果は出ないと思うから、レべリングしようよ」

「……レべリングか」

 

 

 モンスターというのが前世でみたものと同じならたぶんレベルというのがあるはずだ。

 ポーションや魔法といったゲームに似た要素があるんだから、当然強くなれるはず。進化ももしかしたらできるかもしれない。

 ただ理想と現実は全然違うから意味がないかもしれないけれど……でも戦いになれるぐらいなら良いんじゃないかなって思うんだ。

 

 もちろんレべリング中に他の村を襲われたら困るから、やるべきことはやるつもりだけれど。

 

 

 

「それとね、どうせなら1つの村を守るだけじゃなくって、メリア大森林ごと侵略でもしちゃおうかなって……」

「侵略?」

 

「うん。メリア大森林を中心として変異を繰り返し起こそうとしてるんでしょ。ならメリア大森林ごと全て俺達が奪ってやろうよ。あいつらが手出しできないように……今のこの施設のように」

 

 

 

 ルクレスさん達が顔を見合わせている。

 幼女である俺の考えを真剣に受け取ってくれている。彼らはみんな頷いてくれた。

 

 それが当然というような仕草で、俺の意見を肯定してくれたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

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