ナティシア ー平凡幼女はハードモードな世界を生きるー   作:かげはし

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 全ての悲劇が、ようやく終わりを迎えた頃。
 これからどうするべきかを話し合うことと、今度のために身体を休めさせている数日の間。



 ―――――これは、その間に起きた複数の事件のうち一つのお話である。







外伝 化物となった人々の日常
モンスターの力の使い方 序章


 

 

 ここは、あの実験施設跡となった場所の一室。

 すべてのモンスター……つまり、俺の家族や友人と言った実験での被害者である元人間たちが全て集まれるほどの大きなホール。

 天井をぶち抜いて二階分ほどの広さをもっているため、大鬼の母さんでも頭を気にせず楽にすることが出来る場所の一つだ。

 扉からその奥の壁いっぱいにまで広げた長いテーブルを並ばせて、その上に食料を並べて食べ放題形式のようにたくさん置いていった。よく分からない肉も置いてあるが、俺から遠い位置にあるしぶっちゃけ気にしない方が身のためだろう。

 

 椅子に座れる者は各自自分の場所まで持って行くようにしているため、そこまで狭くは感じない。

 大きな体のモンスターの圧は凄いが、恐怖は全くない。

 

 現在の時刻は太陽が昇り始めた早朝。

 微睡んだ思考をなんとか覚ますために水を飲んで、周囲を見渡す。

 

 俺が目覚めてからみんなはかなり喜んで祝杯などをあげていたらしい。いや、酒を飲んだり食べたりしたわけじゃないが、嬉しさのあまり暴れまくっていたという話は聞いていた。

 だからだろうか。早朝でみんなが集まっている状況だというのに少し騒がしい。そしてどこかで笑い声が聞こえたりモンスターの雄叫びが聞こえたりとお祭り騒ぎになっているように感じる。

 

(……というか、俺以外の人間なんていないんだよなぁ)

 

 ルクレスさんは俺に配慮してか人間の姿をとっているが、実験のせいでモンスターに代わっている。俺以外は全員モンスター。

 でも、皆が暴れるだなんてことは有り得ないからこそ安心して食べることが出来る。

 

 

 そして―――――もぐもぐと、固めのパンを食べていた手が止まった。

 

 

 

「大問題が発生した」

 

「はい?」

 

 

 ルクレスさんが少し難しそうな顔をして言う。

 

 彼は食べ物を口に入れていない。

 机の上には村で生活していた頃とは比べ物にならないほど豪華な食料の数々。

 全てが終わって、俺が目覚めてしばらくして落ち着き……まあ大体の落ち着きを取り戻した朝だというのになんでそんなに気難しい顔をしているのだろうか?

 

 というか、なんだかおかしくないか?

 

 俺の目の前には野菜スープや果物の入ったサンドイッチなど調理されたものが置いてある。

 皆もそれぞれ食べていて、急に話し出したルクレスさんに周囲にいるモンスターたちが一瞬だけ行動を止めてこちらを見たぐらいだ。

 

 

 

「どうしたんですかルクレスさん? 問題というのは?」

「医療薬が底をついた。それと食料以外の消耗品もだ……というか、どうやら僕たちが襲撃をする前に仕入れをしようとしていたのか、かなり少ない状態だったんだ」

「え、それってやばくないですか?」

「ああやバいゾ。薬草もまダ出来てイないかラナ」

 

 

 実験場の施設を改良している最中のため、必要な物資はたくさんある。

 だがそれがないとなると今後の計画に支障が出ると考えているのだろう。

 

 これから行うのは長期戦だ。

 この実験場だけでも過ごせるような環境を整えることをルクレスさんは考えている。ここで籠城していても一生暮らせるような場所にするためには、今の状況だと不十分だ。

 

 

「今の身体はモンスターだ。だから僕たちの力だけで物資を作り上げることは可能だろう。僕も糸さえあれば服やシーツが作れるようになるからね……慣れればの話だけれど」

「本当ですか!? じゃあ――――」

 

「いいや。暴力以外での力に慣れていないから、練習する時間はかかる。……その間の時間を補うために物資が必要なんだ」

 

 

 まあ、そうだよなぁ。

 蝋燭がなければウィスプのグレンや、炎に関係するモンスター達に任せればいい。

 

 でも、包帯はできない。怪我を直すためのポーションだってまだここにはない。

 あの襲撃のせいで怪我をしているモンスターはいる。俺もそうだし、ルクレスさん達だって怪我をしている。その身体を癒すための薬がないといけない。

 命に危険があるようなことは絶対にあってはいけない。これ以上、身内を失うわけにはいかないのだから。

 

 

 

「ぁルめリア、こレを見ロ」

 

 

 

 近くにいた蒼いバンダナを付けたコボルトの一人が、ある地図を差し出した。

 その地図こそ、空を飛べるモンスターの数人がざっと見て書いたメリア大森林の大雑把なもの。

 俺たちがいる場所より右、かなり近い場所でバツ印が描かれていた。

 

 

「……これは?」

「純粋なモンスターであるゴブリンの住処だよ」

 

「何でそんな場所を知っているんですか!?」

「いヤぁちょっト自由になレたこトが嬉しクテな。空を飛ベル奴らガ無茶をシて暴走シた結果がこレダ」

「彼の言う通り、そういうことだよ」

「どういうこと!?」

 

 

 まあ自由に生きれるようになったことが嬉しくてヒャッハ―みたいな興奮状態で行動に出るのは分かる。

 俺だって昨日の夜はなかなか寝られなかった。

 グレンだって廊下を超特急で走り回ってどっかで火事を起こして彼の姉さんがキレたっていう些細なトラブルがあったのも知っているし、他にも壁が崩壊しただのモンスターがジャンプしただけで落盤が起きただのトラブルが発生しているのは分かっているのだから。

 

 でも、空を散歩していたらゴブリンの住処が見つかったっておかしいだろ。

 

 

「ごほん……ええっと……ゴブリンの住処があったのは分かりました。でもそこと物資補給はどういう関係があるんですか?」

「ゴブリンはもともと人を襲う性質があってね。彼らが奪うものは人だけじゃないんだ」

 

 

 この大森林を抜ける最中の旅人は必ず様々な物を持って歩いている。

 たとえば野宿するための料理器具。寝袋や武器。そして怪我をしてもすぐに治せるように医療用品があるという。

 

 ゴブリン達は大森林を移動している旅人を狙って襲い掛かり、その荷物ごと巣へ持ち帰ってしまうらしい。

 

 

「……つまり?」

「モンスターとしての力を比べるために……戦う自信がある者たちでゴブリンの巣を襲って物資を補給しようって算段だよ」

 

 

 

 

 ルクレスさんはとても簡単そうに―――――だがしかし、実際には酷く大変そうなことを言ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 


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