ナティシア ー平凡幼女はハードモードな世界を生きるー 作:かげはし
第二章開始です。
感想などお待ちしています!
15話 彼女たちは動き出す
メリア大森林が呪われていると噂が広まったせいでえらい目にあった。ある程度の物資を売りさばいてくれる商人も来なくなり、こちらから町へ行かなきゃならない始末。
貴族御用達の店で働いた経験と腕を活かして、料理人として何処か安全な都市にでも移り住めばいいかもしれないとは思う。
だがメリア大森林は帝国と国家の間に位置する場所。冒険者たちにとっての通り道だ。
長旅で腹を空かせた奴らに美味い飯を食べてもらいたい。一日の幸せを飯で満たしてほしい。そんな細やかな願いの為にずっと故郷を離れられないでいるが、やはり限界なのだろうか。
というかだな……狩りで得られる肉だって限りあるというのに、これ以上の不幸は止めてくれると助かるんだが。
「むごごごっ!」
「だから肉をあまり食うなって言ってんだ! 貴重なんだからゆっくり味わいやがれ!」
「いいひゃない!」
「良いじゃない、じゃねえよルナの馬鹿野郎!」
焼いた肉をかっ食らう美少女とは思えないルナの野性的な顔を見て、額に手を当てて項垂れる。
もぐもぐと肉を頬に詰め込み、ようやくごくりと飲みこんだルナは満足げだった。
「んぐっ……だいたいレオン兄さんはいつも心配し過ぎるのよ。肉なら私がとってきてあげるし、金がなかったら私がまた稼いできてあげるっていつも言ってるでしょう?」
「お前の狩りや稼ぎ方に問題があるんだよ。死んだらどうするんだ」
「大丈夫よ。私は強いから!」
確かにルナは強い。
料理人としての才能を伸ばした俺に比べて、何故か戦闘能力に特化した才能があった。
村にいる狩人のおばさんたちが両親のいない俺達を憐れんでというわけもなく、才能のあるルナに跡継ぎになってほしいと土下座する勢いで頼み込むぐらいだし。
俺が都市に修行に行った時なんてこいつも一緒にくっついて来て、そのせいで金を稼がなくちゃいけなくて悩んでたらルナが円形闘技場で下位モンスター複数に中位モンスター2体と戦って優勝し、金を俺に渡したぐらいだ。
こいつが強いのは分かってるんだ。冒険者として活躍できるぐらいの力を秘めてるのもな。一人で金を稼いでこれるこいつなら、一人でなんでもできるだろう。
だから独り立ちしてほしいというのに……何でこいつは村にいてただ料理をするだけの俺に執着するんだ。早く兄離れしてくれ妹よ。
「だからね。レオン兄さんは諦めて私に美味しい料理を作ってくれたらそれでいいの! むしろ私が外で稼ぐから兄さんは家で料理する。それが一番良いんじゃないかな!!」
「ふざけんな俺はお前の専属料理人じゃねえぞ!!」
ああもう駄目だこの愚妹。俺が何とかして村でも安全かつ継続した生活を送れるようにしないと……。
いやそういう考えがいけないのか? 兄離れの前に妹離れしないとやっていけないのか?
「そういえば兄さん知ってる?」
「あぁ?」
「このメリア大森林が呪われてるって話」
真面目な顔で今さらな話をしてきたことに呆れる。
メリア大森林が呪われていると言う噂が経ったのは一か月ぐらい前の話だ。はぐれゴブリンによる村や集落の壊滅がいくつかあったらしく、都市で世話になった料理店の元同僚から聞いた話だとアレイルクス候もそれに襲われて死んだという。そのせいで跡継ぎ問題でメリア大森林以外の領地が荒れてるみたいだ。まあこっちも似たような感じか。
だからはぐれゴブリンのせいで森が呪われてるんじゃないかという点で俺にとって客である冒険者が多く来るようになったし、逆に商人たちが来なくなった問題が起きた。
「ああ知ってる。……っていうかだな、そのせいで肉も香辛料も何もかもが手に入りにくくなってんだよ。だからお前が食ってたさっきの肉が最後かもしれないって嘆いてたんだ!」
「え!? おかわりできないの!?」
「だから真面目にゆっくり味わって食えって言ってんだ! 話をちゃんと聞きやがれこの馬鹿妹!」
「味わってるわよ! ただレオン兄さんの料理が美味しすぎてついいっぱい食べたくなっちゃうの!」
「そのせいで狩人の奴等が働きすぎてひぃひぃ言ってんの分かってんのか」
「………てへっ」
可愛らしく舌を出しても俺には効かないぞこの馬鹿妹が。
「さあ働くぞ。肉が食いたいならルナは狩人のおばさんたちの手伝いでもして来い! 今日もまた冒険者が来るからな!」
「分かったよ兄さん。たくさんお肉持ってくるから夕食もよろしくね!」
「……お前は少し我慢ってもんを覚えろ」
「嫌だよ。お腹いっぱい食べたいもん!」
「だからって牛一頭丸ごと食い潰すんじゃねえよ! この人間ブラックホールが!」
■
「……そう。アレイルクス叔父様が亡くなってしまったの」
「ええそうですお嬢様。それで次の跡継ぎは貴方となりそうです。レベッカ様」
「それは……それはとても大変な事態ね」
「ええ、おそらく」
アレイルクス・アレクシア。それが私の一族の一人である叔父の名前である。
私の叔父には子供がいない。それに引き替え、叔父様の兄であり私の父は他の領地を持った貴族の一人。私の兄や姉たちも小さいが領土を所有しており、アレクシア一族はレジスト国家の大貴族となっていた。
私だけはそういう面倒くさいのはいらない。領土も何もなく、ただ普通に暮らしたかった。
お花を見て、美味しいお菓子を食べて、密かに都市を散歩して、そしてゆっくり過ごしていきたい。だが、兄や姉たちもそれぞれ立派に仕事があって暮らしている。
私だけなのだ。叔父様の跡を引き継ぐことができるのは。
「……そういえば、何故叔父様は亡くなったのかしら」
「現在調査中でありますが……それと、アレイルクス候……いえ、アレイルクス様は現在進行中で国王に命じられ行うべき仕事を抱えておりました」
「まさか、それを私にやらせろと?」
「国王はそれをお望みだそうですよ」
「えぇー……」
凄く嫌だ。何で私がそんなことをしなきゃいけないの。
というか、私のような小娘に仕事を引き継がせるぐらいならお父様にやらせたらいいのに……。
「貴方のその頭脳と采配をお父様も期待しているから何も言わないのです」
「……口に出てたかしら?」
「はい。しっかりとお父様にやらせたらいいのにと聞きましたよ」
「そう。……はぁ、面倒」
本当に嫌だなぁ。ゆっくりと休んでいたいなぁ。
まだ読んでない小説だってたくさんあるのに、仕事したら絶対に兄様たちのようにやりたいこともやれなくなるんだろうなぁ。
「……それで、仕事ってなんなの? 楽できるようなもの?」
「いえ、楽が出来るか……と言いますと正直微妙ですが、これを――――――」
「……なぁに、それ?」
メイドが見せてくれたのは、綺麗な赤色をした宝石。
真珠よりも丸くて大きく、光の加減によっては宝石の中で七色に光っているように見える見たことのないもの。
「どうやらこれの調査と実験をするべきと国王から命じられていたようです。実験内容に関しましてはアレイルクス様が報告する前に亡くなってしまいまして……」
「そうなの。……ねえ、これの名前は?」
「ドラゴンの宝玉と呼ばれているそうですよ」
「ドラゴンの、宝玉……ね。この宝玉にはどんな力があるの? 鑑定は?」
「それは鑑定スキルでも分かりかねます。国王もそれを調査せよとアレイルクス様に命じていたので」
「なるほどね。全然わからないもの。力はありそうだけどよくわからない宝石か」
少しだけ興味が湧いた。
仕事は嫌いだけれど、興味があることならやってもいいかもしれない。
「ねえ、仕事の引き継ぎ資料見せて頂戴。それと叔父様がやっていた調査と実験についても調べて」
「承知しました、レベッカ様……いえ、レベッカ・アレクシア候」
「うふふっ。まだ私は何も引き継いでないから候になってないわよ」
この宝玉にどんな力が備わっているのだろうか。仕事と趣味を兼ねて……ちょっとだけ、楽しめそうな気がした。
■
実験施設―――――――俺達はここをホームと名付けた。トラウマもたくさんある施設だが、俺達にとって現段階で安全である場所だから、そこを拠点とした活動を開始することになったのだ。
拠点の複数の部屋にあった俺達にとってのトラウマ製造機の実験場は全てゴブリンたちが斧でぶっ壊し、スライムがそれらを気合いで消化し、そして壁などを綺麗にして畑も作って住みやすい拠点にするのを始めていくことが最初の目的……だったんだが。
「ええっと、つまりあなたが俺達を襲ったあの女なわけで、それで屈服して……えっと、何でしたっけ?」
「はい! わたくしは化け物であった時、理性などは何もなかったのですが……あなた様の強烈な赤と、身体中を引き裂かれるそうな衝撃だけは覚えています! ですのでアルメリア様の奴隷にしてくださいまし、お姉さま!」
「……ねえルクレスさん、こいつ檻から出して大丈夫!? 本当に大丈夫なの!?」
「ああ、大丈夫だよ」
いや全然大丈夫そうに見えないんですけど!?
というか、俺その時何やってたのか覚えてねえから勘違いかもしれないって言うのに!
あーでも一応ルクレスさんは言うなら大丈夫なのかなぁ。捕まってる人間たち管理してるのこの人だし。
金髪美女ももとは名目上の復讐対象であり捕虜となった人間たちのうち一人だった。
人間に関してはルクレスさん達に任せてるので何をしているのかは知らない。いや、尋問とかで聞いた話については教えてもらってるけど、それ以外は特に興味ない。
それは皆も同じだったんだが、この目の前で俺に跪いている金髪の女性に問題があった。
元々は白髪で白いワンピースを着ていた女性。どうやら防御魔法に関しての力があり過ぎたせいでアレイルクス候に目をつけられ、無罪の罪を作られて捕まりここで力を利用されていたという。
ある意味俺達と同じ被害者だった。もともとは金髪だと言うのに、力を強制的に使われたことによって髪が真っ白に染まってしまうほど酷い目に遭っていた。
攻撃してきたときは理性がなくほとんど何をしていたのかさえ覚えていないようで、檻に捕まっていた時も騒ぎ喚く情けない研究員や魔術師たちとは違って正座してただ静かに死の時を待っていたというのだ。
「……まあ、裏切らないなら俺はどうでもいいけど」
「はい! 裏切りませんわわたくしのお姉さま! あなたの御付きとして活躍したく思います! むしろお姉さまの全てをわたくしがお世話したいですわ!!」
「いや無理。御付きとかいらない。ってか何でそっち?」
御付きって従属人って意味だろ? メイドとか執事とかさ。
「はい! 貴族のステータスは素晴らしい従属人にあります! 力とは縁の下にございますから! わたくしはアルメリア様のお力になればと思いますし、以前も似たようなことを行っていましたので!」
「強い防御魔法があるのに?」
「はい!」
ニコニコと子供みたいな笑顔で俺の足をすりすりと頬ずりする気持ち悪い金髪美女。美女なのに本当に残念だ。というか気持ち悪い。
「ああ、この足……ええそうですわ。わたくしこの足に踏まれたことが……お姉さま! もしもよろしければわたくしを踏んでくださいませ!」
「いや無理」
「ああん。つれないですけどその冷めた目も最高ですわお姉さま!」
紅い頬を両手で押さえて、興奮したように鼻息荒く俺に近づく金髪美女。
もうすごく怖いのでルクレスさんの後ろに隠れる。というかルクレスさんも傍観気味に苦笑しないでほしい。
「ルクレスさん、この人理性戻ったんですよね? 正気に戻ったんですよね?」
「あーうん。これはもともとの性格かもしれないなぁ。まあ裏切らないことは確実だから大丈夫だよ。被害も何もないし、彼女の強い防御魔法は絶対に僕たちの力になる」
「待ってルクレスさん! 俺!? 明らかに俺が被害に遭ってる!!」
「お姉さまお姉さま。ああお姉さまぁ!」
マジで怖いんですけどこの美女!?
ルクレスさん! 俺の足にすり寄って頬ずりしてるこの美女を放置しないでくれよ!!
「それで、君の名前は何だったかな」
「はい! わたくしはマーガレット・ナティシア。マリーと呼んでくださいまし、お姉さま!」
「いやだから無理だっつーの!!!」