ナティシア ー平凡幼女はハードモードな世界を生きるー   作:かげはし

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17話 交渉にはトラブルが必須

 

 

 

 東の村。村に名前はないが、帝国に属しておりいろいろと有名な兄妹が都市に暮らさずずっと偏狭な村で暮らしているといわれている場所でもあるのだとルクレスさんが言っていた。

 交渉は直接行うことはしない。どうせ国がドラゴンの宝玉を使用し、村の人間をモンスターに変えて実験していただなんて話を信じられるわけがないからだ。

 真実は時に小説より奇なりともいう。でもその真実を告げるのに失敗したら敵対される。そして二度と協力はないだろう。だから慎重に動く必要があった。

 

 他の村に対して行うのは、助けでもあり協力。

 俺とマリー以外の人間はいない。ルクレスさんは人間に成れるけど蜘蛛のモンスター。

 これから先宝玉を奪うために行動するのならば貴族たちがいるであろう都市に―――――宝玉があるかもしれない場所へ行くのが目的の一つ。

 だがそこで一番の問題点はモンスターが町に行くことが難しいというもの。いくら中身が人間だとしても、外見がモンスターなら完璧に誤解されるだろう。

 

 それにモンスターは驚異的だと人間たちは思っているために、それぞれの大きな町にはモンスター対策というのが存在する。それが厄介だった。

 村はともかく都市などの大きな町では検問によるモンスター対策があるから、モンスターだとバレたら即座に終わる。ルクレスさんはモンスター売買などで隠していてもすぐに感知された事件があったと話をしてくれた。

 そのためにも、協力できる人間をなるべく増やすのが目的だった。もちろんこれ以上の被害を出さずに助けることも重要だけど。

 

 だから、間接的に動く。

 

 

「まさか今の時期に冒険者ではなく商人が来るとは思ってもいませんでしたよ。さあさあどうぞ……あ、レオン君。飲み物をお願いできるかい?」

「了解です、村長さん」

 

「あ、いや僕は自前のがありますので結構。……アルメリアはどうする?」

「あーえっと……貰います」

 

 

 20代程の青年と、50代の初老が机を間に挟んで少々古臭いソファに座って対面の形で向かい合う。

 ソファはどうやら羊の毛と木材と何かで作られた物らしい。前世で見たソファというよりも、柔らかい椅子って感じがする。そんなソファの感触を気にしながらも部屋の中にいる青年たちを見た。

 

 青年は栗色の髪に青目の人懐っこそうな好青年という印象を受ける。初老の方は日に焼けた肌に白髪交じりの黒髪であり、真面目そうな顔つきをしており、にっこりと笑顔を浮かべると余計に年若く見えた。

 どちらも痩せているが程よい筋肉が備わっており、畑での重労働などで苦労しているようだ。

 

 青年……確かレオンと言ったな。レオンが一度部屋から出て行き、コップに紫色の飲み物を俺の前に置く。

 ルクレスさんの方を見たら彼は頷いてくれたので少しだけ飲んでみた。

 

 

「あ、美味しい」

「お、良かった。子供の口に合ったみたいだな。それはこの村周辺の木々生えてるブドウの実を絞った果実ジュースなんだ」

「……お兄さんが作ったの?」

 

 

 首を傾けながら質問すると、ルクレスと向かい合う形で座っていた村長が微笑む。

 

 

「ああそうだとも。レオン君はこの村の一番の出世頭でもあり、かつて貴族御用達の料理店で働いていた経験を持つ凄腕の料理人さ」

「村長! そ、そういうの止めてくださいよ」

「何を言うか。君のおかげで村は安泰だ!」

「あの。あー、村長。そういうのマジで止めてくれませんか」

「あっはっはっ!」

 

 

 上機嫌に話す村長と赤くなった頬をかいて誤魔化すレオン。なんか凄く平和な光景だ。

 ついあの嫌な過去のことを思いだして遠い目になる。それが分かってしまったのか、ルクレスさんが俺の頭を撫でながらも愛想笑いを浮かべて口を開いた。

 

 

「レオンさんの噂は僕も聞いたことがありますよ。このメリア大森林を通る腹を空かせた冒険者に美味しい料理を食べて疲れをとってもらうために都市ではなく村にいるというのを」

「おお! レオン君や、やはり君は有名人だぞ!」

「そ、村長……」

「それと彼の妹さんについての噂も聞きました。冒険者になれば英雄も夢じゃないほど凄くお強いとか。それなのに村の為に働いていると言うのですから凄いですね」

「そうだろうそうだろう。レオン君たちのような兄妹はこの村の誇りさ!」

「村長! 話がズレてますよ!」

「おお、そうだったな。だがその前に―――――――」

 

 

 一度咳き込み、軽やかな会話はそこで途切れる。

 ピリッというような緊張感のある空気を感じて思わず背筋を伸ばした。

 よく見れば村長とルクレスさんがどちらも微笑み合いながらも相手の様子を窺っている。

 

 

「ルクレス・ナティシアと言ったな。私はその名前を何度か帝国で聞いたことがあるんだが……君は知っているかね?」

「いいえ。僕は国家から来た商人ですので。それに名前が同じ人なんてたくさんいますよ。ナティシアだってそうでしょうに」

「そうだろうが、私は前に何度か見たことがあるのだよ。数十年前だったけれどね」

「ほう?」

 

 

 え、これ大丈夫?

 ルクレスさんの今の姿って確か俺の為に若い見た目に変えてたんだよな。それでずっとそうしてきてたからもう慣れちゃって本来の姿にはせずにそのままにしてたんだけど……。

 チラチラとルクレスさんを見てたら、俺の正面に座るレオンが気まずそうに口を開く。

 

 

「えっと、村長。 ルクレス・ナティシアさんの話を帝国で聞いたというのは……」

「うむ! 話してもいいかな?」

「ええどうぞお好きに。僕ではない人のお話ですので」

 

「うむ。ルクレス・ナティシアは帝国戦士の一人だ。かつて勇者とされた男の右腕としてフォローに徹し、ルナちゃんと同じく戦うための力を備え、数十年前に起きた災害事件の時に率先して市民を守り活躍した人……まあ、今はどこに住んでいるのか分からないがな」

「数十年前というと……」

「ルクレス・ナティシアは私と同じくらいの年齢だ。だからあなたとは関係ないか、それか年齢を偽る何かの魔術でも使われたのかと」

「ハハハっ。そんな魔法があったら世の女性たちが黙っていませんよ」

「そうだろうね。いやしかし似ている」

「他人の空似でしょう。それよりも商談の方を」

「あ、ああ」

 

 

 にっこりと笑ってルクレスさんが促す。村長はおそらくルクレスさんの反応を見たかったんだろう。ずっと顔を窺い、考え込んでいた。

 

 

「売っていただけるのはある程度の食材と香辛料。それと衣類だったな」

「ええ。アルメリア」

「は、はい」

 

 

 ソファの後ろに置いておいた大きな鞄を引っ張って何とか机の横に置き、その上に食材と香辛料、そして衣類を置いていく。

 それらすべてはホームの二階にあったものであり、交渉材料として使えるものを持ってきたつもりだ。それらを品定めするために食材と香辛料を見ているレオンと村長をじっと眺める。

 

 

「ふむ。なかなかの代物だ。……それでは、君はどの程度の金を要求する? ルクレス氏」

「はい。1銀貨と7銅貨で売らせていただきたいと思います」

「……え? ま、待ってください! い、1銀貨7銅貨!? そんな安く売って大丈夫なんですか!?」

 

 

 驚愕したレオンが衝動のままにソファから立ち上がる。それに「座ってください」とルクレスさんが言い、何とか冷静さを取り戻したレオンが息を呑む。

 

 まあ確かに食材だけの量で3日分はあるからなぁ。

 香辛料は数種類のハーブと、薬草を混ぜたものばかり。一応ホームで量産可能にするためにいろいろと調整しているところだけれど……。

 この世界において香辛料は都市での贅沢品。それに加えて食料と衣類だ。都市で買うとしたら一般の平民でも買うことのできる値段ではあるだろうが、村の移動費も兼ねるとすると通常よりかなり金がかかるはず。

 それを通常よりも安く売る。都市で売られている程度の値段で売っておく。それにルクレスさんは小さく笑みを浮かべていた。

 

 あれ絶対内心で計画通り! とか思ってんだろうなぁ。

 最近ルクレスさんの思考が読めるようになった気がする。身内には甘いけど他は腹黒で利用価値があるか程度にしか見てないところとか……。

 

 

「な、何でこんなに安いんですか!? ふ、普通だったらたしか……」

「ええ、通常なら5銀貨7銅貨……いえ、6銀貨の価値がありますからね。ですが僕たちは手間賃などは必要ありません。また欲しければちゃんと売らせていただきますよ」

「それは……値上がりなどもせずにかね?」

「ええ、もちろん」

 

 

 ルクレスさんはこの先を見通しているのだろう。

 まだ食べ物の畑は稼働してないし、香辛料も量産できていない。

 でも彼らと交渉できるきっかけがあれば良い。

 

 

「……ふむ。それはそちらのメリットがないように思われるが?」

 

「いえ、それと引き換えに僕たちの方からこの村に依頼をしようと思いましてね」

「ほう? それは一体なんだね?」

「それは―――――――」

 

 

「た、大変だぁぁ!!」

 

「むっ?」

 

 

 ようやく本題に入れると思ったのに、急に聞こえてきた警告のような鐘の音と大騒ぎする人の声。

 レオンさんがすぐさま立ち上がって窓を開けて大騒ぎしている男達を見下ろした。

 

 

「おい、どうしたんだ! 何かあったのか!?」

「ああレオン! それが……おばちゃんが急に帰ってきて……お、お前の妹が!」

「は?」

 

 

 何か問題でも起きたのか?

 まさか、宝玉を利用している連中の仕業か……!?

 

 

「落ち着いてアルメリア。今は傍観しよう」

「っ……はい」

 

 

 無意識ながらにソファから立ち上がって

 そうだ。とにかく落ち着け。

 村にあの不気味な五芒星が描かれてるわけじゃないんだ。

 とにかく、様子を見ないと……。

 

 

 

 

 森の中はとても静かで不気味。

 こういう時に歌を歌ってる妖精がいたらいいのにって私は思うけど……まあ、妖精なんて肉にもなりはしないものがいるより、目の前にでっぷりと脂肪のある猪がいたらいい。

 私の兄さんに美味しく作ってもらって、いっぱいお肉が食べたい。でも肉を狩るのは面倒。

 

 

「あーもーかったるいなー」

「そう言わないのルナちゃん。お肉が食べたいんでしょう?」

「もちろんだよおばさん! お肉は私の栄養源にして回復ポーション!」

「ならさっさと狩って、レオン君に美味しく調理してもらおうじゃないの」

「はーい」

 

 

 お肉の為ならいくらでも頑張れる。肉を食べれるなら何でもしよう。

 拳を握りしめてやる気を出して前へ歩く。草むらが邪魔だし所々に虫がいて肌を刺してきてチクチクするし嫌だけど、でもお肉の為なら何でも――――――。

 

 

「あっおばさんストップ」

「なんだい? ……ああ、あれ」

「うん」

「流石ルナちゃんだね。私には見つけられなかったよ」

「えへへー」

 

 

 照れて頬をかきながらも、木の陰に隠れておばさんと一緒に様子を窺う。

 見つけたのは一匹のオークだった。どこかで狩ったのだろうか。大きな猪を肩に担いでノシノシと歩く巨体。豚の顔と男の身体をした気持ち悪いモンスター。

 あのモンスターって確か種族上、頭悪くなかったっけ? お肉もその場でむしゃむしゃ食べるような奴だったよね。何で持って帰ってるんだろう。今はお腹いっぱいなのかな?

 

 あーでも豚の顔だけ見ても美味しそうに見える。豚の顔をしているなら身体も豚で良かったのに。

 そういえばモンスターって美味しいのかな……。

 

 

「どうする? 今日はもう止めとくかい?」

「ううん。あいつ猪担いでるよ……あれ奪っちゃおう」

「モンスター相手の戦闘は私やったことないよ」

「大丈夫。私ならできるよ!」

 

 

 一気に身体を前へ出して、一歩を強く踏み出す。

 

 

「あっちょっとルナちゃん!?」

 

 

 おばさんの声が背中から聞こえたけれど、そんなの気にせずに前へ躍り出る。

 

 

 

素早さ特化(スピードアップ)身体能力向上(フィジカルアップ)。超特攻スキル発動!!」

 

 

 戦っているうちに身についた力のいくつかが消費される。身体が微かにオレンジ色に光り輝き、そして一気に軽くなる。

 オークは素早い私の動きを感知できずに背中を向けていた。

 その背に向けて勢いのままに強く飛び蹴りを食らわす。

 

 

 

「グォォォッ!?」

 

 

 

 流石はオークと言ったところだろうか。身体がふらふらになっているけれど、ゴブリンなら胴体が半分に分かれてる程度の力でぶっ飛ばしたのに無傷っぽい。中の骨は折れてるかもだけど。

 やっちゃった反省も兼ねて私は小さくため息をついた。

 

 

「あちゃー。もうちょっと首部分を狙うべきだったかな」

「ゥォォッ!」

 

 

「あっ、逃げんな!」

 

 

 

 私が直線距離を走るとすぐに木を利用して逃げていく。

 力の差をあの一撃で思い知ったのか、殺されたくないと猪を担いで逃げる。

 猪は置いていってもいいのに!!

 

 うぐぐっ。森に隠れながら逃げているのか、すぐに姿を見失う。ガサガサと音がするのにどこなのか分からない。

 でも近くにいるはず! 周りを探せば見つかるかも!

 

 

 

「待ちなルナちゃん!」

「ごめんおばさん、私あいつ追いかけるから!!」

「だから待ちな! もうオークの姿はないだろう。今から行っても森の中で迷子になるだけだよ!」

「で、でもお肉が……」

「いくなら私も行くよ! 私なら迷子にならずに追いかけられる。この森に詳しいのは私だからね!」

「お、おばさん!」

 

 

 目をキラキラと輝かせておばさんに抱きついた。

 

 

「いいかい。私がいなかったらアンタは逃げているオークを追いかけてたんだろ。姿が見失っても懸命に。でもそれじゃあ駄目だ。森はおっかないからね。それにルナちゃんが強いとはいえモンスターだ。用心しておくようにしなよ」

「うん! ……でも、どうやって探すの?」

「足跡ならあるだろう? それで追いかけるよ!」

「なるほど!」

「ほら行くよ!」

「うん!」

 

 

 おばさんがオークの足跡を調べて追いかける。それに私もついていく。

 急かしたい気持ちもあったけれど、おばさんに我儘を言ってついて来てもらってるのは私だから我慢する。

 ああでもなぁ。あの猪のお肉がなくなってたら嫌だなぁ。

 

 

「いたよ」

「え!? どこにお肉が……!」

「ほらあそこ!」

 

 

 

 見つけたのは少しだけ離れた場所だがオークが慌てながらも洞穴に入って行こうとする姿。

 今からなら追いかけられる。お肉をゲットできるだろう……けれど……。

 戦った時に身に着けた勘かな。一歩を踏み出す力がない。

 さっきまでは大丈夫だったのに何で……。

 

 

「どうしたんだいルナちゃん。いつもならお肉ぅぅぅ! って叫びながら追いかけるだろう?」

「う、うん……そうなんだけど……」

 

 

 なんだろう。

 何かがおかしいような気がする。

 

 

「ねえおばさん。あの洞穴って村から近いよね。つまり村を襲ってくる可能性高いよね?」

「ああそうだね。私たちに被害が及ぶ可能性がある」

「なら倒した方が良いよね」

 

 

 猪の肉は後回しだ。

 お兄ちゃんならどんな状態のお肉でも美味しく調理してくれると信じてるから大丈夫。

 

 中に入ってみよう。なんか嫌な予感がする。

 

 

 

 

 

 

 

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