ナティシア ー平凡幼女はハードモードな世界を生きるー 作:かげはし
恐怖心からつい通路となっている方向へ逃げてしまったけど、それは失敗だったって後から気づいて舌打ちした。これじゃあ兄さんが私のことを詰めが甘いっていうのもよく分かっちゃうよ。
さっき落ちてきた穴は普通の人間が体勢を整えずにそのまま落ちたら確実に怪我をするレベルの深さだった。たぶんここは地下一階のフロア。
ダンジョンだと地上へ出るための手っ取り早い出口はリザードマンと遭遇したあそこしかない。それか遠回りになるけれど、ひたすら出口を求めて歩くしかないだろう。
「うぅ……早く帰らなきゃだけど……戻りたくないんだよなぁ」
あの異様なリザードマンとはなるべく戦闘は避けたいって思った。そりゃあリザードマンって都市でしか見たことのない高級な鰐料理となんか似てるから食べれるなら食べたいレベルのお肉だったとは思うよ。
通常のリザードマンだったら持って帰って兄さんに調理してもらおうと考えてたよ。
まあ、モンスターって食べれるのか分からないし、冒険者の手伝いをしてたときなんかにモンスターの死体を血抜きしようとしてたら食べるなってみんなから怒られたぐらいだし……。
火か何かがないとはっきりと見ることができない暗闇の通路。
闇に慣れた目で見えるのはぼんやりとした通路のみ。さっきまで走ってたけれど何度も地面に足をとられて転びかけたことあったぐらいだ。壁沿いに進んでいるけれど、このままじゃ私は二度と外へ出られなくなってしまう。
「あぅぅー……兄さん絶対心配してるよね。私のレオン兄さん……」
お腹すいた。早く帰って兄さんの料理をいっぱい食べたい。
現実逃避だとは分かってるけれど、モンスターが怖いって思うのは初遭遇以来だからなぁ。
―――――――あれ、待って。
初遭遇の時って私どうしたんだっけ?
私がまだ戦う力があると分かってなかったあの時。帝都へ向かう途中で冒険者たちに護衛されていたというのにモンスターに遭遇したあの日。
初めて拳を握りしめて兄さんを助けた時の感覚は恐怖心だった。でも、その後私の力で助けられるって分かって強くなることを決めたんだ。
「……そうだよ。これは私だけの問題じゃないんだ」
あの高位モンスターであろう青色のリザードマン。あいつがどんな攻撃をするのか知らない。
それは最初に戦った時だってそうだった。あの時戦ったモンスターと同じだ。
あいつを倒さないと、兄さんを危険に晒す。村から出たくない兄さんが、殺されてしまうかもしれない。
それは嫌。絶対に嫌。
「戦わないと……戻らないと……」
ゆっくりと振り返って、先程歩いた道を辿っていく。
暗闇でモンスターに襲われても対処できるように、警戒心は高めて。周囲の空気を感知しながら、一気に進んでいく。
「……あれ」
ふと思う。小さい考えが思い浮かぶ。
そういえば、ダンジョンってある意味モンスターの住処だよね?
なんで私ここまで音を立てるほどに走って、その後はゆっくりと歩いてただけなのにどうして何も会わないんだろう。
まるで私を観察しているかのようにすごく静かだ。私の息遣いが聞こえるほどに、暗闇の中は生き物がいないと錯覚するほど誰も……だれも?
「っ……
オレンジの光が淡く周囲を照らす。拳に力を込めて、大きく地面を抉るように殴った。
地面がぐらぐらと揺れて、天井から砂埃が舞うほどの轟音。一瞬落盤でも起きてしまうかなと心配になったけれど、そういう嫌な予感は働かなかったから大丈夫だと分かった。
拳に力を込めて、周囲に衝撃が来るほどの攻撃を与える。私の力で円形のへこみが出来て、周囲に風が発生する。
「ギィィッ!!」
「ウグッ……」
その瞬間に聞こえてくるのはモンスターの悲鳴。
鳴き声は蝙蝠かな。それとあと、人間っぽい悲鳴も聞こえた。でも明らかに人間じゃない。
たぶん力を抑えていたのだろう。私の周囲を吹き飛ばすような衝撃に耐えきれず、人間のような悲鳴を上げたモンスターの一匹の身体が青白く燃え広がり、明るく照らされて周りをよく見れるようになったのだから。
「ウィスプ……と、シャドーバット?」
炎の身体をしているモンスターのウィスプの対処は水があればできるもの。でも私は今水を持っていないから、攻撃に当たらないように気を付けてればいい。それか火が消えるほどの何かを与えれば倒せるはず。それなら私に考えがあるから出来る。
ただ微妙だったのは真っ黒の身体に赤と青の線のような色がある蝙蝠。シャドーバットはブラックバットの進化形……だったはず。この洞穴ダンジョンに蝙蝠系のモンスターがいるのは分かるけれど、ブラックバットではなくシャドーバットなのはなぜ?
ブラックバットはウィスプと同じく下位モンスター。それと同等だけれどシャドーバットは明らかに少しだけ違う。下位モンスターだけれど進化をする際、確か吸血鬼に血の力を与えられて育ったモンスターだって聞いたことある。シャドーバットがいる場所は、必ず吸血鬼がいるんだって。
まさか、吸血鬼もこの場所にいるの?
「いや、今はそんなこと言ってる場合じゃない……逃げる……ううん、倒さなきゃ」
「ま、待テ! お前を殺ソウと思って見張ってたワケジゃない! たダ無事に帰れルか見てたダケなンだ!」
「ギギィ!」
「ウィスプも喋れるの!? くっ……モンスターの言うことなんて信じないんだから!」
ウィスプは下位モンスターのはず。亜種なんだろうか。それともそう偽ってる高位モンスター?
でもそれでも構わない。倒さないと村へ安心して帰れない。
洞穴の出入り口を埋めてしまわないと。モンスターたちが外へ出ないようにしてしまわないと。
「
まずシャドーバットへ力いっぱい拳を握って殴り掛かる。すぐさま避けられたけれど、それでも構わない。一番の目的はその後ろの壁。
一気に殴り掛かったことによって壁は抉れ、その破片が爆散し周囲へ槍のように吹き飛んでいく。
それに一番のダメージを負うのはウィスプのはず。シャドーバットも全ての破片を避けきれずに当たって、ダメージを受けているように見えるけれど、まだ元気なようだ。
ウィスプも火が少し弱まってしまったけれどまだやれるみたいだね。ああもう。シャドーバットの肉をウィスプの炎で炙って食べてやろうかこの野郎!!
「ギィっ!? ギギギギッ!!!」
「ぐぅゥっ――――逃げヨウ!!」
「逃がすか! 絶対にぶっ殺してやるんだから!」
そうすれば兄さんに手を出されずに済む。兄さんがモンスターの脅威から怯えなくて済む。
兄さんのためにも、私はどんな力を手に入れようとも殺す。殺してやる。
もう一度拳を握りしめて、奴等へ向かって殴り掛かる。
モンスターたちの後ろ――――――その壁へ向けて。
「おッと、そこまでダ」
「なっ……!?」
私の腕を掴んだモンスターに驚愕し、絶句した。
身体中の鳥肌が立つ。有り得ない異様な状況に背筋がまたゾッとする。
恐怖で気絶出来たらよかったのに。冒険者の友達がここにいたら私の恐怖感を共感し、冷静に対処することができたのに。
ねえちょっと待って。待って待って待って!
このダンジョンの地下一階のフロアで会ったのはリザードマンとウィスプとシャドーバット。
ダンジョンにはモンスターたちの縄張りがあるから協力体制をとっていたとしても一つのフロアに最低3体のモンスターがいるはず。たまに5体以上のモンスターがいて縄張り争いをして共倒れしていることもあるけれど、こいつらはそうじゃない。
「ご、ゴーレムがいるだなんて……なんで……」
大きな岩の集合体。魔法の力が零れだしているのか、黄緑色の光を繋がれた岩の間から放ちながらもしっかりとした体格を維持し、目の部分から緑色の光を輝かせる。
魔法によって作られた自動人形。でもたまに岩に魔力がこもって命が宿ったモンスターへ変貌するとされるゴーレム。
そいつの対処方法は魔法でしか通らない。私は魔法の力を持ってない。打撃系スキルしか持ってない。つまり対処方法がない。
ゴールド級の冒険者がそれぞれのモンスターのチームを組んで倒さないといけないほどの難易度だ。
でも、このゴーレムはただのゴーレムなんかじゃない。
なんでなの。何で当たり前のように中位のモンスターがいるの。何でこいつも人間の言葉を喋ることができるの!?
有り得ないことの連続で頭が現実を拒否しようとしている。
絶望が私の身体に押し寄せる。
「おおっと、コノ俺様の魅力的な
「は?」
だが、私の腕を離したゴーレムがその大きな指を顎らしき部分に乗せてキランと目を輝かせたように見えた。
「このがっしりとしタ体格。疲労なんてなイ最高の力。魔法以外の攻撃を許さない魅力的な
「グローリーさん……」
「ギィ……」
ゴーレムがよくわからないことを言って、筋肉ムキムキの友達がよく身体を強調させるポーズをとっているかのような恰好を何度も決めながら笑って私を惑わそうとする。
そして何故か、ウィスプとシャドーバットがまたかと言ったように項垂れた雰囲気に包まれる。
というかまるで人間がやってるような感じで……いいえ、私を陥れるための罠なんでしょう。
数歩奴等から距離をとって考える。ウィスプとシャドーバットだけなら私は倒すことができただろう。
でもゴーレムは私に倒せない。魔法使いじゃないとできない。
でも、このまま逃げることも不可能だと思う。ここはダンジョン。モンスターのホーム。
なら私は覚悟を決めて戦わないといけない!!
私ならやれる。出来る……!
あいつら全員を殺して、ここから出てやるんだ!!