ナティシア ー平凡幼女はハードモードな世界を生きるー   作:かげはし

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 ――――――事の始まりは5日前に遡る。





21話 5日前の前準備

 

 

 

 

 

 

 

 周囲にいるのはモンスターの群れ。

 しかも一つの種族が大勢で移動していると言うわけではなく、たくさんの種族の下位モンスターたちが群れて移動する光景。

 レベルを上げるため、そして進化が出来るかどうかを確認するためのオーク殲滅戦だ。

 

 なんというか、遠征というのは初めてで少しだけワクワクする。

 

 俺様も……いや、見栄を張るのはよくないな。

 俺は子供のうちに入るからと言われて遠征部隊の方に入れてくれないような事態になってはいたが、アルメリアが村へ向かうなら俺も良いだろと説得をして良かった。

 姉ちゃんに我儘言うなって何度も風で火を消されそうになって痛かったけど。

 

 アルメリアのように俺だって強くなりたいんだ。

 まだ子供だとしても、俺はアルメリアより年上なんだから、ちゃんと強くなって成長していきたい。モンスターとして強くなった分、人間に戻ったとしても消えることはない貴重な経験になると思ってるから。

 

 ああでも、狩人としてのやり方を教えてくれた叔父のグローリーさんが煩すぎて困る。下位モンスターで小さいゴーレムだから、まるで手のひらサイズの岩の欠片が大声出して喋ってるみたいだし、姉ちゃんも耳を閉じてイヴァの兄ちゃんであるケット・シーの頭に乗って恥ずかしがっているぐらいだ。

 ああ姉ちゃん分かるぜその気持ち……。いやグローリーさんは頼れるときは頼れるんだけどさぁ。

 

 

「ガハハハハッ! やはり戦いトハ良イものダな。あレだ、若き日の俺様ノ血が滾るっテもンだ!!」

「はいそこぉー。ゴーレムの身体で血がないくせに何を言ってるんですの。わたくしのお姉さまのご命令に従わないなら即座に能力低下魔法ガン積みでオークの群れの中心に放り投げますわよー」

「はっはっはッ! それモソれデ楽しソウだナ!」

「グローリーさん……ちょっと落チ着イテくれヨ」

「何を言うか火玉! モンスターの百鬼夜行だゾ!? 人生長く過ごしテキたト思ったガ、こんな事態になルトは予想だにせンよ!」

 

 

 ハーッハッハッハッ!! と笑っているグローリーさんに対して思うことはあるが、特に邪魔と言うわけでもないし、明るい会話は気が楽になれるからと邪魔しないモンスターが多い。

 三時間程度はずっと歩きっぱなしだけれど、疲れることなく進んでいる。モンスターになって長距離を歩く、もしくは浮きながら進むのは初めてだった。だからだろうか。グローリーさんのようにモンスターになったから嬉しいと言う意見はいろいろと考えることもあるんだ。

 

 人間だった時のグローリーさんの足はもう動かない。

 もともとは国の為に戦う騎士として働いていた叔父だが、戦いに明け暮れすぎて病気になったことに気づかずある日倒れてしまい、そのまま足が痺れて動きにくくなった。そのまま意気消沈し、父さんと母さんが村へ連れて来なかったら死んでいたかもしれない人だ。

 戦いが人生の全てだったと人間だった時に俺に語ってくれた。だから俺は『俺様』として生きたいと思えた。

 まあもう、無理かもしれないけれど……。

 

 でも、グローリーさんのようにモンスターになって元気になった奴は少数だがいるんだ。特に老人や病気になった子供達が、モンスターの身体を手にして痛みや鈍い身体を思う通りに動かせるようになったと笑った。

 あの連中による人体実験の頃は痛みしかなくて何も分からなかったけれど。恨み辛みを全て吐き捨ててようやく自由を手にして初めてモンスターの身体を受け入れた。

 だから、モンスターになって良かったと思える人もいるし、悪い人もいるって分かってるんだ。

 アルメリアの母ちゃんは早く人間に戻ってアルメリアをきちんと育てていきたいって言ってたから、やっぱりグローリーさんの意見は少数だ。

 

 でも、俺がそれを考えていても仕方ない。まずは元の人間として戻れる方法を探すんだ。その後に、モンスターとして人間らしく生きるか、人間として生きるのかを決めていけばいい。

 そう思いながらも前を向いて進んでいく。俺は火の玉だから周りの森を燃やさないように、身体を縮める感覚で丸い火の玉になって行く。

 

 

「ギギィ」

「にゃーん」

 

 

 ああそうだな。姉ちゃんとイヴァの兄ちゃんの言う通りだ。

 なんというか、中身を見ずにモンスターだけで歩く姿は圧巻だ。グローリーさんが言った『モンスターの百鬼夜行』がぴったりなほど、数十もの異形たちがオークを倒すために前へ進む。

 

 

「うぅぅ……ああ、お姉さまと一緒に村に行きたかったですわ……これも放置プレイと思えば楽しいものですけれど……ふへへへへっ……」

「ブツブツと不気味なこトを呟かナイでくれなイか。アルメリア女史が可哀そウにナる」

「トカゲ野郎は黙っててくださります? わたくしは今、お姉さまに褒められることを想像して胸がいっぱいでふふふふふへへへっ」

 

「……ロリコンという変態ハ、まさにお前のこトを意味すルんだロウな」

 

 

 モンスターの中で唯一人間であるマーガレット……いや、マリーだったっけ。姉ちゃんと同い年ぐらいの美人が涎を垂らして目がイッちゃってる姿は見たくなかったぜ。なんというか、アルメリアが言ってた残念美人って感じ?

 町なんかで見かけたら絶対にいろんな男達から誘われそうなほど綺麗な姉ちゃんなのになぁ。美人だしスタイル抜群だし巨乳だし。

 

 ただ、アルメリアに異常なほど執着してるのは―――――助けられた衝撃と実験中、廃人になりかけていた頃に今までに溜め込んだいろんな感情が爆発した結果だってルクレスさんが言ってた。また我慢される方が危険なんだと言っていた。だからアルメリアの母ちゃんも複雑そうだけど仕方ないって諦めてたもんなぁ。

 それが人間として良い感情なのか悪いモノなのかもう俺には分からねえけど。

 

 

「そういエば、アルメリアって今どこにいルんダっけ?」

「帝国の方ですわ! お姉さまとルクレスは人間としておかしなところがないようにメリア大森林を迂回して遠回りのルートを通って有名な兄妹がいるという村に交渉をしに行くとわたくしは聞いたのです!」

「ンー? つマリ?」

「我々とは違っテ、遠回リのルートを進むというコトダ」

「ホームから行くなら半日もかかりませんけれど、遠回りをして人の目を気にしていかなければならないんですもの。5日はかかると言っていましたわ!」

 

 なるほどな。じゃあその間に俺達にアレらを進めろとアルメリアとルクレスさん達が話し合って決めていたのか。

 レべリングで進化できるかどうかの検証。そして強くなったのと同時にメリア大森林の攻略。

 それらを終えたら、あとは餌が食いつくのを待つだけだ。

 

 それが、俺達の計画の一つだった。

 

 

 

「シッ――――――そろそろですわよ。みなさん、準備はよろしくて?」

 

 

 オークの群れがある場所へ近づいてきている。

 皆が気を引き締めて前を見る。

 

 前にあるのはただの洞窟。中は嫌な臭いがした。

 たぶん人間の頃だったら分からないものだろう。モンスターになって五感も鋭くなったから分かる。あいつら人間の肉を食べて生きてる。まあ、仲間たちの中でもそういう種族もあってか、恨み辛みをぶつける意味で食べる奴もいるけれど。そこはいいや。

 

 

 

「……お前ノ同族を狩るンダが、気分ハ大丈夫か?」

「ああん? ホームを出る前も言ったけどアタシはあンなオーク達と同族なんかじゃナい! そのトカゲの尻尾引っこ抜くゾオラァッ!!」

「お前は大丈夫そウダな。お前ハ?」

「う、うン……一応、大丈夫だヨ」

 

 

 遠征に入っている群れの中にいたオークの二人に声をかけたリザードマン……いや、ランルークさんだったが、声をかけるまでもないと分かったようだ。

 この二人だけじゃない。ホームの中にも一応、オークの種族は残ってる。

 というか、戦いをすることよりもホームの改築作業の方が良いと考えて担当してる種族は女子供を含めるとかなり多い。ホームを守護するリーダーのアリスさんがいて、アルメリアの母ちゃんも住み心地のいい暮らしを目指すために薬草をたくさん栽培すると意気込んでいたのを覚えてる。

 

 遠征チームはほとんどが男だ。でも、種族的には一通りそろってる。全員下位モンスターだから強い冒険者だったら一撃で殺されるだろうけどな。

 

 

 

「さて、やりますわよ!」

 

 

 

 マリーさんが大きく息を吐いて洞窟の出入り口近く――――――その一番前へ出て行く。

 美味しそうな人間の匂いを嗅ぎつけたのだろう。オーク達の理性のない鳴き声が聞こえてくる。姉ちゃんが俺の近くを飛んで、姉ちゃんと同じブラックバットの種族の人たちが周りを飛行してすぐ攻撃できるように準備する。

 俺ももちろん、草木がない居場所へ行って炎が出るようにしておく。グローリーさんも小さな岩でも張り切って腕らしき部分を回していた。

 

 

 

「オォォォォッッ―――――!!!!」

 

 

 

 オークの声が聞こえる。

 それと同時に、マリーさんの魔力が漲るのが感じる。

 

 

 

「聖なる波動。我らに力を与えよ。我らは制する者なり。光に当たる異形に鎮静を。彼らに無抵抗の意思を与えよ――――――――攻撃無効化(アタックガード)防御力低下(ディフェンスキラー)!! 聖なるスキル効果発動!!」

 

 

 マリーさんが体勢を低くし、膝を地面について両手を握りしめて、まるで祈りのポーズのような恰好をしてスキルを発動させていく。その姿はまるで聖女のようだった。

 うん、黙ってたら本当に聖女っぽい綺麗な人なんだけどな。

 

 

「ゴォォオォォッ!!!!?」

「ォォッ!!!」

 

 

 マリーさんから放たれた真っ白の光が洞窟内に駆け巡る。

 それに当たった敵のオーク達が俺達を見て驚愕し、また人間のマリーさんに目が釘付けになって涎を垂らしながら近づいていく。

 

 

 

「さあ攻撃の開始ですわ!!」

 

「行くゾッ!!」

 

『ッ――――――――!!!』

 

 

 

 皆が雄叫びを上げて突進していく。俺も負けじと炎を強くして前へ進んでいった。

 

 

 

 

 

 気が付けば戦いは終了していた。

 呆気ないと思ったが、まあ実際そうなんだろう。

 本当なら俺達とオークの戦いは苦戦するはずだったけれど、こっちには対モンスター兵器であるマリーさんがいるからな。

 

 人体実験の頃に味わったあの力が低下するような感じをオークは味わい、また防御力も低下しているせいで下位モンスターである俺達に対して2撃の攻撃だけであっけなく死んでしまうのだから。

 もはや蹂躙だ。最後にはオークが涙目で悲鳴を上げて洞窟の巣から出て行こうとしていたくらいだったけど、そいつに対しては姉ちゃんが首元を吸血し、同じブラックバットの仲間たちがオークの身体を覆い隠すほど集って攻撃して殺していった。

 

 血みどろに濡れる洞窟内。

 俺達によるオーク殲滅を、ただ感情のない目で傍観していたマリーさんが小さくため息を吐いた。

 

 

 

「……まあ、ざっとこんなもんですわね。というかあなた、大きくなりましたわね?」

 

「ハーッハッハッハッ!! だろうなぁ。気が付いタラ俺様の身体はこンな巨体ヨォ!!」

「あア。俺の身体ハ変わらナイが、力が強くナった気がスルな。実際に強くなったンダろう」

 

 

 うん、皆の言っている通り。なんか強くなった気がする。レベルが上がるとはっきり実感したわけじゃないけれど、何となく強くなった気はする。

 

 戦っているうちに身体の底から力が溢れるような感じがしていたんだ。

 なんでだろうか。数体のオークを燃やしたからか?

 

 それに最後にオークに噛みついた姉ちゃんが急にビクって震えて、いきなり身体を一回り大きくさせていた。成長期か、それとも血を飲み過ぎて太ったか。というか、アレって進化か?

 グローリーさんなんて周囲の岩を巻き込んで巨体のゴーレムになってて凄いことになってんぞ……。

 

 

「こういう時に鑑定能力があったらはっきりと分かるんですけどね。ですがあなたは別ですわ。ゴーレムの進化はその巨体であるとされていますもの。レベルが上がってさらに1段階進化を遂げた証ですわ。中位ゴーレムより下くらいかしら?」

 

「ほホゥ? それハ更ナル進化の可能性があるといウコとカッ!!」

「なるホど……ルクレスに良い報告が出来そウだ」

「わたくしもお姉さまにちゃんと頑張ったとたーっぷり褒められますわねふへへへへっ……!!」

 

 

 俺も進化してるって言えるのかな。いやでもウィスプってモンスター種族の進化はかなり差があるってルクレスさん言ってたし……微妙だ。

 

 

「さて! 次の段階へ進みますわよ! みなさん各位置について行えるように準備していきましょう!!」

 

 

 マリーさんが大きな布を取り出していく。

 その中に足もとにいたオークの肉片を蹴りながらも中へ詰め込む作業を進める。他のモンスターたちも皆でやっていく。俺はオークの肉を持とうとしたら素通りするか焦がすからできないけれどさ。

 たまにオークの肉を食いたいって馬鹿がいて、俺の身体を使って火で炙って食べてる奴はランルークさんにぶっ叩かれて笑えた。

 

 強くなったかどうかまだわからない部分があるけれど―――――時間はないからさっさとやらなきゃいけないよな。

 

 

 

「これよりメリア大森林攻略作戦を開始いたしますわ!!」

 

 

 

 マリーさんの声を聞いた仲間たちが咆哮を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

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