ナティシア ー平凡幼女はハードモードな世界を生きるー 作:かげはし
皆とそれぞれ別れて、マリーさんが作ってくれた血みどろの瓶を持って目的地までたどり着き、グローリーさんに洞穴作りを進めてもらうことになった。
ある程度深く掘り進め、洞穴っぽいモノになればそれで良かったんだが……まあ叔父はやり出したら一直線だから、マジでダンジョンっぽくなったのがいけないよな。
ここの目的地に到着し、洞穴作りを進めていた3日のうちに襲いかかってきたはぐれモンスターをグローリーさんやランルークさんが特攻して、俺達がフォローして倒した肉も有効活用して洞窟に染み込むように作っていった。
周りの壁にマリーさんが作った瓶に入れた血肉を塗って、ぶちまけて。
その間、俺やグローリーさんのようなアンデット系モンスターは食事が不要になったためいらないんだけど、他はいるからたまに狩りに出かけたり、俺の火を使って調理したりとキャンプ感覚で楽しんでいたけどさ。
一応これで目的は達成したって言えるか?
「ダンジョン制作っテ意外と簡単なんデスネ」
「いイや、これはダンジョンを作ったトは言えないぞ。ただの仮初のもノだ。必要なノハ拠点だかラな」
「ふーん?」
こうした方が良いってルクレスさんが言ってたし、アルメリアもなるべく人が来にくいものを作ってほしいって言ってたからその通りにする。
だからダンジョンっぽい感じになったって思ったんだけど、ランルークさんはダンジョンに入ったことがあるらしく、これよりもっとすごい場所を見たことがあると言っていた。
魔力が込められてきたこの洞穴の中よりも凄い場所だとすると、ホームのような感じか?
そろそろ皆と別れてから5日経つ。
俺達の目的地はアルメリア達が向かった村に近い位置にあるから、たぶん会えるかもしれないな。
そう思っていたんだけれど……。
「兄さん……にい、さん……」
姉ちゃんが俺の火を消せと訴えかけてくるので明かりを最大まで消して小石ぐらいの小さい火の玉になって壁の隅に隠れる。そうして見つけたのは人間だった。
というか、姉ちゃんが蝙蝠のモンスターになって発達した聴覚のせいで見つけたといっていい。
姉ちゃんが言ってくれるまで人間がこの仮初のダンジョンにいるだなんて分からなかった。気配も凄く薄くなってるし、警戒心が高くて後ろを気にしながらも壁に沿って前へ進んでいるのが見えた。
なんかずっとブツブツと呟いてるけど、恐怖心で泣きそうなのか?
それともマリーさんのように何か心の理性がどっかぶっ飛んでるのか?
「ギギッ」
「うん、分かっテルぜ姉ちゃン」
姉ちゃんが俺の近くを飛んで注意しろと言ってくるのが伝わる。言葉がなくても分かるぜ。
あの女をじっと観察する。とりあえずダンジョンに迷い込んできたと言うのなら、この洞穴から出るまで見張っておこうって思った。
洞穴を作った理由はいくつかあるけれど、目的の一つに個体のモンスターを呼び寄せて退治し、少しずつレベルを上げるという役割がある。だからダンジョンの中に俺達じゃないモンスターと遭遇したら大変なことになる。
グローリーさんやランルークさんのように身体を活かして戦うことはできない。俺一人で退治できないけれど、姉ちゃんと一緒ならなんとか辛うじて出来る程度には成長した。
もしもモンスターに出会っても姉ちゃんと一緒ならなんとか倒せる。それに姉ちゃんはあの人間を心配してるし、俺だってそうだ。だから、あの迷い込んできた女を見守ろうと思った。それだけなんだ。
たぶん見えてはいないんだろう。人間の目って今の俺達に比べたら有り得ないほど弱いから。
でも気配は鋭いかもしれない。何かに気づいたように後ろへ――――――いや違う……!
「はぁぁっ!!!」
「ギィィッ!!」
「ウグッ……!?」
突然だった。何かに気づいたようにあの人間が周囲へ向けて攻撃を与える。モンスターの血肉を染み込ませ魔力が込められてきた地面に身体が当たって痛みを発生させる。
まるで実験で火を消せるかどうか試された時のような激痛に思わず大きく炎を発生させてしまった。
俺の火の明かりで女が俺達に気づき、驚愕したような顔で睨みつけてくる。
「ウィスプ……と、シャドーバット?」
俺達の種族の名前を知っているらしい。
姉ちゃんの種族ってブラックバットじゃなかったっけ? 一回り大きくなったから進化したってことなんだろうか。それは後で確認すればいいか。
とにかくどうやって対処するか考えねえと……。
まずは人間に対して敵対心はないってことを分かってもらわねえと!!!
そう思ってたんだけど、まあ無理だったよなぁ。
■
村の中。家の外にある村人たちが集う場所。その広場にて大騒ぎが起きていた。
俺としてはこういうトラブルはごめんだったんだけど……そうは言ってられない事態みたいだ。
「おばちゃん! ルナがいなくなったってどういうことだよ!?」
「いなくなったんじゃなくて落ちたんだよ。ダンジョンに!!」
「はぁ!? ダンジョンって……待ってくれ! この村の近くにダンジョンなんてないはずだろう!!」
「それがあったんだよ! 最近見たときはなかったのに急に!!」
30代ぐらいの女性が弓矢を地面に下ろして料理人のレオンに向かってそう叫ぶ。
ダンジョンが急にできたということを。レオンの妹であるルナがダンジョンに落ちてしまって早く助けなければならないという話を。
ダンジョンというのは、人間を食らうモンスターの巣窟のようなもの。そこへ人間が迷い込むと言うのはすなわち狼の群れに羊が飛びこむような自殺行為だ。
だからレオンは慌てている。周りの村人たちも村の近くにダンジョンが発生したという最悪の事実に顔を青ざめてる。
「……ルクレスさん」
「ああ、ちょっとまずいかな」
広場の外れた場所から見守っていた俺達はただ話し合う。
計画についてダンジョンの話は出ていたんだ。ただモンスターが住みやすいよう作成をして、周囲の拠点を作り上げるって話を。
このメリア大森林にある村の近くに戦いの経験があるモンスターたちに警戒をしてもらいながらレベル上げと情報網の確立をしようって話をしてたんだよな。まあそれいがいにも目的はあるけどさ。
ダンジョンがあることに注目されるのも俺達の予想通り。
そのルナって女が迷い込んだのは予想外だが、レオンたちが騒ぐのはいいんだ。
この村の近くにダンジョンが出来たと言うのならそれは俺達の仕業になる。
ダンジョンの中のモンスターは俺達の仲間がいるはずだから、ルナという女は無事だろう。虫のホイホイみたく血肉の良い匂いと染み込んだ魔力に釣られてやって来たモンスターとうっかり遭遇し殺されてなければの話だが。
まあそこは自己責任ってことで。俺は知らないけど。
でも殺されると面倒なのはルクレスさんも考えているようだ。いや、彼の事だからそれ以上のことも考えてそうだな。
「……アルメリア、君はどうしたい?」
「え?」
「僕の考えだとまだ計画の範囲内に収まってるんだ。だから君ならどうするか聞いてみたいんだ」
えぇー。そう言われても俺どうすればいいのか……。
というか、ルクレスさんが想定ないって言うなら、ルクレスさん自身が動けばいいのに。
そう不満そうな顔をしていたのが悪かったのか、ルクレスさんが小さく困ったような表情を作って俺の頭を撫でてきた。
「アルメリア、これは君の為に聞いてるんだ。いつか僕がいなくなっても適切な指示が出せるようになってほしいからね」
「……ルクレスさんがいなくなるような事態なんて起きさせないし起きないから。絶対」
「そう言ってくれるとありがたいが。事態というのはいつも予想がつかないものだ。今起きているコレのようにね。……それにアルメリアは僕たちとは違って力がない。なら、考える力だけでも高めてほしいんだ」
……つまり、不測の事態に備えておけということか。
そのための予行練習にこれは利用できると。
まあそう考えるなら妥当かな。
俺の仲間のモンスター以外にレオンの妹が遭遇していないことを祈っておこう。死んじゃってもいい。同情するつもりはないけれど、注目度が上がるだけならいいか。
宝玉を奪ってやるためにも、そして俺達を陥れた連中をぶっ壊してやるためにも。
「……ルクレスさん。俺が囮になります」
「囮とは?」
「ダンジョンだけじゃなくて、注目される人間になるってこと。もう一度、モンスターを操る人間アルメリアとして活躍してみせるよ」
そう言うと、ルクレスさんは考えるように顎に手を当てる。
本体は違うから、たぶん俺にそう見せてきてるだけなんだろうけど。
「……囮になるということは、危険が高まるということだよ。それでもやるのかい?」
「うんもちろん。でも、今度はちゃんと最後まで守ってくれるんだろ?」
「ハハッ。ああそうだね。それと同じく君を利用しきってみせよう。まあそれについてはまた話し合おうか」
「うん」
ルクレスさんがいる今なら俺もいろいろと考えて話すことが出来る。
間違ってたらルクレスさんがどうにかしてくれるだろうし、そういう意味で信頼はしてる。裏切ったとしても母さんたちがいるから大丈夫。
「さてアルメリア。これからレオン君たちはダンジョンへ向かおうとするだろう。そのために、君が『モンスターを操るスキル持ち』だと思わせるためにどうするのかも考えなくてはならない。それも早急に」
「それなら大丈夫。大体は決まってるよ。まあルクレスさんの行動次第なんだけど……」
「具体的にどうするのか君の考えを聞いても?」
「えっと―――――――」
レオンたちが動き出す前に、話し合う。
俺の考えを聞いて、ルクレスさんが修正をかけて、また方向性を決めていく。
レオンが武器をとって、男たちがモンスターを狩りに行くぞと叫んでいる。
女のうち何人かが「冒険者に連絡した方が良いんじゃ……」と話して、それじゃあ遅いと怒鳴り声が聞こえてくる。
彼らの混乱と怒鳴り合いがBGMとなって、ただ心地よいものになってルクレスさんと笑い合った。