ナティシア ー平凡幼女はハードモードな世界を生きるー   作:かげはし

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23話 月下を灯した、ある計画 後編

 

 

 

 

 女性の首にあまり毒性はない睡眠薬に似た液体を流し入れて眠らせ、事情を聞いて思わずため息を吐いた。

 いや、予想はしていたが彼女の行動まで考え及ばなかった。通常ならモンスターを追いかけるだなんて馬鹿な真似はしないだろう。目撃したオークの危険性を知っているのなら、隠れながらも逃げるのが当たり前だ。

 

 レオンの妹の戦力について、その力の強さについては知っていたが、冒険者手伝いとして行った経験のせいで予想以上に警戒されてしまうとは……。

 

 

 

「事故で迷い込んだと思ったら、まさか食料を運んでいる途中で遭遇して追いかけられただなんてね」

「す、すいまセん……」

 

 

 オークの一人が小さく身体を丸めて頭を下げる。涙声で今にも泣きそうな様子だ。

 僕としてはそこまで責めてるわけじゃないし、今は本体のままなため表情を作ることができないからできるだけ優しい声で慰めるように言う。

 

 

「いや、君のせいじゃないよ。悪いのはモンスターを追いかけ、自ら首を突っ込んだこの女だ。でもまた事故が再発しないよう洞穴の基盤は整えてほしい……出来るかい?」

「ま、任せテくダさい!!」

「おいオい豚面。俺様の仕事を取る気か!」

「そ、そんなコとは……」

「グローリーは洞穴の周囲をもう少し作り直しておいてくれ。注目されるのは必要だけど、なるべく人間が誤ってこないようにするんだよ」

「ハーッハッハ! 良いだロう任せとケ!」

 

 

 

 まあ実際彼女がこの洞穴に迷い込んだ事故があったんだ。村の奴等は警戒してこないだろうが……。

 一応の警戒の意味も含めてやっておこう。現段階で冒険者が対処に来ても困る。

 

 

「あノ、ルクれスさん。アルメリアの指示に従ってコッち二来たって言ってたけど……」

「ああ、言ったとおりだよ。これから僕たちはアルメリアによって操られたモンスターだと偽る。僕はその相棒として彼女にこの洞穴を案内するんだ。だから君たちは隠れるか遭遇してもアルメリアの指示に従うようにね」

 

 

 それはいつものことだ。実験の時に行っていたあれと同じことを村の連中にもやること。

 最終的にはこの洞穴――――ダンジョンの中にいるモンスター全てがアルメリアの指示に従って人間とそれに従属する動物たちを襲うのを止めると思わせる。そのついでに周囲のモンスターを狩ってしまうように指示をして、アルメリアの力の重大さをあの村に通る商人や冒険者たちに広めてもらう。

 特殊なスキル持ちだと騙してしまえば、あとはダンジョンに入ろうとする危険性は消えるだろう。冒険者がやって来たとしても、襲おうとしなければアルメリアの指示に従っているんだと知らしめることができる。

 

 

「……理解できンな」

「何がだい?」

 

 

 リザードマンのランルークが僕を見て、尻尾を地面に叩きつける。

 分からないと言う難しそうな表情と、小さく苛立ちの込められた尻尾の動きに予想はついた。

 

 

「アルメリアの秘めらレた能力についてハ理解できてル。だが判断能力に関しテはルクレスの方が上だろう? わざわざ彼女に考えさせテ指示を出させたのハ何故だ?」

「……彼女はまだ5歳なんだよ」

「ウィスプのグレンもまだ10代の子供ダぞ」

「ああそうだよ。だからこそ今の時間がとても貴重なんだって、君には分かるだろう? ……グローリー。君は国家の元騎士だったはず。なら分かるよね?」

「おオ、ちゃんと分かルぞ。成長期であるから学ばせテイるのだロう!」

「ああそうだ」

 

 

 まだ彼女は5歳。彼女はあの女―――――――マーガレット・ナティシアが理性を無くしていた頃のことを覚えてはいない。

 彼女を燃やし切り刻み、惨殺をしたと言うのに綺麗に生き返らせた。

 間接的にでも、僕たちすべてを救ってくれた。

 殺しの慈悲を与えず、あの人間たちに対して非常に惨い仕打ちをさせてくれるよう僕たちにプレゼントしてくれたことを覚えてはいないとアルメリアは言った。

 

 アレは彼女の中の覚醒に近い何かだった。

 英雄とは生まれながらに奇妙な運命を辿るという。悲劇か喜劇なのかは分からないが、それを経て力を覚醒させ、周りを救う何かになるんだと僕は知っていた。

 あの時のアルメリアの行動がその序章に値するものだとしたならば、僕はすべてを教えなければならない。

 

 マーガレットが屈服したようなあの惨たらしい行動すべてを、僕たちに被害をもたらした人間すべてに味わってもらうために。

 彼女が成長すれば、僕たちを全てを正しく導けるようになるはずだから。

 

 

「アルメリアはまだ卵なんだ。力があるのかどうかさえ分かってはいないんだよ。だから僕たちが導けるようにしなきゃならない。弱いうちは守れるようにレベルだってあげているんだから」

「レベル上げってソう言う意味なンですカ……?」

「いいやグレン君。それだけじゃないさ」

 

 

 ただアルメリアには言ってないだけで含めているといってもいい。

 彼女はまだまだ原石に近いもの。僕たちがちゃんと導いて成長させてやらないといけないからね。

 

 皆には言っていないけれど、人間に戻れるのが今すぐとはいえない。

 僕たちを襲った連中に同じ目に遭わせて人間に戻せと脅しても、それが出来ないかもしれない。

 何年経つか分からないが、僕たちは国家に喧嘩を売っているんだから、ある意味戦争状態になるかもしれないんだ。それならなるべく手は打った方が良い。それだけのことだ。

 

 

 

「……それと、この女の対処も考えなくちゃね」

 

 

 

 意識を失い地面に倒れた栗色髪の女。

 冒険者としての才能があり、中位モンスターに勝つことができる戦力は欲しいところだが……仲間たちに被害を及ぼすのならいらない。このままだとアルメリアを敵視する可能性が高く、面倒な事態を起こす危険だってある。

 

 モンスターに対しての対処法であるマーガレットがいるからダンジョン作成などを行うことが出来た。アルメリアとの添い寝を条件としてマーガレットにはわざわざ特定のモンスター以外に反応するようオークの血肉に防御魔法を込めてもらい、作成した場所に塗り込んで迷い込んだ敵モンスターに対して容易に狩れるような環境を整え、強さをつけれるようにしたんだ。

 ダンジョン作成に必要な血肉を利用して作ったんだから、なるべくここは廃棄したくない。冒険者が多く通るあの村との交流も止めるつもりはない。

 

 だが、この女が僕たちに対して何かしら行動をすると言うのなら……その時は『敵』として対処しよう。加害者以外の人間に危害を加えたくないと思える仲間がいるから、誰にも知られずに。

 まあマーガレットのように、敵として殺して屈服させてからアルメリアに蘇生してもらうっていうのが一番楽なんだけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 アルメリアという子供は商人ルクレスの護衛であり、商人見習いの幼子であると兄さんから聞いた。ルクレスはモンスターの対処に詳しくなく、足手まといになるから仕事の方を先に取り掛かっておき、協力者としてアルメリアを行かせようといったからそれぞれ別れていたんだと。

 だから、肩に乗ってた蜘蛛を別れた後にルクレスという人間が荷台から売り物を降ろしている姿を見かけた。ルクレスのことをじっと観察しようとしたが、レオン兄さんに止められて部屋に押し込まれ休めと言われてしまったせいで何も分からなかった。

 ただ、不快な噂ばかり流れる。

 

 小さく口笛を吹いてあのレッドキラーのモンスターを呼び寄せた。

 ダンジョンの中へ入って、案内をしてもらった。最奥で気絶していた私を連れ帰ろうとして、近くにいたゴーレムが起動し殺されかかったが、アルメリアの声を聞いた途端大人しくなった。

 オークがいたが、気絶していた私の身体を運ぶよう協力してもらった。

 人間の村を襲うんじゃないとモンスターたちに指示を出したから安心できるんだ。

 モンスターを操ったから、もう大丈夫なんだ。

 あのアルメリアはモンスターを命令できる特殊なスキルを持ってるんだ。

 

 そんな信用できない話を村の至る所で聞く。

 たかだか数時間。それだけでアルメリアの信用は高まっていた。モンスターが人間に協力し、大人しく指示に従うという異様な光景を目にしたからだろう。

 

 村を通りかかる冒険者に話をしても、馬鹿にされるか本当に信じて感嘆の息を漏らすかの二択のみ。スキル持ちだと言うせいで冒険者たちも納得し、信憑性が高まってしまっているのも原因だろう。

 スキルは私達の知らないものも多くあり、親に遺伝したわけじゃないのに生まれつき備わっているというものだってたくさんある。新しいスキルのものだってたくさん出てきているから、モンスターに命令するようなものも当然あるんだろうって誤解する。

 あの時私がダンジョンの異様さを目撃しなかったら――――――モンスターたちが高度な知識を持っていると分かっていなかったら、私はおそらく信じただろうと思えるぐらいに。

 

 

「だから、協力してほしい。連中は帝国に属している商人だっていうから、あっちはなるべく協力を申請することは出来ない。だからあなたが頼りなの」

「……自分はもう冒険者ではない。魔術を研究するただの魔術師ですよ。それでも良いのですか?」

「もちろん」

 

 

 一度だけこっそり村から出て、冒険者のよしみで連絡した男性に微笑む。

 細身の男性であり、私より年上の人。物に魔力を染み込ませ、高級品となっているローブとメガネと付けた少々神経質そうな性格で、子供の頃に魔術に没頭してから数十年もの間その技術を磨いて突っ走っていた人。

 もとは冒険者だったが、その実力を買われて国家専属の魔術師へ成り上がった頼れる友人だった。

 

 

 

「貴方は私でさえ知らない知識を持ってる。スキル持ちの特殊性も知ってる。そんな貴方だから頼もうと思ったの。私はただ、兄さんと一緒に暮らして、美味しい料理を食べたいだけ。でもあの子供がモンスターと協力して……何かよからぬことを企んでいると言うのなら止めなきゃいけないから」

 

「なるほど、それは興味ありますね。……つまり、その子供の力を試し、危険性を調べろと言うのですね?」

「ええ、どう試すのかはあなたに任せるわ。これは私からの依頼」

 

 

 どっさりと金貨の入った袋を机の上に落とす。

 その数、数千枚。私の手で儲け、貯金していたお金。家を建てて死ぬまでの間豪勢に遊んで暮らすことが出来るほどのお金を、アルメリアと言う子供の調査の為に投げ出す。

 それだけの本気を友人に見せる。私の兄さん至上主義な性格を知っている人だったら、このお金がどれくらいの価値を持っているのか分かっているはずだ。

 その子供がどれほど異様なのかも分かってくれる。

 

 

「……本当にモンスターに指示が出来るスキル持ちだとして、もしもアルメリア幼女の危険がなく、あなたの勘違いだとしても金貨を返すことはできなくなりますよ。それでもいいのですか?」

「くどい。私はただ兄さんと安心して暮らしたいだけなの」

 

「……わかりました。そういうのなら」

 

 

 小さくため息を吐いてメガネに手を当てる友人に、もう一度小さく微笑みかけた。

 

 

 

 

 

 

 

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