ナティシア ー平凡幼女はハードモードな世界を生きるー   作:かげはし

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24話 覚悟がある故に

 

 

 

 

 レオン達がいた村からホームへ帰宅途中。ルナを救ってくれた命の恩人だからもっと長く居ても良いと言ってくれたけれど、やるべきこともあったし遠慮して別れて今に至る。

 

 帝国近く――――――といっても、中心地に近い場所にある村から俺の故郷である村はホームへ帰る道で通るため、そこへ行こうと思ってルクレスさんに我儘を言って到着したばかりだ。

 ブラックバットが偵察して見てくれたと言っても、やっぱり自分の目で確かめたかった。その惨状を。村の現状を。

 

 

「何もない……なぁ」

「連中も馬鹿じゃなかったということだろう。村があった場所に人の血と肉と木片の残骸があれば何かあったのだとえらい騒ぎになるだろうからね」

 

 

 まあ確かにそうかもしれない。

 今俺の目の前にはかつて村があったはずの場所。村があった場所の草木が枯れている以外の異様な部分はなにもなく――――――――いや、村があったのかと思ってしまうほどにないんだ。何も。

 

 あの時の惨状がないから、トラウマが刺激されずに見渡すことができる。

 気分は悪いけれど、立っていられないほどじゃない。

 

 ただ、残骸もない。

 建物も村の所有物も畑も家具もなにもかも。育てていた家畜は……あの宝玉の魔法にやられて殺されたかもしれないが、その肉片でさえなくなっている。

 俺達の思い出も何もかもなくなっている。

 

 この村だけじゃない。ルクレスさんの村も、集落も全てが消えていた。

 だから俺達はホームにしか帰れないんだ。

 

 

 

「あのさ、ルクレスさん……村があったのは事実なのにさ、急に消えたらおかしいって思わないのかな……」

 

 

 独り言のように呟いた俺の質問に、ルクレスは微笑みの表情を作りながら言う。

 

 

 

「アルメリア、建物の瓦礫が至る所にあり血肉が飛び散って地面が抉れているのと、何もない更地なのとどっちが騒ぎになると思う?」

「……前者かな」

「ああそうだとも。後者の場合は村自体がどこかへ移り住んだと思わせることも可能だ。ホームに捕えて尋問途中のアレイルクス・アレクシア候についても調べたが……奴は国家一番の貴族の侯爵であったからね。権力でなかったことにするぐらいできるはずだよ」

「……そっか」

 

 

 だとしたら、やっぱり許すことは出来ない。

 俺達の全てを奪ったあいつらを。

 ドラゴンだってそうだ。あいつのせいで俺達は全員おかしくなった。あいつのせいで、俺たちの人生は狂ってしまったから……。

 

 だから小屋があった場所に向かっても、誰もいない事実に落胆する。

 もしもここでドラゴンがいるのならば、ぶん殴ってやりたいって思ったから。

 

 

「やっぱりいない、か」

「期待していたかい?」

「まあ……ちょっとは……」

「そうだね。その期待と恨みは全て後のお楽しみに取っておこう。今は人間での問題と、宝玉だ」

「……うん。覚悟は出来てる」

 

 

 村に戻って来て良かった。

 俺達はやるべきことがあってこれからに備えるんだ。

 だから、俺達の仲間以外の人間が殺されてももう興味がない。勝手に死んで、勝手に生きていればいい。もう同情もしない。俺達のあの過去に比べたらマシだと思うから。

 加害者関係の連中はみんな死んでしまえばいい。

 

 平穏に生きるために、俺も出来ることを探さないと……。

 

 その為に、覚悟を決めよう。

 

 

 

 

 

 

 

 レオン兄さんに友人と遊ぶと言って凄く別れを惜しみながらも村から歩き、途中で待ち合わせをしていた場所にて馬車に乗って、何処かへ向かう最中。

 馬車に揺られながらも前を見れば、そこには私の友人である魔術師のウィリアムがいた。

 

 眼鏡をクイッと上げて、ローブの懐の中から取り出した書類の束を私に渡してくる。

 それを広げて見れば――――――様々な疑問点と同時に調査したすべてが書かれていた。

 

 

「この通り、きちんとアルメリア・ナティシアについて調べましたよ。ルナ」

「……うん。でも書類だけじゃすぐに分からないから簡潔に教えてくれる?」

「まあ、あなたは兄とお肉だけしか興味がないですからね」

 

 

 早々に書類を投げ出した私に対して、小さく呆れたように呟くウィリアムを睨みつける。

 兄のことやお肉のことが書かれているのだったら速読できる自信があるけれど、これは敵についての内容。興味がないわけじゃない。情報網と言うのはすごく大事だって私も分かってるから。

 でも、じっくり読んでいると時間がもったいないから聞くだけ。というかちょっと面倒なだけだし、ウィリアムのことは信頼してるからどうせなら口で説明してくれると助かるだけなんだ。

 

 そう思いながらウィリアムを見つめていると、彼はため息を吐いて口を開いた。

 

 

「アルメリア・ナティシアは名もなき村の出身。薬草を売買する家に生まれており、数か月前までは町に定期的に薬草を母親と共に売りに来ていたそうです。ですが、町の目撃情報から聞いたところによると、アルメリアの能力値は全て平均。何も特徴のない幼女だという話が出てますよ」

「……つまり、本当に人間だったってこと?」

「ええそうですよ。アルメリア・ナティシアと呼ばれる幼女に関しては。ですが、あなたが見た子供が本当にアルメリア・ナティシアかどうかは分かりませんがね」

「まさか、ルクレスっていうあの蜘蛛の化け物のように人間に擬態してるんじゃ……」

 

「ああちょうどいいですね。ルクレス・ナティシアについても話をしましょうか。これが書類ですが……」

「説明して」

「はぁ」

 

 

 またため息を吐かれたけれど、ウィリアムは今度は少しだけ興味があるような瞳で説明をしてくれた。

 

 

「最初に聞きたいのですが……ルクレス・ナティシアは10代後半ぐらいの年齢の少年で合ってますか?」

「うん。私が知る見た目はね」

「なるほど……ならこれは少々不必要の情報だったかもしれませんが……関係ないとは言えないので話しましょう」

「……帝国の戦士ルクレスの事ね」

「ええそうです。なんだ、知ってたんですね」

「私は帝国の出身だから」

「じゃあ説明しなくてもわかりますね。ルクレス・ナティシアの栄光を」

 

 

 

 ウィリアムの言葉に頷く。

 ルクレスが帝国の勇者の右腕を支えて国を救った話は有名だ。というか、伝説に近い話だ。帝国側の冒険者でもその話は知っていて当たり前。勇者と同じく有名な人だから。

 だが、その後ルクレス・ナティシアが家族と共にどこか静かな場所に暮らしたというのは聞いたことがある。だが、帝国の戦士ルクレス・ナティシアは年齢を考えると老人と言っていいはず。

 それなのに、若い年齢はおかしい。だからウィリアムに向かって続きを促す。

 彼はただ小さく首を横に振った。

 

 

 

「貴方が見た帝国の商人ルクレス・ナティシアの話は出て来ませんでしたよ」

「やっぱり」

「ですが、最近メリア大森林にある様々な村に交渉をしているようですね。物々交換が主ですが……あなたの村と同じことも――――――」

「ハッ。あれでしょう。『労働力にモンスターを使ってはいかがでしょうか?』ってやつでしょう」

 

 

 

 吐き捨てるようにあの時の奴等と村長との交渉を思い出す。

 

 

 アルメリアのスキル持ちの能力で操ったモンスターを町の労働力として貸し出しをするというもの。それに村長は肯定した。

 だがまだモンスターは借りていない。私達の村だけじゃないんだ。奴らは一匹の蝙蝠を……私が見たシャドーバットではなく、ブラックバットをいろんな村に貸し出してメリア大森林全体の村で交流が容易に出来るようにするのだという。

 主に手紙と荷物の配達。都市などでよく見る飛脚の仕事のモンスターバージョンといったところか。メリア大森林は危険だからあまり人は通らないし、楽にできるようになるなら村にメリットはあるだろう。

 そのモンスターが危険じゃないのなら。

 

 ……兄さんを守るために、あいつらを引きはがす必要があるのに。奴らが企んでいる理由が分からないから、どうすればいいのか分からない。

 

 

「……結局調査は無駄ってこと?」

 

 

 奴等が人間に偽装したモンスターの可能性がある以上、調査は本物の可能性があるから意味がない。

 だから私はため息をつく。金が無駄になったかもしれないという後悔はないけれど、まだ危険はゼロになったわけじゃないし、余計に危ないと認識したから。

 

 そう思っていると、ウィリアムがまたメガネを上げて小さく笑う。

 

 

 

「いいえ、無駄なんかじゃありません。一つだけ進展がありますよ」

「え、なに!?」

 

「戦士ルクレス・ナティシアは家族と共にメリア大森林の村に移り住んでいた。そしてアルメリア・ナティシアも同じく……ルクレス氏とは別ですが、村にいた」

「ねえ、じれったいのは嫌いなのよ。美味しいお肉があったらすぐにガブリつくのと同じだから、早く話しなさい」

 

 

「―――――――全員、行方不明になってます」

 

 

「……え?」

「村ごと消滅したんですよ。ルクレス氏も、アルメリア女史も……村にいた全員が消えてしまった。自分はメリア大森林に行きその調査に向かいましたが、見事に瓦礫も何もなくなっていましたよ。まるで夜逃げでもしたように見えました」

 

 

 

 それは……すなわち……。

 

 

 

「あいつらが本物のルクレス・ナティシアとアルメリア・ナティシアを消して……いいえ、それだけじゃなく、村の全員を連れ去ったということ?」

「それは予想に過ぎません。自分の調査ではそれぐらいしか分かりませんでしたから……ですが、こうなると自分も直接彼らに会いたくなりますね。モンスターが人間に化けて生活しているという……貴重な実験材料(サンプル)として」

「ああうん。いいんじゃない? 好きにすれば?」

 

 

 兄以外はどうでもいい。でも魔術師としてあの二人に興味があるというところはやっぱり研究目的でなんだろう。

 人間に化けるモンスターなんて普通はいないから。いたとしても高位モンスターの最上位。頭も良くて人より寿命が高いモンスターが普通だと言うのに、ルクレスと呼ばれたあの蜘蛛はレッドキラーの下位モンスター。だから、ウィリアムは興味がある。

 ただそれだけなんだろう。

 

 

「そういえば……私達ってどこに向かってるの?」

「ああ、すぐにわかりますよ」

 

 

 馬車に揺られて、やがて止まって扉を開けた先は―――――――まさかの屋敷だった。

 

 

「いらっしゃいませ、ルナ様。ウィリアムさま」

「約束通りの時間ですね。案内を頼みます」

「はい。ではこちらへどうぞ」

 

 

 メイドが可愛く微笑んで私達を案内しようとする様子に圧倒されて足が動かない。

 

 

「こ、こは?」

「歩きながら説明します。さあ進んでください、ルナ」

「う、うん……」

 

 

 豪勢な屋敷だ。私が帝国で見た、貴族が住むような立派な建物。庭も綺麗に整えられており、花々が咲き乱れている。

 バラの花が多いのだろうか。庭師が手入れをしているのが見える。

 綺麗ではあるが、私には居心地が悪くなりそうな場所だった。

 

 

「ねえどういうこと? この家って……貴族の屋敷ってことよね?」

「ええそうですよ。調査をするにあたって、メリア大森林を頻繁に出入りし、その一部の領地を買い取った貴族がいましてね……そこでお話をしたところ、いろいろと分かったことがあるんです」

「分かったことって?」

 

 

「奴らが王国にて所持しているドラゴンの秘宝を狙っているってことです」

「ドラゴンの……秘宝?」

「ええ、この国の騎士―――――英雄にも値する人がドラゴンと戦って得た宝玉です。それには秘められた力があり、それをモンスターたちが嗅ぎつけて狙っているために守ろうとしたということですよ」

「……ねえちょっと待って。守ろうとしたって何?」

 

 

 

 なんか凄く嫌な予感がする。

 あのダンジョンの中にいた時のような感じだ。背筋がぞっとして気持ち悪い。

 それを分かっていないんだろう。ただ単調にウィリアムは説明する。

 

 

 

「メリア大森林に防衛地を作っていたそうなんですよ。ですがそこで宝玉があると考えたモンスターたちに襲われ、所属していた人間全員が死に至った。村がなくなったのもその原因があるのだと思います」

「村がわざわざ狙われたのは……」

「おそらく、人間の皮とその身分を手に入れたかったからだと。……そう、防衛地を担当していた貴族の跡継ぎであり現侯爵の彼女は言っていましたよ」

 

「……ルクレス・ナティシアも?」

 

 

 あの戦士もやられたのかとつい疑問に思った。

 いくら頭が良いモンスターでも、彼に敵う奴なんているのだろうかと。

 だが私の質問に対して、ウィリアムが言いにくそうに話す。

 

 

 

「さあ? 彼は……まあ、悪く言いますと年老いていましたし、いくら元勇者の右腕の戦士と言えど複数のモンスターに襲われては反撃できなかったのでは?

 家族もいたでしょうし……モンスターの頭がいいのなら、家族が人質にでもとられたと予想できますし……」

 

 

 

 ああそれはゾッとする。

 秘められた力とはどのようなものかは分からないけれど、そんなものの為にいろんな人間を殺して利用していっただなんて気持ち悪いし、吐き気がする。

 

 あいつらが村と交渉しているのもそれなんだろう。アルメリアに成りすまして、仲間のモンスターたちに命令をしていると協力してもらって村に取り入ろうとしている。

 こんなの駄目だ。兄さんの身が危ないのは駄目だ。

 

 やはり覚悟を決めよう。兄さんを守るために、あいつらを殺すための力を手に入れなければと。

 

 

 

「……ルナ、そろそろ着きますよ」

「え、どこに?」

 

 

「防衛地を作り上げた貴族……アレイルクス候がモンスターに襲われて死亡してしまったので、その次代となるレベッカ様の所ですよ」

 

 

 

 そう言われて入った場所は、簡素だが高級そうな雰囲気が漂う部屋。客間となっている部屋なんだろうか。

 柔らかそうなソファ。窓際の机には花が一輪飾られており、その近くに立って私達を歓迎するようにドレスの裾を握った女性がいた。

 

 

 

 

「初めましてルナ・ナティシアさん。そして共をありがとう、ウィリアム。私はレベッカ・フェルナータ・アレクシア。アレイルクス叔父様に代わって侯爵を務めています」

 

 

 

 微笑んだレベッカさんは、まるでおとぎ話のように純粋で綺麗な人だった。

 

 

 

 

 

 

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