ナティシア ー平凡幼女はハードモードな世界を生きるー   作:かげはし

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 無知なのはいけないことだと誰が言ったのだろうか。

 知らない方が幸せだと誰が言ったのだろうか。



 これは、知っている者と知らない者のどちらがより幸運なのだろうか。





33話 切り捨てられた人たち

 

 

 

 

 

 

 すべてが終わったように見えたが、まだ不安は残っている。

 奴等が誰だったのか。何処から来て、どうしてこの森の中にある村を襲ったのか。

 

 

「食料はこっち! 衣服はこっちよ!」

「なあ息子を見なかったか? 一緒に来ているはずなんだが……」

「子供なら中央に集めているわ。ほら、夜に備えて早くしなさい!」

 

 

 俺の知っている村の人を含めた様々な人たちが広場にて集結し、襲撃の対策を練るために木材の大きな壁を打ち立てる仕事やら食料や衣服などを集めて過ごせるようにしている人などが忙しく動いていた。

 当然俺も木材の壁を立ててあの連中が入って俺達を食い殺しに来ないようにしている最中だが……。

 

 

「なんでこうなったんだ……」

 

 

 今回の襲撃に関して、メリア大森林全域で起きたものらしいということがこの集合した皆の様子を見て分かった。集合と言ってもクロスケに誘導されて皆で行った先に見えたのは、モンスターたちに守られながら来た他の村の人間たちだったというだけなんだが。

 

 この場所についても謎だった。

 村などはまったく何もないが、草木が生えずぽっかりと広い空間がある大森林の中央位置。誰かが村があったはずの場所だと呟いていたのを聞いたけれど、そんなの興味はない。

 

 

 

「俺は、どう生きていけばいいんだ。おじさん……」

 

 

 この先どうすればいいんだ。どうやって生活を立てればいい。どうやって生きていけばいい?

 俺だけじゃない。周りの皆だって、どうしたらいいのか分かってない。

 それほどまでにもあの襲撃で残された爪痕はでかかった。畑だってめちゃくちゃだし、家も暴れられたせいでぐちゃぐちゃになっていた。

 奴等は腹が減っていたらしく、隠してあった保存食でさえ全て食われてしまったんだ。これから先の貯蓄も、町に―――――国に救いを求めても無理なほどの被害が出た。

 

 俺のおじさんとおばさんが食い殺された事件。いろんな村の至る所で人間に似ているが、獣のように呻き声を上げて気持ち悪い動きをしながら飢えた獣のように生き物を襲っていくあのモンスター。

 あいつらが憎い。あいつらのせいで俺達の生活は奪われた。家族も友人も大切な人も全て……。

 それは、俺が思っているだけじゃないはずだ。

 

 それにようやく事態が収束して冷静になって分かってしまったことがある。

 襲撃し避難した皆が絶望しているのは、メリア大森林に助けが来なかったというただそれだけの事実。

 あのアルメリアが操っているモンスターたちによって救われたけれど、彼女とその特殊で偉大なスキルがなければ俺達は全滅していただろう。

 村には国家や帝国の所属がごちゃまぜになって溢れている。もちろん無所属の村人もいるが、国に所属した村は税金と引き換えに絶対的な保護を保証する。

 もちろんそれは村が壊滅しかかった時のリスクがあった場合に限られるが、それでも以前は助けてくれたことがあったらしい。

 

 国家所属でも帝国所属でも……村がモンスター集団に襲撃されて全滅しかかっていたところを魔術ですぐに確認し、軍を派遣し助けてくれたという。

 数人は犠牲になったが、それでも村は助かったし、その後の引き換えとして税金より少し増やされた金を稼ぐことを約束して、復興のための資金を渡してくれた。

 

 

 それが今回はない。

 それの意味を俺達はちゃんと理解していたからこそ、みんなが忙しく一つの大きな村となって動いている間も何処か意気消沈しているのが分かった。彼らの顔に影があったのが見えたんだ。

 

 

「ピャー」

「……クロスケ」

 

 

 クロスケがふわりと飛来し、俺の頭の上に乗った。丸っこいクロスケの頭を撫でて、ただ小さくため息を吐く。

 

 

「みんな! ちょっと中央に集まってくれ! 見張りはモンスターたちがやってくれるからこっちへ!! アルメリアさまからのお話があるそうだよ!!」

 

「ッ―――――」

 

 

 壁を作っていた他の連中がハッとなってすぐに広場へと向かう。クロスケがまた飛び上がって森の周りを警戒するようにぐるぐると回っているため、俺も中央へ向かうことにした。

 彼女は俺達を救ってくれた。命の恩人だ。実際はモンスターたちが救うために動いたとしても変わらない。

 彼女がモンスターを派遣してくれなかったら絶対に死んでいただろうから。

 

 

 

「アルメリア様に救われたから、信じられる……」

 

 

 俺達より年下の幼女だとしても、信じられるのは本当の事だ。

 国家や帝国が裏切っていたのなら尚更……。

 

 俺達はもう、どうやって生きていけばいいのか分からないから、すがりつく相手が必要なんだ。

 

 

 

 

 歩いた先―――――その中央へ行く。

 するといつの間に作ったのか、最後尾にいる人間も眺められるような高めの段上の上に赤毛の幼女アルメリアが見えた。

 彼女の左右には通常ならば凶暴で冒険者にしか倒せないモンスターたちがいる。その近くで縄に縛り付けられて酷く怯えている人が座らされているのが見える。

 彼らの腕章は国家の印が刻まれているみたいだが……。

 

 

「えっともういいかな……皆さん、忙しい中集まっていただいて本当にありがとうございます!!」

 

 

 幼女の可愛らしい声に皆が集中して聞いている。

 緊張しているのだろうか、少しだけ頬を引き攣らせているのが見えた。だがそういった少し未熟そうな部分に俺だけじゃなく全員が好感を持った。

 モンスターを操るスキルを所持しているのなら少しは傲慢になってもいいはずなのにそれをせず、ただ単純に俺たちに丁寧に接する態度をとる。敬語を忘れず、優しい物腰で話すその音色に、誰も彼女が幼女であるということを気にはしない。

 

 

「私は師と共にこのメリア大森林にて、皆さんと交流をし友好的な商売をしていこうと決めていました。私のモンスターを操る力があれば、モンスターがたくさんいる森に住んでいる皆さんのお役に立てると思っていましたから! ……ですが突然、あいつらはやって来ました。あの化け物たちが、肉を食らいつくそうとしてきました」

 

 

 思わずあの時の悲劇を思い出して身体が震えだす。

 他の奴等だって同じだ。泣いている者。自らの両腕を抱きしめているもの。怪我をして身体のどこか一部分をなくした村人たちもみんな、恐怖で俯く。

 

 アルメリアが悲しそうな顔と声色で話す。

 ただ座らされているボロボロの男達をチラリと横目で見ながらも。

 

 

「私は森の中でそれを知って皆さんを守るために動きました。何が起きたのかを探ろうとし……それで、モンスターたちが協力してくれたので探せばすぐにわかりました。それが彼らです。彼らは森の至る所で何かを観察しているようでした。それが皆さんの……村の中でした! ですので急いで捕えて自白させてようやく分かったんです!

 私達を襲った生き物は、捕えているこの人間たちによって作られた生物兵器だということが!!」

 

 

「え?」

「なんだって……?」

「生物兵器ってどういうことなの……!?」

 

 

「皆さん落ち着いてください。説明を続けます! ……生物兵器についてですが、彼らが自白してくれました。彼らは国家所属の研究員。ある力を手に入れたためにそれを使った実験を繰り返しており、その過程において今はもういないアレ等が作られたんです! そう彼らは、話してくれました! 証拠の書類も一部奪ってあります!!」

 

 

「おいおい……」

 

 

 それは凄くゾッとする言い方だった。

 生物兵器を国家が作り上げたって言っても、何でメリア大森林にいるんだよ。何で、こいつらが俺達の村を観察して、それで襲ってきたんだよ!

 

 ざわついている皆を落ち着かせるためにアルメリアが片手を上げてゆっくりと周りを見つめ、そして静寂が周りを包んでからその小さな口を開いた。

 

 

 

「奴らは言いました。実験場としてこのメリア大森林が選ばれたということを。帝国側の村でさえ遠慮せずに襲いました。でも誰も助けに来なかった! 見殺しにされた! そう、私達は切り捨てられたんです! 国家や帝国にただの実験場として利用されたんです!!

 そして連中はその実験成果を使ってより戦力を増大させ戦争を仕掛けようとしているんですよ! 次はもっと膨大に、もっともっと卑劣に!! その為にもっと研究しようと奴らはこの森を選んだんです!!」

 

 

 

 身体中がボロボロで酷く怯えていたけれど、国家の研究員として実験を行っていたと言うアルメリアの言葉に何度も頷いて肯定する連中に皆から殺意が湧き出る。

 戦争の為に俺達の村は利用されたのか。

 

 殺された全ては、実験の為にただ死んでいった。戦争のための過程だった。

 

 

 

「悔しくはないですか! この森全てが奴らの実験場だとしたら、酷く虚しくないですか!! 私達の大切な人が亡くなったのは……殺されたのは奴らの仕業なんですよ! それを他の奴等にも与えようとしているんですよ!!

 見殺しにされて、このまま国家や帝国にしがみついていて良いというのですか!? 無所属の村は、このまま抵抗なく殺されていいんですか!?」

 

 

 

 拳を使って大げさな素振りで言うアルメリアに誰もが頷いた。

 

 

 

「ええそうよ。旦那が死んだのは……あいつらのせい……」

「母ちゃんが食われたのは奴らのせいだ!」

「あいつらのせいで子供たちが……」

 

 

 睨みつけられる白衣の男達が震えあがった。

 殺されるんじゃないかと座ったままにずりっと後ろへ下がったが、モンスターたちが逃げることを許さず、前へ出す。

 

 そういや喋らねえなあいつら。口はパクパクしてるのに声が出てねえ。なんか毒でやられたみたいな……。

 まあ喋ったとしてもどうせ命乞いか何かだろう。そんなの聞きたくねえ。

 今重要なのは、これから先の平穏な未来だ。

 

 いくらメリア大森林がモンスターと遭遇する確率が高い危険地帯と言っても、気を付けていれば遭遇なんて滅多にしない。危険を承知でここに住んでるけれど、それをめちゃくちゃにするのは許せない。

 

 

 

「私達がやるべきことはただ一つ! 生き延びること!! 国家や帝国が私達を切り捨てた事実を後悔させるぐらいに強くなりましょう! 物理的にでも経済的にでも! ……それに私達がやるべきことは、もうこれ以上このメリア大森林を実験場に変えないようにすることです!! この森全てを、私達が管理してやるんです!!!」

 

 

「で、でもどうやって!?」

「そうだぜ。もしも国家がまた手を出して来たら……あの恐ろしい化け物どもが来たらどうするんだ!?」

 

 

 

 広場に集合する数十人の内の誰かが不安げに質問した。

 それにアルメリアはにっこりと両手を開いて話す。まるで教会で見たことのある慈母の像のように、とても綺麗に微笑みながら。

 

 

 

「私には力があります。モンスターを操る力が。それを警備として森全域を守りましょう。皆さんの為に、私は全力で力を注ぎましょう! 命が尽きても守護は尽きないように。私は皆さんと関わっていくうちに、皆さんの事が大好きになりましたから!

 ですので皆さんも協力してください! 私が出来ないことを、皆さんと一緒に支え合って生きていきたいです!!」

 

 

 

 その言葉に、誰もが打ち震えた。

 

 

 

 

「あ、アルメリアさま……!」

「アルメリア様!」

「ありがとう幼女様! あなたのおかげで俺達は生きてる!!」

「俺達も頑張るよ! もうこれ以上あんな目に遭うのは御免だ! 死にたくねえもん!」

「でも反逆って……やばくないか?」

「馬鹿! 反逆じゃねえよ。ただ防衛するだけだ!!」

 

 

「ええそうです! 皆さんが住んでいる森の中なんですから、皆さんで……私を含める皆さんで守りましょう!! メリア大森林は、これから国家と帝国の両方からの独立を図ります!! その為に、私に力を貸してください!!」

 

 

 大きな歓声が響き渡った。

 人の気合いに満ちた声。モンスターの咆哮。料理をしていたらしい女性が鍋を鳴らして、モンスターの狼の群れが遠吠えを上げる。

 

 

 あの事件はもう二度と起こさせない。

 見捨てられたのなら、森の中で生きていくために行動をするのみだ。

 

 

 

 

 

 

 響き渡る大歓声に頬が限界を訴えて小さくため息をついてしまう。

 以前から計画していたメリア大森林攻略のためのルクレスさんとの話をここで実現させることができた。

 

 でも本当に、うまくいったか?

 いや、何とかなったかな……。

 女らしい口調はあまり好きじゃないんだけれど、演技するって凄く疲れるもんだ……。

 

 

「はぁ……」

 

 

 歓声を上げる人たちににっこりと笑いながらも気付かれないよう小さくため息をついた。

 

 たぶん彼らは地獄を見たんだろう。人間に食われる人間の姿を。

 ゾンビのようにうろつき、肉を食らう口は血と涎を垂らした状態のまま、理性ない目でこちらへ来る姿を、もう二度と見たくはないと訴える様子が伝わった。

 俺達だって最初にいたあの実験をもう一度やれと言われても絶対にやりたくないと答えるだろう。それぐらいのトラウマが刻まれた。

 だからその傷が深いうちにメリア大森林を防御するという大前提で全域を支配するために動く。

 

 戦争をするわけじゃない。戦いを挑んで復讐したいというわけじゃない。それを言えばおそらく数人は反対意見が出るだろうから。

 だから今はこの森の中で守りに徹すると訴えた。命の方が大事だと宣言した。

 彼らは私の言葉を信じていろいろと手を貸すようになるだろう。協力して人間としてやってほしいこともあったし……その方が好都合だ。

 

 

 それに、縛り上げた白衣の男たちは俺たちが捕虜とした実験場にいたもともとの研究員を利用したもの。無関係と言うわけじゃないから良いと思う。

 命に害はない毒状態にして声を奪えば、こちらの不都合なことは言わない人形となるし、資料も実験場にあったマリーのアレの一部分を手にしているため、それを皆に後で見せればいいだろう。

 

 

「アルメリア様! そいつらどうしますか!?」

 

 

 

 質問してきた村人は縄で縛りつけられて座らされる研究員を指差す。

 それになんでもないように幼女っぽく笑みを浮かべながらも口を開いた。

 

 

「……ああ、もちろん」

 

 

 不都合な事実は消す。

 モンスターであろうとも人間であろうとも。実験体であろうとも。いらない価値は捨てる。

 

 それは実験場で学んだことだ。

 だから、ちょっとした復讐としてそれを奴らに味わってもらうだけの話だ。

 

 もちろん、実験体だった頃に利用価値がないって言われて家族を殺されたモンスターの仲間たちにやってもらうけどな。それに喜びはすれど、不満なんて持つ奴はいないはずだ。それが真実なんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 








 アルメリアの名前は大森林に伝わっていく。
 すべてが彼女を知っていく。

 しかし、その裏で行動するモンスターたちを知る者は一部分のみである。

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