ナティシア ー平凡幼女はハードモードな世界を生きるー 作:かげはし
しかし、質問に応じてくれる者達は今、ここにはいない。
メリア大森林に住むとある村。
あの災害からすべてが終わり、何とか復興まで進んできた帝国側の村に住む青年が、シャドーバットを連れて友人の家に上がり込み、話をしていた。
シャドーバットは開け放った窓に飛び降りて休んでいるような姿勢をとる。そ知らぬふりをしつつ彼らの話に耳を傾けているシャドーバットなんて気づかない青年たちは楽しそうに笑い合っていた。
「だから言っただろ。村側のモンスターだと分かる合図が必要なんだと思うってな!」
「そんで指笛ってか?」
「おうとも! むやみに近づいてそれがアルメリアちゃんの操っていないモンスターだったら俺ら死んじまうだろ? なら指笛でどうにかするっていうのが普通なんじゃねえかなって思うんだよ!」
「……ほーん?」
メリア大森林に住むモンスター達は大きく分けて二つ存在する。
人間たちと共に生活をし、護衛や力仕事などを行ってくれる頼もしい隣人。そして人間を襲い喰らおうとする恐ろしいモンスター。
モンスターとしての見た目は同じだというのに何故ここまで違いが出てしまうのだろうかという疑問があるが、それを応えてくれるアルメリアとルクレスはいない。
「んでもなー……俺たちを助けてくれるモンスターと、森の中にいるモンスターの違いって何だ?」
「アルメリアちゃんのおかげってことだろ?」
「んなら、あの子に森のすべてのモンスターを操ってもらえりゃあ良いじゃねえか。そうすれば安全に森の中で暮らせるってもんだ」
友人は眉をひそめて床に寝転がる。
天井を見つめている顔はどこか寂しそうだった。
青年は何も言うことが出来ない。友人にとって大事な家族は、あの最悪の襲撃のせいで失ってしまったのだから。
襲撃で得られたものはある。
しかし、失ってしまったものはもう二度と戻らない。
友人にとって今よりも過去のことの方が大事だった。
だから不満があるのだろう。疑問があるのだろう。
「何故アルメリア嬢はあの襲撃の化け物たちを操れなかったんだ……」
「……そりゃあな。だってまだ幼い女の子だろ。まだ操れる力も未発達なんだよ。期待し過ぎても意味ねーと思うぜ」
「…………そっか。そうだなルクレスさんは操る力はねーしな」
もしもルクレスにモンスターの操る力があったのなら。
アルメリアが普通の成人した女性だったなら。
その時は、家族を失った過去を持つ村人すべてに怒りをぶつけられていたことだろう。
シャドーバットはピリピリとした空気と居心地の悪さに身体を丸くした。
ルクレスに話した方が良い内容だと思いつつも、全てを話すことのできない彼らに罪悪感を抱いているからだった。
「……子供だから、仕方ない」
幼いから操れない部分がある。
まだできないことが多いから、あの襲撃は回避できなかった。
そう友人は無理やりにでも納得することを選ぶ。
「……敵が誰なのかは分かってるさ。恨む相手も……全てを救ってほしいと願ったアルメリア嬢じゃねえことぐらいはな」
「おう!」
「あー……んで? 何の話だったっけ?」
「指笛の話だよ! 敵かどうか見極めるためにどうかなーってさ」
「ああそれなら……」
彼らの話は弾む。
重たい空気を軽くして、次の未来へ進むために――――――。