ナティシア ー平凡幼女はハードモードな世界を生きるー 作:かげはし
34話 迷いの一歩
いつもの夢だ。もう慣れたし、苛立ちもない。
いや嘘だ。苛立ちは凄くあるぜ。
でもドラゴンを殴っても嘲笑って『ハッ、何だ今のは。虫が私を刺したか?』って馬鹿にするし。
それに夢を見だした途端にドラゴンが急に話しかけてくるし。なんだよこいつ、自分勝手かよ。いや自分勝手だな。うん知ってた。
『貴様は他の人間と違い冷めた生き方をするようだな』
何だよ急に。
冷めたって何が?
『フフッ……知っているか? 人間の好奇心とは恐ろしいものだということをな。満足するまですべてを調べ尽くし、利益を得られると分かれば悪魔のような所業をも平気でしでかすようになる。それが人間の熱意だ』
……ああそうだな。昔からそうだ。
ゲームだって満足いくまで一通りやらないと気が済まない人間がいる。本を読んで途中で投げ出さず熱中しすべてを熟読したいと考える人間がいる。
知りたいんだよ。何もかも。
満足するまで隅々を調査して、把握しておきたいんだよ。そうじゃないと怖いから。
『何が怖いというのだ?』
……襲われるんじゃないかって不安。もしも自分に害意があったらどうするのかって恐怖感。
それと、ただの好奇心を満たすために……周りが知っていることを自分も知ろうとする努力かな。
『フッ。それが人間の愚かしい部分よ。自らの破滅に導く行為でも、目の前の利益を優先し行動する。その先の未来で何があろうとも、今ある快楽を捨てるには惜しいと考えてしまう』
知っちまったら戻れなくなるもんな。
空腹しか知らない子供が、満腹の幸せを知ってしまうとそれ以降が地獄になるのと同じでさ。
『ハッ……ああそうだ。貴様はあの兄妹の最後を見て何を学んだ?』
何だよ急に話題変えやがって。
あーそうだなぁ……。
まあ、兄妹の最後は残念だって思ったよ。
『ほう? 残念とはなんだ? 貴様はあの時救いを求めていなかったではないか。貴様が殺したも同然だというのに、何故残念と言うのだ?』
……ただ、あのルナってやつも利用されただけなんだって思ったんだ。
自分勝手で欲深い人間によって、ただ兄を守りたかっただけの女の子を犠牲にして兵器を作り出した。そして兄を自らの手で殺した。
ただ兄を守りたかっただけなんだ。そのために俺達に恐怖心を抱いた……でいいんだよな?
『フハハハハッ! ああそうだな。貴様らを勝手に敵だと判断し誤解していた愚かな少女であった』
うん。だから俺達を殺すために知ろうとした。
結局はそこに行きつくんだよ。
知りたいから行動して、何も知らない無知であったために利用された。
だから残念だと思ったんだ。彼女はとても利用価値はあったけれど、生き返ったとしたら絶対に自殺するって思ったから。
『ほう? 兄は妹の所業すべてを許しただろう。それでもか?』
あのな。意外とさぁ……。
殺されるのって心に来るんだぞ。
痛みも戸惑いも心でさえも死ぬんだから。
目の前が真っ暗になって、何もかもなくなるんだ。一人で死んでいくんだ。寂しさを味わって、助けてほしいのに何もできずに消えていくんだ。
俺はもう二度とあんなのごめんだ。
もう二度と殺されたくはない。
だから、俺がもしも母さんに殺されたとしても……不意に生き返って現状を見たら意思は許すだろうけど、心は許さないはずだよ。
死ぬ恐怖心がある限り、無意識に相手を見て怯えるから。あのレオンがルナを許したとしても……絶対に恐怖は消えないだろうから。レオンが正気でいる限り、ルナを無意識に拒絶する。それにルナは傷つき……まあ酷いことになるんじゃないかなって思ったんだ。
『ハッ、だから素晴らしい兄妹のまま殺したということか。それが自己満足であろうとも、貴様はそれでいいというんだな! 間違えている可能性もあるというのに、それでいいと!!』
いいんだよそれで。兄妹として絆は切れずに死んでいけたんだ。だからある意味幸福だったと思うから。
それにどうせ蘇生するための力も使えないし……。
『フハハハ!! さて、それはどうだろうな。まあ貴様に使えないのは確実だがな!』
はい?
『もう時間だ。また会おう――――――次の話も期待しているぞ』
不意にぼやける視界に少しだけ苛立ちが増す。
もう二度とこんな夢なんか見てやるもんか!! お前と話したいからこんな夢見てるわけじゃねーぞ!!
『ハハハハハハハハハッ!!!』
笑ってんじゃねーよ馬鹿ゴン!!!
■
あー嫌な夢を見た。
でも現実はとても良い状況だ。
植物を育てているうちにいつの間にか進化していたと報告があった仲間のアルラウネのモンスター達。
森の中に食べ物の種を植えていって、一斉に能力を使って発芽させて育てていったためか、もう食料には困ることはない――――――野菜と果実に関しては。
だが、肉については元狩人だったモンスターの仲間たちに任せておいて村へ運び入れ、調理の方はやって来た肉を解体し人間たちが行うようになった。
モンスターの異形の身体ではなかなかうまく調整が出来ずに美味しい料理が出来ないためにこんな役割分担になったのだ。それに被害に遭った村の人間たちもモンスターが調理しているものを口に入れるよりは自分たちの手でやったほうが安心できるだろうし。
――――――そう、一番重要なのは人間とモンスターとの共存が少しだがうまくいっているということ。
まあもともと人間からモンスターに変わっただけだから、人間がどう思っているのかとかは全部察しているし、気遣いも出来ているから大丈夫だろう。
時には人間とモンスターの間に俺が入って、仲裁することもある。
モンスターの仲間たちがもともと人間だったことは言うつもりはない。
言ってもメリットなんてないと分かっている。むしろデメリットしかないだろう。
ルクレスさんだって言っていた。モンスターの中身が人間だと言っても同情はあれどそれ以外は自分もなるんじゃないのかという意味のない恐怖と混乱が巻き起こるだけだと。
だから言わない。言うつもりはない。
それに、ブラックバットやシャドーバットを村に提供し、村の襲撃でモンスターの仲間たちと協力して撃退した経験があるためか、人間たちの方は少し恐怖心はあるが次第に心を開くようになった。
だから良い方向に向かっていると思う。
今食べてるアップルパイのように。
瑞々しい林檎を育てたモンスターと、それを甘く調理した人間の合作はとても美味なのだから。
「うま……」
「うめー!」
「お母ちゃん! もっとー!」
「こら、食べ過ぎないのよ!!」
もぐもぐと頬張ってると、近くにいた子供たちも賑やかに騒ぎ出す。
今いるここは復興し始めた村の中心地にある食堂。一応食べる場所はそれぞれの建てた家にあるんだけれど、モンスターや人間たちが一緒になって食べながら仲良くできるようにとここを作った。それだけなんだが、いつの間にやら料理研究の場所として試食会場になってたんだが……まあいいか。
いやしかし本当に平和だ。林檎を集めて調理担当のおばちゃんたちに渡すアルラウネやゴブリンたちでさえ優しげに見守っているぐらいなんだから。
それに焼きたてのアップルパイが乗ったトレーごと市民に配るルクレスさんが満足そうに微笑む。
「さすがはアルメリアだね。果物を甘く調理するだけでここまで成功するとは思わなかったよ」
「ああはいはい。そうですねー。ジャムにしても美味いですけど小麦粉が余ってたからこういうのはどうかなーって提案したぐらいなんですけどねー」
ぶっちゃけ前世での記憶をもとに作ってもらっただけなんだけどな。思考錯誤してようやくうまく出来上がったそれに頷くぐらいだろう。今まで食べたのが最悪だっただけ、落ち着いてきて豊富な食料が手に入れば後はアイディアを出して作るのみ。
香辛料とか作れたらいいんだけどなー。俺にはそういう知識はないからなー。
あールクレスさんみたいにあっという間に驚かせるような頭脳が足りないなー。
「……アルメリア。もしかしてまだ怒ってるのかい?」
「いいえー。別に死んだふりしてどっかヘ行ってたルクレスさんに言われたくありませんともー」
「アハハッ。ごめんね、僕もあの時は精一杯だったからさ」
「別にぃ?」
死んだって思ってたからマジで蘇生魔術をどうすれば出来るようになるのか考えてた。
悲しかったけどいろいろとあってつい気持ちが混乱してた。
だから冷静になった瞬間に現れたルクレスさんには全然心配なんてしてねーっての。
「でもアルメリア、君は泣いてないだろう? それに心配する暇だってなかったじゃないか」
「後で思いっきり泣こうと思ってたんですよ。誰もいない時にこっそりと……でも泣かなくて良かった」
ああ本当に。
いろんな意味で後悔しなくて良かった。
「良い意味でそう思ってると受け止めておこう」
「お好きにどうぞ」
ルクレスさんなんてどうでもいいですし。
ルクレスさんなんかよりも、後で芋を細く切って揚げてもらおうとか、ポテトチップス作った後はなんかディップ的なの作りたいなとかしか考えてないですからー。
「……ああそうだ。アルメリア、これから君はどうしたい?」
「それは」
「僕はちょっとこれからやりたいことがあってね……アリスちゃんと一緒に帝国に行こうかと思ってるんだけど、君はどうする?」
「え、それ初耳なんですけど……」
「そりゃあ言ってないからね。ここも順調に安全になって来たんだ。ホームからいろいろと仲間たちが移り住んでいくようになったし、地下一階に捕えたあの人間たちと一緒だと子供に悪い影響を与えるとここでのびのび暮らしてもらうようにするつもりだしね。
――――――それが出来ている今、心配なのは襲撃がまた起きることだ」
まあ確かにそうだろう。
あの人間に近い獣たちの突然の襲撃は本当に不意打ちだった。
もしもまたそれが起きたとしたら……まあ、面倒なことになるだろう。
一応モンスターと一緒に共同生活をしてると言っても、中身は人間だ。戦い方が良くなってきていても、まだ若干駄目な部分がある。戦いに慣れているのはもともと戦士や騎士だった人間たちの方であり、普通はそこまでうまくいかない。……そう、グレンやカレンさんのように。
それに本物のモンスターが現れても面倒だし、これ以上の襲撃は却下したい。
「襲撃を待っていても仕方ないと思います。だから攻めるつもりで動く……ってことですよね?」
「ああそうだよ。帝国も国家と同じで僕たちの状況を把握できているはずなのに何も動くことはなかっただからそれに何か理由があるんじゃないかと……ちょっと探ってみようかと思ってるんだ」
「スライムのアリスさんと? でも彼女は戦えるモンスターじゃ……」
「隠密にスライムは意外と向いてるんだよ。だから帝国での情報収集は僕が動こう。それで君はどうする?」
俺か……。
帝国で動くのなら、俺はどうしようか。
「……以前マリーと戦った時の状態を自分の意思で出来るようになりたいです。まだ俺は、ただの未熟な子供ですから……皆を助けるためにも……もう二度と、あの兄妹のような悲劇を起こさないためにも俺達がどうにかしなくちゃいけないから」
「なるほど、つまり戦力強化の為に動くと……」
「はい」
頷いたルクレスさんが俺の肩を叩いた。
「君は君らしくあれば良い。あの力はあった方が良いとは思うが……別になくても構わないんだ。一番重要なのは現状から逃げること。必ず前へ進むためにも、考えるんだよ」
「……はい」
うん。そのために俺は動こう。
どうやってあの時力を使ったのかは覚えてないけれど。