ナティシア ー平凡幼女はハードモードな世界を生きるー   作:かげはし

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37話 見知らぬ価値

 

 

 

 

 

 

 

 くたびれた布きれか、捨てられた残骸のような町。それが俺達の住んでいる町の印象だ。

 

 旅人はほとんどこの町を通過点として利用し、その奥のメリア大森林を抜けた先の帝国へ向けて出発しやがる連中がほとんど。この町を目的とした連中なんているわけがねえ。

 ……ああいや、メリア大森林に住んでる頭のおかしい連中が利用しているな。少しばかり上等の食べ物や薬草何かを物々交換で交渉して、たまに金貨と変えていっちまう為に町に来る連中が。

 

 だが連中のおかげで助かってる部分もあったんだ。

 なんせここら辺で畑を作るとなると畑泥棒とモンスター被害に気をつけなきゃならねえから警備が必要になる。冒険者を雇うのは面倒だから自ら警備する奴もいるが、それでもメリア大森林の膨大な自然に比べたら入手できるのはほんの少しだろう。

 

 食料は重要だが、最近じゃあ戦争の余波を受けてるせいでいろいろと品薄になっちまう。畑が思ったよりも順調に進めることが出来なかったのも原因の一つだ。

 だから連中が持ってくる食料は重要視されていた。まあメリア大森林になんか住んでるような連中だから食料の重要性をよく分かっちゃいねえ。俺達だってその日一日の飯を食えなくなるのは勘弁願いたいから、当たり前のように簡単に安い値段で騙す。

 それでも満足してくれるような奴等だから、俺ら町の住人はそこがとても気に入っていたんだぜ。

 

 だが最近、連中は売買をしに町へ来なくなった。

 新しく何処かと交渉しに行ったのか、俺達に騙されてると憤慨しているのかまあ知らねえが……。困ったことになったもんだと思ってたんだ。

 ぼんやりと椅子に座り天井を眺めて一日が終わる。戦争さえ終わればもっと活気は戻るが、それがあと数か月か数年かいつまで続くんだか。

 そういうことを考えては世界の厳しさに苛立ちを込めて舌打ちを鳴らすんだが―――。

 

 

「えっと、すいませーん」

 

 

 キィィ―――――と、古くなった扉が悲鳴を上げるように開かれる音がする。

 それと同時に聞こえてくるのは幼くも可愛らしい声。俺の店に来たんだからメリア大森林の連中かそれとも別の奴等か……。

 

 ため息を吐いて頭をかきつつも、扉の前を見た。

 真っ先に見えたのは真っ赤な髪が特徴の小さな女の子。その奥にもう一人いるな。母親か?

 

 

「あぁ。物売りかい? それならここで受け持ってるがな。ちゃんと上等の……」

「ええ、ちゃんと上等の食料を持ってまいりましたわ」

 

「あっ―――――――――」

 

 

 思わず呆然と扉の先にいる彼女に見惚れた。唾をごくりと飲んでしまうぐらい有り得ないほど魅力的な身体と鈴の音のような綺麗な声。金色の絹のような髪が日を浴びて艶やかに煌めき、こちらを見据える目は氷のように冷めきっている。

 そんな上等な価値を持っている女が、俺の店に来ただと?

 

 おいおい冗談じゃねえぞ。

 どういうことだ。何故こんなくたびれた町に貴族令嬢と言えるようなほど美人な女性が来てやがる!?

 

 

 

「あのぉー。ちょっといいですか?」

 

「あぁ? ……ってなんだガキか」

「いや何でため息を吐かれたのか知らないですけど、食料を売っていただけるんですよね?」

「仕方ねえな。査定してやるからとっとともってこい」

「おーう」

 

 

 赤毛の幼女は娘だろうか。なら残念だ。

 少し誘ってみようと思ったんだが。

 ……いや、俺はともかく他の連中にとっちゃあ人妻という価値がぶら下がったようなもんだな。

 

 

 

「よし、俺も手伝うから早くやろうぜマリー」

「ええ分かりましたわ。お姉さま!」

 

 

「……あ?」

 

 

 何だこいつら、何で母親が娘に対して『お姉さま』って呼んでるんだ。そういう頭のおかしい親子か?

 まあ見た目だけは華やかなんだ。幼女にはあまり食指は動かねえが、真っ赤な髪が燃えるようにキラキラと太陽の光で輝いているのは確かだから派手なのは事実。

 暇な一日の刺激の一つとして甘受しておこうかね。

 

 

 

 ……そう、思っていたんだが。

 

 

 

「んだ……これ……」

「ええっと。何かおかしい部分でも?」

 

 

 幼女が首をこてんと可愛らしく傾けるがそれどころじゃない。

 こいつは有り得ない。有り得ないほど上等の野菜と果物だ。

 瑞々しくて栄養がたっぷりと詰まったのが見るからにわかる。しなびた野菜と果物じゃない。都市で売られているような高級野菜と果物だ。

 

 こんなのを栽培するのは相当の苦労が必要なはずだ。

 栄養が入った土を用意し、モンスターや害虫たちの対処をして、そして聖水と比較できるほど上等の水を注いでじっくりと栽培されたものに違いない。

 

 こんな食料を大量に……しかもこんなくたびれた町の俺の店にポンッと売りに来るわけがねえだろ普通はよぉ!?

 

 

「アンタらどこでこれらを作ったんだ!? むしろどこで手に入れてきた!?」

「あら、種から育てたんですのよ。全部」

「ぜんぶ!?」

 

 

 リヤカーに詰め込まれた野菜と果物を店の細長い机に並べてもまだ足りず、仕方なく地面に布をかけてその上に乗せていってようやく全部というほどのものを、種から育てただと!?

 これは夢か? 夢なのか?

 

 

「早くしてくださいまし。売らないというのなら別の店へ売りに行きますわよ?」

「ッ――――あ、ああ……いや! 分かった。ちゃんと売る! だから待ってくれ!」

 

 

 凛とした声にハッとなる。このままこの売り物を逃す手はない。野菜も果物も俺が独占したい。

 だからきちんと接していかねばならないと思ったんだ。

 

 俺のことを冷めた目で見つめる極上の女性と、ただじっと見つめてくる幼女に対して……何故かメリア大森林の連中と接するような大雑把な値段設定は出来ない。

 ちゃんと売って、誠意を見せていかなければ……。

 

 

「野菜と果物の数と、その質。全部合わせて金貨150枚だ」

「はっ? え、そんな高く売ってくれるの!?」

 

「あ、ああ……普通ならもっと安く売る。野菜と果物だからな。時間が経てば腐っちまう物は上等な食材でも野菜や果物が一つだけで50銀貨にしかならねえ。だが俺は1金貨で出そう。そのかわりと言っちゃあなんだが。これからも俺の店で売ってほしい! 頼む!!」

 

 

 頭を下げてきちんと本音で言って頼むと、幼女は慌てて金髪の美女を見つめた。

 彼女は幼女の頭を撫でて幸せそうに微笑み、俺の方を向いた瞬間無表情と冷めた目で言う。

 

 

 

「ちゃんと価値を知り、その通りに売ってくださりますのでしたらわたくし達はその通りにして差し上げますわ。ですが注意してくださいまし。売りはしますがこの先食材を価値以下で付けようとするのでしたら二度とこの店に来ませんわよ」

「あー……まあそういうことで。宜しく頼みます」

 

「あ、ああ! ありがたい!!」

 

 

 

 女性と幼女の声に俺はただこの店を選んでくれた幸運に涙を流した。

 

 俺には夢がある。儚いが小さな夢があるんだ。

 ああそうさ。もうおっさんだが俺にはやりたいことがある。こんなくたびれた町で一生を終えたくはねえような夢を子供のころから持っているんだ。

 今回の出費で痛いほど金貨が吹っ飛んだが、それ以上に儲けてやる。

 もっともっと金貨を増やして、いつか都市へ移り住んでやる。

 

 そこで俺の店を建てる。それが俺の夢だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんか森でいろいろと栽培し過ぎた野菜と果物の余りを売ったら金貨が大量にゲットできた件について。

 

 まあ売れたんなら良かったけれど、やっぱモンスターの力って凄えなって思うわ。

 本来なら銀貨だが独占したいから金貨にして売ってやると言ったあのおっさんの言葉に驚きは隠せない。マリーがフォローしてくれたからなんとか売ることが出来たけれどさぁ。

 まさかの上等な価値って……。

 

 

「さてお姉さま! あとはリヤカーに必要な物資を詰め込んで行きますわよ!」

「おーう」

 

 

 とりあえず金貨はマリーに持ってもらおう。それで俺はリヤカーに乗って商店街へ買いに向かうか。

 ちょっと人が働く様子は見てとれず、最初に見えたあの店のおっさんのようにくたびれているのが分かる。

 商店街で上等のものが買えればいいかな。予想以上に金が手に入ったし。

 とりあえず商店街を見に行こう。そう思ってリヤカーの方へ―――――。

 

 

「お待ちくださいましお姉さま」

「ふぇ?」

 

 

 歩き出そうとした俺の腕を、マリーが掴んできた。

 思わずマリーの方を見上げると、彼女は何処かの方向を険しい表情で見つめている。どうしたんだろうかと首を傾けていると、いきなり俺を抱き上げて走り出し……っ!?

 

 

「ど、どうしたんだマリー!?」

「分かりませんわ。ですがわたくし達をつけている輩がおります! それも三人ですわ!」

「はぁ!?」

 

 

 リヤカーを置いてけぼりにしてただひたすら走る。

 その後ろで聞こえてきたのは「追いかけるぞ!」「逃げるんじゃねえ!!」という怒声。

 それどころか急に俺達の真横に何か光の球のようなものが直撃し、地面を抉って行くのが見えた。

 

 マリーが俺をしっかりと抱き上げてくれたからよく見えた。

 後ろから追ってきている3人の人間が。

 杖を持った男がこちらに向けて魔術をうち込もうとする様子が。

 

 敵だとしたら国家の象徴であるエンブレムがあるはず。だがそれが何もない。

 それでも追いかけてくる。まさか……俺達の事を知ってる奴が捕えに来たのか!?

 

 

「どういたしますか、お姉さま!?」

「も、森へ!! あそこは俺達のホームグラウンドだから!!」

「了解しましたわ!!」

 

 

 行き止まりがあろうとも壁を駆けて屋根を上って走るマリーの隠された身体能力に驚きつつ、後ろの連中の追っ手が離れない状況に苛立ちが増す。

 国家所属の……メリア大森林近くにある町を見張っていたのか? 俺達が来るのを待っていたのか?

 追いかけて俺達をどうするつもりなんだ。まさか捕まえるつもりなのか……?

 

 

「そろそろ着きますわお姉さっ……!」

 

 

 不意に、背後にいた奴の一人が俺達に向かって切りかかってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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