ナティシア ー平凡幼女はハードモードな世界を生きるー   作:かげはし

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この世界での冒険者は、モンスターを倒せるか否かが重要視される。
生きるために彼らに倒してもらうことが普通のことだったからだ。


もちろん一般人でも倒せるモンスターは存在する。
その代表格がレッドキラーと呼ばれているモンスターだ。
シャドーバットも見た目は可愛いため、嫌悪されることはない。

しかしモンスターというのは凶悪なものだ。
人を食らう獣。人よりも力を持ち、人よりも優れた生命力を持っているのが主なのだから。


しかし、モンスターを倒せる力を悪用したものは犯罪として指名手配される。
それがどんな理由でも、国が定めたことは全て悪に属するのだから。







38話 目的を知らぬまま

 

 

 

 

 

 

 自分で言うのもなんだが、振り下ろした剣技は絶対に当たったと思えたんだ。

 まあ伝説のプラチナ級レベルでもねえし、それより下のゴールド級でもないただのブロンズ級の俺達にとっちゃあ簡単な仕事と言える……いや、言えねえな。

 

 俺達だってこれでも冒険者だ。

 修羅場は慣れてるし、戦いだって何度も行ってきたから身体が自然と動くぐらい覚えてる。モンスターとも何度も戦ってきたし、他のシルバー級の冒険者たちと一緒にだが集団戦を勝ち抜いた記憶もあるんだ。

 

 だがあの女の懸賞金の額を考えれば、難しい方だと言った方が良いかもしれない。

 

 ブロンズ級は一般人と比べて強い方だが、冒険者にとっては一番ランクが下の弱い方だ。

 だがそれでも実績を上げていけばいつかはゴールドも夢じゃねえだろう。

 今回狙った犯罪者の女を捕まえるのは、通常ならばゴールドかシルバー級の冒険者が適任かもしれない。賞金額が金貨1000を超えているのなら難易度が高くなるのは当たり前のこと。

 

 でも関係ねえ。むしろラッキーだ。

 

 幼女がいなければどう抵抗されてしまうのか分からねえ。ある意味あの女の動きを止める弱点になっていた幼女に感謝しつつ、剣を振り上げてそのまま攻撃を行おうとした。

 ああそうだ。行おうとしたんだ。

 

 素早く鋭く、何処を狙えばいいのかを捉えた攻撃。背中を見せて逃げ続ける金髪の女と赤毛の幼女に向けて――――少々残念ではあるが怪我をさせて逃げられなくして捕えて金貨を貰うために連れて行こうと思ったんだ。

 

 だがしかし、その思惑は外れていた。

 剣先は柔らかそうな真白の肌ではなく、固く銀製の斧――――。

 

 

「グォォォッ!!!」

 

 

「んなっ!?」

 

 

 切り裂こうとした先にいたのは大鬼(オーガ)。斧を手に振り下ろしてやって来たのを見て反射的に下がる。

 オーガは一応下位モンスターだが中位モンスターレベルに扱われることが多いとても危険な生物だ。理性もなく戦うことを欲求する獣。そいつがなんで、町の中にいやがる!?

 いや違う。いつの間にか町はずれ――――少しだけ森に近い位置にいる。まさか、モンスターが偶然森から外れてここへ来やがったのか!?

 

 

 

「ちょっと危ないわよ! 大丈夫!?」

「お、おう!」

 

 

 

 仲間に引っ張られ、なんとか体勢を立て直す。

 だがその先――――よく見ればオーガだけではなくゴブリンの群れがいた。

 女性と幼女を守るように周りを囲っている。真ん前にオーガ、その左右と後ろにゴブリン。女性は幼女を守ろうと抱きしめてこちらを睨みつけており、幼女はただ周りをじっと無表情で観察している。

 

 まさか、これはあの女がモンスターを呼んで協力してもらってるのか?

 あの幼女を守ろうとしているのは分かるが……。

 

 

「これは……計算しなくても最悪な状況だな」

「見ればわかるよこの野郎!!」

 

 

 魔術を使ってモンスターたちを遠ざける。

 警戒はしているが、こちらへは来ない。その異様な様子にごくりと生唾を飲んだ。

 有り得ない。ああそうさ有り得ないことだ。

 あの本能の獣であるモンスター共が理性を持って俺達に戦いを挑もうとしてくるだなんて。ただの女と幼女を守ろうとしてくるだなんて!!

 

 あの女何をしたんだ。どんなスキルを使いやがった!?

 

 

 

「下がりなさい。わたくし達に手を出すのでしたら痛い目に遭ってもらいますわよ!」

『オォォッ―――――――――』

 

「ぐっ……」

 

 

 女の声に反応し、モンスターたちが咆哮を上げる。

 まるで彼女の言う言葉を理解しているように、ただ俺達を睨みつける。

 

 どうする。この状況をどう対処する。

 モンスターたちはあの女どもを敵と思っちゃいない。というかむしろ共闘してるように見える。

 ハハッ、普通有り得るか? モンスターと人間が共闘だぞ?

 使役してるようには見えねえし、操っているようにも感じねえ。ただ普通に協力してるように見える。ただのブロンズ級が何言ってんだって話だけどよ。でもそう見えるんだから仕方ねえだろう。

 

 どうやってあいつを捕まえる?

 逃げることは可能だ。だがその後は?

 このまま犯罪者を野放しにするつもりはない。冒険者は憲兵じゃないが、それでも見かけたからには捕まえる義務があるはずだ。

 

 だが――――――――――。

 いや、もうこれしかないか。

 

 

「逃げるぞ」

「えっ、でもオーガとゴブリンならなんとかいけるんじゃ……」

「いけねえよあんなの」

「ああ、賛成だ。計算上このままだと我々が敗北する」

 

 

 

 オネエ野郎は不満げな顔をしているが、状況をちゃんと理解しているはずだ。仲間だから分かるぜ。

 金貨1000以上の賞金がかけられた女だけじゃねえ。モンスターもいる。オーガやゴブリンが敵となって俺達を睨みつけている。三つ巴ならまだしも共闘されたんじゃ敵わねえからな。

 

 だから考える。どうすればいいのかを。

 

 

「おいちょっと……」

「なによ」

「いいから……」

 

 

 

 耳を寄せて話す。

 警戒されている間に、なるべくわかりにくいように。

 逃げる手立てを考えていると思われているうちに。

 

 

 

 

 

 

 

 奴らはどうやら俺達を見て脅威を感じ、逃げることを考えているようだ。

 何故俺達を狙ったのかは分からないが、ここまで来たらもう大丈夫だろう。

 

 俺達がいる場所は森近く。町はずれに位置する場所。ある意味ホームグラウンドの近く。

 他の人が来るような気配はなく、誰かが母さんたちを見て騒がしくなることもない。

 

 だが何か諦めきれねえのか。それともただ警戒して逃げるかどうか考えているのか。奴らが逃げる気配はない。

 もしかしたら逃げたら攻撃されるんじゃないかと思ってるのか? それなら大丈夫なんだが……。

 一応警告しておくか。

 

 

「マリーの言う通り、俺達はお前らに手出しする気はねえぞ! というか、何で襲ってきたんだよ!!」

「聞く必要はありませんわお姉さま。襲ってきた以上、敵であるのは間違いないんですもの」

「まあそうだけど……」

 

 

 ただの賊だったらいい。本当は良くないが……それでも、金目当ての奴等ならば対処は出来る。

 重要なのは俺達を狙う連中だったらということ。それが一番やばいんだ。もう二度と捕まったらやばいからこそ、警戒しなくちゃいけないんだ。

 

 殺しは……できればここは町の近くだから誰にも見つからない場所で行いたい。

 ここでこの三人を殺すのは論外だ。町の奴等に見つかると面倒なことになる。

 だから一番いいのは連中に逃げてもらうこと。

 

 奴らはただ警戒し、後ろへじりじりと下がっていく。

 

 そのうち、ずっと無言だった男が懐から何か―――――――――えっ?

 

 

「計算上、これが一番役に立つ!」

 

 

 出された爆弾のような物体が、俺達に向かって襲いかかる。

 だがそれは煙玉だった。一気に爆発するように溢れる白煙に圧倒され、煙たさに咳き込む。

 攻撃のようなものは感じられなかったけれど、急になんだよ! ああクソッ!

 

 

「ゲホッ……み、みんな無事か!?」

 

 

 片手を振りながらも周りを見る。

 俺を抱きしめてくれているマリーは平気。周りも何も血の臭いはしない。

 連中の声もないし……よし、煙が晴れて来たな。

 

 

「大丈夫か。怪我はないか!」

 

「……えェ」

「大丈夫でスぜ、姉さン」

 

「……大丈夫ですわお姉さま。どうやら逃げたみたいですわね」

 

 

 ゴブリンになっている仲間たちも、母さんも無事だ。

 ただあの急に現れて急に攻撃を仕掛けてきた連中の意図が分からず困惑する空気が漂う。

 ただの賊のようには見えなかった。攻撃だって手馴れてるし、モンスターがいるからってことで逃げるにしても凄く手際が良かった。

 

 というか、煙玉なんて始めて見た。忍者かよあの計算上とか口癖のように言ってる野郎は……。

 母さんたちも俺と同じく驚愕しているみたいだ。

 何もすることはなかった。ただ煙玉に圧倒され、唖然となって取り逃がしただけに過ぎない。

 

 

「なあ今なんか爆発聞こえなかったか!?」

「あっちに何かあるのかな。ちょっと誰か呼んできて!!」

 

 

「あっやべ……母さん」

「分かってル。私達は森に待機しテるけど、気を付けるンだよ」

「うん」

 

 

 野次馬が来る前にと母さんたちが森の草むらの奥へ隠れていく。

 俺達を見つけてくれなかったら―――――あの切りかかって来た瞬間に守ってくれなかったら今は絶対に大変なことになっていただろう。

 買い物はともかく、置いて来てしまったリヤカーだけでも取りに戻らないといけない。警戒は怠らないようにしよう。面倒だけど……。

 

 このまま帰った方が良いかもしれないけれど、それだと来た意味がない。一番近い町はここなのだから。

 それに俺達に対しての脅威であるとするならもう少し探った方が良い。

 何故襲ってきたのかを調べなくちゃ……。

 

 

「マリー、早く行って帰ろう」

「……ちょっとお待ちくださいましお姉さま」

 

 

 マリーが俺を母さんたちがいたはずの近くに俺を置いて、連中がいた場所へ歩く。

 その表情は苛立ちに満ちていた。

 

 ただ地面を触って、連中が落とした煙玉の残骸を触って舌打ちを溢す。

 じっとそれを睨みつけているけれど、どうかしたのか?

 

 

「……マリー、何か分かるのか?」

 

「いいえ、わたくしは感知式のスキルは所持しておりませんから……あら?」

「へ?」

 

 

 マリーが拾い上げたのは、足元に落ちていた一枚の紙。

 奴らの落し物だろうか。俺達より少し遠い位置にいるから何が書かれているのか分からない。

 ただそれをじっと見つめていたマリーが、不意にくしゃりと紙を握り、ビリビリに引き裂いていく。なんでもないように、ただ細かく引き裂いて地面に捨てていく。

 

 

 

「ど、どうかしたかマリー? その紙なんだったんだ?」

「なんでもありませんわお姉さま。ただの依頼書ですわ」

「依頼書?」

「ええ。おそらく連中はギルドの冒険者だったのでしょうね。ギルドの依頼書を落としていっただけですわ。ええ、何の価値もない……くだらないモノですのよ」

 

「ふーん……?」

 

 

 

 まあマリーが言ったんなら信じよう。

 だがしかし、ギルドの依頼書という言葉に首を傾ける。

 

 依頼書ということは、何かを頼まれていたということ。

 俺達を襲うように依頼していた……としたら、マリーが俺に言うはずだよな。

 冒険者が俺達を襲うってどうしてなんだ? そこまで切羽詰まった状況だったとかか?

 

 それとも、俺達についての何かをギルドが知っている……?

 

 

 

「マリー、早く終わらせて帰ろう。俺達にはやるべきことがあるから」

「ええそうですわねお姉さま。人が近づいてきましたし、早く行きましょう」

 

 

 

 頷いたマリーに近づいて、一緒に走って来た道を戻ろうとした―――――瞬間だった。

 

 

 

「ふぇっ!!?」

 

「お姉さま!?」

 

 

 不意に壁から両手が伸びてくる。

 違う。まるで忍術のように、壁に潜んでいた男が俺を抱き上げてきたんだ……!!

 

 

「計算上の通り、成功だな!!」

「んなこと言ってる暇があるなら逃げるぞ!!」

「ほら行くわよ!!」

 

 

「いやいやちょっ―――――たすけてっ!!!」

「っ! 待ちなさいあなた達!! お姉さまを返しなさい!!!」

 

 

「いいやそれは無理だ」

「ええそうよ。この私達がいる限りね!!!」

 

 

 眩しいほどに明るい光が周りを照らしだす。

 後ろからやって来た野次馬の人間が悲鳴を上げ、森に隠れようとしていた母さんたちが戻ってくる気配がしたが、それよりも先に動いたのは連中だった。

 

 またも煙玉を二つほど取り出して―――――俺を抱き上げて捕まえたまま、マリーたちの視界を遮って走る。

 俺を連れて、走り出していく。疾風怒濤のように、不意をついて俺を攫って逃げていく。

 

 

「どこへ連れて行くつもりだよこの野郎ぅぅぅぅっ!!!!」

 

 

 

 ああくそ!! なんでこうなったんだよ!!!

 警戒するにしても突然すぎて意味わかんねーってのっ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

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