ナティシア ー平凡幼女はハードモードな世界を生きるー   作:かげはし

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 神の使い手。
 神の代行人。

 彼女はシスター。
 数年前、この国にやってきた謎が多い女性である。





44話 少しの進展

 

 

 

 

 

 

 

「体調は平気かしら?」

「あ、うん……まあ……」

「身体は何処か痛いところはない?」

「ない……けど……あれ、気持ち悪くもない……?」

 

 

 言われてふと気づいた。

 たまに……というか、気絶した時にドラゴンの夢を見たせいで微妙に寝不足で頭痛がすることがあったんだが、何故か今はなくなっているということに。

 まあ頭痛といってもそこまで酷いものじゃないし、実験されていた時と比べて些細な感覚だったから気づいたレベルだ。

 それに首を傾けていると、シスターが優しそうな笑みを浮かべる。

 

 

 

「うふふ、それは良かったわ!」

 

 

 

 何故かそのまま首輪を外され、俺の手を掴んで抱き上げてきた。

 

 

「ほら塵、早く私達を案内なさい。子供たちももう向かっているのでしょう?」

「ぶひぃぃ! も、もちろんでございますぅぅ! こちらへどうぞ!」

 

「うふふふっ。さあ行きましょう赤毛ちゃん。貴方は私が守ってあげるから安心して」

 

 

 

 ぜんっぜん安心できねえよ!

 そう思っていても抵抗は出来なかった。というか抵抗したらあの気持ち悪い声を上げた塵とか呼んでる町の領主らしい人みたいになるかもしれないし、調教されるかもしれない。

 

 ああでも……は、話を聞くぐらいなら良いよな?

 

 

 

「シ、シスター……俺達はこれからどこに行くんだ?」

「女の子は可愛らしく喋らなきゃ駄目よ」

 

「……シスター、私達はどこへ行くの?」

「うふふっ、そうよその調子。私達はこれから国家の戦争相手である神国へ向かうわ」

「しん……こく?」

 

 

 どういう意味なのか首を傾けてると、抱き上げているシスターが愛おしそうに俺の頭を撫でてきた。

 数時間前に会ったばかりの俺の事を見る目がちょっと怖いが、それを受け入れる。

 

 

「ええ、神国。神の国と呼ばれている場所よ」

「神……って、いるのか?」

「こーら、赤毛ちゃん。男らしい言葉遣いは駄目よ」

「うぐっ……神国には神がいるの?」

「いいえ、神なんていないわ」

「ふぁ!?」

 

 

 仮にもシスターのアンタがそういうこと言っていいのか!?

 いやそれ聞くつもりはないけれど!

 

 でも俺の表情を見て大体は察してくれたのだろう。

 息が荒い塵が前を歩き、シスターが歩いている中で話は進む。

 

 

 

「神はいないけれど、神国には神と崇められている伝説がいるの」

「……伝説?」

「ええそうよ。神国の住民がほとんど見たことはないけれど、あの(みやこ)の中、大きな湖の中にいると言われる伝説の生き物。水龍が守ってくれているって」

「水……龍。え、待って。ドラゴンがいるの!?」

 

 

 まさか、奴に会えるのか!?

 水龍……っていうには水要素なんて一つもないけれど、あのくそったれなドラゴンに会えるのか!

 それはある意味朗報だ。メリア大森林では国家が戦争しているってことしか情報を知らなかったから、まさか情報集めをしようと思ってた真っ先にこんな事実を聞けるとは思ってもみなかった。

 もしかしたら国家と深い繋がりがある町や都市ならば誰もが知っていることかもしれない。メリア大森林は国家との繋がりが薄いから、戦力として男どもを召集していても詳しい事情は教えてくれなかったからなぁ。

 

 そう、ちょっとだけワクワクと希望を持った瞳でシスターを見た。

 だが彼女は小さく首を横に振った。

 

 

 

「いいえ、おそらく貴方が知る宝を盗まれたドラゴンとは別の生き物でしょうね。そうでなければ戦争を長期化させてでも神国と争いたいだなんて国家が考えるわけはないもの」

「……本当に? もしかしたらってことは絶対にないの?」

 

「ええ、有り得ない。それに神国と争っても意味はないわ。水龍は神国の守護神。今は大丈夫だけれど……住民の危機が迫ったら龍の怒りが敵に落ちるといわれている。そんな怖い生き物が棲みついた神国に敵意を向けるだなんて馬鹿らしいもの。

 あの腐った貴族共だって危機は避けたいと思うはずよ。交流を選ぶのが普通なのに戦争を強行した。その意味を、赤毛ちゃんが教えてくれたわ」

 

 

 ……つまり、先程ドラゴンの宝を使った実験だとぼかした話を聞いて戦争がどうして起きているのかを理解したのか。

 狙いはドラゴンの宝。水龍も持っていると考えて動いている連中に反吐が出るし殺意も湧く。でもそれ以上に、シスターの知識に疑問を感じた。

 

 

 

「……シスター。よくそういういろんな事情を知ってるね」

「うふふふ。いつか来る時のために準備は欠かさなかっただけよ。誰が敵で、誰が被害者かを見極めたいからいろんなことを知るために動いたわ」

 

「……あんた、何者だよ?」

 

 

 普通のシスターがそこまで動こうとはしないはずだ。

 いや、教会のシスターの基準が分からないから実際はこういう人が普通とかだったら恐ろしい。

 ……でも鞭で人を叩いて塵とか呼んで、神はいないとか言っちゃうシスターが普通だなんて考えたくはないからこの人が特殊だって思いたい。というか、事前準備とか言って国と争う気満々なシスターがたくさんいるとか考えたくない。

 

 だから思うんだ。

 情報を把握し、敵を見極めようとするまるで戦士のような目をしているシスターが何者なのかって。

 

 彼女はただ俺に向かって微笑んだ。

 

 

「私は弱ってる人たちの味方なだけよ。弱い人たちを守り、その願いを叶えるシスター。傲慢で勝手な連中を刈り取って皆に幸せをあげたいだけの、ただのシスター」

「いやそういう割にはシスターらしいことはあまり見てない――――――」

「赤 毛 ち ゃ ん ?」

「何でもないですごめんなさい!」

 

 

 やべーつい言っちまった。調教される!

 いやでも俺はか弱い幼女だから、シスターの敵にはならない。つまり調教はされない……と思いたい!

 

 ぶるぶると震えている俺をそっと撫でてくるその手に恐怖を感じつつ、前を見た。

 塵な領主が地下に続く扉へのカギを開く。

 扉の先には階段があった。薄暗闇で何も見えない地下。ここよりも寒そうで、風が吹いている場所。

 

 教会にこんな場所があるとは思えなかったが……地下は町全体が繋がっているのか? 先程まで歩いている間もなんか異様に広く感じたんだよなぁ。

 

 

「この先から神国へ繋がる道は出来ています! はい!」

「ええ、道案内ありがとう。ゴミ屑の癖に役に立ってありがたいわ!」

「ふひっ! シスター様のお言葉に感謝しますぅ!」

 

「さあ行くわよ。赤毛ちゃん」

「えっ、あっ――――――ちょ、ちょっと待って!!!」

 

 

 思わず抵抗してシスターから地面へ降りた。

 これでシスターの怒りを買って調教されても仕方ないかもしれない。自然とここまでついて来てしまったが、ここから神国へ向かうとなると俺は行くことは出来ない事情がある。

 

 

「赤毛ちゃん?」

 

「ごめんシスター。おれ……私には、どうしてもこのまま先へ行くことは出来ないの」

「どうしたの? 怖いの?」

「ううん違う。お……私は、あの男たちに連れられてこの教会へ来てしまったけれど、実際はちゃんとした仲間がいる」

「……犯罪者マーガレット・ナティシアって女の事?」

 

「彼女は犯罪者じゃない。だからあのまま放ってはおけない。マリーは……あいつは、俺に執着しているから、あの状況のまま置いて行ったら俺が後悔する。だから戻って彼女に俺は無事だって伝える! その後、神国にもいきたいけれど……ごめんシスター!」

 

 

 

 ああ、俺は馬鹿だ。自分優先で考えていた。

 マリーたちの事を考えるならば早く行けばよかった。

 

 今は情報収集よりも仲間を考えなければならない。

 森に母さんたちがいるからマリーが冷静に判断してくれるなら大丈夫なはず。ただ心配はしてくれているだろう。探しているかもしれない。

 マリーは対モンスタースキル持ちなだけの女性だ。冒険者に対してどこまで戦力があるのか分からない。

 

 犯罪者とか言っていた意味も知りたい。皆に会いたい。

 神国についてもいろいろと知りたいと思ったけれど、その前に仲間たちの方が先だ。

 

 

「ここまで来て言っちゃいけないけれど……シスター、俺をマリーの元まで連れてってくれ! おねがいだ!」

 

 

 

 頭を深く下げて願う。

 ここまで来たのに引き返す俺の我儘を懺悔しながらも、ただ願いを請う。

 一瞬でもマリーがどうなっているのかを忘れていた自分に腹が立つ。あいつは無事だって願って、ただ彼女に会ってやらなきゃいけないことをやるために動きたくて――――――。

 

 そんな俺に対して、シスターの顔は見えなかったが笑ったような気配は感じた。

 

 

 

「言ったでしょう。私は弱い人たちを守り、その願いを叶えるシスター。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、私はその願いを叶えます。神国で待っている子供達も納得してくれるでしょうし、大丈夫よ」

 

 

 

 犯罪者マーガレットだったら捕まえなきゃいけない。

 でも俺が会いたいのはマリーだから助けると言いたいのだろう。微笑んだシスターの言葉に深く感謝した。

 

 

 

「シスター……ありがとう!!」

 

「でも言葉遣いは治さなきゃ駄目よ赤毛ちゃん。そこはシスターとのお約束よ」

「う、うん……善処する」

 

 

 

 顔ごとそっぽ向いた俺に対して、シスターは初めて怒ったような顔をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

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