ナティシア ー平凡幼女はハードモードな世界を生きるー   作:かげはし

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 アルメリアは太陽だ。
 そうマリーは感じている。

 だから太陽に近づいて翼を焦がして落ちていくイカロスのような存在になろうとも、彼女は喜んでその身を捧げるだろう。
 太陽は、彼女にとってすべてだった。

 彼女にとって、もうそれ以外は何も残っていなかった。






46話 それはまるで太陽のような

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この状況はまずい。

 俺の仲間はまだ誰も怪我はしていないが、それも時間の問題だろう。

 

 

 教会に行っていたために遅れて現場へ到着した俺達に待っていたのは、数人の冒険者たちがあの女と対峙し、野次馬と化していたはずの住人が数人怪我をしている姿。

 赤い血の量がけが人達よりも多く、吐き気がするほど至る所に人間の肉片と思わしきものがある時点で奴はもう何人か殺しているということに気が付いた。

 

 

「くそっ! 野次馬根性で来てんじゃねえよ脆弱者が!」

「そうは言うけどこの騒ぎよ。何が起きてるのか知りたくなっちゃうのが人間ってもんじゃない?」

「それで死にかけてたら意味もねえだろ! 俺達は冒険者だぞ! 人助けするのがメインのお仕事ってわけじゃねーんだよ!!」

「計算上野次馬は少なくなってきている。気にせずこのまま対応するがいい」

「チッ! 分かったよ!!」

 

 

 女は攻撃をしてくる冒険者を中心に……というよりも、人間全体を狙っているように感じた。

 とにかく目についた人間を殺しに向かう。

 目の前でそれを防いだとしても、奴は目標とした人間を襲うまで止まらない。血を見るかその人間の姿が完全にいなくなって見失うかすればある程度は別の人間をターゲットにするようなので、いちいち殺されかかった町の人間を助け守って逃げろと伝えて見失うまで足止めをする手間が面倒だった。

 

 俺達を目標にしてくれればそれでいい。奴はターゲットにした人間以外に対して杜撰で、俺達がする攻撃はすぐに躱していくため、さらに苛立ちは増していた。

 危険はあるかもしれないが、それでも相手にされないよりはいい。

 殺されることだけは避けたいが、このままでいいはずはない。

 

 

 町の人間はここが危険だと周知してくれたのか、けが人以外はほとんどが野次馬しに来なくなる。だとしても完全に邪魔が来ないとは言えない。

 数人だとしても、危険は承知しているのか、前へ無理して来ることはなかった。ただまだギルドにいるであろう冒険者を呼びに向かったか、他に何かしらの助けを求めに向かったかのどちらか。

 

 しだいに女が犯罪者だと気付き捕まえようとする冒険者たちを狙うようになり―――――その特化した攻撃力にやられて死に絶えたり傷つき撤退したりとする奴らが多かった。

 

 要するに、女の力が強いのだ。

 

 

「ぐぅ――――――!」

 

 

 拳で戦っているわけではない。物理的な攻撃で行っているようには見えない。

 身体全体に影のような何かがまとわりついている。そのもやもやとした薄暗い気味の悪いものが、ターゲットとなった人間の身体へ向けて影を伸ばして捕まえて切り刻む。影に刃でもついているんじゃないかと思えるほどにとても鋭く、血や臓器がぶちまけられて命が消えては次を探す。

 

 無表情のまま、誰かを探す。

 こんな奴だっただろうか。

 こんな人間だったか?

 

 あの幸せそうに笑っていた女とは思えないほどに無表情で無感情。

 ただ殺戮を楽しんでいるわけもなく、何も目的なく命を食い散らかしているようにも見えない。

 

 こいつが傍にいた幼女を探しているのか?

 だとすれば、幼女を連れてきたらこの騒ぎは収まり、容易にあいつを捕まえることが出来るんじゃないだろうか。

 

 幼女を保護するためにあの女から引き離して捕まえて教会へ連れてきたのだが、もっと事情を聞いた方が良かったかもしれない。

 犯罪者の中には子供好きの誘拐犯も混ざっていることが多いから、そのたぐいだと思っていた。

 だが、女のあの豹変した様子から見て幼女は――――――――――。

 

 

 

「何ボーっとしてんのよ! ほらいくわよ!」

「ッ……お、おう!」

 

 

 剣を取り、仲間と共に息を合わせて攻撃を開始する。

 遠距離攻撃は避けられて、近距離は影で対処していく。まるで集団戦のエキスパートでも言うかのように、余裕がありそうな目で周りを見ている。

 

 いや違う、鬱陶しそうにしている?

 

 

 

「ああ……あああああッ! 面倒ですわねまったく! 害虫がうじゃうじゃと! わたくしの前で大切な物を盗んだというのに! お姉さまをわたくしから連れ去った人間は死ね!! 人間なんて死んでしまえ!! わたくしの前で絶望し、死んでいけばいいのですわ!!」

 

 

 

 ――――――初めて女が表情を変えた。

 

 まるで甘えたりない子供の我儘のような声で俺の仲間の一人を見る。

 指で奴を示して、聞こえない音量で何かを呟く。

 

 影が何かを形作る。

 

 

 

「絶対防御は攻撃も含まれますわよ! 攻撃は、最大の防御ですもの!!」

 

 

 

 俺の仲間が作った白煙の爆弾のようなものが影に現れる。

 いくつもの爆弾を、影からポンポンと生み出していく。

 

 

「……お、おい。あれって」

「ああ、俺の煙玉と同じだ」

「マジかよ」

 

 

 無から有を生み出したってのかあの女は!?

 見ただけで何かを作り上げる。何もない空間から何かを生み出す。

 

 それはもう世界の理を変える禁忌に値する者だろう!

 なんであの女は、そんなことを―――――――。

 

 

「あっ……違う……」

 

 

 奴は禁忌を持っているのか?

 だから、犯罪者として国に懸賞金をかけられているのか。

 

 それならば、あの黒い靄は―――――――――――。

 

 

 

「死ね」

 

 

「ッ―――――――――!!?」

 

 

 

 

 作り上げたいくつもの煙玉を周囲へ投げていく女。

 その後に白煙が周りを包み込む。

 

 女が睨んだ先にいたのは俺であった。

 つまり俺にターゲットを変えたということ。

 いや違う。幼女を連れ攫った俺達に復讐しようとしているということか。

 

 

 刀を構えて周囲を警戒する。何かが起きたらすぐに対応できるように。深呼吸をして息を整えていく。

 心臓の音を聞いて、周囲の悲鳴や騒ぎ声から漏れる女の声を―――――――――。

 

 

 

「そこだ!!」

 

 

 

 クソッ!

 白煙の先、見えない位置にいるであろう女に向けて刀を振り下ろしたが何かで防がれてしまった。

 だが避けようとしてねえみたいだ。真正面から俺の刀を受け止めて、そのまま逃げる気配がない。

 

 力勝負と行こうってか。いいぜ、やってやるよ!!

 

 

「おらっ、大人しくしとけこの野郎!!!」

「あらあら。うふふっ、前方不注意よ坊や」

 

「………………ハッ?」

 

 

 

 聞こえてきた声は何処か聞いたことのある―――――――だが、あの犯罪者の女とは違う優しげな声がした。

 

 

 

 

 

 

 

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