ナティシア ー平凡幼女はハードモードな世界を生きるー 作:かげはし
「な、何故シスターがここに……!?」
「うふふふっ。罪ある者を懺悔させるのもシスターのお仕事ですもの。私はそれを全うするために来ただけですよ」
「それはつまり物理的に懺悔させるということか!?」
「さーって、どうかしら?」
首を傾けてぼんやりと表現を濁しつつ、真正面と真後ろから来た攻撃を相殺し、手に持った鞭で彼らの動きを引き止める。
良い男とは言えないがまあ内面から見れば及第点の真正面も男を一瞥し、ただ後ろを警戒する。
男は普通に困惑しているようだった。でも私が強いということと、一応敵じゃないと分かったことで意識を切り替えたみたいだ。
それに、マリーは私の動きを読んでじっと観察しているみたいだわ。その無表情ながらも怒りと苛立ちに満ちた表情に内心で失望する。
禁忌に取り込まれている小娘を利用した世界に。こんな事態になっても町に在住しているはずの一人か二人の騎士が来ていてもおかしくないのに、助けに来るのは冒険者だけだというこの異様な事態に。
ああ、国家は騎士たちを全て戦争へ投入させに向かったんだったわね。
騎士なんていない。あるのは国家に所属している冒険者か違う国から来た旅人のみ。
誰かが殺されていても救おうとするのは国家ではない。国家所属の騎士たちでもない。
冒険者が助けに向かう。
「今よ! ほら一斉攻撃!!」
「おう!」
「発動せよ――――――
「っ――――――」
今だってそうだ。
白煙が静かに消えていく中で見つけた私達に対して、マリーちゃんに攻撃を仕掛けているのは冒険者のみだわ。領地を守るのが領主の役目。でも、敵に対して国家が派遣した騎士たちが守るのが常。
それを破ったのは誰。あの
――――――――国家が、自らの支配している領地を守らず、ただ攻めに転じている。
それはとても悪いこと。守らなければならないものを守らず、最低限の保証さえなく好き勝手に行動しているということ。
「……ああ、早く終わらせなくちゃ」
目の前にいるマリーちゃんが、周りの一斉攻撃に対して反応し、脱臼しようが気にせず無理やり私の捕縛から逃げ出していく。
その後、あの影から私と同じ鞭を作り出して、まったく同じ動きを見せて冒険者たちの動きを止めた。無駄な殺しはしていない。ただ必要とあらば殺している。
そこだけはいただけないけれど、それでもその行動の意味は分かっているつもりだわ。
「貴方たちに用はありませんのよ!! 私は、お姉さまに! 会いたいんですの!!!」
純粋に、ただ一途に赤毛ちゃんを想って探している。
赤毛ちゃんを連れてきた私の後ろにいる男達に対して、いろいろと話を聞きたいとは思っているんでしょうね。尋問か拷問かは分かりませんけど。
「くそっ! 大人しく捕まれよ!」
「人間を殺すのが冒険者の役割じゃねーっての! おらっ!」
「お断りいたしますわ! わたくしは、お姉さまの元へ帰らなくてはいけないのです! 彼女の傍に一生いると誓いましたから!!」
ギリギリと周囲を捕縛していた鞭での力比べが負けると分かったのか、鞭自体を放り投げ、先ほど発動しかけていた冒険者の一人のスキルを発動させる。影からまた何かを作り出して、剣技を見せつける。
襲いかかってきた男の首を刎ねて、これ以上近づいたら殺してやると脅して。
こうなったら一撃で気絶させて教会へ連れてきた方が良いわね。騒動が大きくなりすぎているんですもの。記憶処理だって大変だっていうのに……。
「もう止めろ! マリー!!」
ああもう、あの子ったら……。
赤毛ちゃんには危険だから待っててと言ったのに。
「ッ―――――――お姉さま!!」
私達よりも後ろにいる赤毛ちゃんに気づいたのはマリーちゃんだけじゃない。冒険者たちも赤毛ちゃんが飛び出してきたのが分かった。
幼い子供がマリーを呼んだことに驚いたのは数名。事情をある程度理解している今回の元凶たる三人組は目を見開いて赤毛ちゃんを見つめている。
傍にいる男は私を睨んできた。
「シスター。先ほども思ったが貴方は何故ここにいる。あの子供を危険な場所から遠ざけて保護するのが貴方の役目ではないのか! それに俺達の冒険者としての仕事を取るな! アンタはシスターだろうが!!」
「あらあら。だから言ったじゃない。私の仕事には罪ある者に懺悔を行っていただくのもあるのだと。そのために私はここにいるのよ」
「ならなんであの子供がここに……っ! おい危ないぞ、ガキ!!」
「危ないのは貴方の方よ」
「えっ? ―――――――ゴハッ!!?」
前へ駆けだしてマリーちゃんの元へ向かおうとする赤毛ちゃんに対して、捕まえようとしていた男の首筋を強打させ気絶させる。
シスターとして冒険者を気絶させた行為に、他の皆が驚愕する。
でももう遅いわ。だって事件からかなり時間が過ぎたもの。
大きな騒ぎになっているのはいけないことだけれども、そのおかげで野次馬はもうやって来ない。いるのは正義感を胸に戦っていた冒険者のみ。
「ゆっくりと眠りなさい」
「な、何で……シスター?」
「大丈夫。私は殺すことはしないわ。ただ、その場にあったハッピーエンドを届けたいだけのシスターですもの。貴方たちと同じ正義の代行者。貴方たちは今回間違った行動をしてしまったわけじゃない。でも、今は何も知らずに眠りなさい」
「グッ――――――ッ!?」
「ごふっ!」
「や、止めろシスターっ―――ぐああっ!!」
周囲にいる冒険者たちを鞭で捕まえこちらへ引っ張り上げては片手で意識を刈り取っていく。
血に濡れた地面に横たわる冒険者たち。死んではいない。だが赤い血の原因となった肉片たちを殺したのはマリーちゃんだ。その罪は必ず晴らさないといけない。浄化しなければいけない。
でも、マリーちゃんだけの問題じゃないわね……。
「お姉さま……ああ、ああ。お姉さま! よか、よがっだぁぁぁっ!!」
「ごめんマリー。……でも無事で良かった」
「ふぁいっ!! お姉さまこそ無事で……ぐすっ……」
「泣くなよマリー……でもいろいろと話は聞かせてもらうからな」
「ふぁ……はいっ!」
自分たちの事しか頭にない彼女たちはとても異様だわ。
人が数人、マリーの手によって殺されたというのに……赤毛ちゃんはそれに興味を示していない。
何人もの命が亡くなろうとも、マリーが無事ならばそれでいいと赤毛ちゃんから感じる。
ただの幼女とは思えない冷徹な心が見え隠れする。
いいえ。見えるんじゃなく、視える。
あの時、首輪で浄化したはずの心がまた薄く汚れていくのが視える。
幼女の中に何かがいるのが視える。
ねえ赤毛ちゃん。
でも今は、赤毛ちゃん自身に――――――――――敵にそれを知られるのはいけないことだわ。
「さて、やるべきことはまだたくさんあるわねぇ……」
まず先に失ってしまった命を浄化し、倒れている冒険者たちをあの
少々延期になるという旨を、子供たちに手紙を書かなくては……。