ナティシア ー平凡幼女はハードモードな世界を生きるー   作:かげはし

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48話 13種類の禁忌

 

 

 

 

 

 

 

 

 教会の一室。町の外へ繋がる通路へ行く廊下や牢屋などではなく、聖堂として利用される懺悔の一室。そこに俺達はいた。

 というか、抱きつくマリーを引っ張りつつ、そそくさと逃げてそのまま教会の中へ隠れたばかりだった。

 たぶん今頃、外は酷く騒ぎになっていることだろう。なんせ冒険者はほぼシスターの手によって気絶。一部はマリーが殺してしまい、逃げたために悲惨な状態で放置してしまっているという状況。

 犯人はシスターだと言われて町で騒がれても仕方ない。

 

 だがそれを見越しているのか、シスターは行儀の良い犬のようにずっと正座して待っていたあの領主に対して言う。

 

 

「後始末は頼んだわ」

「は、はひっ! シスター……あ、あああの!」

「何かしら?」

「ふぁい! ちゃんと全て綺麗に処理をしたら……ま、またご褒美をくれますかっ!」

「あらあらいけない子。うふふ……」

 

 

 領主の顎を片手でクイッと上げる。

 外見がシスターは美女で領主はただのおっさんのせいで、いろんな意味で違和感しかない。

 だが領主にとってはそうじゃないのだろう。シスターに期待するような目で見つめている。

 

 

 

「ご褒美が欲しいのなら結果を見せなさい。ゴミらしい部分なんて見せちゃだめよ? 私に人間らしい立派な結果を残して見せて?」

「は、はいいぃぃぃぃっ!!」

 

 

 

 教会から飛び出すような形で出て行った領主。

 嵐が去ったというべきか、それとも後で来るだろうSMプレイに対してあまり考えないようにするべきか……。

 

 

「うぐっ……」

 

 

 いだだ。今首がグギッていったぞ。

 両頬を押さえてるのは誰―――――――ひぇっ。

 

 

 

「お姉さま。今はわたくしの事だけを考えていて。他の人間なんて見ず、わたくしだけを見ていて。その綺麗な瞳をわたくしに見せてくださいまし」

 

「お、おう?」

 

 

 グイッと両頬に手を置かれて顔を上げられてしまったせいで、至近距離にいるマリーの瞳にハイライトがなく生気の欠片もない表情で笑われたことに何故か背筋が震えあがる。

 

 いや違う。なんだか迷子の子供のような表情をしていたというのに、俺にまっすぐ狂気を向けてくるような気がしたんだ。

 たぶん俺は今、マリーから逃げることは絶対にやってはいけない。逃げたら終わる。文字通り全てが終わる。

 

 

「お姉さまお姉さま。他の奴等に奪われるだなんて失態を犯したわたくしを見捨てないで。わたくしを見て。声を聞いて。離れたら嫌。わたくしと離れるのは嫌ですよねお姉さま? わ、わたくしよりあの女が良いと仰るの?

 引き離す人間は全員殺してあげますから。どんな生き物だって全部殺して……ああ、お姉さま」

 

 

 不安で押し潰されそうな声がブツブツと囁かれる。相手に対して言うのではなく、独り言のように言っている。返事なんて期待していない。ただ離れることだけを許さないという意思だけは感じる。

 このまま逃げてしまったらきっと、何かが終わる。そんな予感がする。逃げたいという気持ちは不思議と湧かなかった。生命本能は危機を察していたというのに、どこかが制止をかける。何かが身体の動きを止める。

 

 このままじっと待っていると、俺が離れないことに安堵してきたのかちょっとずつ表情が普通に戻ってきた。冷静になってきているのだろう。至近距離で俺の瞳を見るのは止めて、ただ純粋に俺を離すまいと抱きしめてくる。柔らかいマリーの身体を感じるのと同時に、その抱きしめる力強さの意味を知る。

 

 

「…………ごめんなさい、お姉さま」

「マリー。俺が離れたとしてもちゃんと戻ってくる。帰る家はあそこしかないから絶対に帰る。攫われても俺は大丈夫だから、不安になるな」

「……はい」

「俺の事を信じて待ってろとは言わない。攫われたら迎えに来るのも構わない。でも無関係の命を殺すのだけは避けてくれ」

「…………」

「マリー。俺は、マリーの傍にいる。計画を立てる段階で傍にいることができないとしても、絶対に戻ってくるから」

「……………………はい」

 

「うん。……迎えに来てくれてありがとうな、マリー」

「っ――――――――いえ。いいえ! わたくしはお姉さまの役に立てず……ご、ごめんなさいお姉さま」

「謝るなら次はちゃんと迎えに来い。俺が攫われたら……な?」

「はい! ですが……もうあのような状況は見たくありませんわ……」

 

 

 顔を俯かせるマリーに苦笑する。

 でも俺はただの弱い人間だから、返事なんて何もできなかった。

 

 

 

「赤毛ちゃんにマリーちゃん、ちょっとお話しましょうか?」

「……はい」

 

 

 有無を言わさない圧力を放ちつつも、シスターが俺達を見てにっこりと笑う。

 鞭などは手に持っていない。素手の状況だというのにマリーは警戒し彼女を睨みつけている。攫われた一件で警戒心が高くなっているからか、俺を後ろに隠しつつもギュッと握りしめる手だけは離そうとしない。

 

 

「うふふっ……怖いのは分かるわ。人間を不審に思うのだって分かります。でもここは教会の一室。あなたを傷つけるようなことはしないわ。赤毛ちゃんとも約束しましたもの」

「……傷つけようとしたら殺しますわ」

「ええ、約束は守るわ。シスターですもの……それで、いろいろと話を聞きたいのだけれどいいかしら?」

「断ることとかはできねえんだろ……」

「赤毛ちゃん、男口調になってるわよー?」

「あ、はい……」

 

 

 

 こういう時にでも男口調とか言ってくるのかと少しだけ呆れた。

 だがシスターは真剣そうな表情で、マリーを見つめる。

 マリーはただシスターの挙動を観察し、何かあればすぐに動けるように体勢を整えているのが見えるが――――――。

 

 

 

「マリーちゃん、あなたは禁忌を持っているわね? 禁忌の対象は赤毛ちゃん?」

「ッ――――――――――」

「……そうみたいね。なら尚更あなた達を引き離すわけにはいかないわ」

 

「はい? え、どういうことだよそれ?」

 

 

 禁忌っていうのは文字から察してとても嫌な印象を持つスキルである。シスターはそれが13もあると言っていた。

 でも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 マリーが禁忌を持ってるというのは……やっぱり、あの戦闘の時に見えた闇みたいなあの力の事だろうか。人の能力をコピーしているように見えたんだが……。

 

 

「マリー、本当の事を教えてくれ。禁忌を持っているのか?」

「…………はい。禁忌はありますわお姉さま。あの戦争で身に着けてしまった世界の大罪の一つである『嫉妬』を」

「しっと? 嫉妬って……」

 

 

 シスターを見たら、彼女は頷いて話してくれる。

 

 

「妬む心。自分にはない能力を羨み妬み、それが自分のものであればという気持ち……それがあの力となって現れたのね。自分にはないスキル能力に嫉妬し、それを自分の物にするのが嫉妬の禁忌ですもの」

 

 

 だからそれがスキルの複製。真似をするが出来る力となって現れたということか。

 場合によってはこの禁忌スキルってかなり良いものなんじゃないだろうか? 禁忌の癖にデメリットなんてないように感じるし……。

 でも、マリーが隠していた理由はなんだ。力をコピーするということを隠して、何で対モンスターの防御スキルだけしか教えてくれなかったんだ?

 ……いや、それだけじゃない。

 

 

「……じゃあおれ……私を対象にするっていうのはどういうこと?」

「それは――――――――――」

 

「それは、わたくしがお話しますわお姉さま」

 

 

 

 マリーが己の胸に片手を当てて俺をチラリと横目で見る。でもやはり体の向きはシスターの方を向けて、警戒だけは怠らない。

 

 

 

「わたくしはお姉さまに命を救われた。いいえ、生まれ変わらせてくださりました。あの時もう僅かばかりの寿命に絶望していたわたくしを救ったのはお姉さまですのよ。ですからわたくしは、お姉さまの為だけに力を使いたいと願い、禁忌の対象として選んだのです」

「……つまり?」

「わたくしの禁忌の力はお姉さまが関係していなければ使うことは出来ませんわ。それもお姉さまを直接守るための力となるためにしか……お姉さまが死ねば、この禁忌の力は消え失せて短命だけが残ると思いますわ」

 

「なあ、僅かばかりの寿命とか短命とか言ってるけど、もしかして……」

 

 

 

 嫌な予感があった。

 なんというか、禁忌というのだからやはり―――――――。

 

 

「わたくしは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それが禁忌の力ですわ。あの時、お姉さまに救われなければわたくしは……」

 

 

 それ以上は何も言わなかった。

 ただチラリとシスターを見て、俺に視線を映しただけ。

 

 シスターは俺達の話を聞いて納得したような顔をしている。

 

 

 

「13種類ある禁忌はその種類の数だけしか時を生きることができないと言われているわ。でもマリーちゃんは若いし罪人には見えない。……もちろん人を殺したのは重罪よ。でもそれには意味があるのでしょう? 禁忌対象者となった理由が、あるのでしょう?」

 

 

 

 マリーはその言葉に何も答えようとしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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