ナティシア ー平凡幼女はハードモードな世界を生きるー   作:かげはし

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50話 勇者

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつだっただろうか。()()()()()()()()()

 

 

 

 力とは無限の代償なり。

 力を持つ者は、その力を指し示さんと戦いを欲す。

 無限のスキル。無限の知恵。そして悪を潰さんと倒すその意思。

 汝に全ての力を与えよう。与えましょう。

 

 ただ願うは世界の原点なり。

 世界を元に戻すことを誓え。神がいたあの時代を取り戻せ。

 人が弱くもなく、モンスターは人であったあの頃へ戻せ。

 

 そうすればお前の大切な生き物に出会えることを約束しよう。

 さあ、■■■お姉さまを甦らせなさい―――――――――――――

 

 

 

 そう、言われた言葉だけは覚えている。何時聞いたのかは覚えていないけれど。

 それは女の人の声だった。聞いたことのない声だった。

 黒く闇夜が似合いそうな声がオレをここへ導いた。オレの意思なんて関係なく強制的に。

 

 だからオレは勇者となった。

 

 勇者は絶対的存在だ。

 これが悪だと言えばすべてがそうなった。例え無罪の男でも、か弱き女や小さな子供であろうとも、何もかもが悪いものだと決定付けられる。

 

 スキル『勇者』とはそういうものだ。

 称号『未来の勇者』とは、そのような意味を持って生まれてくるただの善悪の裁判官だ。

 

 もちろんオレはそれを自由に使うつもりはない。

 だってそうだろう?

 力は守るものでもあり、同時に奪うもの。オレは守りたいモノのために戦えたらそれでいいと思ってる。

 

 アレが欲しいから無罪の人を悪にしようとかそういうことは考えていない。そんな奴こそ悪人として裁かれればいい。

 死ななくてもいい命を殺さない。恨みで殺されそうになる命はオレが守る。

 守れる力の為に働く。いつか来るかもしれない大切な人の為に戦う。

 

 

 ―――――――――そう願っていたはずだというのに。

 

 

 

「戦争で千人殺した戦士は勇者となり、平和な時代で千人殺せば悪人か……」

 

 

 

 周りは血に濡れた大量の屍。

 首が刎ね落ち、胴体が投げ出されて水の底へ沈んでいく。

 

 この場所が水の中というのもあってか、視界が赤く染まっている。染まった視界はオレの奪った命そのもの。

 ……だというのに、心に痛みなんて感じない。彼らを国家の悪として見定めたその時から、敵に対する情なんて掻き消えたも同然だ。

 

 普通ならそれが異様だということに少しだけ寒気がするが、もうそんな気も失せた。何度も戦いをしていけばいつか会える愛すべき希望に、今まで奪って来た命に失礼だ。

 殺してしまった命は二度と元に戻らない。そんな彼らに対して、もう殺したくないとふらふらと意思を曲げて戦いを止めてしまえば過去を否定することになる。奪った命を無駄にしてしまう。

 だからオレは意思を曲げない。やりたいことがあるから国のために戦う。いつかこの力を与えてくれた誰かの為に、世界を変える。

 

 勇者として戦うことが、オレの意思。

 勇者として国家に仕えるのがオレの定め。

 

 

「……陸地を戻そう。そうすれば仲間たちが戻ってくる」

 

 

 ゴポリと口から泡が噴き出す。それと同時に声が出る。

 この水の中はとても静かで寒い。国家にある城の中に比べたら温かさはない。人が死ぬ戦線とはそういうものだと知っているが、この感覚は慣れたいとは思わない。

 

 

 ――――――――――――不意に、身体が右へ避けろと危機察知能力が反応する。

 それに従えば、大きな声と泡の音が聞こえた。

 

 

 

「貴様ァ―――――――――――ッッ!!」

 

「……っ」

 

 

 

 住民の一人。この水没した神国の戦士であろうか。

 国家の騎士たちとは違い、スキルによってか身体が半分透明になっている。まるで水を泳ぐ魚のように尾びれもある。マーマン……人魚というべきだろうか。戦っている間はあまり気にしなかったが、改めてよく見ると人種というのは国が違うだけで本当に別の生き物のように変わるものだと思う。

 

 男がオレをまっすぐ睨みつけて槍を構える。

 その槍は先が三本に分かれており、ある意味ポセイドンなどで出てくる海の武器に近い感じがする。

 

 

「我らの家族を、同胞を殺した貴様を許しはしない。この恨み、貴様の身体でもって晴らさせてもらう!!」

 

 

 

 ……なるほど、顔が歪んでいたのは泣いているせいなのか。水の中にいるせいで涙を流して攻撃を仕掛けているだなんて分からない。

 危機察知はそこまで奴を脅威とは感じなかった。ただ敵意と恨みは本物だ。

 

 オレがやるべきことはただ一つ。決意と意思を持って、その身体を動かす。

 守るために殺す。奪うために戦う。

 

 果てしなき夢の未来を目指すために、オレの両手を汚していく。

 

 だから沈め、安らかに。

 

 そう願いながらもスキルを使って剣を振るい、三本槍を粉々に切り刻む。

 絶対的な力があれば戦士の武器なんてあっという間に壊れる。神気を帯びていたのなら話は別だが、そんなのここにはないだろう。

 だからあっけない最後となる。でも無駄にはしない。

 

 

 

「なっ――――――――」

 

 

 ―――――――――そのまま奴の首を切り、剣の血を振るい取って鞘の中へ入れた。

 水の中だから錆びる心配があるが、後で考えよう。

 

 

 

「き……さま……」

「恨みを晴らさせると言ったな。その心、全てオレが頂戴する」

「ぐっ…………」

 

「貴様らの恨みは全て背負おう。全て貰い受けよう。やるべき夢の為に。オレは貴様らを代償として動こう。だから安らかに眠れ」

 

 

 

 もう、聞こえてないだろうけれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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