ナティシア ー平凡幼女はハードモードな世界を生きるー   作:かげはし

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55話 水龍ノ国、入り口

 

 

 

 

 

 海を越える音がする。

 何かが俺の身体を通り過ぎていく気配がする。

 

 まるで生まれ直しているかのようだ。

 胎児になったかの気分で、水の中をこぽこぽ浮いている。

 

 ……なぜ?

 なんで生まれ直していると思ったんだ。

 

 俺はまた、死んだのか?

 

 ――――いや違う。生まれ直してなんかない。

 ああ、ようやく理解した。

 ここは海の中だ。塩水に満ちた中にいる。気がついたら全てが水で覆われている……!

 

「っ!」

 

 息がしたいのに水のせいで出来ない身体が苦しくなり、身体にしがみついている柔らかな腕に向かって何度も叩いていく。

 それに気がついたのだろう。

 

 慌てている反応のあと、一気に水のなかを上がり行く感覚。そして感じた、清々しい空気。

 

「―――――――ぶはっ!」

 

 呼吸気管に入り込む水に噎せて何度も咳を溢す。

 くそっ、鼻にも水が入って涙が出る。

 

 不意の水責めのような状況に咳をしているのは俺とマリーのみ。

 シスターは……あれ?

 

「おっと、ようやくご到着のようだぜ!」

「大丈夫かい御嬢さんがた」

 

 聞こえてきたのは複数の男たちの声。

 顔を見上げて、力強いおじさんがこちらへ手を伸ばしているのが見えた。

 しかしその手をマリーは乱暴に振り払い、俺をしっかりと抱き上げたまま男たちを睨みつける。

 

 マリーの濡れて身体に張り付いた身体に見惚れるような複数の目もあったが、それに臆するような彼女ではない。

 

「……けふっ……いいえ、いりませんわ。それよりも温かくて乾いた布を……お姉さまが風邪をひいてはたまりません」

「おや気が強いこって。おーいタオルもってこい!」

「おーう!」

 

「げほげほっ……なん、だここ……!?」

 

 一言で言うなら海底の楽園。

 空を見上げれば太陽はない。ただ海面から光が漏れ出てこの国中へ降り注いでいるように見えた。

 

 だが空は海面だけではない、薄い何かに覆われているように見えた。

 

 しかしいたるところに珊瑚礁が地面に生えていて、海藻たちがゆらゆらと揺れている。

 魚たちが泳いでいるのが分かる。

 しかし俺たちのいる一部分では空気があるようで、魚がピョンッと飛んで水から水へ飛び移る様子が見てとれた。

 

「……海底の楽園……水龍がいる、海の国?」

「いんや、ここは神の国だぜ」

 

 

 目の前にいたのは、栗色の髪をした若い男。しかしマリーより少しだけ年齢が下かもしれない。

 日に焼けた肌と、愛想の良い仔犬のような顔。

 目の色だけは海のような水色だった。

 

「ほんれ、ちゃんと乾かしておけよぉー」

「うわっ……ちょっ……」

 

 かぶせられた布で乱暴に頭をガシガシされるとちょっと痛い。

 首を何度か振って拒否をしても男は気づかず俺をふき続ける。

 

 だがすぐにマリーが男の手をひっ叩いた。

 

 

「ちょっと! お姉さまに乱暴は止めてくださるかしら!」

 

「おおっ!? わ、悪いな姉ちゃん。オデに悪気はねえんだ」

 

 

 少し訛ったような口調で男は言う。そして両手でひらひらと振って、周りにいる男たちに「例の子供が来たっていっでくんれー」と言っている。

 

 なんとなく周囲を見渡したが、全員普通の人間っぽい姿をしている。

 しかし、肩にあるあのくぼみ……いや、アレはなんだろうか……?

 

 

「ふんっ、まったく男というのは乱暴なんですから……お姉さま、わたくしが貴方の身体を拭いて差し上げますわね」

「い、いや自分でできる……」

「そういわず! さあわたくしに委ねてくださいまし!」

 

 

 目をキラキラとされるとちょっと弱い。

 まあ身体拭かれるだけだしなぁー。

 

 

「じゃあちょっと――――――」

 

 

「ふっざけんじゃねえぞゴラァァァァッ!!!!」

 

 

 地面を響かせるような大きな怒声が鳴り響いた。

 

「落ち着ぎやカイリ! 今前線に出でも俺たちに力は出ねえんだぁ!」

「分かってんだこん畜生めがぁぁぁっ! でもな! このまま仲間が死に絶える姿なんて見れるわげねえだろ! 俺は、前へ出る!!」

 

「カイリっ!」

 

 騒ぎの中心には深い青色の髪の毛を揺らす男がいた。

 何かあったのだろうか?

 カイリと呼ばれた男にしがみつく複数の男たちに負けず、じりじりとどこかへ向かおうとするその力強さと意思の強さに圧倒されそうになる。

 目は怒りに満ちていた。

 カイリを引き留める男たちを両手で吹き飛ばし彼らに怪我を負わせようとも止まらないように思えた。

 

 しかしその大騒ぎを起こしている男の怒気、その気配はまるで……。

 

「あんりゃー。まるでサメみでえだなー。近づかねえほうがいいよ姉ちゃんたち、それより中央に来てほしいんだけど良いがい?」

 

 いつの間にかまた近づいてきたのか、栗色の髪の男が俺たちに話しかけてくる。

 マリーが警戒しつつ男を見上げた。

 

「……中央って?」

「龍神様がいらっしゃる場所だぁー。神様がお嬢ちゃんを呼んでる」

 

「……はい?」

 

 

 

 なんだかまた面倒そうだな。

 俺は勇者に会いに来ただけなんだが……。

 

 

 

 

 ―――――というか、シスターは何処に行ったんだ?

 

 

 

 

 

 

 

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