ナティシア ー平凡幼女はハードモードな世界を生きるー 作:かげはし
愛しい子供たちがバタバタと倒れていく。
力が抜けて倒れた女子供を運ぼうとする兵士どもを全員水流に押し流して倒していく。
子供たちは私が守る。
私たちが守るわ。
国家は許してはならないものだから。
国家を自由にしてはならないのだから。
目の前の勇者を見ていて思う。
あの赤毛ちゃんはまだマシな方だと分かってしまう。
「久しぶりと言った方が良いかしら? それとも初めまして?」
「……別に、君とは初めてだろう」
「あら、
勇者がこちらを見て鼻で笑う。
もうどちらが本物なのか分からなくなっているぐらい、混ざり合っているのが伝わった。
「あなたまた私の愛しい子供に手を出しやがったわね」
「……ああ、その餓鬼のことか。気にするな、味見だ」
「殺す」
「ハッ、今までと同じで良い殺意しているな」
勇者と敵であるはずの私が会話をしている光景に兵士たちが困惑する。
しかし、私が誰なのか分かったのだろう。
勇者ではなく、国家の兵士達が取り囲み剣を構えてくる。
私の国民を、女性や子供を国家の餌にする気なんだろう。
実験の糧にする気なんだろうか。
私も女だが、住民たちを眠らせた魔法を見たせいか、兵士たちは警戒気味に攻撃態勢を整えてくる。
「神国の女王よ! 大人しくしていれば危害は―――――ぐあぁっ!?」
「な、なにを……ぐはっ!」
不意に、周りを取り囲む兵士たちを、勇者が切り捨てた。
それにうろたえるのは兵士たちだ。
まあ当たり前よね。最大の戦力であり味方だと思っていた勇者が牙をむいてきたのだから。
「ゆ、勇者様?」
「うるさい邪魔だ!」
私を放置して切り倒していく。
兵士たちの阿鼻叫喚が聞こえる。
殺しているわけではないみたいだが、ほぼ重症なのは確かだろう。
「ようやくだ。ようやくここまで来れた」
「……ああ、あなた」
そう、混ざったわけではないのね。
もう勇者としての自我がほとんどなくなってしまったのね。
首元でシューシューと音が聞こえる。
『ッ―――――』
何かが私にささやく。その言葉に私はしっかりと頷いた。
やがて、私の首筋でずっと一緒にいた■■■様が消えていく。
私の中へ溶け込む。
でも私は私だ。自我はある。
ちゃんと何が起きているのか記憶はしている。
ゆっくりと目を開けて、私の意思とは関係なくその言葉を紡いだ。
「久しぶりじゃのう、――――」
勇者ではなく、奴の名を。
■
これは、何といえばいいのだろうか。
戦争だと聞いていたが、周りに倒れているのは国家の兵士と神国の男たち。
そして縄に縛られて倒れている女子供でさえ、眠った状態で地面に倒れている。
起き上がっているのは俺とマリー。
そして、勇者とデルタのみの状況だった。
「な、なにが……」
「分かりませんわ……でも、壁が崩壊し、家が壊れている様子を見る限りかなり激しい戦いになっていたかと思います」
マリーの考察通り、おそらく勇者とデルタは戦っていたのだろう。
だが本当に、何が起きたのだろうか。
俺たちが来たあの泉から飛び込んだデルタを追ってきてみたらこんな状況になっていた。
兵士たちの激しい傷を見る限り、爆風などで吹き飛ばされ気絶された可能性が残っているだろう。
だが、神国の人たちは皆それほど傷はない。二人の戦いに巻き込まれたような傷にもなっていないし、まるで自然と眠ったかのように穏やかな顔で息をして倒れている。
二人は静かに立ったまま、何も言わずに対峙している。
俺たちが来た瞬間からずっとこのまま動かない。
というか、
いつの間にかいなくなっているが……避難でもしたのか?
「あの二人、何やっているんだ?」
「緊張状態に入っているのでしょう……二人とも警戒し、それぞれ体勢を整えてすぐ戦いに反応できるようにしておりますわ」
「あーなるほどな……ってか、あれが勇者か」
足元から顔まで、鎧で全身を覆い尽くしてはいるが、周りで倒れている連中とは格が違うのを感じる。
言いたいことはたくさんあるが、今の状況に入っても大丈夫だろうか?
「……ふんっ」
不意に、勇者が顔の鎧を脱ぎ去った。
そのせいでどのような顔をしているのかが分かる。
何故かこちらをじっと見つめてくる。
それに少し臆していたら――――勇者がこちらを見て鼻で笑ってきた。
何故だろうか。赤い瞳と黒い髪の毛に物凄く違和感を感じる。
こいつの髪の毛はもっと明るい色で、光り輝いているような感じじゃなかったのだろうか?
――――いや、待て。何故そう思ったんだ。何でそう感じたんだ?
誰だよあの女って。初対面だから全て想像しかないだろうが。
なんでそう思ったんだ?
何故、そう断言できるような確信があったんだ?
「はははっ!」
困惑している俺を見て、心の奥底でも覗き込んでいるかのように、急に嘲笑ってくる。
俺を格下とみて判断してくるその笑みが、何故か苛立つ。
「お姉さま?」
「マリーは下がってろ。こいつに何かされたらやばいからな」
「ハッ、なるほど。貴様は前に
「……はぁっ?」
嘲笑うこの男が憎い。
なんだかこう、イラッと来るような……。
何だよこいつ。初めて会ったのに、また会えるとはとか言いやがって……。
「貴様がそのままでいるのなら
何故だろうか。勇者の声は低音の男そのものだというのに、言葉を紡ぐたびに女の声が聞こえる。
男と女の声が、多重に聞こえてくる。
「――――■■■よ、ソレを喰い散らかしてもいいと、言うのだな?」
何を言っているんだ、こいつは?
煽るように囁く言葉は、アルメリアには届かない。
届いたのは―――――――