ナティシア ー平凡幼女はハードモードな世界を生きるー   作:かげはし

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誰か一人が世界を動かしているわけではない。
アルメリアという名の一人の人間だけが世界の中心というわけではない。


生きている者の誰かが何かの物語を生きている。



それが、人々の忘れた大昔だとしても―――――。








60話 走馬灯の先に見た

 

 

 

 

 

 

 

 何を言ってるのかは分からないが、身体がうまく反応しないのは理解できた。

 奴が魔法をかけてきたのだろうか。

 

 いや、そうだったらもっと身体に違和感が感じられるはずだろう。

 ずっとずっと言われてきたことだ。

 

 ――――俺の中に何かがいるというのは。

 

 俺の中に何か……いや、もう知っている。

 あの野郎が、あの偉そうにしているあいつが、俺の中にいる。

 

 

 そいつが、勇者の言葉に反応している。

 ああようやく分かった。鈍い俺でも理解できる。俺の中に何がいるのかが。

 

 

「っ――――」

 

 

 不意に、勇者が剣を持ちこちらへ投げつけてきた。

 投擲のコントロールは素晴らしく、俺の頭にぶち当たるのではないかと思えるほど勢いよく突き刺さろうとして来る。

 

 それに反応したのはマリーだった。

 

「お姉さまに手出しはさせませんわよ! わたくしは、お姉さまのためにすべてを捧げると決めておりますから!」

 

「マリー……っ!」

 

 

 マリーが投げつけられた剣を吹き飛ばし、俺より前へ出ていく。

 それを勇者は一瞥する。

 

 それは、勇者と呼ばれるにはあまりにも凶悪な瞳をしていた。

 塵を見ているかのような嘲笑を浮かべて、マリーを見たのだ。

 

 

「ふんっ……邪魔だな」

「ぐっ!!?」

 

 

 あっけなく、マリーの身体が崩れていく。

 

 

「あっ――――」

 

 

 勇者が片手で何かを掴むような仕草をしてきたと思ったら、マリーが急に首を押さえて苦しみだしたのだ。

 勇者がより強く片手を握り締めれば、マリーはさらに苦しみだしていく。

 

 彼女の元へ駆けよれば、首が青黒く染まっているのが見えた。

 

「おい止めろ! 止めろよ!!」

 

「ははっ、ただの小娘がどう我を止めてみせるというのだ?」

 

「てめえっ――――――!!!」

 

 

 駆け寄ろうとする俺の腕を、誰かが止める。

 

 

 

「止めぬか下郎が」

 

 

 デルタが勇者に向かって指を鳴らした。

 それだけで、国の周囲にあった海の水が勇者に向かって流れ込んでいく。

 

 しかし勇者は悲鳴などは上げない。

 何も声を出さずにただ笑っているだけ。

 

 マリーでさえ、ただうずくまっているだけ。

 

 

「マリー。しっかりしろ、マリー!」

 

 

 デルタがマリーの首を触る。

 しかしそれに眉をひそめるだけで、治療はしない。

 

 いや、できないんだろう。

 

 

「禁忌じゃな。それも奴と繋がっている……ああ、あれか……」

「デルタ、あれってなんだ。勇者になにをやられたんだ? マリーが……俺を助けたから……」

 

「アルメリア、お主のせいではないわ。じゃがこれは禁忌を蝕むもの。あれについては……いや、それよりもこのままではいかんな……あのクソアマの力が弱まるか。この子が死ぬのが早まるか……」

 

「うっ……でも……おれが……」

 

「お主ではない、あやつのせいじゃ」

 

 

 デルタは……いや違う、デルタの中にいる誰かが俺が悪いんじゃないと慰めてくる。

 でもこれは明らかに俺が―――――。

 

 不意に、どこかへ投げ飛ばされた剣が勇者の元まで戻っていく。

 海水をぶった切る音が聞こえる。

 

 このままではいけない。

 でも、俺は何をしたらいい?

 

 俺は、何ができるんだ?

 

 

「アルメリア。お主はこの国から去った方が―――――」

 

 

「――――――あああああああああっ! 何で俺は、こう馬鹿なんだよ!!」

 

 

 くそっ! くそっ!!

 勢いよく首を左右に振って頬をぶっ叩く。

 

 俺の豹変にデルタの中の人が驚いたように目を丸くしたが、そんなの気にする暇はない。

 

 何やってんだよ俺。ぼーっとしてんじゃねえよ俺っ!!

 いつもならもっと早く判断できるはずだろうが!

 

 何でここに来た。

 俺はここで勇者に殺されるために来たわけじゃねえだろうが!!

 

 マリーのために、ここに来たんだろ!!

 勇者にいろいろと言わなくてはいけないことがある筈だろうが!!

 

 

「ありがとうな、マリー」

 

 

 マリーは禁忌に縛られていてもここへ来た。その意味をちゃんと受け止めなくてはならない。

 勇者がいると分かっていたこの国に、俺と共に来てくれた気持ちを分かってやらなければならない。

 

 俺を絶対に守るという意思をみせてくれた女の子の想いを、ちゃんとわかってやらなくてはならない。

 ああそうだ。それに応えるのが男だろうが!

 

 今は幼女でも、中身は男だ!!

 

 俺にできることを、最大限まで利用してやれ!!!

 

 

「これで終わりか?」

 

「ふざけたことを言うものじゃな……」

 

 

 

 濡れた鎧を身に着けたまま、勇者が近づく。

 地面に倒れる人なんて関係ないとでも言うかのように、幾人もを踏み超えてくる。

 

 マリーを狙って……ではない、俺かデルタを狙ってだろう。

 

 ……いや、違うな。

 俺の中にいる奴か、デルタの中にいる誰かを狙っているのかもしれないな。

 

 

「なあ、勇者。お前が言いたいことはなんなのか分からねえけど……とりあえず、お前をぶん殴りたい。マリーを禁忌で縛り付けたお前をぶん殴ってやりたい! だからまず先に、聞きたいことがある」

 

 

 ぶん殴る相手を間違いたくはない。

 

 だからこいつは―――――――。

 

 

勇者(おまえ)は、どっちだ」

 

「……ほう?」

 

 

 目の前にいる勇者が、黒髪を乱した女に見えた。

 何故だろうか。

 

 金髪で見目麗しい女性なはずのデルタが、蒼色の短髪な髭を生やした男に見えた。

 

 何故?

 

 俺の中で、あいつは……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 でもまあいい。どうせ俺の声が聞こえているんだろう。

 

 俺たちの様子を見ているんだろう?

 

 

「どうせ俺は弱いよ。何もできない弱くて周りにトラブルを起こらせるような馬鹿な子供だ。もっとやり方はあったはずなのに、みんなに迷惑かけてばかりで……」

 

 

 どうせ俺にはなんの力もない。

 ああそうさ。俺はいろんな人の助けを借りないと生きることは難しい。

 

 だから分かる。

 

 どうせここに俺がいたって仕方ないのだから……。

 

 

 

「なあ。さっさと俺を、喰らっちまえよ」

 

 

 俺なんていらない。

 俺がいるから、マリーは死にかけた。

 

 俺がいなくても世界はちゃんといつも通り過ごせるから。

 

 

「俺なんていなくてもいい。どうせ前世で死ぬはずだった命なんだ。なら喰われてもいい。それで誰かの命が救われるなら―――――」

 

 

 この厳しい世界で生き残るのは難しい。

 どこかで死んでいたかもしれない。

 

 命に理由が付くのなら。何かに価値が宿るというのなら。

 

 なら喰らわせてやるよ。

 俺がいても仕方ないから、必要な奴を呼んでやるよ。

 

 

 

『「ハッ――――」』

 

 

 

 ああ、笑ったのは誰だ。

 

 

「お姉さま―――――――ッッ!!!?」

 

 

 横に倒れて苦しそうにしながらも、手を伸ばしたマリーの姿が見えた。

 

 

 視界が明滅する。

 

 これは、喰われかける前に見えた走馬灯だろうか。

 

 

「そうだ、ナティシア。君は―――――」

 

 

 ノイズのかかった視界と声。

 ……これは、走馬灯じゃないな。

 

 普通なら前世での死にかけた公園を思い出すはずだ。

 

 普通なら、アルメリアとして生きた日々を思い出すはずだ。

 

 

 なのに、見えてきたのはよく分からないもの。

 

 

 

 水色髪の綺麗な女が笑っているような、変な夢だ。

 

 

 

「おい■■■、早速だが課題だ。あのイカれた教会に向かって火を放て。私は大量の油をぶち込んでやるから、死人が出ないように操ってみろ」

 

「だーかぁらぁ……なんでてめえはそういう危なっかしいことしか発想出来ねえんだよ! ってか失敗したらどうするつもりなんだ!?」

 

「そうなればほら、水を操るのに長けた彼に任せればよいだろう?」

 

「ほうほう、良いじゃろう! 姫さんの頼みじゃからのぅ! ■■■が馬鹿やらかしたら俺がこいつごと、ぜーんぶ水に流してやろうかの!」

 

「ああん? 水蛇野郎が今なんつったゴラァ!」

 

「おおっ? 飛べないドラゴンのくせにやんのかオラァ!」

 

「馬鹿な争いは止めなさいってのあんたたち……さっさと終わらせるわよ」

 

「ねえねえデルタ! 終わったらご飯食べに行こうね! いーっぱい食べれるところが良いな!」

 

「あんたはいつもそうよねこの掃除機ルナ!」

 

「吸引力だけが私の特技だからね!」

 

「はぁ……もういいだろ。―――――ほら、マリア」

 

「うむそうだな。さあ火を出せ、■■■。すべてを終わらせるぞ」

 

「おう」

 

 

 彼らのことを、俺は知らない。

 

 

 

「お姉さま。……マリア、お姉さま」

 

「ああ、貴様は――――」

 

 

 

 これは――――俺の知らない、誰かの記憶だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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