ナティシア ー平凡幼女はハードモードな世界を生きるー   作:かげはし

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62話 目覚め前の夢物語 前編

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ああ、またあの夢だと思える程度には、現実と夢の違いに慣れてしまったのだろうか。

 しかし、俺たちがいる場所はあの最初に出会った場所ではない。

 太陽も出ていないし、目覚めたらこの夢の記憶を思い出すことが出来ると断言できる程度にはおかしくなっている。

 

 いや、すべてが明らかに変わっていたのだ。

 

 満月が映し出された星空。

 しかし月の明かりだけでは足りず、ぼんやりと照らされた街灯と微かに流れる夜風が周囲の異様な空気を際立たさせる。

 砂場やブランコといった器具があるが、俺たち以外の生き物はいないため風景の一部としてしか成り立たない状態だった。

 

 前世で殺されたあの場所に、俺はいる。

 あの現実世界での公園の中心でドラゴンと対面している。

 公園の木々をなぎ倒し、いくつかの建物を潰すような形で俺を見ている光景に若干の遠い目をしつつだが……。

 

 

『おい、なんだその目は』

「会ってさっそく文句かよ。前世では有り得ないドラゴンがここにいて、しかも周囲をぶっ壊している光景はさすがに見ていたいようなもんじゃねえからな」

『ふん、神経質だな貴様は』

「お前がぶっ飛んでるだけだろうが!」

 

 

 いつもとは異なる夢の世界だというのに、ドラゴンは相変わらずだった。

 

 というか、夢のような世界でこの公園に来たのは二度目だが、最初に会った俺の姿をとっていた男はいないみたいだ。

 それにこの目の前にいるドラゴンがあの男というわけではないだろう。

 アレはドラゴンとは違って別の生き物だ。それだけは確実に分かる。

 

 ……いや、今はどうでもいいことだ。

 問題なのは気絶する前に見たあの記憶。そしてデルタや勇者が言っていたあの言葉。

 

 

「お前が俺の身体の中にいるっていう話だけどさ。お前いつから俺の中にいたんだ?」

『最初からだが?』

 

「はぁ? だってあの時……俺が村に戻ろうとしたときはまだいただろ?」

 

 

 あの最悪の記憶より前を思い出す。

 ドラゴンに遭って、急に怒り出して宝玉の光を見て―――――そして、ドラゴンと別れて村まで走っていた記憶を。

 

 ドラゴンはただ首を振って小さくため息を吐いた。

 

 

『物理的に中に入るわけではない。私の本体は別の場所にいるが、それ以外はお前の中にいる』

「はっ?」

 

 

 えーっと……つまりどういうことだ?

 

 

「身体が別にあって……つまりそれ以外っていうと……精神とかか? お前の精神が俺の中に入っていたということなのか?」

『ああそうだとも。あの身体は消滅させるわけにはいかぬのでな。肉体と魂を分離させてしまわなくては、守らなくてはならないものさえ守れなくなる』

「……あーっと、守らなくてはならないものってなんだよ?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 なんか急に話がぶっ飛んだような気がする。

 いやドラゴンと話している時点でもういろいろとぶっ飛んでいたと思うがな。

 

 でもどういうことだろうか。

 ドラゴンが……いや、ドラゴンたちが守り抜いた世界というのは……。

 ――――ふと考えてしまうのはこの夢の世界に来る前に見たあの断片的な記憶。水色髪の少女が、個性豊かそうな少年少女たちが笑っていたあの光景。

 

 

「デルタ、ルナ―――――マリア」

 

『っ! てめえ、その名をどこで知った!?』

「ひぅ……!」

 

 

 殺意が、ドラゴンの熱気が俺の身体に直撃する。

 息が出来なくなって身体が地面に崩れ落ちる。それでもドラゴンは俺に気づかない。

 

 苦しい。痛い。死んでしまう。

 このままじゃ……!

 

 

「やめ……くる、し……」

 

 

 俺の様子に気づいたかのように、ドラゴンが急に殺意を全て霧散させた。

 

 

『あ、ああ悪い。てめえに悪気はなかったな。だがどこでそれを知った? ……いや、オレと繋がっているからオレの記憶を見たんだろうな。他には? 何を見た?』

 

「はぁ……はぁ……なにも、みてねえよ……俺が見たのは、教会っぽい場所を燃やそうとしている場面だけだ」

『ああ、あれか……』

 

 

 懐かしそうにドラゴンが笑う。その雰囲気はあの偉そうなものではない。そういえばさっき聞いた口調でさえなんか違っていたような……?

 しかし若干寂しそうな雰囲気を漂わせているドラゴンに、俺は眉をひそめた。

 こいつが言った言葉に疑問を感じたからだ。

 

 あの記憶の中ではドラゴンなんて出てこなかった。見えたのは五人の人間たちだけだ。

 マリアという名の水色髪の少女。

 水蛇野郎と言われた黒髪の髭面な男。

 俺の知るデルタと同じ名の金髪の美女に、藍色髪の元気そうな……ルナと呼ばれた仔犬みたいな少女。

 

 そして、赤い髪の苦労人そうだが髭面の男と喧嘩をしていた青年だけだった。

 

 

「俺が見た記憶にお前がいるのか?」

『……ああ、そうだ』

 

「お前は……()()、だったのか?」

 

 

 ドラゴンは頷く。

 それが当然とばかりに、迷いなく俺の言葉に応えてくる。

 

 俺はその答えに何も言うことが出来なかった。

 反応さえ何も返せなかった。

 

 衝撃的な答えだというのに―――――何故かそれに納得できる自分がいたからだ。

 以前の夢の頃に言っていたじゃないか。

 こいつがあの宝玉の被害者だということを。人がモンスターへ変わる瞬間を見た俺が、このドラゴンが宝玉の被害者だというのに人間じゃないと否定することはできない。

 

 ルクレスさん達と同じだ。

 母さんと同じ被害者だ。

 

 ――――しかしこいつはそれ以外にも何か知っている。

 勇者とデルタが言っていた言葉の意味を理解している。

 

 ドラゴンは目を瞑り、何かを思い出しているかのように黙り込んだ。

 感じられるのは冷たい風だけ。ドラゴンが喋らない今は、ブランコが風で揺れて錆びた鉄部分がキィィっと不愉快な音色が出ていることと、木の葉が揺れる不気味な音ぐらいしか何も聞こえない。

 

 やがて、ドラゴンが口を開いて俺をまっすぐ見つめてきた。

 

 

『三つの卵の話を覚えているか?』

「ああ、天使が落とした卵のことだろ?」

 

 

 一つは真っ白。

 一つは白と黒。

 そして最後の一つが真っ黒に染まった卵のこと。

 

 

『それが始まりだ。世界が新しく生まれ直したのは、その三つの卵……否、()()()()()()()()()()()()

「はっ?」

 

『神代の頃は全てが複雑に絡み合っていた。人はモンスターでありモンスターは人であった。世界を飛び越えて他の世界へ行き来が可能であった。……しかし、それを知っている者はあの宝玉の終わりを見たオレ達以外にはいないだろう。すべてはマリアが消した事実だからな』

 

「い、いや! ちょっと待っていったん止めてくれ!!」

『むっ?』

 

 

 ドラゴンが首を傾けた。

 その衝撃で近くにあった大きな木の枝が地面に落ちていった。

 ドラゴンはどうやら混乱している俺に気づいていないらしい。しかしこのドラゴン、素の性格に戻ったら若干天然があるような……。

 

 俺は小さくため息を吐いてドラゴンを見つめる。

 

 

「……悪いけど情報が多すぎて分かりにくい。順序立てて話してくれねーか?」

『あ、ああ。うむ。そうだな。数千年もの間、一人であったからな。会話は得意ではないのだが……』

 

 

 呻き声を上げたドラゴンが、何かを閃いたかのように頷く。

 

 

『突然だが昔話をしよう』

「またそれかよ!?」

 

 

『これは必要なことだぞ? 今を知るには元の元凶となった大昔を知らなくてはならないからな』

「いや分かってるけどな!? なんかお伽噺を話されているような気分になるからやめてほしいって感じでな?」

 

 

『昔々。オレがまだ生まれる前のこと』

 

 

 急に始めやがったこいつ!?

 やっぱり素に戻ってきているよなこいつ! ムカつくのは同じだけどさ!

 

 

 

「なあやっぱり分かりやすく誰が敵かどうかを――――」

 

 

 

 俺の言葉を無視したドラゴンが、言葉を紡いだ。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「………………はっ?」

 

 

 

 

 

 いまこいつなんていった?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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