ナティシア ー平凡幼女はハードモードな世界を生きるー   作:かげはし

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63話 目覚め前の夢物語 後編

 

 

 

 

 

「ちょっと待て。待ってくれ……ここで、この公園で死んだって……どういう、ことだ……?」

 

 

 俺はここで死んだ。

 それはちゃんと覚えている。

 

 前世での最後の場所だ。幼馴染が俺を呼び出したあの場所。

 通り魔に襲われて刺されて殺された最悪の思い出。

 

 ――――――なのに、こいつが死んだってどういうことなんだ?

 

 

『ああ。そのままの意味だが……どうした。酷く汗をかいているみたいだが、何か気になることでも?』

「うぇ!? いや、えっと……」

 

 

 ドラゴンはどういう思いで俺を見ているのだろうか。からかっているのか?

 人間の表情とは違うから、俺をまっすぐ見つめてくるドラゴンが何を考えているのかよく分からなくなった。

 

 俺の記憶を知っているのか?

 俺が誰なのか知っているのだろうか?

 

 まさかとは思うが……

 

 

「あーっと、気になることがあってだな。……お前の名前を聞いてもいいか?」

『名前は……いや、最後まで話をしてからにするとしよう』

「で、でもな。名前は簡単に言えるはずだろ?」

 

『あれは私が死んだ直後の話だ』

「おい」

 

 こいつマジで俺の話を聞いてねえな!?

 

『私は異世界へ旅に出た。()()()()()()()()()。』

「うぐ……」

 

 

 あー……こいつ俺の何を知っているんだろうか。全部知っているのか?

 俺と精神が繋がっているとか、俺の中にいるとか言っていたしな。

 ……なんか怖くなってきたな。

 

 しかし、ドラゴンは何か懐かしいというような目で空を見上げているだけだ。

 ドラゴンは俺を見ていないのに、何故か心の奥底まで見られているような気分になった。

 

 こいつが俺と同じ転生者だとしても、俺とこいつには数千年の差がある。

 神代を生きたドラゴンと、まだ数年ぐらいしか生きていない俺は同一にはなれない。

 

 今の俺はただの人間で、こいつはドラゴンだ。

 もともと同じ転生者でも……。

 

 遠い目をしている俺に向けて、ドラゴンが小さく口を開いた。

 

 

『私が転生した場所は森の奥深く――――ドラゴンの血を引き継いだ一族の子として生まれたのだ』

 

 

 ドラゴンの言葉に俺は一気に我に返った。

 冷汗が流れる。

 

 そういえばと―――思い出す言葉があった。

 

 

「……ドラゴンの血を引き継いだ? ただの人間じゃなくって? ……宝玉の力でドラゴンになったわけじゃないのか?」

『ああそうだとも。もともとは人とモンスターは一つであった。人間の姿をしたモンスターであり、モンスターの姿をした人間であったのだ』

 

「……つまり?」

 

『むっ……察しが悪いな貴様は。貴様の仲間や家族にもいるだろう? ()()()()()()()()()()姿()()()()()()()()()()。人としての理性があるモンスター。あの状態が神代において普通であった。否、モンスターと人の姿のどちらにもなれたのだ』

 

「っ――――――!?」

 

 

 寒気がする。

 それは決して夜風のせいじゃないだろう。

 冷汗が頬から流れて、地面へぽたりと落ちていく。

 

 前々から言っていたドラゴンの意味不明な言葉を、ちゃんと理解したような気分だった。

 

 

「つ、まり……母さんたちの身体を、神代の頃の状態へ戻したっていうのか? 俺たちの細胞に、モンスターとしての力が眠っているのか?」

『ああそうだ。今はただ人とモンスターで大きく分けられたに過ぎない。もともとは一つだった。宝玉がすべてを同一化させていた』

 

 どういうことなんだろうか。

 同一化? 分けられた?

 

 もう何度も疑問に思ってきたことだが……こいつは、何を知っているんだ?

 

『宝玉には神代に流れる力がある。それを利用してあの大森林の村を実験台にしてきたのだろうな』

「実験台か……じゃあ、宝玉があったら俺も同じように……」

『モンスターになるであろうな。それに……あの実験で宝玉を正しく使う者はいなかった。人としての細胞が全て壊され、宝玉に無理やり力を注がれ命をリセットされて、神代の生命体の一歩手前まで戻されるだろうよ』

 

 

 鳥肌が立つほどぞっとする、おぞましい言葉だった。

 村で見たあの光景は……ドロドロに溶かされたアレは、人としての命が終わった瞬間だった。

 

 宝玉が、全てを変えてしまった。

 いいや違う―――――元に戻ったんだ。

 

 ドラゴンの言うように、神代の頃の生命体として。

 

 

「……母さんたちのあの状態が、神代では普通だったのか?」

『そうだ。だが神代にとってはそれが正しいとは言えなかった。今の貴様が生きる時代こそ通常の世界。神代は宝玉のせいで歪まされた世界でしかない』

「どういうことだ?」

『……今はただ、宝玉が元凶としか言えぬな』

 

 

 言いにくいことでもあるのだろうか。

 いや違う。ドラゴンにとって、俺が知ってはならないことがあるのか?

 話したくないのなら聞くことはできないだろう。だから諦めて別の疑問へ思考を回す。

 

 

「……ああ、でもまた宝玉か……結局あれはいったい何なんだ?」

『ふむ。……エネルギー体。生命体。とある管理者の宝物……つまり、巨大な武器だと思ってくれ。世界に多大な影響を与える武器だとな』

 

「あー……まあ、なんとなくわかった」

 

 

 本当に、最初から最後までずっと宝玉がからんできているよな。

 しかもドラゴンの説明を聞く限り、人をモンスターに変える力だけではないのは確かだろう。

 世界を変えるほどの巨大な力。それ以外にももしかしたら何かあるかもしれない。

 

 現時点で意味深なことしか言わないこいつがそれを喋るかどうかは分からないが……。

 

 

「それで、その宝玉のせいで歪まされた世界で……お前は何をしたんだ? 勇者は……あれは、一体誰なんだ?」

『ふむ……そうだな……』

 

 

 どう説明すればいいのかと悩んでいるのだろうか。

 空しか見ていなかったドラゴンがようやく俺を直視して、少々熱気のある息を吐いてきた。

 

 

『あのマリアという女が、宝玉を探していた。あいつは記憶喪失で……オレが生まれた村の外れで傷つき倒れていたんだ。あいつを治療した後に聞けば……ただ覚えていたのは宝玉を探せと言う言葉のみだった』

「んん?」

『まあ疑問に思うだろうが今は話を聞け、オレもマリアの話を聞いてどういうことだと思ったものだが、そのすぐ後に村が襲撃を受けてな。

 オレは流れるようにマリアと共に旅をすることになった。そこからだ。全てが始まったのは……』

 

「……村の外れで見つけて、襲撃か」

 

 

 ドラゴンの言葉に苦笑する。

 ドラゴンが人の姿をしていた頃にマリアという少女と出会ったころと、俺が村はずれのあの場所で傷ついたこのドラゴンに出会った状況が似ているように感じたからだ。

 

 たぶんこいつも同じように思っているのだろう。

 凄く馬鹿にしたような顔で俺を見下げてきたのだから。

 

 

『ふははっ、まるであの頃の私たちのようだな』

「うるせー! さっさと続きを話せよな!」

 

『ふむ。すべてを話すには長くなる……それにもう時間がない』

「へ?」

 

 

 どういうことだろうか。

 ドラゴンを思わず見上げてみたら、奴は空を見ていた。

 

 いつの間にか、空は少しだけ明るくなっていた。

 街灯が意味をなさないほどオレンジ色に輝く太陽が昇ってくるのが見える。

 

 

『見ろ。夜が終わり朝日が出てくる……つまり、お前が目覚める時間だということだ』

「はっ? いやいや待て! まだ話は終わってねえぞ! 全部話してから目覚めても良いだろ!?」

『それは無理だな。夢とは永久に見るものではない。いつか目覚めるときがくるものだ』

「いやでもな! ……じゃあまた会えるよな!? そん時に話せるよな!?」

『おそらく』

「いやそこはちゃんと断言しろよ!」

 

 

 何が面白いのか、ドラゴンがからからと笑う。

 笑い声に合わせて木の葉が揺らめいては散っていき、ドラゴンにぶつかった木の枝が地面へ落ちていく。

 

 早く。時間がないのなら話を聞かなくては……!

 

 

「お前は俺の身体の中に入っていったい何がやりたいんだ!?」

 

『宝玉の完全消滅。そしてあの女―――――最後に見つかった黒の卵、末の妹であるあの悪魔を倒すことがオレの目的だ。そのためには自由に動ける身体が必要だった……まあまだ貴様の身体の支配が追いついていないため、動かしにくいが……』

 

 

 こいつ俺の身体で何しやがったんだ!?

 

 

「あーもういい! じゃあ次! あの勇者は誰だ!?」

『勇者は勇者だろう。問題は奴の身体の中に入っている悪魔がいるということだけだがな。奴のせいであの男は性根を歪まされているのだろう。本来あったはずの正義が黒く染まりきっていたのが見えたからな』

「悪魔って……その末の妹ってやつのせいか!?」

『そうだ。それが世界において一部分の元凶だ』

「一部分!? ほかにもまだいるのか!?」

 

『それは――――』

 

 

 ああくそ。視界がぼやけてくる……。

 目覚めるっていう瞬間を自覚する。

 

 まだこいつに聞きたいことがある。まだ、話したいことがあるのに……!

 

 

「これだけは答えてくれ! お前の名前を知りたいんだ! あの時に……この公園で殺されたというのは、お前は―――――」

 

 

 ドラゴンはただ笑っていた。

 何も言わずに、笑っていたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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