ナティシア ー平凡幼女はハードモードな世界を生きるー   作:かげはし

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65話 水龍神国内部戦線 前編

 

 

 

 

 

 

 

「う……ぐ……」

 

 

 ぼんやりと微睡む思考がはっきりとしてくる。

 目をパチパチと開けて、見知らぬ天井を眺めた。

 

 デルタが用意した部屋だろうか。

 ガラスのような透明な天井から見えたのは海面の光。そして様々な魚たちが優雅に泳いでいる竜宮城のような光景だった。

 

 

「ドラゴンにあったような……」

 

 

 ああそうだ。

 嫌な夢を見たような気がする。

 

 いや違う。あれは夢じゃなかった。

 本当にドラゴンに会った。あいつと話をした。

 

 もしかしたらあいつは――――――。

 

 

「っ……うぉっ!?」

「シャー」

 

 

 なんだよこいつ! びっくりさせやがって!

 不意に目の前にデルタが連れていた蛇が俺の首筋に這い上がって顔面前に接近してきやがったんだけど、どういうことだよ!?

 

 ――――ってか、デルタがいないな?

 畳が敷き詰められた和風の部屋。十人ぐらいは眠れそうな大広間の真ん中に俺は敷布団を敷かれて眠っていた。静かな場所で眠らせてくれていたから誰もいないのか?

 でもマリーの様子からして彼女がずっと俺の傍を離れないようにすると思っていたんだけどなぁ。

 

 しかし、今は一人だ。

 いや一人と一匹か。

 

 あの月のような瞳が急接近して俺を見つめてくるから噛みついて来るんじゃないかと冷汗が流れるが、この蛇は俺の反応なんて関係ないとばかりにひたすら目を見てくる。

 

 

「シュー」

「……おーい」

「シュルル」

 

 

 ……そんなに俺の目が気になるのか?

 俺が首を傾けると、蛇も同様に少しだけ舌をチロリと出しつつ顔を傾けてくる。

 

 どうやらこいつは噛みつくようなことはしないし、攻撃してくることもないみたいだ。

 普通のとは違い、人と同じ理性を持った蛇だとは感じるが……。

 

 

「シュルルル」

 

「…だ、だからなんだよ急に」

「シャー! シャー!」

「はぁ?」

「シュー……」

 

 

 鳴いているだけじゃ分からないが、何か言いたいことがあるというのは理解できる。

 

 何故だろうか。

 こいつまだ駄目なのかというような残念そうな表情を浮かべているように見えた。

 小さくため息をついているようにも見える。

 

 ああでも本当に意味が分かんねえぞ。何でこいつを見るだけで苛立ちに近い感情が出てくるのかが分からない。蛇を見てるとぶん殴りたくなる感情なんて俺は抱いたことがない。

 

 もしかしてこの感情は俺のせいじゃねえのか?

 俺の中にいるというあいつのせいなのか?

 

 だとしたらこいつは……。

 

 

「水蛇野郎。海蛇野郎って……あいつ言っていたな」

「シュル……」

 

 

 不意に蛇の動きが止まる。

 

 それは俺の言った言葉が己自身、つまり蛇自身のことだと言っているような気がした。

 まあ少しだけ嫌な顔をしているのは……たぶんあの記憶の通りドラゴンと仲が悪いからだろうが……。

 

 

「……なあ、お前も転生者なのか?」

 

 

 この蛇があの記憶にある髭面の男であるのなら、あのドラゴンと同じかもしれない。

 俺と同じ境遇にいるのかもしれない。

 俺の幼馴染かもしれないドラゴンと同じで、この異世界へやってきた転生者なのだろうか?

 

 もしもこの蛇も同じならば――――。

 

 

 

「いいえ、違うわよ赤毛ちゃん」

「っ――――!」

 

 

 部屋の奥からやってきたデルタに肩をびくつかせる。

 蛇がしゅるしゅると俺の首筋からデルタの方へ移動をしていき、彼女の肩まで這い上がっていった。

 

 

「……このお方は貴方の知るドラゴンのような変わった異邦人ではない。あなたと同じ異世界から来た人間でもないわ」

「おい何でそれを知って……」

「あら、さっきあなたがそう言ったんじゃないの。お前も転生者なのか? ってね」

「っ……そんなデタラメな話を信じるのか? 異世界だなんて証拠もないような話を……もしかして、俺の言葉を簡単に信用する何かをお前は知っているのか?」

 

 

 そうじゃないと今までの行動の意味が分からなくなる。

 何かを知っているような態度をとっておきながら、実は何もなかっただなんてことないだろうな?

 

 デルタはただ上品に笑いつつ、俺の目の前に正座してきた。

 蛇は俺を見ているだけ。デルタと蛇が何か会話をしているようには見えない。

 

 

「あなたは一度だけドラゴンに肉体を支配されたの。だからこれで彼と近しくなったはずよ。ねえ、ドラゴンと話はした?」

「…………」

「ああ、話をしたのね」

「でも全然説明をしてくれなかったぞ。時間もなかったし……なあ、どういうことなのか話してくれないか?」

 

「うふふ……そうねえ。まずは国家が何をやろうとしているのかについて話さなくちゃいけないわね」

 

 

 デルタが笑って、人差し指を俺に見せてくる。

 

 

「まず一つ。国家はとある悪魔に乗っ取られています」

「……末の妹ってやつの事か?」

「ええそうよ。悪魔が裏から支配をして国を操っているのよ。欲の強い人間ほど彼女に飲み込まれているし、勇者なんてアレの生まれ変わりだから……」

「生まれ変わり?」

 

 

 転生者ということだろうか?

 俺やドラゴンと同じ、異世界から来た奴ってことか?

 

 そういう意味で問いかけると、デルタはただ首を横に振ってみせた。

 

 

「数千年前の神代を生きた者達。一部を除いて……彼らは輪廻に回って生まれ変わってきているのよ。勇者は神代において悪魔にとっての右腕も同じ強力な存在だった。私たちにとっては敵も同じ奴ってこと」

「へぇ……じゃあ勇者に記憶は……」

「あるんじゃないかしら? じゃないとあそこまで自我を喰われるわけはないわよ」

「そっか……」

 

 

 転生者ではあるが、この世界でのこと。

 国の英雄たる勇者が、神代にとってのかつての敵ってことか。

 まあマリーたちにやらかした件を見れば俺にとっては完全な敵に値するが……。

 

 そういえば、異世界からの転生者と何がちがうんだろうか。

 たぶんデルタもそうだよな? だってあのドラゴンの記憶の中にあったからな。

 そういえば……。

 

 

「……なあ、一部を除いてってなんだ? 何か例外が……その蛇の事か?」

「…………」

 

 

 デルタが急に真顔になって俺を見つめてきた。

 美人が笑顔を止めると急に怖いんだけど、俺何か変なこと言ったか?

 

 

「ええっと……デルタ?」

 

「……そうね。このお方は龍神様よ。でも()()()()()()()()。私が言った例外とはちょっとだけ違うわ」

「はっ? え、じゃあ例外って一体……」

 

 

「三姉妹のことよ。すべての始まりでもある……三つの卵から生まれた姉妹たち」

「シュー」

 

 

 蛇が何かを言うかのようにデルタの耳元で鳴き続ける。

 彼女はそれを聞いてようやく小さく微笑んできた。

 

 蛇の言葉が分かっているのだろう。彼女は蛇に向かって頷いてきたのだ。

 

 

「シュル」

「そうですね……ねえ赤毛ちゃん。昔々の話をしましょう」

「お、おう?」

 

 

 なんか最近昔話が多いような気がする。

 まあ始まりが神代だから仕方ねえと思うが……。

 

 

「神代の頃、そこには三つの卵があった。()()()()()()()()()()使()()()()使()()()()()()()。天使以外は天上界から去っていき、堕天使は生きる意味を探して彷徨い、悪魔は全てを憎んで復讐を誓った。三姉妹はすれ違い――――戦いが世界にまで及んだ。

 彼女たちは宝玉が作り上げたこの世界にて、永い眠りについた。しかしいつかは眠りから覚める。それが例外よ」

 

「……まさか」

 

「ええそうよ。悪魔は眠りから目覚めて国家を支配しているわ」

「い、いやちょっと待て! じゃあ他は!? だ、堕天使とか天使とかは目覚める可能性があるのか!?」

「シャー!」

「まだ分からない。それは彼女たちに近しい位置にいたドラゴンにしか分からないわ。でもね赤毛ちゃん、これから先一番の問題はなんだと思う?」

 

 

 ああ、嫌な質問だ。

 だがどういう答えなのかはすぐにわかる。

 

 

「……悪魔が好き勝手しているってことだろ」

「そうよ。そして人をモンスターに変えて、宝玉の力を悪用し……世界を変えようとしているのが一番の問題なのよ。かつての神代の頃のようにね」

 

 

 蛇が小さく鳴いて空を見上げた。

 海面しか何も見えないというのに、蛇は何を考えているのだろうか。

 

 デルタは何も言わずに俺を見た。

 

 

「私たちの敵は国家。末の妹たる悪魔よ」

「まあ国家が悪いのは分かっていたことだけど……」

「国家の一部の人間しか宝玉の力を知らないわ。だから今が一番チャンスなのよ。そしてあの子を救うための……ね……」

「あの子?」

 

 

 俺の声なんて気にせずデルタは口を開く。

 

 

「様々な国と戦争していている今しかないの。事が世界レベルまで大きくなりすぎる前にさっさと原因を排除してしまわないといけないわ」

「……どうやって?」

 

「私の愛しい子供たちがやってくれているから問題は――――――」

 

 

 

 デルタの声を遮るように、地面を揺らがすような轟音が発生する。

 

 誰かの声がした。

 いや違う。マリーの悲鳴が聞こえたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

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