ナティシア ー平凡幼女はハードモードな世界を生きるー   作:かげはし

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66話 水龍神国内部戦線 中編

 

 

 

 

 

 

 騒動が起きる少し前―――――。

 

 深海より奥、竜の間の一部屋にマリーとデルタがいた。

 まだアルメリアが眠っているため、マリーは彼女の傍に居たいのだが、それをデルタは部屋から出ることを禁じていた。

 無理やりマリーがアルメリアの元へ行かないようにと、わざわざ出入り口を水で塞いでいたぐらいだ。

 

 マリーはデルタを睨みつける。

 膨れ上がる感情が攻撃へ変わろうとする。

 しかし衝動は何故か全てしぼんでいく。

 

 マリーに無理やりつけられた首輪のせいだろうか。まるで拘束具のようで過去のことを思い出し気分が悪くなるというのに、大きな感情が出てくる瞬間に消えていく。

 怒りがなくなる。恐怖心が消える。

 

 感情が洗い流されていくと言えばいいのだろうか……。

 しかしやはりアルメリアがいない状況は、何度感情が揺れ動こうとも変わることのない大切な事実。

 

 マリーはデルタを睨みつけ、大きな口を開く。

 

 

「なぜですの!? 何故お姉さまの元に行ってはならないのですか!?」

「それが必要な治療方法だからですよ。あなたの禁忌は奥深くまで刻まれ過ぎているから、それを洗い流すために必要な行為なのよ」

 

 

 デルタが示したのは心臓の部分。

 どういうことなのか分からず戸惑うマリーに対して、彼女はただ深くため息をつく。

 

 

「禁忌は己の理性を欠けさせて人でなくしてしまう行為です。神代の頃からあった悪魔に近づく方法。このままではあなたは宝玉の力のせいではなく、本当のモンスターになってしまいますよ!」

「で、ですが……」

「アルメリアはいわば禁忌を加速させる禁断症状の一つ。……あなたの場合は、彼女と離れることが出来て、今までの過去を反省し、原因である勇者を倒せば禁忌はなくなります」

「っ―――――」

 

 それは、マリーにとって衝撃の言葉だった。

 禁忌はもう死ぬまでなくならないものだと思っていた。

 それが普通のことだ。だから国家はマリーのことを犯罪者とした。そうマリー自身は考えていたのだから。

 

 デルタは母親のように優しく微笑んで、マリーの頭を撫でる。

 

「あなたの人としての寿命は13年にはなりませんよ。ちゃんと長生きできます。禁忌さえ取り除けば……ね?」

 

 

 マリーは何も言えない。

 だって寿命が延びればアルメリアと共にずっと傍に居られるかもしれないと思っているからだ。

 しかしその考えが間違っていることも彼女は理解している。

 

 だからただ、その場は不安定な感情を隠して小さく頷くだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 マリーの悲鳴に気づいたデルタが駆ける。

 そのあとを追って、俺も走り出す。

 

 襖の引き戸を開け、様々な扉がある廊下を通っていく。

 一定の距離で蝋燭が設置され、明かりが灯されている光景は少し不気味さがあった。

 天井がガラスで出来ており、海面と様々な魚が泳いでいる光景はじっと眺めていたいと思えるほど神秘的だったが、前を走るデルタの様子からして、それどころではない。

 

 くそっ……まだ足が短いから、歩幅が合わねえ!!

 

 

 息が上がる。

 走ってはしって―――――。

 

 奥の扉を開けたデルタが何かを見て険しい表情を浮かべたのが見えた。

 

 

「なん、だ……あれ……」

 

 

 ここはきっと、深海のあの場所ではない。

 竜の間の奥に位置する場所なんだろう。

 

 ―――――ある意味ここは、国王の城だ。

 

 

「お姉さまっ!」

 

 

 俺に向かって手を伸ばすマリーが、屈強な男に腕を掴まれて身動きができない状態であった。

 若い男女の……神国の住民たちが三本槍を手に国王に武器を向けていた。

 

 つまりこれは―――――。

 

 

「……何をしているのです。あなたたち!」

 

「決まってんだろうが! 俺たちはあんたのやり方について行けねえ! 俺たちは国家に浜辺を売り渡したあんたの冷酷さと、住民をどうとでも思っていないあんたのやり方を頑固拒否する! 俺たちは俺たちのやり方で国を守る!!」

 

 

 どういうことなんだろうか。国家に浜辺を売り渡した?

 デルタを思わず見れば彼女はずっと険しい表情のままだ。

 

 殺意と武器を向けられて普通の人間なら恐怖で身体が震えるところだが、彼女は何も感じていないかのように振る舞っている。

 不意に、険しい表情を止めて優しげに微笑んだ。

 

 まるで子供が悪いことをして、それをきちんと躾する母親のように……。

 

 

 

「まあ、そんな。何を言うのかと思っていたら……この私に武器を向けることがどういう意味なのか分かっていてのことかしら? 覚悟はあるの、わが愛しい子たち?」

 

「当たり前だろうが!」

「あたしたちが国を変えるのよ!」

 

『国家に復讐を! 浜辺の奴らへ弔いの復讐を!』

 

 

 男女の声が怒りに支配されている。

 様々な殺意をもって、怒鳴り声が聞こえてくる。

 

 

「そうですか、国を変える……ねぇ?」

 

 

 蛇がデルタに巻きつく。

 複数の男女に武器を向けられているデルタが、胸を張って微笑む。

 国王としての威厳をもって。

 

 誰もが委縮するほどの声と雰囲気を漂わせて。

 

 

「わが名はデルタ。水龍に見初められし巫女にして、女王としてこの国を守る女です。あなたたちが何を言っているのか分かりませんが、この私に武器を向けるということは――――神に向けるものと心得なさい!!」

 

 

 何処から発生させたのだろうか―――――復讐を誓っている怒りに満ちた彼らの頭上に向かって水が降り注ぐ。

 突然の水に武器を持った男女たちが目を丸くして女王を見た。

 

 

「……あれ、なんで俺」

「私、なにしてんだべ?」

 

「……ん?」

 

 

 何故か武器を取り落した男女が、きょとんと目を丸くし、ぼーっと周りを見つめていた。

 しかしすぐに我に返って地面に落ちた武器を拾い上げ、女王であるデルタを睨みつける。

 

「もうっ! なんなのですか! ああ手を離してくださいまし! お姉さまの元へ行きたいのに!」

「マリー……」

 

 マリーは別の意味で怒りを抱いているようだが、男は手を離そうとしない。

 彼女を捕まえている男は周囲とは違って何故か真っ白の長袖長ズボンを着ており、水が降り注いでも動じることはなかった。

 

 それにデルタが笑った。

 

 

「お前は国王にふさわしくねえ……おめーは、そこにいて良い人間じゃねえべ!」

「カイリ! 気ぃつけろ!」

 

「ああっ」

 

 

 一番前にいる男が三本槍を捨て、素手で女王を睨みつける。

 

 

「大切な人たちを殺したおめーを絶対に許さねえ。浜辺を売り渡したお前を許さねえ! 俺はお前をぶっ潰してやる!!」

 

 

 

 

 

 

 

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