ナティシア ー平凡幼女はハードモードな世界を生きるー 作:かげはし
「お前のせいで浜辺にいた俺たちの大切な友人たちが死んだ。お前が勝手に奴らと取引をして、そのせいで浜辺は国家に奪われたんだべ!」
「いいえ違うわ。我が国は国家と契約を交わしてはいません。あなたは嘘をそそのかされているのよ!」
「馬鹿言ってんじゃねー! 俺の……ガキの頃からずっと一緒にいた大切な友人が、俺に嘘をつくわけねーだろうが!!」
触れば殺すという殺意を目に込めて、彼はデルタを睨みつけている。
人の怒りというものがこんなにも恐ろしいものだとは思えないほど、あの男――――カイリの殺意は強く凶暴に見えた。
まるで猛獣……いや、海の中で暴れまわる鮫だ。
カイリが武器を持たず素手でデルタと対面しているのが本気度を感じ取れて何故か背筋がぞっとした。
国の王に向かって殺意を向ける行為は、この世界においてどれほど凶悪なものなのだろうか。
神国において国王というのは神に等しい人なんじゃないのだろうか。
蛇が神だからか?
デルタは王族であるだけで、あの蛇の言葉を紡ぐ代行人のような存在だからなのか。
というよりもおかしいと思う。
デルタが国民の人たちをないがしろにしていたわけじゃないだろう。
それに王に従えないほどの怒りを抱くような行為なんて、デルタはやらかしていないはずだ。
―――――デルタは国民たちのことを愛しい子と言う。
それがどういう意味が込められて言っているのか分からない筈はない。
実際にデルタのすべてを知っているわけじゃない。
あのカイリという男が知るデルタの一面があるかもしれない。男が言う通り、本当に国家と取引をして浜辺を犠牲にしていたとしたら、それは怒りを抱くのは当然のことだ。
だが、俺が知るデルタはそんなことをする奴じゃない。
力も何もない俺が止められるか分からないが、マリーが捕まっている以上は何もしないわけにはいかないだろう。
しかし……どうしたら……。
もう一度俺をあのドラゴンに喰わせるか?
でもあの時はなんとなく出来ると理解できていたけれど、今は全く出来るような気がしないんだが……。
「赤毛ちゃん。あなたは下がりなさい」
「えっ?」
不意にデルタが俺を見て微笑んでくる。
武器を持って攻撃して来ようとする国民たち、睨みつけてきているカイリを恐れていないみたいだ。
それに苛立ったのだろう。
カイリが一歩前へ出てきた。
「おめーは絶対に許さねえ! 浜辺の奴らの恨み。あいつらの家族の分の恨みを俺が背負ってお前にぶつけてやる!」
カイリの歯が急に鋭くなる。
爪が伸びて尖っていき、背中に尾びれが生えて肌のいたるところに鱗が出来始める。
そんなカイリの急激な変化がスイッチになったのか―――――半裸である彼らの姿が、一気に変化していく。
ただし、マリーを捕まえている長袖長ズボンの男は何も変わってはいない。
……というかちょっと待て!
「いやいやいや!? あいつら人間だよな!? 宝玉の被害者でモンスターに変化している途中とかじゃないよな!?」
「ええそうよ。だってここは海の底。真の名は竜宮ノ城に連なる者達ですもの。
地上――――浜辺に土地を作り上げて他の国と交流するのは稀の、神代の頃を生きたままのほぼ閉鎖国家が本当の姿。神代の時代はモンスターと人間の姿が両方あった。彼らの肌はそれを覚えているのよ」
「……ああ、そうか」
覚えている。
あの時のあの公園。
ドラゴンではない男が話していた。
そうだ。夢の中で死ぬ前の俺の姿をとっていた謎の男が言っていたじゃないか。
神国は大昔の神代の影響が残った場所だと。
だから覚悟だけはしておけよと……。
どういう意味なのか分からなかったが。そうか。
つまり、国民全員が神代の力を持っていたということか。
「逃げなさい赤毛ちゃん。マリーちゃんは私がどうにかして逃がしてあげるから」
「いやだ。俺はここにいるよ。邪魔にならない程度にいる。攻撃できるならやってやる」
「うーん……まあ、すぐ終わらせればいい話よね……龍神様、赤毛ちゃんが変なことやらないように見張っていてくださいますか?」
「シャー」
デルタの肩から俺の首筋に蛇がするすると移動していく。
冷たい感触が首にひやりと当たってちょっとだけくすぐったい。
しかし、身をすくめるようなくすぐったさよりも、蛇の目線の方が気になる。
「シャー」
「……なんだよ」
俺をじっと見つめていた蛇が不意にそっぽを向いてデルタの方を見上げた。
カイリ達の変化は未だに続いている。
メキメキと、骨が変異しているように見える。まるでモンスターへ変わってしまう前のあの悪夢に近しい行為で少し目を逸らした。
細身の体が巨体になっていく。
肌の色が海のような淡い色へ変化する。目が鋭くなり、怒りで咆哮がいたるところで上がっていく。
こういうのを見ていると疑問に思うことがあった。
「……神代の力を持っていても国家に敵わなかったのか?」
「そうねぇ……勇者がいなきゃ私たちの勝ちだった。海の中は私たちの方が格上だもの……でも、海の魚は堕ちた女神にはかなわないモノよ」
小さくため息をついたデルタが、こちらを見ずに言う。
「さて―――――ここから先は絶対に手出しは厳禁よ。赤毛ちゃん」
「はっ?」
デルタは笑う。
変化して大きなサメが人間のような姿をしたカイリが牙をむいて彼女に噛みつこうとしていく。
武器を持つモンスターに近い人間の姿をしている男女が、デルタに向かって攻撃していく。
「うふふふっ」
彼女はただ笑って、