魔法科世界に禁書魔術で挑みます!   作:Natrium

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長らくお待たせしました。

おねショタ好きのお前ら! 喜びたまえ、盟約の日はようやく来た。
(訳:おねショタ成分が薄すぎるので基準量の十倍くらい入れ込んでしまいましたごめんなさい)


キャラ崩壊注意。
それに関して反省はしていない。そして、後悔もしていない。


第十話

 1

 

 

「……ん、ぁ」

 

 カタカタとした静かな作業音をきっかけに、紗耶香の意識は覚醒した。

 

「こ、こは……?」

「あ、目が覚めた?」

 

 一面に広がる純白の中に、天使のような少年の顔が上下逆さまに浮かんでいた。

 いいや。問題があるのはむしろ紗耶香の視点の方なのだろう。

 だが、自分が今どういう姿勢になっているのかも、どこにいるのかも分からない。

 少年はそんな様子の彼女の顔を一瞬見やって、すぐさま元の作業に戻ったようだが、目を覚ましたばかりの紗耶香には、この状況について行くことは難しかった。

 

「どうして、牧原くんがここに……」

「…………記憶の混乱、かな。後遺症を残すような攻撃はしなかったし……。まぁ、改竄された記憶との混線が原因だろうね? しばらく待てば正常な状態へ移るはずから、もう少しの辛抱だよ?」

「……? ??」

 

 利用した理論は大本をたどれば、洗脳技術の延長線上にあるものである。

『木原』であれば間違いなく——それも、凶悪度を数段階跳ね上げたうえで——悪用したであろうが、先ほどまでの『彼』は『医師』であったのもまた事実だ。

 それだけで、悪辣な技術が救いのための()()に書き換わる。

 () () () ()』という人物はそれを成し遂げるほどの、一種の強さを持っているのだ。

 

「……あぁ、心配しなくてもいいよ。仮に恒久的にその症状が続いても、必ず僕が治してあげるからね? それこそ、残りの人生のすべてを賭けてでも。絶対に」

 

 彼の発言を聞き取り、理解することは叶わなかった。単に寝起きで頭が働いていないのか、あるいは記憶の混線(きおくのこんせん)とやらが原因なのか。彼女には分からなかった、が。

 それでも、幼い手付きで優しく頭を撫でる感触は、はっきりと感じ取れた。

 小さい温もりであったが、全身を包み込むような暖かさを持っており、非常に心地が良い。

 それを意識したと同時に、自分の中で何かが芽吹こうとしていた。

 いっそこの子に私のすべてを委ねてしまいたい、と……いや違う。むしろ、この子のすべてを私が

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「小学生に頭を撫でられる高校生……ッ⁉ ダメよ紗耶香こんな光景誰かに見られたらっ‼」

「きゃっ⁉」

 

 

 

 

 

 

 

 ガバァッ⁉ と。

 危うく残念キャラが定着しそうだった剣道美少女こと壬生紗耶香。再覚醒の時間であった。

 幸いにしてここは屋内。簡単に見渡しても、周囲に人の影はない。

 しかして剣道で培われた気配察知スキルをフル活用してまで、紗耶香は索敵を継続した。

 どうやらショタコンギワクな彼女は、噂の元凶はすべて根切るつもりでいるようだ。

 

「あら、ごめんなさい牧原くん。驚かせちゃったかしら?」

「べ、別に大丈夫だよ。……気にしなくていいからね、お姉ちゃん」

 

 呟きに対して、牧原は気丈に振舞いながらそう答えたが、口調はわずかに震えている。

 普通なら気づかれないであろう小さな動揺だった、が。目覚めた目が覚めた彼女の前では関係なかった。

 非常に小動物でキューティクルな一面を新たに発見して、内心ご満悦な少女曰く、

 

「そう? ふふ。ならふふ良かったんだけどうふふふふふ」

 

 もはや彼女は手遅れなのかもしれない。早急に元の道へ引き戻さなければ、原作カップリング崩壊へと繋がってしまうのだが、しかし。

 何か悪寒のようなものが走り抜け、更に震える牧原縁の爆誕を以って、ここに悪魔のループキャストシステムが完成した。完成してしまったのだ。

 

「あらふふ」

「ふにゃぁっ⁉」

「あらあらうふふ。どうしたの牧原くん、そんなに震えて」

「ひ、ゃぁ……なん、でもない、よ? ちょ、ちょっと寒気がしただけひぎぃっ⁉」

 

 先ほどから女の子のような悲鳴を上げる牧原。早くも理性の限界が来た。

 骨髄の中にミミズが入り込むかのような特大の悪寒が、彼(?)の背筋に走り、

 そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なでなでぎゅうなではぐはぐぎゅぅぅぅっ‼‼‼ と。

 直後に、本能的な母性の音が連続した。

 

 

  2

 

 

 

 

 パシンッ‼ と。

 古典的なツンデレヒロインの音が一つ。

 

 

 

 

 3

 

 

「い、痛たたたたたた……」

 

 壬生紗耶香、もはや猛省するほかなかった。

 

「ふんっ、お姉ちゃんなんか知らないもんね‼」

 

 骨折ダメージを負っていたのに気合で体を動かした彼女は、自業自得の苦しみを味わっていた。

 何を馬鹿なと思うかもしれないが、気づいていたら身体が動いていたとは本人談。様々な意味で処置を急がなければ、かなり後が危うい。

 しかし、少し怒った口調で話す牧原の顔は、それはそれは真っ赤に染まっていたのだ。

 

(これは定期的に実行するしかない いや実行しなければならない……ッ‼)

「お姉ちゃん?」

 

 子供にしか分からない第六感で何かを感じ取ったのか、わざわざ釘を刺す牧原。

 実にドンピシャであった。

 と、ここでショタコン何かに気づく。

 

「あら、縁きゅん何隠してるの?」

「っ⁉」

 

 理性が萌え死んだためか、若干本性が見え隠れしているようだが、牧原はそれに気づかない。どうやら、それどころではない様子だが……。

 

「っ? 何のことかな、別に何も隠してないよ」

「そう、(しら)を切るのね? ふふ、それはこちらにとっても好都合……」

「好、都合……?」

「げふんげふん。とにかく、隠してるものを見せなさい。具体的にはその分厚い上着を脱いで中に隠しているモノを見せて欲しいと言いますか!」

 

 こんな調子ではいつ覚醒したことがバレてもおかしくはないが、紗耶香は恐れなかった。

 さっきチラッと見えたものの価値と比べると、自身の風評など安いものなのだ‼

 

「ほ~ら早く脱ぎ脱ぎしなさい。そ・れ・と・も、お姉ちゃんが手伝ってあげましょうかぁー?」

「っ、お、お姉ちゃん? 待って、今はダメだって‼」

 

 ここぞとばかりに暴走を続ける残念系剣道美少女。

 嫌がる美幼女を無理やり剥ぎ取るその様相は、さながら悪代官のようでもあったが、彼女の信念が揺らぐことはなかった。むしろ、KAWAIIは全世界全時代に共通する正義なのだから!

 そして、力の強さでは紗耶香に敵わない。そんなあたりまえな常識を牧原が再確認する中、ようやく彼女にとって待望の展開がやって来た。

 

「きゃんっ⁉」

「あらぁ?」

 

 ぷつんっと無慈悲な音を立てながら、最後のボタンが外れてしまう。

 まだ灰色のワイシャツが下に残っているため、ほっそりとした胸板が外気に晒された訳ではないのだが、問題の本質はそこではなかった。

 

「これは……何かなぁ? 何のために使う物なのかなぁ?」

「っ、ちが、それは……」

「んっふっふ~、何が違うのかな、縁くーん? お姉ちゃんウィードだから何にも分かんな~い♪」

 

 牧原の懐から奪われたその小物入れが、半透明のポリビニル製だったことも災いしたのだろう。

 とにかく、見つかってしまった。

 急いで片づけたのか乱雑に詰め込まれた『それ』が、彼女に見つかってしまったのだ。

 すなわち。

 

「うふふ、お人形遊びの趣味があったのぉ? 言ってくれればいつでもどこでも手伝ったのにぃ♪」

「っ、く……」

 

 その反抗的な目つきも実に良し。

 と、ショタコン剣士は新たな属性くっ(ころ)萌えを会得した。

 いろんな意味で逆だろ、と突っ込む余裕などとうに存在していない。

 

「違う……、そんな女の子みたいな趣味は持ってない!」

「ふーん、そっかそっかー。持ってないのかー。本格的な家具のセットすら用意しておいて持ってないと申すのかー」

「持ってないもん‼」

「も~、ムキになっちゃって可愛い~」

 

 再び抱き着く暴走小町。アクセルべた踏みの全速力で迷走を続けている。

 誰か止めて差し上げろ。

 

「こ、これは……その、ほら……」

「うんうん、ちゃんと言い訳は聞いてあげるから、拗ねないでね?」

「っ……えぇっと、なんて言えばいいのかな……?」

「んー、何かなぁ?」

 

 キラッキラした目でショタっ子の言葉を待つ変態は、過去一番輝いていた。

 恐らくは剣道で全国二位に食い込んだとき以上の輝きを、彼女は放っていたのだ。

 言い訳を大人げなく論破されて、涙目になった少年を堪能することを期待しながら。

 

 しかし一方で牧原縁。

 彼女の考えとは裏腹に、(ひそ)かな趣味がバレてしまったから言い訳を考えているのではないらしい。

なぜならば。

 

(回復魔術に必要な触媒だ、なんて言える訳がないじゃん‼)

 

 実に簡単な理由であった。

 現代魔法を使った治療では、即座に傷を完治させることはできない。

 しかし、魔術なら別だ。どんな傷でも一度の行使で塞ぐことができる。

 僅かに見えて、この差は大きい。

 この魔術が普及すれば、戦闘で傷ついた兵士を、戦場に即座に送り返すことも可能になるのだから。

 それだけなら良いことづくめのように聞こえるが、実際にはそう上手くことは進まない。

 

 恐らく国防軍に詳細を調べられ、いずれは他の魔術の存在まで明らかになるのだろう。

 そして、その最中に情報が漏洩してしまう恐れもある。

 ()()()()()()()()()使()()()という、社会基盤を揺るがしかねない情報が。

 

 だから、他の魔術と違い、魔法ではあり得ない現象を起こす回復魔術の存在は、どうしても秘匿しなければならなかった。

 もし秘密を教えてしまえば、彼女の身に危険が迫るかもしれないのだから。

 なのに。

 なのに‼

 

 

「ふっふー思いつかないなら早く白状しちゃいなさいな。私は女の子な趣味を持つイケナイ男の娘なんです~って」

(この野郎やっぱり情報叩き込んでやろうかこのクソ馬鹿お姉ちゃんがァ‼)

 

 

 なんて一瞬考えてしまったが、今後のことを考えると、国家からの干渉を受けにくく、情報に関して責任を持てる――それこそ、十師族のような存在以外には黙っておくべきだろう。

 ここで口を割る訳にはいかない。

 しかし相手も粘り強かった。

 

「ほーら準備は整ったかなぁ? 早くこのカメラに向かって言いなさい♪ さーん、にーい、いーち、はい♪」

「…………………………………………………………………………………くたばれショタコン」

「ふぁぐぅ……その表情も良いよおぉぉ。ゾクゾクしちゃう♪」

 

 もはやお前誰だと言わんばかりの変貌だが、別に何にも憑かれてない。

 多分これは再生された記憶が妙な結合をして、一時的に暴走しているだけなのだ。と、牧原は考えて……いや、願っていた。

 

「……まぁ、反抗的なのもいいけどぉ、やっぱり羞恥に悶えてるほうが好きかなぁ? だから、さっきのセリフを言うまで逃がしてあげませーん!」

 

 これが本性だというのなら、実にすぐさまお引き取り願いたい。第三の領域(バックステージ)にしばらく潜って、一匹殺しても十億倍に増える変態と戯れてきて欲しいものだ。

 腰の上で手足を振り回す暴走列車とは意地でも目を合わさずに、牧原はそう考えた。

 

 というか、貴様肋骨折っていた筈だろ何で動けんだ馬鹿なの死ぬの変態なの⁉

 流石にこの短時間で骨が繋がったとは考えにくいが、変態の身体の構造は『木原』でも解明できないほどファンタスティックな代物である可能性が遺憾ながらも高くなってきた。

 そのような常識は捨てたほうが身のためなのかもしれない。

 

 だが、そんな馬鹿なことはあり得ないだろうが万が一に億が一に、肉体の悲鳴を無視して身体を動かしているのなら一大事だ。

 それこそ、回復魔術を使わなければならない事態に陥っているかもしれない。急いで治療せねば。

 

「はーい、二回目のチャンスね。これを逃したらお姉ちゃん、何するか分からないよぉ? いいのかなぁ?」

 

 どうやって治療をしようかと考えていたが、

 そのとき、走馬灯のように記憶が流れ込んできた。

 

「さーん♪」

 

 これは……生徒会室?

 …………。

 

「にーい♪」

 

 ……。

 ふむ。

 

「いーち♪」

 

 そして。覚悟を決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゼ

「わ、私は……小学生でも恥ずかしがるお人形遊びが大好きな、みじめな男の娘です。どうか、こんなイケナイ男の娘にお仕置きしてくださ、い……」

 

 

 

 

 

 

 演技しなくとも赤面は勝手に出た。

 あわきん特攻霊装の効果は果たして……ッ‼

 

 

 

「ふ、ふふ…………ふ、………ぁぅ」

 

 

 

そして彼女は三度目の『覚醒』を迎え、直後に昏倒した。




Q:人形回復魔術?
A:一巻のょぅι゛ょせんせー魔術です

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