魔法科世界に禁書魔術で挑みます! 作:Natrium
そして、お待ちかねの戦闘回です。
反魔法国際政治団体、ブランシュ。
魔法能力による社会差別を根絶することを目的に活動する組織である。
『全校生徒の皆さん‼ 僕たちは学内の差別撤廃を目指す有志同盟です』
『僕たちは生徒会と部活連に対し、対等な立場における交渉を要求します』
彼らはスローガンとして『社会的差別の撤回』を掲げており、魔法師の所得水準が一般より高いことを強く非難している。
市民活動として様々な反魔法活動を行っているが、それは表向きの理由だ。
『おい牧原、お前はさっきから何をぶつぶつ言ってるんだ?』
『(で、電子ロック……ッ⁉ そんなの聞いてないよ浜面お兄ちゃん‼)』
その実態は、大亜細亜連合に使嗾されたテロリストである。
日本では報道規制が行われており、名前が表立って報道されることはないが、警察省公安庁からは厳重にマークされていた。
『お前たちの言い分は聞こう。だがお前たちの要求を聴き入れること事と、お前たちが執った手段を認める事は、別の問題だ』
『それはその通りなんだけど、彼らを放してもらえないかしら。壬生さん一人では、交渉の段取りもできないでしょうし……ね?』
今回の事件の発端は、そのブランシュの日本支部長である
『私の任期はまだ半分が過ぎたばかりですので、少々気の早い公約になってしまいますが、できる限りの改善策に取り組んでいくつもりです』
片や大国をスポンサーにした反魔法組織。
片や日本を代表する魔法師育成高等学校。
———両勢力の衝突が今、幕を開けようとしていた。
1
生徒会長の演説に、一科生も二科生も関係なしに拍手が送られる。
彼女が訴えたのは差別意識の克服だ。
当然、納得できるものでは無かった。エガリテを扇動した、背後に潜む者にとっては。
轟ッッッ‼‼‼ と。
突如発生した爆風で、講堂の窓ガラスが不気味に
全生徒が混乱状態に陥る中、冷静に行動している者が十数名。
ブランシュの下部組織、エガリテの構成メンバーだ。
「委員長っ!」
「取り押さえろ‼」
摩利の号令で風紀委員が一斉に動き出し、各々定めたターゲットを確保しに行く。
普段まともに訓練していないとは言え、やはり治安維持組織。
どちらが優勢であるかなど、言うまでもなかった。
しかし、騒ぎはここで収まらなかった。
窓ガラスをパリンと割り、飛び出してくる落下物が一つ。
よく見ると、紡錘形であり、表面にも小さな穴がいくつか確認できたであろう。
「……ガス弾か⁉ 煙を吸い込まないように‼‼」
服部の声が講堂内に響き渡り、直後。
放出されたガスが不自然に収束し、ビデオの逆再生のような動きで講堂の外に吹き飛ばされた。
そして。
ッッドン‼‼ と大扉が蹴破られ、ガスマスクを付けた男が三人侵入してくる。
しかし何もできず、糸が切れるように倒れ伏せた。
収束系魔法、MIDフィールド。摩利がマスクの中に窒素を充填し、意識を奪ったのだ。
場の安全は確保した。次は脅威の排除だ。
「っ、実技棟に……いや、図書館が⁉︎」
小さく響いたのは、とても高校に通っているようには見えない少年の声。
何らかの術を行使したのか、外の状況を詳しく把握しているようだった。
「摩利お姉ちゃん、外の様子を確認してくる‼」
「気をつけろよ!」
摩利の声に小さく答え、駆け出していく少年。
どうやら実技棟を経由してから、図書館に向かうらしい。
魔法科高校の、真の意味でのイレギュラー。
牧原縁の初陣の火ぶたが今、切られることになった。
2
「靴底と路面の間に水を張り、滑るように高速移動する。これが、ウィリアム=オルウェルの魔術なんだよね……ッ‼」
牧原の瞳が不規則に揺れ、ルーン魔術が発動する。かつての後方のアックアが、学園都市で使用していた術式である。
疾走。
伝説の傭兵をトレースした少年は、戦禍を止めるために駆ける。
実技棟まで残り十五メートル。
目を走らせると、レオが大立ち回りをしているのが確認できた。
「うぉぉぉぉっ、オラァッ‼‼」
敵の魔法師三人を相手に、善戦するレオ。
二科生であるが、どうやら実戦には強いようだ。
しかし、その均衡状態も一瞬で崩れることになった。
「レオお兄ちゃん!」
叫びと共に発動するのはソーロルム。
武器を利用した攻撃をおよそ十分間、完全に封じる術式である。
即ち、この場においては。
敵のCADが等しく動作不良に陥った。
三流程度の魔法師では、CADが無くてはまともに魔法を使えない。
唯一の切り札を奪われたのだ、決着までに時間は要さなかった。
「貴様ら如きに構っている時間はないのである……ッ‼ っていうのがアックアらしいので一つよろしくっ‼︎」
第一に、魔術で上乗せされた運動エネルギーを伴って、牧原が飛び蹴りを仕掛けた。
錐揉み回転しながら吹き飛ぶ魔法師。一撃で意識を刈り取られ、ノックアウトされる。
「へぇ……、これは俺も負けてらんないな!」
しかし、テロリストとレオでは、三対一で拮抗だったのだ。
そのうちの一人が倒されたのなら、どうなるか。
「な、魔法が……何故⁉」
「よそ見してんじゃ……ねぇっ‼‼」
魔法が発動しないことに焦り、パニック状態になっていた魔法師に、レオの拳が飛ぶ。
文句なしのクリーンヒットであった。
魔法師が倒れたのを確認し、残りの敵を仕留めようとレオは後ろを振り返り——
「うんうん、そうだよね。土御門元春ならこうするんだよね……ッ‼」
再現されたのは、格闘技のあらゆる反則技をかき集め、一つの体術として昇華させた体技。
死突殺断。
土御門が得意とする対人格闘術である。
足を払われバランスを崩した魔法師の後頭部に、容赦なく手刀を叩きこむ牧原。
脳を揺さぶられたのだ。まともに起き上がれる人間は少ない。
「ふぅ……。レオお兄ちゃん、ナイスファイト!」
「おう、お前もな。それで……何の騒ぎだ、こりゃあ?」
一方的に敵魔法師を屠り、一息つく二人。
その表情からは余裕が感じ取れた。
「学校にテロリストさんが侵入したんだってー。大変だねえ?」
「普通にぶっそうだな、おい。何でそんなに平然としてるんだ……?」
まぁ、牧原からは天然の香りがするからな……、と思い直して諦めるレオ。
しかし、今はそんなことを考えている場合ではないと口を開く。
「状況は分かってるのか?」
「実技棟と図書館に、テロリストが集中しているみたいだよー。たぶん片方が陽動だって、お姉ちゃんが言ってた」
「そうか……。縁はどうするんだ?」
「僕は図書館の状況を確認してくる。実技棟の方はレオお兄ちゃんがいれば安心だし……」
「一人で大丈夫か?」
「うん。危ないと思ったら引き返すから、大丈夫だよ!」
一瞬ついて行こうかと考えたレオであったが、先の戦闘を見る限り、実力なら自分以上だ。
単独行動しても特に問題はないだろう。
「それに、あの速度について行くのも難しいしな……」
「っ? どうしたの、レオお兄ちゃん?」
「いや、何でもない。怪我だけはするなよ!」
「うん! お兄ちゃんも気を付けてね‼」
そう言った牧原は、高速移動術式を作動させ、図書館がある方向へ駆け出していく。
後方のアックアとすら呼ばれた、天才魔術師が生み出した術式だ。そう簡単には追い付けない。
その代わりに、それを見送ったレオは一言。
「それにしても……あの口調はなんだったんだ?」
尤もな疑問である。
禁書キャラの口調ってホント謎ですよね。
そこが魅力的なんですけど。
戦闘中の口調について
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トレース先の禁書キャラそのままに
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トレース中でも円周ちゃんらしく
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どっちも見たい