魔法科世界に禁書魔術で挑みます! 作:Natrium
感想で指摘が入ったのと、今後の展開で不都合が出てしまったので。
あと、帰省するのでしばらく休載します。
1
図書館の入り口付近には、拮抗した戦場が広がっていた。
襲い掛かるテロリストに応戦する第一高校の三年生。
そこに。
そこに。
声変りすら迎えていない、甲高い声が一つ。
「ゼロにする‼」
直後、後方に陣取っていたテロリストからの攻撃が、不自然に鳴りやんだ。
よくある
熟練職人の手で鍛え上げられた日本刀——
「ゼロにする‼」
海外で製造され、秘密裏に持ち込まれた突撃銃——
「ゼロにする‼」
エガリテ所属の一高生が持つ、特化型のCAD——
「ゼロにする‼」
そのいずれもが機能不全に陥り、攻撃力を喪失する。
「くそ、ジャムった……っ‼」
「な、なにが⁉」
「おい、おかしいぞ‼ 刀の切れ味も無くなっている‼」
「どうなってやがんだ⁉」
自軍の攻撃が一切通用しなくなるのだ。その衝撃は計り知れない。
しかし、彼らもただやられているだけではなかった。
「今がチャンスだ、一斉に掛か、ぐごぁっ……」
「武器を捨てて肉弾戦で挑めぇっ‼ そうすれば攻撃は通る!」
後方から強い蹴りを入れられて悶える男子生徒を横目に、テロリストは吼えた。
そう、ソーロルムは、あくまでも武器のみを無力化する術式。
純粋な肉弾戦では効果を発揮しないのだ。
しかし、武器を使えないとなると、テロリスト側の戦力は大幅に下がる。
全滅までにさほど時間は掛からないだろう。
(なら、お先に失礼……ッ‼)
牧原は心の中で呟き、図書館の中に踏み込む。
何人いるかは知らないが、中にもテロリストが待ち構えている筈だ。
対策を立ててもいいが、やはりここは。
「
「っ、誰だ⁉」
存在を隠そうともしない乱入者に、日本刀を持ったテロリストが襲い掛かる。
対する牧原も、道中で奪った伸縮警棒を構え——
疾ッ‼ と。
一瞬の交錯で切り払った。
素人に毛が生えた程度のテロリストでは、英国最強の
筋力などのスペックまでは模倣できないが、騎士団長の技量の前では然したる問題ではない。
気絶させた襲撃者をそのままに、牧原は階段を駆け上がる。
「止まれ‼」
「ここから先は通さんぞ!」
階段奥の通路に潜んでいたテロリストが、警棒を振りかぶr
「遅いよっ‼」
手首を強く弾かれ、得物を取り落としてしまう襲撃者。
直後、対抗手段を失った彼らの意識も同様に、深い闇の中に突き落とされた。
2
微かに、キーボードを叩く音が聞こえる。
「まだセキュリティは突破できないのか?」
「もうすぐだ。奴らがここに気付く頃には、すべて完了しているだろう」
特別閲覧室の中。
壬生紗耶香は目の前で行われている作業を、複雑な表情で見つめていた。
(これが本当に、差別撤廃のためになるの……?)
自分の中に幾度となく浮かぶ疑問が、紗耶香の思考に現出した。
しかし、そこに疑問を持つ事は禁じられている。そう教えられていた彼女は、慌てて意識を目の前の任務に戻す。
(でも……。ううん、きっと非魔法師にも役に立つ研究が秘匿されているのよ)
やはり、迷いは消えてくれない。
どうしたものかと考える紗耶香であったが、
『あれー。鍵がかかってるのかなあ? あ、カード認証式か……』
状況が動いた。
扉の外から、垢抜けた少年の声が聞こえたのだ。
その声は明らかに味方のそれではなかった。
それが聞こえるということは、外の見張りも全滅しているのだろう。
「っ、もう来たのか⁉ おい、まだ終わらないのか‼」
「も、もうすぐだ……コピーはあと十数秒で終わ
ゴウン……ッと。
何かが作動する音が響いた。
何かが? いいや、理解している筈だ。
この部屋に侵入した際に、同じような音を聞いたのだから。
(嘘……だって、予備も含めて全部持ってきたのに‼)
「おい‼ 鍵は全部盗めと言っただろうが‼‼」
「っ、いえ、私は全て——
「言い訳するな‼ 現に奴は別のカードを持っているでは、ない……か?」
テロリストの指揮を取っていた男の声が、弱く途切れた。
彼の目線の先を追うと、そこには小さな影が。
この学校の名物生徒となっている、一人の少年が立っていた。
しかし。
「
その手に持つものは明らかな非正規品。前提として、カードの形すら取っていなかった。
「っ、いや、まさか有り得ない‼ 仮にも最高位のセキュリティシステムだぞ⁉」
「そんな、馬鹿なことが……ッ⁉」
魔法を使って強引に突破するのであれば、まだ納得できた。
だが、これは何だ?
小手先の技術だけで解除したとでも言うのか?
それも、十秒にも満たない時間で、だ。
「……っ、指輪を使え‼」
「は、はい!」
正気に戻った作業服の男が、紗耶香に命令を出した。
いずれにせよ、相手が魔法師である以上、キャスト・ジャミングは通用するはずだ。
だから。
なのに。
「……
示されるのは『裏切り者』の魔法名。
直後、最高位の陰陽術が、一切の弊害なしに発動された。
3
巨大な水球を叩き込まれ、悶絶するテロリストを流し見ながら、牧原は思考を回す。
(そういえば……なんで壬生先輩はテロ組織に加担したんだっけ?)
アニメは三話で切ってしまったため、知識の欠落があるのが痛かった。
洗脳によるものなら対抗策は持っている。
しかし、それが薬物によるものか、暗示によるものかによって、対処法も大きく変わるのだ。
処置をするにも、まずはそこを見極めなければならない。
「このクソガキっ!」
「舐めるなよ……ッ‼」
思考を続けていると、残りのテロリストが一斉に飛び掛かってきた。
短剣を武器にしているところから見るに、子供でも手加減なしのようだ。
ずぶりと、背筋が凍るような音が一つ。
「ぐ、ごがぁっ……」
向かって右側にいた襲撃者が、両目を押さえて派手に転倒する。
後遺症が残らない程度に抑えたので、大きな問題は発生しないだろう。
牧原は突き出されたナイフを軽く避け、テロリストの後ろに回り込む。
そして。
「
慌てて逃げようとするが手遅れだ。魔術は既に発動している。
何もない空間から直径一メートルほどの水球が生み出され、勢いよく敵に突き刺さった。
学園都市のパワードスーツすら吹き飛ばす威力だ。当然、生身の人間では耐えられず、一撃で意識を失う。
この惨状を生み出した張本人は、可愛らしく舌を出して告げる。
「
「くっ……」
「……まぁ、あまりお姉ちゃんとはケンカしたくないんだけど、仕方な——って、どこ行くのお姉ちゃん‼」
初めから、戦うつもりはなかったのか、脱兎のように特別閲覧室から逃げ出す紗耶香。
部屋の奥に踏み込みすぎたことが災いし、牧原は彼女の逃走を許してしまった。
慌てて移動術式を再編して追いかけようとしたが、わずかに逡巡し、
「……盗んでおいたら研究の役に立つかなー?」
制服のポケットから取り出したのは、黒のボールペン——いや、そのように偽装された記録装置だ。
放置されていた記録キューブに軽くかざし、内部のデータを全て盗み取る。
滅多にお目に掛かれない文献が保存されているのだ、リスクは高いが、それに見合う価値がある。ここで迷いを見せないあたり、やはり彼の本質も『木原』であるということなのだろう。
「さて、野暮用も終わったことだし、早く紗耶香お姉ちゃんを追いかけないとね!」
槇原は廊下に立てかけてあった箒を手に取り、飛行術式を発動させる。
この世界では彼以外の魔術師は存在していない。故に、撃墜術式を恐れる必要はどこにもないのだ。