かつてパーパルディアの皇都と呼ばれたエストシラントが見えてくる。
至る所が焼け落ち、ところどころから焚き火と思わしい煙が幾筋上っている。
自衛隊車両に同乗している朝田と篠原はただでさえ痛い頭が更に痛くなって来た。
対パーパルディア戦争はパーパルディア皇国が事実上滅亡したことで法的には戦争状態なのだが自衛隊は警戒状態に留まっていた。
なにしろ戦争は相手が降伏しないと終わらないのだがパーパルディア皇国の最高権力者であったルディアスを含めた権力の上層にいた者達は消息不明であり、尚且つアルー二、パールネウスはそれぞれがパーパルディア皇国の新たなる皇都であると皇族を擁立し軍が編成され内戦状態に陥っている。
都市へ入る事は無理だったが二都市の周囲にある難民キャンプや出入りしている商人のキャラバンから聞き取った情報では皇族の中でも末端の人物が擁立されていると言うことだった。
名前も聞いたことのない名前で両方ともに男性であると言うことからレミールでない事は確認出来た。
「まったく、上は無茶ばかり言う・・・」
「本当ですよ・・・」
朝田と篠原が盛大にため息を吐く。
パーパルディアが内戦状態になりアルー二とパールネウス間で争い始めたから戦争は終了・・・とはならなかった。
戦争終結の最低条件として掲げられているレミールの逮捕及び皇帝ルディアスの重要参考人としての聴取。
だがエストシラントが壊滅し上記の二名は消息不明になっている。
内閣でも議論が紛糾したが出た結論は最低でもレミールかルディアスのどちらかの捕獲か生死の確認を行う様にとの指示が降った。
冗談ではないと思ったが一部の野党が遺族集団を焚き付けて与党を突っついて来たのだ。
結果として形式上の様な形であれエストシラントに残っている住民から情報を聞き出し生死を確認せよとの妥協案が出されてしまった。
陽の光を浴びるパラディス城のシルエットは半壊し歪な形を晒していた。
エストシラントに入った朝田と篠原は顔をしかめた。
死体が片付けられずに一箇所にまとめられたまま焼かれ山になって放置されているのが目に入った。
二人は知る由もなかったが衣類も貴重な物資としてひっそりと暮らしている生存者達が死体を集める際に脱がして集めていた。
少し歩くと所々から焚き火のものらしき煙が幾筋か上っていた。
朝田と篠原は護衛の自衛隊員達と一番近い煙の元へと向かう。
煙の元は比較的状態のいい住居が残っている場所で住民はバリケードを作り出入り口を槍や剣で武装した住民が警戒をしていた。
両手を上げて敵意がない事を示し話を聞く。
その場所は空振りだったがいくつ目かの集落で有力な情報を聞く事に成功した。
「しかし、仕事が増えてしまいましたね」
篠原がぼやく。
「仕方がないさ。それが我々の仕事だ」
それに朝田が答える。
「しかしルディアスとレミールが捕虜として連行されて行ったとはな・・・」
「ヌカワールド・・・でしたっけ。どこにあるんでしょうね・・・」
二人が頭を悩ませていた時だった。
不意に辺りが慌ただしくなり子供は親や親代わりの大人が抱きかかえて住居の中に駆け込んだりしている。
「なんでしょうか?」
篠原が疑問を口にする。
「レイダーが来たぞ!!」
パーパルディア人の誰かが叫んだ。
「グズグズするな!早くしろ!」
バタンバタンと音を立ててガラスの割れた窓を木の板等で内側から閉じられて行く。
物々しい雰囲気だ。
「みんな、間違ってもレイダー達を刺激するな!前回二つ隣のグループがレイダーに抵抗してほとんどが殺され、生き残りは奴隷にされ連れて行かれた!」
この居住区のリーダーが何かを運び出している大人達に大声で声をかける。
「レイダー・・・・?」
「襲撃者や略奪者って意味の言葉だな・・・・。だが何故パーパルディア人が英語の単語を・・・・?」
護衛の自衛隊員達も警戒態勢に入ってしばらくし居住区の広場・・・朝田と篠原が端にいるこの場所に我が物顔で入り込んで来る十人前後の集団が来た。
自衛隊員はもとより朝田と篠原もその集団に緊張する。
その集団は一人残らずアサルトライフルやショットガンと言った銃火器で武装していた。
事前情報としてパーパルディアを壊滅に追い込んだヌカワールドなる勢力は銃火器を使用していると聞いていたが直接見るとやはり緊張してしまう。
「おうてめぇら!貢物の準備は出来てるだろうなぁ!?」
リーダー格っぽいスキンヘッド男が大声で威嚇する様に怒鳴る。
それに対しパーパルディア人側はただただ低姿勢に徹する。
逆らえば殺されると言う恐怖に支配されただただ言いなりになっている。
第三文明圏の大半で恐怖による支配を行い我が物顔でいたパーパルディア人が今は逆に恐怖で支配されている。
恐怖で震えながら目の前の脅威が立ち去るのをただただじっと待つその姿は哀れでもあった。
「おいおい、なんだこのシケた量は?」
「も、申し訳ありません!廃墟からなんとか掻き集めたなけなしの物資なのです!なにとぞ!なにとぞこれで!!」
「チッ・・・・しょうがねえな・・・・。んでよ、さっきからこっち見てるあの連中はなんだ?銃を持ってる様だが、用心棒でも雇ったのかぁ?」
語尾が不機嫌に染まった声にさらに縮こまる。
「い、いえ!あの者達は我らとは関係ありません!恐らく、ただの旅人かと・・・・」
「こんな廃墟にわざわざ来る物好きな旅人ねぇ・・・・。ああ、もう行っていいぞ。ちょっと取り込むからな」
「は、はいっ!」
脱兎のごとくリーダーと貢物を運んでいた大人達は近くの建物に駆け込み内側から鍵を掛けた。
朝田と篠原を始め自衛隊員達はアサルトライフルを肩に担ぎながら近付いてくるスキンヘッドの男に警戒を怠らない。
まるで寄せ集めの統一感の無い防具や肩パッドに身を包んで居る。
「おいお前ら、俺はこいつらと話ししとくからその物資をとっととトラックに積んでおけ」
その指示に部下らしき一同は返答し作業に取り掛かった。
「さぁてと・・・・俺らの縄張りでてめぇら何やってんだ?一丁前に銃なんか持ちやがってよ、あれか?レジスタンスってやつか?だったらサクッと殺せるから大歓迎だぜ?」
「いえ、我々は貴方方と争うつもりはありません」
「へぇ?・・・じゃあ、そこの箱の影に隠れてるやつを引っ込めな。じゃなきゃ撃つぜ?」
見抜かれていた・・・と護衛部隊の隊長は部下に姿を見せる様指示する。
「素直な奴は好きだぜ?じゃあその武器捨ててとっとと立ち去りな」
「いえ、そうはいきません」
朝田が毅然と言う。
「あん?」
「あなた達のリーダー・・・総支配人にお会いしたいのです」
「・・・・・・ヒュー」
朝田の発言に少しの間沈黙し、口笛を吹く。
「はははっ、総支配人に会いたいってか?」
「難しい事は承知していますが、どうか・・・」
「いいぜ」
「え?」
「会いたいんだろ?総支配人に。総支配人からの命令の中に自分に会いたいと言う奴がいたらヌカワールドに招待しろって命令があってな・・・・。ほれ、これが地図だ」
エストシラント周辺の地図に×印が書き込まれて居る。
「ここで電車に乗りな。ヌカワールドに行けるぜ」
「では、アポイントを取りたいのですがいつ頃がよろしいですか?」
「アポイントだ?適当な日に来な。総支配人はあちこち移動して居るが二、三日に一度はヌカワールドに戻ってくるからな。運悪く留守だったらその辺で適当に時間潰して野宿してりゃいいだろ」
そう言い残してスキンヘッド男は立ち去った。
「・・・・・・・・」
「な、なんかあっさりと話が進みましたね・・・」
朝田と篠原は拍子抜けしたがすぐに切り替える。
「では、本国にヌカワールドにおいて総支配人なる人物との会談が可能になったと連絡をしませんと。まぁ、答えは大方予想できますが・・・」
「ですね」
本国政府と連絡を行なった結果は二人の予想通りで自分達がこのままヌカワールドなる場所に足を踏み入れることになった。
いよいよヌカワールドに足を踏み入れる朝田と篠原さんです。