ヌカワールド召喚   作:ALEX4

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今回短めですがどうぞ


ヌカワールドにて

 「治安悪すぎですよここ・・・。なんで仲間同士で銃撃戦が起きたりするんですか・・・・」

 テントのすぐ側に園内設備の椅子に座り篠原がげっそりしながら言う。

 夜中でも御構い無しに銃声が聞こえ護衛の自衛隊員達も常に気を張り詰めざるを得ず、ローテーションが終わった隊員は泥の様に眠っている。

 そう言い終わるか終わらないかのうちにまた遠くから銃声が微かに聞こえた。

 「ここで奴隷として扱われている人達から聞いた話を総合すると、このヌカワールド内には複数の派閥があるらしい」

 昨日テント設営後に護衛の隊員一名と共に朝田は情報収集を行なっていた。

 武装しているレイダーとの会話は危険が伴うとヤク中レイダーの銃乱射事件の後に判断し、非武装の奴隷達や転移時にヌカワールドに滞在していた商人やヌカコーラについて熱く語ってくる奇抜な格好をした女性から情報収集を行なった。

 意外な事に市場が存在し、小規模ながらも経済活動が行われていた。

 「元々ディサイプルズ、オペレーターズ、パックスなる三つの派閥が存在したそうですが転移より以前に一つの勢力が裏切り、総支配人に粛清されたそうです。その後勢力拡大の為に人員を集め何処かへの侵攻を準備している時にこの世界に転移してきた。その為、大小含めいくつかのグループが新たに発足しているとの事です。驚きべき事に、現在では一部の荒くれ者のパーパルディア人等をも取り込みその勢力を更に拡大させているそうです。そして彼らの住んでいた場所は〝連邦〟と呼ばれる地域だったそうです」

 「連邦・・・?」

 「それが何処かまでは分かりませんでしたが、ヌカワールド内においてボロボロになった星条旗を発見しました」

 「なっ!?」

 「そう、恐らくこのヌカワールドはアメリカの一部地域・・・」

 「で、でも、あんなパワーアーマー・・・でしたっけ?って言うパワードスーツや個人で携行可能なレーザーガンとかアメリカのどこに・・・」

 「最終戦争」

 「え?」

 朝田の口から飛び出した単語に思わず素っ頓狂な声で聞き返す篠原。

 護衛の自衛隊員や隊長も周囲を警戒しつつこの特大情報に聞き入っていた。

 「歴史を調べていた元歴史学者だと言う奴隷の高齢男性から聞き出した情報です。彼らの世界において二百年前に勃発した核戦争で文明は滅びたそうです」

 「!!?」

 篠原を始め聞き入っていた自衛隊員達も驚きの表情を隠せない。

 「二百年経っても文明の復興が行えていない事を考えると、恐らくは地球全体を巻き込んだ全面核戦争が起き地球文明は滅びたのでしょう」

 「そ、そんな・・・」

 「この世界に転移したから日本は巻き込まれずに済んだのか・・・」

 ボソッと自衛隊員の一人が呟いた。

 「いえ、彼らが我々と同じ世界から来たとは思えません。推測ですが、 我々と彼等の世界は並行世界と言うものでしょう」

 「つまり、異なる歴史を歩んだ世界・・・か」

 「これを見てください。園内において見つけた遊園地時代のヌカワールドのパンフレットです」

 朝田はボロボロになり色褪せたパンフレットを椅子とセットになっていたテーブルの上に置く。

 「ここを見てください。このパンフレットの発行年月が書かれています」

 そこに書かれていた数字は2077。

 「こ、これって・・・」

 「遊園地のパンフレットはイベントなどで大体数ヶ月おきに変更されます。このパンフレットは西暦2077年のハロウィンイベントに関連した内容と思われます」

 「・・・・・・・」

 「この発行が最後になったのならば、西暦2077年にこのヌカワールドのあった地球は文明が崩壊したのでしょう。少なくともアメリカは国家としての形を保てず、各地域が孤立した状態に」

 「・・・・・」

 「そして、総支配人についての不確定ですが情報もありました」

 「それは?」

 「これはレイダー・・・この園内において武装している荒くれ者の総称と思ってください。そのレイダー達の間で語られている総支配人の情報なので噂レベルの確度の低い情報という事が前提です。その情報によると、総支配人は戦前のアメリカ軍の軍人だったという事です」

 「え?それはおかしいですよ。それじゃあその総支配人ってのは二世紀も生きてる事になるんじゃないですか」

 篠原のもっともな発言に自衛隊員達も思わず頷く。

 「Vault」

 「ボルト?」

 「発音としてはヴォルトと言うそうです。総支配人はそのVault居住者という話です」

 「そのVaultとは?」

 「戦前のアメリカ各地に建造された核シェルターと言う事です。総支配人はそのVaultの一つから来たと」

 「いやいや、それはおかしいですって。いくら核シェルターに入ったからって老化が止まるわけないじゃないですか」

 「総支配人の入ったVaultは一種の実験施設であり、総支配人はコールドスリープされ二世紀の時を過ごしたとか」

 誰ともなく、ゴクリと息を飲む。

 「とは言え、これはあくまでも噂レベルの話です。人間の様な高等生物を冷凍し更に生命を維持したまま解凍するのはかなりの難問であり、さらに総支配人がたった一人でBoSなる軍事組織を壊滅させた、総支配人は最終戦争前に地下に潜り現在に至るまで戦前の技術と知識を更に発展させた人造人間ですら作成可能な研究機関の所長である、総支配人は高濃度の放射線汚染地域である輝きの海に防護服どころかパンツ一枚で殴り込んだ、総支配人は放射線で体力が回復する等の荒唐無稽な話もあり、噂に尾鰭がついたりした・・・・そう、場末の居酒屋での元不良同士がよくやる一種の武勇伝の様なものでしょう」

 その締めに言葉に思わず笑いだしてしまう一行。

 彼等は知らなかった。

 その噂が全て真実であるとは・・・。

 そして知らず知らずのうちに彼等はこの世界の列強国や文明国が格下の文明国や文明外国に行っているのと同じ状況に陥っていた。

 それは例を挙げるのならばかつてのロウリア国が、滅亡前のパーパルディア皇国が日本に対して行っていたのと同じであった。

 一言で言うのならば、自らの常識に当てはめてしまうと言う事。

 この世界に蔓延している、〝そんな事が出来るはずがない〟と自分達の常識の尺度で測ってしまう状況。

 パーパルディアは日本の事を殆ど調べもせずに日本に対し殲滅戦を宣言し、その結果海軍・陸軍が敗走に敗走を重ねて行った。

今の彼等も似ていた。

 〝そんな事が出来るわけがない、欺瞞情報だ〟と。

 

 

 

 「あー、それにしてもヌカコーラでしたっけ?我々の世界のコーラと似た物なんでしょうかね」

 何の気なしに篠原が口にした。

 「ぬ、ヌカコーラ・・・」

 珍しく朝田が狼狽えた。

 「ど、どうしたんです?」

 「ヌカコーラはアメリカの国民的飲料ヌカコーラはアメリカの国民的飲料ヌカコーラはアメリカの国民的飲料・・・」

 突然壊れたテープレコーダーの様に同じセリフを繰り返し呟き出す朝田に戸惑う篠原と自衛隊員達。

 「朝田さん!朝田さん!!」

 「はっ!?い、いま私は何を・・・・?」

 「突然ヌカコーラはアメリカの国民的飲料とか繰り返していましたけど・・・」

 「す、すまない、取り乱した。あのヌカコーラ狂・・・ゴホンッ、ヌカコーラに明るい女性の話に長い事付き合わされてな・・・・」

 「え?」

 「昨日の情報収集の時間のうち三分の一がそのヌカコーラ狂・・・失礼、ヌカコーラに明るいシエラと言う女性の話に付き合わされてな」

 「・・・・・」

 「延々とヌカコーラの薀蓄を聞かされたよ・・・・」

 朝田は遠い目をしていた。

 「ちなみに核戦争後のアメリカの各地域では通貨としてキャップが使われているそうだ」

 「キャップ?」

 「コーラの瓶の王冠の事だ」

 何故コーラの瓶の王冠が通貨となったのだろうとしばらく頭を悩ます一同であった。

 

 

 




常識にとらわれてはいけない。

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