ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン。
重厚な金属音をさせヌカワールド園内を歩く総支配人。
その後ろに付いて移動する日本国一行。
朝田は最初、銃を持つ自衛隊員の同行は控えさせようかと思ったが総支配人は構わないとただ一言だけ言った。
一方、同行している自衛隊員達は冷や汗が止まらなかった。
一見無造作にのし歩いているように見える総支配人。
だが自衛隊内でも護衛部隊に選抜されるだけの戦闘のプロである彼等には総支配人に一切の隙が見当たらないどころか、まるで後ろに目でも付いているのではないかと錯覚する程。
下手な動きをした途端にここにいる全員が殺されると本能が告げていた。
外交官の二人もその奇妙な空気に緊張を隠し切れない。
そんな奇妙な空気の中、目的地に着いたのか総支配人が立ち止まった。
何かのボタンを総支配人が押すと機械音がし上から昇降カゴのようなエレベーターが降りて来た。
総支配人が先に乗り込み、続いて乗り込むように促される。
全員が乗り込むと総支配人はエレベーター内のボタンを押す。
軋むような機械音と共にエレベーターは上昇する。
板で補強されたエレベーターは十人近い人数と明らかに定員オーバーの上、総支配人はパワーアーマーを着込んでいる為にミシミシギシギシと嫌な音と上の方からモーターが悲鳴をあげるような駆動音を出し時々ガクガクと一瞬だけ止まり、また上昇し揺れる。
おまけに転落防止の柵などなく、総支配人以外の誰もが三方向のみにあるカゴ枠や板を掴んでいる手に力を入れる。
もしここで落ちれば数十メートル落下し最悪は死に運が良くても大怪我。
そんな最悪の未来が思い浮かぶ。
ガクンッ!と一際大きく揺れ日本一行の誰もが反射的に踏ん張るが浮遊感はない。
目を開ければそこは何かのバルコニーの様になっている場所だった。
総支配人の居住スペースであるフィズトップグリルに到着した。
総支配人は入室を促し、朝田と篠原が総支配人に続く。
自衛隊員達はここから先は自分達は入るべきではないと判断し、屋外部分で待機することにした。
朝田と篠原は総支配人に促されソファーに座る。
ところどころパッチワークの様に補修されているが核戦争から二百年後の世界の物と考えれば上等の品の分類の入るのだろう。
部屋の隅に置かれた真空管剥き出しのラジオがアメリカンオールディーズの曲を流している。
「バウッ!」
突然の犬の吠え声に思わずビクッとした。
タタタタッと言う足音と共に尻尾を激しく左右に振りながら一匹のシェパード犬が走って来た。
朝田と篠原が見ている前で総支配人の元まで駆け、お座りの態勢をしながらも尻尾を振っている。
総支配人はパワーアーマーを着たままその犬を撫でる。
留守番をしていた犬を褒める様な声を掛け、どこからともなく出した肉の付いた骨をご褒美と言いながら与えている。
普通ならば微笑ましい光景かもしれないが無骨なパワーアーマーを着ているせいでとてもシュールな光景である。
しかもその犬の名前を聞いた朝田と篠原は思わず脳内でツッコミを入れていた。
(ドッグミート!犬肉ってどんな名前!?)とかこの様な感じで。
二人がそう思っている間に総支配人はドッグミートに何かを囁くと、「バウッ」と短く吠えて肉付きの骨を咥えて部屋の隅に行き、そこで寝転びドッグミートは肉付きの骨をかじり続ける。
それを見届けた総支配人はガシャンガシャンと部屋の奥側にある作業スペースの様な工具類が置かれている場所まで数歩歩くと立ち止まる。
ガシャガシャガシャ。
パワーアーマーの後部が開き、背中に111と書かれた青色のボディスーツを着た総支配人が後ろ向きで出て来る。
着用者が居なくなったパワーアーマーは再びガシャガシャガシャと音を立てて閉まる。
ゆっくりと踵を返す総支配人。
朝田と篠原は思わず面食らった。
これだけの荒くれ者からなる武装集団をまとめ上げているから昔の海賊の様に顔に傷があったり相当ガタイの良い強面と勝手にイメージしていた。
しかし実際の総支配人はやや細身の体型であり、一言で言うと着ているぴっちりスーツ以外は意外と普通の外見であった。
「お帰りなさいませ旦那様!」
他の部屋からゴオォォォォォッとジェット噴射音をさせ空中浮遊するロボットが出て来た。
朝田と篠原は映像で見た軍人口調のロボットかと思ったがよく見れば口調も違うしアームの先も違う。
総支配人はそのロボットにコズワースと呼び掛け、来客に飲み物を用意する様に伝える。
「かしこまりました旦那様。すぐにご用意します」
コズワースと呼ばれたロボットは鼻歌らしきものを歌いながら飲み物を用意する為に移動する。
同時に部屋の隅に立っていた一台のロボット、ドリンクバディが自らドアを開けコズワースは器用に三本の瓶を取り出すと再びソファーの前に置かれたテーブルの所まで戻って来て朝田と篠原、そしてその向かいに座った総支配人の前にその瓶と栓抜きを置く。
「お待たせしました、キンキンに冷えたヌカコーラです。温度は5.3度、完璧です!」
総支配人はコズワースに労いの言葉をかけると下がる様に伝える。
コズワースは掃除に戻ると総支配人に伝え、掃除をしていた部屋に戻って行った。
総支配人は三本のヌカコーラの栓を抜き、内二本を朝田と篠原の前に置き勧めると自分の分のヌカコーラを一口飲む。
総支配人の腕に装着された奇妙な機械がカリカリと音を出したが朝田と篠原にはなんの音なのか分かるはずもなかった。
最初の挨拶はテントの前で済ませていたのでまずは勧められたヌカコーラを二人同時に一口飲む。
冷えた液体と独特の味と炭酸の弾ける感覚が口と喉を刺激する。
総支配人が普通に飲み、自分達も意外と美味しかったヌカコーラを飲んだ朝田と篠原はこのヌカワールド内で現在もヌカコーラを製造していると思った。
まさかそれが製造されてから二百年以上経過しているなど想像すらせずに。
「改めまして、この度の突然の訪問及び会談に応じて頂き感謝致します。日本国から派遣された外交官の朝田です」
「同じく、篠原です」
総支配人もそれに応え、自らの名を名乗った。
「何処から説明を行ったら良いのかこちらでも判断に迷うのですが、実は我が国とこの地にあったパーパルディア皇国は戦争状態にありました。皇都エストシラントが壊滅し、主要都市のデュロは壊滅状態にあり、残ったアルー二とパールネウス間が内戦状態にあるのはご存知かと思います。実はエストシラント跡の生存者より、パーパルディア皇国の皇帝ルディアスと皇族のレミールが捕虜としてこのヌカワールドに連行されて行ったとの情報を我々は入手しました。我が国は対パーパルディア戦争の終戦条件として皇帝ルディアスと皇族レミールを重要参考人として逮捕する事を上げていました。もし今も皇帝ルディアスと皇族レミールが生存しているのならば勝手な申し出ではあるのですがこちらに引き渡しては頂けないかと交渉に参った次第です」
朝田は自分達の目的を告げる。
少し考える仕草をした総支配人は朝田と篠原に日本について知りたいと告げた。
朝田と篠原は少し顔を見合わせた後、開示可能な情報を口頭で伝える。
「と、我が国の説明は以上になります」
それを聞いた総支配人は満足そうに頷くと口を開いた。
ルディアスとレミールと思われる人物には心当たりがあるがすぐに安否の確認及び引き渡すのは困難であり、後ほど無線で連絡をすると周波数を伝えて来た。
朝田はその周波数をすぐにメモした。
再び総支配人は口を開く。
その内容は二人の予想通り、ルディアスとレミール二人の安否確認と生存していれば引き渡す事への見返りであった。
翌日。
朝になり朝田と篠原は護衛部隊の自衛隊員と共にヌカワールドを後にした。
再び電車に乗り、ヌカワールド交通センターに到着し少し離れ事前に無線で連絡をしていた自衛隊の輸送ヘリに乗り込む。
「しかし、意外な条件でしたね」
「ああ、私も相当吹っかけてくるかと覚悟していたのだが、まさかあの程度の条件でいいとは・・・・」
「戻ったらすぐに手続きを進めて置きます」
「ああ、しかし今思い出しても意外な条件だったな。ただ一週間ほど日本に行ってみたいと言うのが条件だとは」
「ラジオは真空管を使っていましたし、ロボットには驚きましたけど核戦争前の遺物を使用しているんでしょうね」
一部のロボットはそうだが、まさか総支配人がロボット軍団を製造可能だとは思いもしない日本一行であった。
そして朝田と篠原は知る由もなかった。
条件を受諾させて会談を終え、二人を見送った総支配人が不敵な笑みを浮かべていた事に。
その総支配人は腕のPip-Boyを操作しマップを呼び出した。
ハッキングしこの世界の地図に書き換えた地図にはヌカワールド、エストシラント、デュロと他にもいくつかの地名が表示されていた。
マップ表示を操作し、止める。
そこには総支配人がつい先日到着し、名前を登録されたばかりの場所が表示されていた。
そこにあった文字はただの地名ではなかった。
総支配人の今後の展望に大きな影響を与えていた。
そこに表示されていた文字は・・・・・
インスティチュート。
まさかのインスティチュートもこの世界に来ていたという展開。
そして総支配人が日本に行きたいと条件を飲ませたのにはもちろんちゃんとした理由がありますが、それは後のお楽しみという事で。
ちなみにコズワースはハッキング済みで好感度低下が無効化されています。