時は流れ、先進11ヶ国会議が開催されていた。
列強から転落した第三文明圏のパーパルディア皇国と第二文明圏のレイフォルに変わりムー国に推薦された日本国とレイフォルをわずか数日で滅ぼしたグラ・バルカス帝国が招かれていた。
グラ・バルカス帝国帝都ラグナ。
帝王グラルークスが宮殿の窓から少し濁った空を見る。
帝都ラグナの工業地帯を始め帝国領内の工業地帯から吐き出される煙によって濁っているのだがグラルークスを始めグラ・バルカス帝国人はこの空の汚れを帝国の繁栄の象徴と誇らしく思っている。
「陛下、御準備が整いました」
老齢の執事が恭しく頭を垂れる。
「うむ」
短く返事をし、部屋を出る。
その後ろを執事を始め従者達と身辺警護の親衛隊員が着いて歩く。
「これから訪れる場所は何と言ったかな?」
グラルークスのその問いに執事がすぐに答える。
「はっ、民間企業のインスティチュートで御座います」
「うむ、そうであったな。僅かな期間でグラ・バルカス内の真空管業界に革命をもたらした高品質な真空管を世に送り出した民間企業であったな」
インスティチュート。
高品質な真空管によってグラ・バルカスの真空管業界のシェアを瞬く間に制した新興企業。
その高品質・高耐久性により瞬く間にグラ・バルカスの一流企業が我先にと自社の製品に採用して行った。
宮殿内の真空管使用製品もほぼ全てがこのインスティチュート製の真空管を使用した製品に置き換わっており、市場においても以前からあった真空管は低所得者向けの廉価製品にのみ使用される程度になっていた。
グラ・バルカスの真空管製造業各社は生き残る為にインスティチュートの真空管をライセンス生産し始めていたが今や既に事実上のインスティチュートの傘下企業に成り果てていた。
とは言え各社とインスティチュートの技術力の差により最高品質の真空管はインスティチュートのみが製造可能な状態である。
つまりは最高品質をインスティチュート、高品質と廉価な低品質を他のグラ・バルカス企業が生産する形態になっている。
元々グラ・バルカスで生産されていた最高品質の真空管もインスティチュートの真空管が世に出てからは低品質のカテゴリになってしまい、インスティチュートとライセンス契約を結ぶ事によりインスティチュートの高品質真空管の設計図とグラ・バルカス企業では製造出来ない材料を買う事が出来るようになる。
最高品質の真空管はインスティチュートの独占状態で他企業がインスティチュート製の最高品質真空管を使用したラジオを買って分解し研究したものの結果は模造不可能。
どんなに頑張ってもインスティチュート製最高品質真空管の足元にも及ばないと言う現実が突き付けられたのであった。
帝王グラルークスを乗せた自動車の周囲を警護の随行車が守る形で帝都ラグナを離れて数時間走り、帝都遠郊に広大な敷地を有するインスティチュートの敷地が見えた来た。
周囲を見上げるほどのコンクリートの塀に囲まれ、工場と研究施設の建物が何重もの厳重な警備の先にあった。
出迎えたインスティチュートの所長と科学者達が恭しく礼をしようとするのを上機嫌のグラルークスが片手で制した。
「貴公らの働きにより、我がグラ・バルカス帝国は一層の発展を遂げるであろう」
グラルークスが上機嫌な理由は無線による通信により先進11ヶ国会議の場により全世界に向け予定通り宣戦布告を行なったとの報告を受けたからである。
相手が蛮族なら同じやり方で、しかし軍事技術力はこちらが圧倒的に上。
まず相当に油断しなければ負ける要素が見当たらないのだから上機嫌にもなる。
帝王グラルークスはインスティチュートの所長と言う人当たりの良さそうな男と握手をし、それを随行を許された報道機関のカメラマン達が写真をパシャパシャと撮る。
この後はグラルークスと世話役の執事、数名の護衛がインスティチュートの視察を行う事となっていた。
インスティチュートの駐車場において帝王専用車の運転手を始め随行の警備兵達はインスティチュート側が用意した軽食やヌカコーラなるインスティチュート製の炭酸ドリンクで寛ぎ、タバコを吸いながらもいつでも帝王がラグナの宮殿に戻る準備が出来たとの連絡が来ても動ける様にしていた。
しかし来たのはインスティチュートの人間と帝王の世話役の執事と視察中の帝王に随行していた親衛隊兵の計三人であり、帝王グラルークスが体調を崩し一晩をインスティチュートで過ごすと言う予想外の連絡であった。
執事はインスティチュートの医師の診断により帝王グラルークスは過労により休養を取った方が好ましく、長時間の車両移動は勧められないとの診断結果を伝えた。
狼狽える一行であったが執事の説明に安堵し、インスティチュートの厚意により随行員一行の宿泊場所と食事が提供される事、希望者には家族に連絡するための電話の貸し出しの用意もあるとの言葉に一部の随行員からその場で電話をしたいとの申し出もあった。
時は遡り、約一時間前。
随行の親衛隊員数名と執事を引き連れた帝王グラルークスはインスティチュートの所長と数名の科学者の案内で研究施設の視察を行っていた。
いくつかの研究エリアを視察した後、研究エリアから工場エリアへと向かう無骨で無機質な窓もないコンクリート打ちっ放しの廊下を歩いていた。
ピタッと唐突に所長が歩みを止め、それに従うかの様に科学者も歩みを止める。
グラルークスもそのままではぶつかってしまうと判断してその場に止まる。
「所長、如何したかな?」
なぜ止まったのか理由を聞こうとする。
くるり、と所長の背後を歩いていた科学者が回れ右をするかの様にグラルークスと随行員達の方を向く。
「S10-56、S10-57、S10-58、グラルークスを拘束せよ」
その言葉をグラルークスの脳が理解するよりも早く随行していた親衛隊隊長により背後から羽交い締めされ、両手を残っていた親衛隊員が押さえ付ける。
「な、何をするか!?気でも狂ったか!不敬である!疾く離すのだ!帝王命令である!!」
五月蠅いな、と言う声が聞こえた。
「S10-36、グラルークスを静かにさせろ」
その言葉に帝王が親衛隊によって拘束されているのにも関わらず慌てもしない執事が頷く。
バキッっと言う音と共にグラルークスの顔面に衝撃と激痛が走った。
「うがあああぁぁぁっ!!?」
手加減無しの一撃でグラルークスの鼻は折れ、鼻血がダラダラと流れる。
同時に歯も折れていたのか半開きになった口から血に塗れた白い物がコンクリートの床に落ち硬質な音を立てた。
インスティチュートの科学者がダクトテープを執事に渡すと執事はそれを無造作に引き剥がしグラルークスの口に貼り付ける。
「むぐっ!?むぐううぅぅぅーーーーっ!!」
グラルークスは声を上げようとするがダクトテープによりくぐもった呻き声しか出せない。
一度もグラルークスの方を見なかった所長は再び歩き出すとインスティチュートの科学者もそれに続き、グラルークスは親衛隊・・・実際にはインスティチュートの人造人間達によって引き摺られるように連行されて行く。
「無駄な抵抗はよすのだな。そこの四人だけではない、既にラグナの宮殿の大半の人間は我らインスティチュートの人造人間と置き換わっているのだ」
必死に抵抗をするグラルークスを冷たい目で見ながら科学者の一人が言い放つ。
グラルークスが連れて行かれた部屋には彼が見た事もないような奇妙な機械があった。
所長自らがその機械の台に乗り、グラルークスは人造人間達により無造作に台の上に転がされる。
「それでは所長、手筈通りに進めておきます」
科学者が所長に向かい一礼すると別の科学者が機械を操作し始める。
機械・・・転送装置が唸るような音を発し所長とグラルークスは光と共に転送された。
随行員達が人造人間とすり替わっていた執事と親衛隊員から説明を受けている同時刻、グラルークスはフィルアデス大陸の地下にあるインスティチュート本部で無機質なベッドに縛り付けられて頭部に奇妙な機械を取り付けられていた。
「それでは所長、予定通りグラルークスの記憶を人造人間へ転写する作業を行います」
所長がその言葉に頷くとインスティチュートの科学者達が注意深く様々なモニターを確認しながら装置を作動させる。
「バイタルは範囲内」
「脳波も興奮状態だがシークエンスに支障なし」
「人造人間S10-87に異常無し。いつでも可能です」
インスティチュートの科学者達はベッドに縛り付けられ呻き声を上げながらもぞもぞと身体を動かして拘束から逃れようと抵抗するグラルークスに対し、実験動物を見るかのような冷たい目で見下ろす。
手順通りの操作を受けた機械は文字通り機械的にグラルークスの記憶を人造人間のグラルークスにコピーして行く。
人造人間への記憶の転写が完了した後のグラルークスの立場は廃棄物扱いであった。
まるでゴミのようにぞんざいに扱われ金属のカートで運ばれインスティチュート下層のリサイクル場の片隅にある金属の檻に放り込まれた。
その檻の中には十数人の人間がいた。
その人々は帝都ラグナの宮殿に勤めていた為にインスティチュートによって人造人間とすり替えられたオリジナルの人々であった。
近衛隊長や近衛隊員、執事やメイドとして宮殿で働いていた貴族の娘達。
この人々は比較的最近人造人間にすり替えられた為にまだここにいたのだが、それよりも以前に人造人間にすり替えられた人々はもうここにはいない。
グラルークスを始めとしたこの檻の中の人間達の運命はすでに決まっていた。
男は奴隷として、女は美しければ奴隷娼婦としてヌカワールドにおいて所長・・・総支配人の元で働かされるのだった。
グ帝と言う略語を聞いて愚弟と連想した事がある人は手をあげましょう。
ノシ。