グラ・バルカス帝国帝都ラグナ宮殿において御前会議が行われていた。
帝王グラルークスの入室に室内の全員が跪き最高位の礼をする。
彼らは帝王グラルークスが人造人間とすり替わっているなどとは微塵も気付くことはない。
「では、始めようか」
グラルークスの言葉が開会を意味している。
「まずは先進11ヶ国会議とやらの件、ご苦労であった」
帝王の命で普通なら御前会議に呼ばれる事もないシエリアと随行の外交員が直接先進11ヶ国会議に参加したと言うことで呼ばれていたのだった。
「も、もったいなきお言葉!」
「あ、有難うございます皇帝陛下!」
「グラ・バルカス万歳!帝王グラルークス陛下に栄光を!」
帝王から直接労いの言葉をかけられると言う一介の外交員にとって望外の喜びに涙を流す。
「して、その先進11ヶ国会議の報告書を読ませてもらったのだが、直接その場に居た諸君らにしか分からなかったこともあるかと思ってな。諸君らの手元にもある資料だが、どの様な些細なことでも良い。記載されていないことがあれば申せ」
外交員達はグラルークスに促され資料を読む。
殆どが報告した内容と同一だが一点だけ記載が削除されている事項があった。
恐らく彼らの報告を皇帝や指導者層に読むに相応しい内容へと編集する際に削除されていたのだろうとシエリアは思い至る。
「一点、御座います」
「ほう?申せ」
「はっ。第二文明圏のエモールなる国の事ですが・・・」
外交員達は馬鹿馬鹿しい内容だったと思い出しながら皇帝の命令で覚えている限りの事を話す。
「ほう、予言とな。古の魔法帝国か」
「まったく、馬鹿馬鹿しいですな」
「然り然り。予言などと言う非科学的な物に頼るとは、やはり蛮族ですな」
その話の内容を各省庁のトップらが嘲笑する。
その後も様々な国内外の報告や国家運営の細かい指針を決める話し合いが行われ御前会議は幕を閉じる。
御前会議を終え、帝王グラルークスの人造人間は休息の名目で皇帝私室に入り一人になる。
私室の読み書き用の机の椅子に腰掛け、机の引き出しの鍵を開け引き出しを開ける。
その引き出しの中にしまい込まれていた物を取り出し、腕に装着した。
それはグラ・バルカス帝国の技術水準をはるかに超える技術で作られた機械・・・Pip-Boyであった。
「グラルークスS10-87より報告します」
彼はインスティチュートに指示された指令に従い詳細な内容をインスティチュートに報告した。
「以上が、グラルークスS10-87による報告のすべてであります」
それを聞いた所長は腕組みをし思案する。
「ふむ、この大陸の各国家に潜り込ませた人造人間からの情報と照らし合わせると実に興味深い」
「的中率が九十八パーセントもあるとはな」
「未来観測に近い予言となるわけだな。予言などと非科学的な・・・と以前の我々ならグラ・バルカスの者達と同じく一笑に付していただろうが、地上から連れてきた実験体が抵抗する際に直接魔法なる力を使うのを直接見た今では考えを改めざるを得まい。ま、いずれは魔法もその予言も我々インスティチュートが科学で解明するわけだが」
「どの様にして未来を観測するのか、興味は尽きないが・・・。古の魔法帝国か。これは人造人間達からの報告にもあるラティストア大陸のラヴァーナル帝国が正式名称で確定かな?」
その言葉に所長は大きく頷く。
「同じく人造人間経由で手に入れた情報にあるコア魔法とやらだが、実物を見たわけではないから確証は無いが威力は核兵器に匹敵すると思われる」
「それは脅威だ」
「魔法版の核か、威力が未知数だな。放射線は発するのだろうか?」
「私はエモール人そのものに興味があります。エルフやドワーフに獣人なる亜人の観察や解剖はもう十分でしょう。報告によればエモール人は竜なる種の末裔に当たるとか。亜人の人造人間製造に加えてエモール人の人造人間製造が可能かどうか実に興味深い」
「そう言えば、ラヴァーナル帝国の住民は光翼人と言う種族で光る翼を持つとか言う話も報告の中にありましたな」
「ほう?光る翼を持つ人間?欲しい・・・!解剖したい!実験したい!所長!もし光翼人なる実験体が手に入りましたら是非解剖させてください!」
そのマッドな発言に所長は少し笑いながらエモール人の件も合わせて考えておくと言葉を返した。
「では、次の議題に入ります。新たに一機の人工衛星を軌道上へ転送予定なのはご存知だと思います。この衛星によりインスティチュートの転送可能範囲は現状の最大範囲である第二文明圏を超え、第一文明圏のミリシアル帝国をも含む事になります。予定よりも早く衛星本体が完成した為に軌道上への転送可能時期を前倒しすることが可能なので、衛星軌道上への転送の為のエネルギー配分を優先的に回して欲しいと要望がありました」
誰もが最もだと思った。
インスティチュートの幹部全員が賛同し、所長がそれに同意し議決された。
「では次に、以前実験的に作成した魔石を組み込み高出力の魔信や魔力の信号等が受信可能かどうかの実験衛星ですが・・・結果から言いますと失敗でした。低位の魔法使いの人造人間に作らせた回路ではおそらく魔力なるエネルギーの効率的な運用が不可能な様です。次は高レベルの魔法使いの人造人間を作成し製作させる試みをしたいと思います。そして、故障の原因となった衛星高度にまで高出力を維持し届く魔力エネルギーを実験衛星が受信した為に、魔力の電力サージの様な現象が発生し故障したと思われます」
スッと所長が軽く手を挙げる。
その所長の言葉を聞いた発言者が所長の問いに答える。
「はい、衛星が壊れる寸前に送ってきたデータの復元は成功しています。若干のノイズが混じっておりますが・・・」
補佐官に合図をして地図を広げさせる。
「我々のいるフィルアデス大陸と地続きのグラメアスなる大陸のこの地点より検出しました。衛星写真ではこの地域に国家の存在を確認しています。地上の情報と照らし合わせますとエスペラントなる国家かと。ただ、この国の何処から発信されたかまでは・・・」
それだけ分かれば十分だと言うかの様に満足そうに所長は頷く。
「では、次の議題です。我がインスティチュートの監視衛星が軌道上にて検出した物体ですが、日本国の人工衛星とも異なる形状や表面に宇宙塵で出来たと思われる傷などが多数ある事から、この物体は相当な期間の間この惑星の軌道上に存在していたと思われます。これをこの世界の伝承と照らし合わせると先程のラヴァーナル帝国が所持していた〝僕の星〟なる人工衛星と思われます。地上の人造人間から報告のあった時間遅延式魔法なる方法でノーメンテナンスで今まで存在していたのでしょう。この物体をどうするのかが次の議題です」
「ふむ、この世界の古代の人工衛星か。どうしたものか」
「軌道上から押し出して宇宙の彼方に弾き飛ばすか地上に落としてはどうか?」
「いや、それは早計では?」
「それにそれが原因でそもラヴァーナル帝国とやらのこの世界への帰還が早まったらどうする?まだグラ・バルカスの技術力の底上げは始まったばかりだぞ?」
「そうだ。せっかくグラルークスS10-87を使ってグラ・バルカスの権威ある科学者を人造人間に置き換えて技術力の底上げを始めたばかりだというのに」
パンッと手を叩く音がして全員が所長を見る。
所長はただ一言、現状維持と監視の継続を提言する。
その所長の言葉に全幹部が頷き、決定する。
「それでは、今回の議題は全て終了・・・いえ、所長から特別議題の提案があるようです」
進行役が会議を終了する言葉を所長がアイコンタクトで中断させ、所長権限で事前に無かった議題を出す。
その議題に直接関係する部門の幹部に方を向き、所長は自身の考えを話す。
「そうですね・・・」
所長からの要請にその幹部は頭をフル回転させる。
「衛星転送後にその作業に必要なエネルギーと資源を優先的に回していただけるならば、所長の指定されている期日までに可能です」
脳内でシミュレートしたプランを元に十分可能だと判断し答える。
所長は満足そうに頷き、他の幹部にこのエネルギー配分と資源およびこの計画に関して何か問題はないか聞く。
幹部達もすぐに脳内で各々の作業プランをシミュレートし異議はないと答え解散となる。
会議の後にラヴァーナル帝国に関する情報をもっと集めさせる様インスティチュートから全人造人間に指令が飛ぶ。
人造人間達はその命令に従い魔帝の情報を噂レベルに至るまで収集し始めて行く。
「所長はこの後、ヌカワールドにお戻りで?」
会議が終わり幹部達が各々の研究エリアに戻る中、偶然所長と向かう方向が同じだった幹部の一人が何気なく聞く。
だが所長は首を左右に振り、別荘に行くとだけ答えて転送室へ歩みを進める。
転送室で技師に転送座標を伝え転送台の上に乗る。
「では所長、これより転送を開始します。転送先座標は・・・」
技師が確認の意味も込め転送座標を声に出す。
所長はそれに肯定の返事を返し転送機が出力を上げ所長の身体を転送する。
会議会でした。
しれっと科学者達までもが人造人間にすり替えられている。