ドォォォォォ・・・・ン・・・・。
夜明け前のデュロに響き渡った音は総支配人の撃ったミニニューク弾爆心地から遠く離れた地区にも届いていた。
だがデュロ住民の不幸はまだ夜明け前でほとんどの住人が寝ていてその異変に気付かなかった、気付いても事故が起きたのかぐらいにしか思わなかった。
列強と呼ばれるパーパルディア皇国が本土において攻撃を受けたとは微塵も考える事が出来なかった。
しかし襲撃地点においては異なっていた。
凄まじい爆発音に何事かと周辺の住民が野次馬として、警備兵が工場の爆発事故かと駆けつけて来た。
だがその彼らを待っていたのは・・・・
「ヒャッハー!殺せ殺せ殺せぇっ!!」
「撃ちまくれっ!!」
ダダダダダダダッ!
パララララララッ!
タンタンタンタンッ!
「ぎゃぁっ!?」
「あぐぅっ!?」
「がっ!?」
一般人、軍人に関わらず平等に乱射された弾丸の雨を浴びせられたのであった。
「ひいいいぃっ!逃げろっ!」
「なんだよこいつら!?て、鉄の馬車が・・・あぎぃっ!?」
逃げ惑う者もレイダー達が原子力自動車で轢き殺し、先回りされる。
まさに、〝知らなかったか?レイダーからは逃げられない〟であった。
「あむっ・・・・うぉっ!これうめぇぞ!」
「どれどれ・・・おおっ、いけるぜ!」
デュロに雪崩れ込んだレイダー達は総支配人の指揮下で進んで行く主力部隊の他に撹乱と混乱を引き起こすためバラバラに動く無数の小さなレイダー集団とに分かれていた。
今、デュロの襲撃開始地点に程近い一軒家・・・とある工場の工場長一家の家の中にいるこのグループもそんなレイダー達である。
ガタガタと恐怖で震える我が子を庇うように抱き抱える母親。
子供の父親はレイダーの撃ったショットガンの至近弾により頭が弾け飛び、壁に脳を撒き散らし倒れていた。
レイダー達が食べているのは作りかけの朝食であった。
新鮮な卵と野菜を使った料理。
ウェイストランドではまずお目にかかれない美味にレイダー達は舌鼓を打つ。
「おいおい、ここの連中はガキんときからこんなうめぇもの食ってんのか?」
「かー、うめぇ!俺がガキんときはラッドローチの肉がご馳走だったんだぜ」
「ああ、腹ん中で動いてる感触のアレか?」
母親が子供とこれから仕事に出る夫の為に作っていた朝食は作りかけの状態でレイダー達の腹に収まって行く。
「ああ、美味かったぜ。よし、次に行くぞ」
「あ?こいつらどうする?」
「土産をやろうぜ?」
ニヤッとそのレイダーは笑い、他のレイダーもそれにニヤッと笑う。
ドカドカとキッチンの外に出て行くレイダー達。
母親は助かったと神に感謝した。
「ほれ、土産だ」
最後に部屋を出て行くレイダーがドアを閉める前にそれを放り投げた。
一体何を投げたのかと涙に濡れた母親と子供の目がそれを追った。
掌に収まる大きさの何か。
コンッ!コロコロコロと親子の元へ転がって行く。
「ぷはぁー・・・」
レイダーがタバコを吸う後ろでドガァンッ!と言う爆音と共にドアが吹き飛んだ。
「美味い飯食った後のタバコは最高だぜ」
銃の弾丸の装填を確認し次の襲撃に向かおうと移動する。
レイダーは吸い終わったタバコをポイッと絨毯の上に捨て工場長の家を出る。
さっきまで親子のいた部屋はレイダーの土産・・・手榴弾で滅茶苦茶になっていた。
母親と子供は手榴弾でズタズタになり息絶え、レイダーの捨てたタバコの火が絨毯に燃え移っていた。
デュロにある治安機関は早朝から慌ただしかった。
出勤して来た事務職員が何事かと周囲の警備兵に聞いている。
警備に当たっている兵士との魔信が途絶え、何度目かに送った警備兵から届いた情報が今でも信じられない。
銃を持った奇妙な盗賊団に襲われていると。
パーパルディアでも最新鋭の兵器を盗賊団ごときが持っているはずがない、何かの間違いだと。
(そもそもこのパーパルディアに盗賊団?ありえん!ゴロツキの集団ならともかく・・・・)
警備隊長は情報を整理しながら考えるが答えは出ない。
そうしている間にも窓の外から微かに悲鳴や銃声が聞こえ始めていた。
このデュロが襲撃を受けているのは明確な事実である。
「ええい!デュロ防衛隊の基地とまだ連絡は付かんのか!?」
「そ、それが、先程から何度も呼びかけているんですが・・・応答がありません!!」
「馬鹿な!?魔信の故障か!?」
「わ、分かりません!
「こ、皇都に緊急連絡だ!」
「わ、分かりーーーー」
カッ!!
防衛隊長と通信員の生命活動が閃光とともに強制終了させられた。
窓から飛び込んで来たミニニューク弾の核爆発はそのまま治安機関の建造物を内部から吹き飛ばした。
それを近くの建物の屋上に登った総支配人がパワーアーマー越しに満足そうに頷いた。
「ヒュー!すげぇぜ総支配人!」
その建物の内部で殺しと略奪を楽しんでいたレイダーが屋上に繋がるドアから出て来て賛辞を送る。
一方その頃、連絡の途絶えたデュロ防衛を担うパーパルディア皇国三大基地のデュロ防衛隊陸軍基地では・・・。
数人のレイダーがニヤニヤと笑いながら小高い丘からそれを眺めていた。
彼らの乗って来た原子力自動車の荷台には空になった金属のケースが幾つかある。
「おっ、あいつナイスショットだな」
「ちっ、行けると思ったんだけどよぉ」
「へへっ、俺の勝ちだ」
レイダー達は双眼鏡を使って様子を見、キャップを賭けたりしていた。
デュロ防衛隊陸軍基地内部。
「ひーっひっひっひっひっ!!」
「この野郎!この野郎!」
「うおぉぉっ!!パーパルディア皇国に栄こーーー」
ターンッ!
「あぐっ!」
これに似たような光景が基地内部の至る所で繰り広げられていた。
一言で言うならばパーパルディア皇国兵同士の殺し合い。
彼らの目は血走り、一様に正気を失っていた。
基地の敷地や建物周辺には薄汚れた金属の物体が転がっていた。
一部はガラスか何かだったのか割れており、そこにかつて何かが入っていたのだろう。
その物体に書かれた文字をパーパルディア皇国人が見ても意味不明の模様にしか見えないだろう。
だが、もしこの世界に先に転移していた日本国が見ればすぐにそれが英語だと分かっただろう。
その容器には・・・ハルシジェン・ガスの文字が書かれていた。
そしてあっさりと陥落したデュロ防衛隊陸軍基地ェ