「クェアアアアアアアアアアア!!」
真紅の炎が舞っていた。
熱く、暑く、夜闇を染め上げんばかりの真紅の輝き。
炎の鳥。
それが一面に広がる草原の空を舞い上がっていた。
「許サヌッ! 許サヌッ! 我ハ帰還セシ不死ナル炎!」
吼え上がる。
けたたましく憎悪に塗れた熱意の吐息が、甲高く響き渡った。
憎悪を吐き散らすのは真紅の炎、炎の翼を持った異形。
星晶獣フェニックス。
「我ガ屈辱、我ガ侮辱ノ罪ヲ思イ知ルガイイ!」
昼夜が逆転したかのような輝き。
島一つを焼き尽くすといわれる熱風を放つという伝承を持つフェニックス。
怒りに我を忘れた不死鳥の暴挙に。
『アサルトタイム!!』
無数の攻撃が突き刺さった。
強大なる力を秘めた星晶獣に対する空の民による問答無用の撃墜。
覇空戦争ではよくある神話の光景が今蘇る。
※
ポート・ブリーズ群島。
ファータ・グランデ空域に所属する、空を行き交うものたちが集う豊かな風に恵まれた群島。
途切れることのない穏やかな風によって騎空団の交流の地として発展した群島であり、主島エインガナを中心に交易が行われている。
必然、物資と同時に情報も大量に流れ込み、情報収集をするのに最適の場所だった。
「なんでも大嵐があったらしいぜ」
「大嵐?」
「ああ。なんでもそれで通行止めになったとか、伝説のティアマトが現れたとか、帝国の船で港が破壊されたってさ」
人込みに酔ったのを野草のサラダでむしゃむしゃと食べながら、ウェルダーが報告をする。
「ティアマトって確か星晶獣だよね?」
「ああ、こちらのほうだとあくまでも伝承とされているようだが……」
常日頃から星晶獣あるいはそれに匹敵する怪物と戦い過ぎて感覚がマヒしているが、一般的に星晶獣は覇空戦争で眠りについたとされている伝説の存在だ。
星の古戦場やパンデモウニムなどに突っ込んで戦っていたから違和感があるが、本来はいない。
いや、今更思い返すとなんであんなに普通にいるのか。これが分からないと思う。
他所の島だと伝承混じりだが、星晶獣の加護を受けて反映している島もあるけど……
(うん、深く考えるのはやめよう)
グランは思索を取りやめた。世の中には考え過ぎてはいけないことが多すぎる。
「それなら俺も似たような話を聞いたな」
ウェルダーの報告に、酒場で情報を集めていたゼヘクが相槌を打つ。
騎空団の中では有名な事件らしい。
「どうやら帝国は星晶獣を狙ってこの群島に来たらしい」
「ああ。でもそれはあっという間に去った、嵐の時には港にあった騎空団の船を破壊したとか」
「相変わらずの暴挙ですね……聞くだけで許せません」
「でもそれを解決したのが、このポート・ブリーズにいた操舵士のラカムさんとその船、グランサイファー」
「こちらの避難所からでも凄い嵐が吹き荒れていて、それに飛び込んだとか」
「……多分星晶獣と戦って諫めた?」
「腕のいい操舵士と騎空艇があれば戦えないわけじゃないですしね」
「空から落ちなければなんとでもなるからなぁ」
グランたちの一団は基本的に自分の騎空艇はもっていない。
明確な旅の目的地があるわけでもないし、一番は少人数だからだ。
護衛依頼なども兼ねて定期便などに乗り、それで島と島を移動している。そういうスタイルの騎空団も決して空では珍しくない。
グランは自分の義父を探すためにも立ち寄る島で情報を集める必要もあったし、騎空団連合ラファールに所属してからはそこでの共闘のために運ばれる大型船に同行することも多かった。
それでも以前は小型だが、騎空艇と操舵士なども雇っていたことはあったが……
(ものすごい勢いで戦いばっかりに巻き込まれるから、辞めちゃったんだよなぁ)
苦い思い出である。
どうにも面倒ごとに巻き込まれやすい体質なのか、大規模な魔物の嵐とか星晶獣とかにぶつかることがあった。
その度になんとか切り抜けたが、騎空艇はボロボロになるし、たまったもんじゃないとやめる操舵士が出るのだ。
(僕が狙ってやってるわけじゃないんだけどなぁ)
「はぁ、で、ジータは……結局行方不明か」
ため息をつきながら、グランは懐からメモ帳を取り出す。
広げたそこにあるのはここ数日拾い集めたジータや帝国に関する噂話だ。
「大嵐の時にそれっぽい女の子の騎空士がいたっていう話だけど、女性の騎空士なんて幾らでもいるよなぁ」
もぐもぐと草を口に詰め込みながらウェルダーが横にいるジャスミンとアンナに目を向ける。
空の世界の女性は逞しい。
女だから戦えないとかか弱いとか、そういうのはまるでないのだ。
「もしもジータ……って子が…騎空士…ならまだ新米……のはず」
「うん、島から出たのが数か月前だからまだ新人だね」
「……ならそう簡単に噂にならない、はず。しっかりあつめてから……ボクはいいとおもう……」
『そうだそうだ、お前らせっかちすぎるぜ。セミかよ』
アンナと抱えるカシマールがいう言葉に、グランはうなずくしかなかった。
(もっともだ、いくらあのジータっていっても騎空士になって数か月。そう簡単に目立つはずが、ない)
記憶にある限り、殆んど一人で朝から晩まで剣を振って。
ザンクティンゼルの魔物を単独で切り払い。
それでいてコミュ力も高くて、素直に自慢できる妹分だからと言って空は広いのだ。
しっかりと探さないと見落としてもしょうがないだろう。
「となるともうしばらくポート・ブリーズで探しますか?」
「そうだね。とはいえ何もせずにやみくもに探してもしょうがないから探す方法を変えようと思う」
「変える?」
「うん、ジータも身の気のままで多分出発したんだ――つまり、手持ちはそんなに多くない。だからどこかで依頼を受けてルピを稼いでるはずだ」
それも新人でも受けられる依頼のはず。
そう続けようとした時だった。
「大変だー!!」
鐘の鳴り響く点呼と大きな叫び声が聞こえたのは。
「魔物が逃げ出したぞー!!」
「うぉおおお!!」
今、リチャードは自分が不運の揺り戻しに合っていると痛感をしていた。
丁寧に櫛を通された自慢のブロンド、分厚く身を彩る革のコートに、胸元を飾る赤いストール。
どこからどうみても立派な色男であり、賭博場を巡る歴戦のギャンブラーである自分が、必死になって野原を走っている。
喉が痛い。
脇腹も痛い。
手に持っていた護身用の銃は弾切れで、無茶な姿勢で撃ち過ぎた手が熱を持ったままに痺れている。
だがそれでもこれを落としたらお終いだとわかっていた。
いや、落とさなくても終わりかもしれない。だって。
「く、くんなあああああああ!!」
轟々と燃え盛る火、火、火。
燃え盛る魔物が一直線に、必死に逃げるリチャードの背を草原を燃やしながら追いかけている。
その数は少なく見ても十数体。
腕に自信があるわけでもないリチャードが倒せるわけもない。
絶体絶命だった。
(どうしてこうなった!? どうして!!)
ひぃひぃと喘ぎながら逃げて、リチャードは己の不運を、幸福の始まりを思い出す。
切っ掛けは一月前の降焔祭。
そこで出会った可憐なるデュエリスト、彼女との刺激的な一時の想い出、そして別れ。
そして新たに出会った運命の恋、宝石の姫。
リチャードは彼女に恋をした、まさに運命だった。
だがしかし、彼女は気まぐれに空を旅をする子猫ちゃん。あっという間に見果てぬ空へと旅立ってしまった。
しかしリチャードは、運命の子を諦めたりなどしなかった。僅かな一時で、彼女は宝石に対して強い興味があることを知り、その心を射止める宝石を求めて賭博場を巡った。
熟練のギャンブラーであるリチャードにとって金など些細な問題でしかない。
順調に金を稼ぎ、そして名高い逸話のある宝石が手に入るめどが立った。
そのために商人と契約をし、それを受け取りに来た。
ただそれだけだったのに。
「なんで積み荷から魔物が出てくるんだぁああああああ!」
待ちきれずに郊外近くまでやってきた商人へ受け取りに来た。
だがそこで新人らしい騎空士が荷物をぶちまけてしまい、そこから出てきたのは魔物。
見世物らしい魔物、しかもなんとなくトラウマしかない火の魔物の山で。
何故かリチャードが一番多く追われていた。
「なぜだぁああああ!!?」
半ば泣きながら逃げるが、街に逃げ込むつもりが逆方向。
隆起激しい丘の道なき道を転げ落ちながらリチャードは逃げる。
手には赤い宝玉、商人から受け取ったばかりの宝石、これだけは離すわけにはいかない。
だがなぜだろうか。
それを見て魔物たちが追いかけてきているような気がする。
(まさかこれが目的なのか!? だが、これを離したら俺の全財産が!!)
迫りくる魔物たちから逃げながらも、リチャードは自問する。
これを離せばもしかしたら助かるかもしれない。
だが、これさえあれば運命の想い人から微笑まれる未来がある、かもしれない。
まさに運命の選択。
勝負勘の問われる時だった。
「おれは、おれは……」
背が炙られる。
吼え猛る咆哮に押されながら決めた。
男らしく。
「死んだらどうにもならん、てええい!!」
コールせずに降りた。
損切りの決意と共に、リチャードは遠くに宝石を投げた。
それに多くの火の魔物が目を奪われるようにおいかけて――
それはそれとして目の前のリチャードを喰らわんと牙を剥いた。
「なんでぇ!?」
予定外とばかりに硬直し、足が止まる。
思わず顔を護るように手で覆い。
――銃声が轟いた。
魔物たちの頭が同時に弾け飛ぶ。
「へ?」
銃声が響く。
リチャードの周りにいた魔物の手が、頭が、腹が、燃える血潮をまき散らしながら崩れ落ちる。
「フォレストレンジャー参上!」
「うぉ!?」
呆然と何が起こったのか周りを見渡そうとした瞬間、横から声がした。
目を向ければいつの間にいたのか、緑色の装束をした青年が横に、短刀と長銃を構えてたっていた。
「な、い、今のはお前か?」
「おう! って言いたいところだが、俺じゃない。うちの団長さ!」
「団長?」
フォレストレンジャーと名乗った青年の目線に従い、リチャードは目を向けた。
そこには一人の青年がいた。
グレーのコート、手足からを覆う無数のベルトに、ガンホルダーから引き抜かれた両手の拳銃。
ただの一瞬で六発の銃弾を全て命中させた
そして、リチャードはこれから本当の不運、否、幸運の始まりと遭遇することになる。
不死鳥の再来。
そして、自分が運命を共にする騎空団との出会いとして。
ジータ「……」
モブ「あの嬢ちゃん、なんであんなに目が死んでるんだ」
モブ「あんなにメダルを稼いでるつうのに」
クリスティーナ(あのお嬢ちゃん、ただ一つの正解に辿り着いているね。そうこのカジノで必要なのは強運でも手持ちでもない、大事なのは)
一方その頃、ジータは心を殺してポーカーを回していた。