仲間はルピで集めた   作:雨 唐衣

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 名も無き騎空士たちの強さですが、はじブルの13話ぐらいの強さです。
 ありがとうフレンド!


不死鳥の撃沈/ポート・ブリーズ

 

「パンデモニウムの連中が倒せない?」

 

 昔の話。

 まだパンデモニウムの戦いに不慣れだったころの話だ。 

 騎空団連合ラファールで日々秒単位で原型・星晶獣(オリジン)を文字通り秒殺している騎空士たちとの談合でそんな相談をしたのだ。

 

「時間を掛ければなんとか倒せることもあるんだけど、それだと押し負けちゃって」

 

「確かにあいつらは無尽蔵に出てくるからな、せめて分単位で殺せねえとやってられねえだろ。理想は秒単位だ」

 

 謎多き地の底へと繋がる監獄パンデモ二ウム。

 ここでの戦いは巨大な魔物、大星晶獣相当の一騎相手に"最悪三十分"と言われている――常識的に考えると一騎空団どころか騎士団総がかりで討伐し、三十分どころか歴史に残るような戦争になるのだが、ラファール所属の上位騎空士はその常識に当てはまらない。星の古戦場で荒稼ぎしてる連中も同類である。

 話を戻そう。

 三十分の制限時間、これはこれ以上戦った場合、増援が出てきて前線が崩壊するリスクがあるためだ。

 故に三十分、それ以上伸びるようならば切り替わり、他の騎空士が怒涛の勢いで殴り倒す。

 さらにパンデモウニムだが、これへの一回の突入の制限時間は一時間と決められている。

 一時間がむしゃらに死に物狂いで戦って精魂使い果たすのもそうだが、パンデモ二ウムに充満するあまりにも濃厚な魔力は瘴流域の瘴気にも匹敵するほど――何で動けるのかは鍛え抜いているからとしかいいようがない。の危険性があり、突入ごとに切り替わり、小休止を挟みながらローテーションを組んで無尽蔵に思える幽世の住人を吹き飛ばし続けているのである。

 ファータ・グランデ空域の平穏の一角にはラファールに所属する騎空団の活躍が貢献しているのだ。

 それを義父の手がかりを求めてラファールに所属し、数多くの騎空団と交流をしたグランは知った。

 

「そうだな……手っ取り早いのは武器を揃える、面子の攻勢を考える、あとは薬をキメて……ん?」

 

 ふと指折りしながら思案していたドラフの騎空士がグランを見た。

 その後ろにいる騎空団の仲間たちも含めて。

 

「そういえばお前たち、アレやってねえのか?」

 

「アレって?」

 

「アレっていえばアレだよ」

 

 

 

 

 

「アサルトタイム」

 

 

 

 

 

 

     

 ――超カッコいい銃撃(スタイリッシュ・シュート)

 ガンスリンガーとしての銃撃を持って魔物を打ち抜きつつ、やっぱりかっこいいなと我ながら自画自賛する。

 

(久しぶりに使ったけど、やっぱり吸い付くなぁ)

 

 名も知らない銃の安全装置を入れ直し、グランはホルスターに仕舞いこんだ。

 昔、ウェルダーの誘いで購入し手に入れたライフル弾も使えるハンドガンである。

 セフィラ島で使っていた銃は酷使もあって整備に出していて、これはサブの銃だが、島に入る前までは使っていた愛用銃だ。昔通りの感覚のままに全弾命中。

 思わずにっこりしてしまう。

 

「と、大丈夫ですか?」

 

「あ、ああ。えっと君たちは?」

 

 魔物に襲われていた金髪の男の人に、軽く周囲を警戒してから声をかける。

 

「僕はグラン、そちらがフォレストレンジャーのウェルダーです」

 

「怪我はないみたいだぜ、団長!」

 

「了解、みんなが追い付くまでは警戒よろしく」

 

「おう!」

 

 先行していたウェルダーが事前に傷の具合を確認をすまし、そのまま周囲の警戒に専念してくれる。

 数多くの戦場を一緒に渡り歩いた戦友同士の阿吽の呼吸だ。

 

「通りすがりの騎空団です、貴方は?」

 

「あ、ああ。俺はリチャード、旅のギャンブラーだ」

 

(ギャンブラー?)

 

 何故ギャンブラーがこんなところで魔物に襲われてたんだ?

 そんなグランの目線に気付いたのだろう、バッバと衣服に着いた土埃を恥ずかしそうに払いながらリチャードが答える。

 

「実は、ここに商人に頼んでいた商品を受け取りに来てね」

 

「商品っていいますと……」

 

 ふと気づいた。

 街から飛び出し、散らばるように暴れ回る火属性の魔物たちに追われていた彼がさきほど何か投げたような……

 

「まあ今さっき失ってしまったんだけどね」

 

 はぁあああああああああと大きなため息を吐きだすリチャード。

 俺の全財産がぁああと今にも崩れ落ちてしまいそうだった。

 

「ああくそ、やっぱり大人しく街に来るまで待ってるべきだったよなぁ」

 

「えっと商人の人から受け取る予定だったんですね」

 

 その商人というと街の方に逃げてきた人だろうか。

 スゴイ逃げ足だったからこっちが引き留める間もなく町中に逃げ込めたとおもうけど。

 

「ああ。だがなんかわからんが、いきなり魔物が荷物から飛び出してきてなぁ」

 

「飛びだしてきた?」

 

「さっきの魔物いるだろう? あれ商人が運んできた奴らしいんだ、火の魔物さ」

 

「なっ!? さっきの魔物が?」

 

「ふええ」

 

「ナニカンガエテンダ、バカジャネーノ」

 

 グランがえって顔をしている中、周囲を警戒していたウェルダーとアンナ(とカシマール)も突っ込んだ。

 確かにポート・ブリーズでは中々見ない種別の魔物だったが……

 

「み、密輸とかそういうことですか?」

 

 憲兵に突き出すべきかと考えるグランに、リチャードが慌てて手を横に振る。

 

「違う違う。<降焔祭>での一件をもしかして知らないのか?」

 

「降焔祭?」

 

「確か聞いたような聞かなかったような……」

 

 降焔祭とは、ポート・ブリーズで年に一度行われる恒例行事である。

 島の内外から訪れる商人で露店が立ち並び、珍しい魔物を集めた見世物小屋やカジノ艦<ジュエル・リゾード>の寄港などもある一大行事なのだとリチャードは説明した。

 

「とはいえそれが一月前に終わったんだが」

 

 何故今更魔物を集める必要が?

 

「出たんだよ。フェニックスが、ああいや本当なんだぜ? 嘘じゃない、星晶獣のフェニックスが出たんだ」

 

 元々降焔祭とは年に一度出現する炎の星晶獣フェニックスを鎮めるために、火の力を宿す魔物を捧げる儀式が始まりなのだという。

 そして、今まではそれは迷信や伝説上の出来事だと思われてたのだが……

 

「一か月前の降焔祭で出やがったんだよ。いやあやばかったぜぇ、あのお嬢ちゃんたちと俺がいなかったらこの島一つ焼け野原になってもおかしくなかったな、うんうん」

 

「なるほど」

 

「あ、その目信じてないな! 本当だぞ!! 星晶獣が出たんだ!」

 

「いや信じてますよ?」

 

「大丈夫、信じるから」

 

『イマサラダヨナー』

 

 今更星晶獣の一匹が出たところで驚くこともない。

 むしろよく今まででなかったなと思うぐらいだ。

 

「それでもしかしてあの魔物も?」

 

「一か月前に祭りは終わったんだが一応伝説が本当だったってことで追悼の鎮魂祭りが行われるってんで仕入れたらしいぜ。あの時は強引に叩きのめして、なんか恨めしそうだったからなぁ」

 

「貴方が……星晶獣を倒せるというのは強いんですね」

 

 星晶獣というのは並みの騎空士じゃあ対処仕切れない強大な存在だ。

 それを倒せるというのは目の前にいるギャンブラーを名乗る彼も凄腕の使い手に違いない。

 この空だとよくある話だ、騎空艇を持っていた時に同行していた風祷師の少女なんかも村育ちだったのに偉い強かったし。せんべい焼きの名人のおばあちゃんなんかもせんべいで魔物を両断していた。

 

「ん? あー」

 

「? どうしたんです?」

 

「ああ、もちろんさ! こう見えても凄腕なんだぜ」

 

 ハッハッハと笑って見せるリチャード。

 

「事情は分かったし、一度街に戻ろう」

 

「うん、帰ろう。魔物は大体掃除できたみたいだし」

 

 さっと気配を探ると、大体の逃げ出した魔物はもう仲間たちや、他の街に詰めていた兵士たちが倒したようだ。

 仕入れた商人は大損だろうが、まあ不運な事故だったと思って諦めて欲しい。

 大規模な魔物の襲来だと思って足止めメインのガンスリンガーに切り替えてたが、無駄足で済んだようでよかった。

 

「あれ? 団長、あそこまだ残ってる……?」

 

 アンナがふと何かに気付いたように指を差した。

 そこには虚空に火の粉が舞い上がっている。

 

「いや……違う!」

 

「団長、なんか来るぞ!」

 

「へ?」

 

 ウェルダーとグランが同時に銃を抜き、アンナが帽子のつばを掴んで二人の後ろに回る。

 リチャードは三人の動きに首をかしげて、次の瞬間驚愕の声を上げた。

 

 

「フェニックスだと!?」

 

 

 

「クェアアアアアアアアアアア!!」

 

 真紅の炎が舞っていた。

 熱く、暑く、夜闇を染め上げんばかりの真紅の輝き。

 炎の鳥。

 それが一面に広がる草原の空を舞い上がっていた。

 

「許サヌッ! 許サヌッ! 我ハ帰還セシ不死ナル炎!」

 

 吼え上がる。

 けたたましく憎悪に塗れた熱意の吐息が、甲高く響き渡った。

 憎悪を吐き散らすのは真紅の炎、炎の翼を持った異形。

 星晶獣フェニックス。

 

「我ガ屈辱、我ガ侮辱ノ罪ヲ思イ知ルガイイ!」

 

 昼夜が逆転したかのような輝き。

 島一つを焼き尽くすといわれる熱風を放つという伝承を持つフェニックス。

 怒りに我を忘れた不死鳥の登場に。

 

「くっ! まさか復活したってのか!?」

 

 リチャードが懐に手をいれて、愛用のカードを掴み出す。

 リチャードの持つ特異技能。

 今日の幸運の代償に、明日の不幸を得る。

 任意で操れるほどの幸運はないが、その副産物として賭けになるがその場にいる全員に吉兆を齎すことは出来る。

 

(テレーズさんも、あの"めちゃくちゃ強いお嬢ちゃん"もいないってのに!)

 

 上手くいけば全員が逃げられるかもしれない。

 しくじれば全員が死ぬ。まさにギャンブルだが。やらなければ全員が死ぬ。つまりノーリスク。

 

「いく」

 

 覚悟を決めて発動のトリガーを引こうとした瞬間だった。

 

 

『アサルトタイム!!』

 

 

 ボッとグランが、ウェルダーが、アンナが光った。燃え上がるように。

 

「スタイリッシュ・シュート!」

 

 グランの銃弾が!

 

「カースドブレイズ!!」

 

 アンナの魔女火が!

 

「スティルショット!」

 

 フォレストレンジャーの銃撃が!

 

「え? ジョーカーショット!」

 

 リチャードの札が!

 不死鳥に無数の攻撃が突き刺さり。

 

『『『『アブソリュート・ゼロ!!!』』』』

                         

 渦巻く奥義の奔流の口火と化した水の連結爆陣(チェインバースト)が不死鳥を粉々に砕いた。

 

「      !!!」

 

 そして、フェニックスは声も凍り付いたまま撃墜された。

 不死鳥は堕ちた。

 

 

 

 




「アサルトタイムがなにかって? 騎空団がやる一種の体調管理だ。ここで使う活力剤のドーピングと似たようなもんだが、食事の時間や生活リズムを合わせて、調子がいいタイミングを意図的に合わせる。これをやっておくことでどの時間帯でなら一気にブーストがかけられるか、最初の一撃で全力を出し切れるかっていう戦法ヨ。ヤバイ強敵なら最初からおもっくそぶち当たって、瞬殺する。これも一種の戦術って奴だな」

 パンデモニウムの幽世の住人はそれに加えて魚類を抱えた剣豪、謎の三つ目の洗礼、ぴかっと光ったら相手が死ぬ剣の爆撃を受けているようだ。

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