MAJIKOI×DRIFTERS   作:霜焼雪

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第零幕 旅立ちの鐘が鳴る

 

「――――」

 

 

 扉がある。それは一つではなく、数えきれない程多い。それらは統一されておらず、素材も開け方も、使われていた時代背景も全て異なり、造りが同じ扉は二つとない。扉の博物館にいるようだった。

 

 一本の通路の壁に等間隔に設置された扉は一つも開かずに閉じられている。開く気配がしない。堅く固く、絵画や彫像と錯覚させられるほどに動かない。

 

 通路は何の面白味もない真っ直ぐで真っ白なもの、そこに扉が装飾として飾り付けられているようだった。まさしく、扉のためだけにあるような世界が広がっている。

 

 永遠に引き伸ばされた直方体の中、通路は正しくそれだった。出ることができないと思わせる閉塞感が充満していた。

 

 通行人が来る気配は微塵もしない空間ではあるのだが、通路の本来の役目である通り道と言う機能を邪魔するように、通路の中央に置かれたオフィスデスクのような幅の広い木製の机が置かれていた。

 

 いつ崩れてしまうか分からない危険性を孕んだプリントと書類の山、何に使われるか分からない整理券の発券機。その机は役所にあれば立派に見えたことだろう。この通路に存在してしまったせいで、机の異質感は拭いきれない。

 

 その机を猫背で占領し、ポットで湯を沸かし珈琲をじっくりと入れ、煙草を加えながら新聞を読んでいる眼鏡の男がいた。

 

 

 

 

 

 男は無表情、何の感情が今彼に宿っているのかも解らないが、その瞳の奥には何かが眠っていそうであった。深く深く、暗い瞳。

 

 

 

 

 

 男は新聞の頁を、捲らない。ただただ同じ頁を開いて目を通していた。

 

 男は新聞を捲る必要はなかった。“新聞の内容が勝手に変わってくれるのだ”。雑巾に水が染み込んでいくように前の記事は消え、じわじわと滲み上がるように新しい記事へと更新される。

 

 

 

 

 

“新たな敵、崩王現る”

 

 

 

 

 

 男の煙草を加えている口が僅かに動いた。暫し男の動きは止まり、煙草を手に持ち替え珈琲を一口啜る。

 

 

 

 

 

 そこで、その通路に異変が起きた。

 

 

 

 

 

 男から見て前方の通路が、奥から暗くなっていく。電灯が消えたとかそんな生易しいものではない。壁が床が天井が、多種多様な扉たちが“黒”に塗り潰されていく。

 

 残ったのは真っ黒な通路と、かつて扉があったところをなぞるような真っ白な輪郭線。

 

 その地獄へ通ずる回廊に姿を変えてしまった通路の奥から、カッカッ、と小さな足音が男に向かって近づいてきていた。

 

 男は眉を僅かに潜め、新聞から視線を外して目だけでその足音の主を睨み付けた。

 

 

 

 

 

「また無駄な抵抗をしているのね、紫」

 

 

 

 

 

 眼鏡の男を紫と呼んだ足音の主は、まだ小学生かと思わせる容姿を、黒いゴシックロリータの服で包み込んだ黒髪の少女だった。

 

 少女は紫の机の前に仁王立ちし、右腕を紫にやんわりと突き出して笑いながら紫に話しかける。

 

 

 

「何をしても、無駄なことなの。あなたが幾ら漂流者(ドリフ)を呼ぼうと、もう一つの世界も私の廃棄者(エンズ)の支配下に置かれるの。崩王はあなたの漂流者を根絶やしにするわ。私の勝ちなの」

 

 

 

 勝ち誇った優勢者、少女はまさにそれだった。紫をからかうように挑発し、指を一本一本丁寧に曲げて誘ってきているようだった。

 

 

 

 

 

「失せよ、EASY」

 

 

 

 

 

 EASYと呼ばれた少女を、紫は一喝して切り捨てた。

 

 紫はようやく新聞紙を読む体勢から身体を起こし、眉を吊り上げてEASYを睨んだ。

 

 

 

「間違いは正さねばならない。哀れな女よ」

 

 

 

 紫の言葉を聞いたEASYは、先程まで紫をからかっていた口を開けて数秒間硬直した後、段々と表情を変化させていき、最終的には悔しがるように紫を下から睨み付けた。

 

 悔しがると言うよりは、かまってもらえない不機嫌な子供の様とも言えた。EASYの容姿がそのような印象を与えてしまうのだろう。

 

 しかし、それも一瞬のこと。EASYは直ぐに先程のような調子を取り戻し、紫に背を向けて言い放つ。

 

 

 

「何をしても無駄なの。私の廃棄者(エンズ)の勝ちは揺るがないの」

 

「くだらぬ。世界にあるべき形を求めることは不要な酔狂だ。崩壊を求めることすら、形を求めることだ」

 

 

 

 EASYは背を向けたまま、紫は新聞へと視線を落とし、相手の意思を汲み取ろうとしない乱暴な対話が行われている。自身の意思を貫き通し、対抗する意思を淘汰する。彼らの会話は、暴力だ。

 

 

 

「何を言うのかしら。くだらないのは貴方。飽きもせずに私に対抗しようとする」

 

「あの男を呼び寄せた時点で、次なる闘争は始まった」

 

「崩王は優秀なの。これ以上ないくらい、没義道を歩んでいく」

 

「なればこそ、止めねばならん」

 

 

 

 

 

「せいぜい頑張るのね。結果は見えているのだけれど」

 

「くだらぬ企みも終わりだ。漂流物(ドリフターズ)を甘く見ないことだ」

 

 

 

 

 

 EASYは来た道を引き返す。深淵な闇となった通路を闊歩する。すると、まるで鉛筆で塗りつぶされたノートに消しゴムをかけるように、EASYが通った道が元通り白くなっていく。

 

 EASYが最後に紫に振り返る。その顔は確かに歪んだ笑いを浮かべていたと、すべてを飲み込む暗闇の中でも確認できてしまった。

 

 しかし、紫は顔を上げない。EASYにくれてやる別れの言葉はないと言わんばかりに、視線をやろうとはしない。

 

 EASYは顔を歪ませ闇の中に消え、通路は完全な白に染まり、扉も復元される。それを確認した紫はプリントとファイルの山を崩すことなく、先程まで手に取っていたバインダーを引き出しにしまい、大きな一つの本を広げる。それはまるで手記帳のようであり、宿泊者名簿のようでもあった。

 

 

 

「次」

 

 

 

 

 カッ! と、気味のいい足音が響き渡った。

 

 何者かがEASYの立っていた場所に突如現れる。その際に部屋が僅かに歪んだが、白いまま黒くはならない。この部屋は正常に機能している証拠だった。

 

 

 

 

「……どこだ、ここは」

 

 

 

 

 黒髪の少女がまるで見知らぬ場所に放り投げられたかのように周囲を見回す。見慣れない扉だらけの風景、あまりにも静寂で厳かな空間、そこに鎮座する異質な眼鏡の男、何もかもが少女を不安にさせようとしていた。

 

 少女の困惑は至極当然であり、この場に必要なものだった。それがなければ、彼女の自我は改変されていると思われる。ここに正当な方法で来た以上、彼には無傷の自我と確固たる意思がなくてはならない。

 

 誰にも左右されない、自由な嵐のような意思が。

 

 紫は少女を一瞥すると、他に多くの名前が書かれた名簿に名を刻む。

 

 

 

 

 

 ――――川神百代。

 

 

 

 

 

 名を書き終わった瞬間、少女の体は真横に吸い寄せられる。

 

 

 

「なっ――――」

 

 

 

 少女は抵抗する暇もなく、開いた障子の中に吸い込まれていく。障子の先には何も見えない。それこそ暗闇だった。しかし、EASYが作った空間とは違う。こちらの方が混沌として、正体不明で、何故か暖かい。

 

 少女は大きな口を開けて障子の中に落ちていった。何かを叫んでいたように見えるが、その声は紫には届かない。その声は、渡された世界へ届けられる。

 

 

 

 

「次」

 

 

 

 

 紫は少女の安否を気にせず事務を続ける。

 

 死んでも構わないと割り切っているのか、死ぬはずがないと信頼しているのか。どちらにしても、少女が落ちたということには無関心だった。

 

 

 

 

 

 そしてまた、この通路の空間が歪む。

 

 

 

 

 





 あとがきゆかいしょーとすとーりー 崩王様御乱心


崩王「乱心するもねーよ。まだ名前しか出てないジャン」

黒王「だからってSkypeで呼ぶでない。遺憾の意を表明する」

崩王「イカンのイってなに? ウンコのウと同じ?」

黒王「あ、それいただき。向こうで使おう」

崩王「向こうにゃウンコ本職いるだろ。自重しようか」

黒王「うるせーぼっち」

崩王「ぼ、ぼっちじゃないもん! 展開的にしょうがないだけだもん!」メソメソグビグビ

黒王「あ、泣くでない! もうやだこの泣き上戸」

完
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