MAJIKOI×DRIFTERS   作:霜焼雪

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第十一幕 狂気沈殿

 

 

 

「つまらない」

 

 

 

 霞んだ幽霊の様に街道の隅に佇む少年が、誰にも聞かせる必要のない心の声を、敢えて口に出して自らに言い聞かせる。その独り言すら、戦争の喧騒に打ち消されてしまう。

 

 ギシギシと、自分の体と左腕をきつく縛る橙色のベルトを強引に引っ張り軋ませる。引き千切ることは恐らくそう難しいことではないのだろうが、少年はそれをしようとしない。自分が縛られているということを確かめることで、自分が生きているということを確かめているようだった。

 

 自分が生きているという実感と身動きが取れないことに悦を感じ、自分が惨めに晒されることに快楽を覚える。自縄自縛と言う諺を、我が身を以て体現しようとした結果とも言えよう。

 

 少年は狂っていると自覚していた。

 

 いつから狂い始めたかは分からない。翳りを帯びた瞳がすでに常軌を逸している。

 

 少なくとも、狂気の象徴とも言えるこのような装いに身を包むようになったのは、少年が“こちら側の世界”に誘われてからだった。“向こう側の世界”では、生気のかけらも感じさせない、俗にいう地味な存在。すれ違った者に自分の記憶に留めさせないような印象の薄さを秘めた、暗躍者だった。

 

 目立たないという訳ではない。“目立てなくてはいけない”のだ。

 

 

 

 こちらの世界に来る前、少年は一人の少女との決闘を終えたばかりだった。

 

 

 

 ――――高坂君、死んじゃうの?

 

 

 

 その言葉に揺さぶられ、少年は死と言うものについて考えていた。

 

 少年が挑むのは天上、あるいは辺獄と隣接した決闘、死に臨む大一番。その相手の一撃一撃が少年を死の谷へ突き落そうとしてくる。迷いはなかったが、不安はあった。

 

 無事の保証などなかった。彼を支持してくれる人間も、彼の生死や安否に関して、絶対の保証などしてくれなかった。彼の決闘を見守る監督者でさえも、死ぬことを念頭に入れての送り出しともいえた。死に対する覚悟はあったが、死にゆく恐怖もあった。

 

 そんな死合に臨む前日の帰り道のこと。

 

 少年は自分の生を望んでくれた少女との決闘の後、暗い夜道を一人で歩いて帰っていた。その帰り道自体は普段から使っているもので、迷う理由は何一つとしてなかった。

 

 

 

 

 

 その普段の通り道に、奇妙な亀裂が入っていること以外は。

 

 

 

 

 

 少年は目を疑いつつも、その亀裂を凝視してしまう。死という不明瞭で曖昧な存在を無意味に考察し始めてしまった彼にとって、その亀裂は実に興味深く惹かれるものだった。それほどまでに、その亀裂は現実離れした異質なものだった。

 

 不明瞭で霞んだ亀裂は、少年の瞳と同族だと訴えかけてくるようだった。

 

 少年が一歩亀裂に近づこうとすると、その亀裂はこっちへ来いと言わんばかりに、ゆっくりと大きくなっていく。まるで亀裂は扉の様に口を開き切り、奥の空間へ通ずる通り道となっていく。

 

 通り道は黒く深く長い。少年がイメージしている死に最も近い、深淵と言っても過言ではない。

 

 

 

 

 

 ――――おいで。

 

 

 

 

 

 その後のことは少年もはっきりと覚えていない。自分からその亀裂の間に足を踏み入れたのか、亀裂の中にいた奇妙な存在に引き入れられたのか、それすらも確かではない。

 

 今現在、生きているか死んでいるかも明らかではない。痛みがあると言うことは、縛られているということは、生きているということなのだろうと自分に言い聞かせているだけだ。悦に浸ると同時に、安堵していたのだ。

 

 あっさり訪れた“死”を、少年は否定し続ける。

 

 気が付けば、少年は奇妙な服と言うか帯と言うか、奇抜な革製の縄のようなものに縛られて、ある人物の配下に着くことになる。

 

 

 

 いつの日か、向こうの世界に帰り、長きに渡る因縁に決着をつけるために。

 

 

 

 

 

「何がつまらんのじゃ小僧」

 

 

 

 

 

 少年は声をかけてきた人物に気怠そうに視線をやった。少年に向けて刀の先を突出し牽制している老人を一瞥し、少年は再び視線を足下に戻した。

 

 

 

「別に、大したことじゃないですよ」

 

「呆れたものじゃ。先程の冷たく鋭い殺気は遊び半分だったのかの?」

 

 

 

 老人は一歩少年に踏み込み、先程の威圧の真偽を問おうとする。実害は出ていないものの、喧嘩が売られたということは事実。それも尋常ではない殺気を用いたものだ。老人が問い質そうとするのは至極当然のことだった。

 

 その好戦的な態度に、殺気を向けるという無礼な行動で喧嘩を売ったはずの少年が、まるで老人を宥めるような体勢を取ろうとする。

 

 しかし、その態度は明らかな挑発にしか見えない。

 

 

 

「落ち着いてくださいよ。目的は貴方なんかじゃないんですから」

 

「ほう? あの中の別の人間に向けた殺気だったか? それにしちゃ精度が悪か。儂だけに向けたようにしか感じられんかったがのう」

 

「貴方に向けましたが、貴方が目的じゃないんですよ」

 

「奇妙なことをぬかしおる。儂が目的じゃないのであれば、誰が目的じゃ」

 

 

 

 

 

「川神百代。貴方から武神の臭いがする」

 

 

 

 

 

 ピクリ、と老人の肩が揺れた。そのわずかな反応と表情から、少年は得るべき情報をすべて手に入れたと言わんばかりに、老人に対して背を向けるように踵を返す。

 

 

 

「待たんかい!」

 

「まだ何か用があるのかな?」

 

「大有りじゃ。あの小娘のことを狙っておると言うのであれば、儂はお主を見逃すわけにはいかん!」

 

 

 

 老人は少年の項に穂先を添えるように刀を構える。少年の首に巻かれている首輪のようなベルトに触れているため、ほんの少しでも力を入れれば首に刀が突き刺さってしまう状況。完全な威嚇、脅迫であった。

 

 元来足止めとは、挑発と脅迫から成立する。

 

 

 

「大道寺銑治郎。罷り通らせてもらおうぞ」

 

「…………めんどうだなぁ」

 

 

 

 少年が少しだけ体をかがませて刀から間合いを取り、老人に対して逆の方向に数歩進んで距離を取り、老人に体の正面を向けるように再び身を翻す。

 

 その距離は完全に、死合う前の間合いと合致している。

 

 

 

「高坂虎綱。名乗り返しておかないと、卑怯と言われそうだからね。それじゃあ、やろうか」

 

 

 

 少年、虎綱が縛られた左手を動かすことなく、右手だけを前に突き出して、かかってこいよと中指を数回追って銑治郎を挑発する。

 

 老人、銑治郎はそれに対しニヤリと笑い、乱雑に刈り取られた無精髭を露出させていない左手でさすり、右肩で刀を担いで左半身を前にする。

 

 その動作を見て、虎綱もまたニヤリと笑う。

 

 互いに臨戦態勢が整ったという合図に他ならない。

 

 

 

「ぜやっ!!」

 

 

 

 開始の合図の存在しない殺し合いの火蓋を切ったのは銑治郎だった。

 

 銑治郎は即座に決着を付けようと、虎綱の脇を目にも止まらぬ速さで駆け抜け、右手一本で虎綱の体を一閃、斜めに断ち切った。

 

 しかし、銑治郎の顔はすぐれない。

 

 刀を持つ右手がビリビリと痺れ、刀が悶絶するように高周波の音を発しながら身震いしていた。この感覚は、硬いものを切り損じたのとほぼ同じだと銑治郎は感じ取っていた。

 

 即座に虎綱から間合いを取って刀を構え直した銑治郎の目に映ったのは、背後に回った銑治郎を視界に入れようとゆっくり振り向く虎綱の姿。全く慌てることなく、かといって余裕という訳でもなく、ただただ冷静沈着に落ち着いて、生気のない瞳で銑治郎を見つめていた。

 

 生気がないと言う表現すら御幣を帯びる。あれは“死”だ、死人の目だ。

 

 死者の瞳に全身の肌が粟立った銑治郎だったが、それを抑えようとはしなかった。むしろさらに前進の体毛を逆立てようと、その肌の総立ちを促進させていた。殺意という狂気が満ちた海に身を投じることで、全身の感覚をより鋭くしようとしていた。

 

 銑治郎はまたしても右肩で刀を構え、再び全力で虎綱に突撃する。今度はすり抜けることなく虎綱の懐で止まり、以前相対した偉人への尊敬を忘れることなく、瞬間的な連続斬撃を繰り出した。

 

 虎綱の瞬き一回が終わるまでの間に繰り出された斬撃の回数は、実に六回。完全再現できないのは銑治郎自身が一番理解していたが、ここまでできただけでも脅威である。

 

 加えて、先程の手の痺れの原因とも思える革のベルトを避けるように、露出した肌の部分を狙って斬撃を繰り出したのだ。精密さだけ見れば、真似た偉人にも引けを取ることはないだろう。

 

 

 

「――――ぬぅ……っ!」

 

 

 

 それでも、銑治郎の右手はさらに痺れていた。

 

 何故斬れなかったのかと思い虎綱の体を見ると、革のベルトがまるで生きた蛇や百足のように、虎綱の体を這って位置を変えているではないか。

 

 銑治郎はその奇妙な光景に思わず呆気にとられてしまい、意識の空白を作ってしまう。

 

 その虚を突き、虎綱は銑治郎の左肩に右手を添えた。

 

 

 

「はい、まず一つ」

 

 

 

 ガキッ、と銑治郎の体内から奇妙な音が響いた。

 

 

 

「ぎっ――――ぃい!?」

 

 

 

 音と共に迸った激痛に堪らず声を漏らしそうになるが、銑治郎は奥歯を噛み砕き合わせるほどの強さで歯を噛み締め、即座に虎綱から距離を置いた。

 

 銑治郎は音の発信源、自身の左肩の状況を確かめる。肩が全く動かせず、形も奇妙に歪んでいる。いつも見ている自分の肩の形が違うことなど、それこそ一目瞭然だった。

 

 

 

 ――――関節を外されたようじゃのう……。こりゃ年寄にゃあ、ちと嫌な責め方じゃ。

 

 

 

 銑治郎は右手に持っていた刀を口に加え、左肩をグッと押し込んだ。

 

 その際に走るさらなる激痛に刀を噛み砕きそうになるが、何とか腕の骨の丸い先端を肩の骨の凹んだ部分に嵌めることに成功する。痛みがふっと消えたことを確認し、吊るす様にしていた左手をそのまま固定し、余していた刀袋でギュッと縛る。

 

 

 

 ――――元々包帯巻いておるのに、これでは本当に三角巾みたいになってしもうたわい。

 

 

 

 銑治郎は左肩が使えないことを少しだけ不安に覚えながらも、決して闘志を絶やすことなく再び刀を構える。虎綱はそれを見ても全く動こうとしない。専守防衛のつもりなのかもしれないが、銑治郎にとっては都合がよかった。

 

 動かない的程、剣技の精度が上がる理由はないと断言できたからだ。

 

 

 

「天国式、小鴉」

 

 

 

 銑治郎は先程よりも体制を低くし、爆発的な速度で再び虎綱の脇を駆け抜けた。

 

 しかし、今回の接触で表情がすぐれなかったのは虎綱だった。

 

 防いでもいないし、食らっていもいない。これはただすり抜けられただけと理解し、虎綱が振り返ると、そこには人影のような何かがいた。

 

 その人影はまるで幽霊のように、陽炎のように、ぶれて複数人いるように見える程速く揺らめいて移動していた。銑治郎の特技の一つである。

 

 

 

 ――――拙い。本体が見極められない。僕なんかよりよっぽど不確かじゃないか。

 

 

 

 虎綱は戦慄する。あれは速いとか見切れないとか、そういう問題ではないことを感覚で理解してしまった。

 

 

 

 ――――あれは、間違いなく撹乱、搖動。

 

 

 

 ――――と、思っておるんじゃろうなぁ。かっかっか。

 

 

 

 全方位に意識を拡散しつつ、どの方向からの攻撃にも耐えられるように虎綱は注意を張り巡らせる。まるで自分の中心にした球体のセンサーでも張り巡らせているかのように、虎綱の警戒心は最大に達していた。

 

 そんな中、揺らめく銑治郎はニヤリと不敵に笑う。本質を見極めすぎた結果ど壺にはまった人間を見る程、愉快なものはないと言わんばかりに口角を吊り上げている。

 

 

 

 ――――剣士でもないお主に、全てを曝け出すはずなかろうて。

 

 

 

 銑治郎は複数人に見えるように体をぶらしたまま、虎綱の正面から突撃する。

 

 虎綱は決してそれから目を離すことなく、革のベルトによる防御を固めていた。いつどこから襲ってきても良い様に、警戒心を高めていた。

 

 しかし、それこそが銑治郎の罠だった。

 

 ゴトリ、と虎綱の背後で音を立てて何かが落ちた。その音の正体を確かめようと素早く振り返った虎綱。

 

 

 

 

 

 彼が目にしたものは、革のベルトで雁字搦めにされていた筈の自分の左腕だった。

 

 

 

 

 何故あそこに自分の左腕があるのかが分からなかったが、痛覚が時間を忘れていたように、慌てて表層に現れる。

 

 普段から痛覚を客観的にしか痛いと感じ取っていないような性格が相まってか、虎綱は未だに腕が切り落とされたことに理解が追い付いていなかった。あそこに腕が落ちている、程度の感覚でしか物が見れなかったのだ。

 

 しかし、自分の左手が先程より自由に動くことと、左肘から先の感覚がない以上、あれが自分の腕だと認めざるを得なかった虎綱は、ようやく銑治郎を睨み付けることができた。

 

 

 

「もちっと痛がるもんじゃと思ったが、そんなものか。左腕以外は斬れる自信がなかったが、よかよか。それにしても、豆腐みたいに“やわっこい”のう、お主の身体は?」

 

 

 

 刀を一度素早く振るい、滴り落ちていた血液を払い落す銑治郎。

 

 

 

 ――――さて、どう出る……?

 

 

 

 銑治郎は警戒心を強めて虎綱との距離を広く保ったまま刀を担ぎ直す。得体のしれない死人のような人間が次にとる行動を予測できない銑治郎は、虎綱と言う人間を警戒してもしたりない。して損をすることはないのだ。

 

 しかし、必要以上に発せられた警戒は視野を狭め、凝り固まった常識と言う観点をさらに凍りつかせてしまう。

 

 

 

「――――来い」

 

 

 

 その次の瞬間だった。

 

 バチン! と小気味いい音が銑治郎の体から聞こえたと思えば、銑治郎の体が瞬間的に引き寄せられ、虎綱の左腕に固定されていた。

 

 

 

「な――――!?」

 

「貴方を見せしめにすれば、あの人は来てくれるかな?」

 

 

 

 状況の理解できていない銑治郎の体に、きつく虎綱の革のベルトが巻きつけられていく。

 

 

 

「こ、やつっ……! 帯を武器にできるのか……!?」

 

 

 

 ようやく自分が引き寄せられた力の正体を把握した銑治郎の首に、ゆっくりと虎綱の右手が添えられようとしていた。

 

 

 

 ――――いかん……! いくら儂でも脊椎をああも綺麗に外され損傷でもしたら、立ち直ることができるかどうかとか、そんなちゃちなことではすまんぞ!?

 

 

 

 銑治郎は必死に脱出を試みるが、きつく縛りつけられた革のベルトを切ることもできず、ほどくことも叶わない。

 

 ゆっくりと虎綱の右手が銑治郎の背中に近寄り、距離が縮まるほどに銑治郎の心臓が早鐘を打つ。

 

 万事休すか、そう思い銑治郎は歯を食いしばる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「“音走螺”!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 銑治郎の背中に虎綱の手が触れる直前、虎綱の足もとから音と風によって構成された透明な柱が出現した。その柱は虎綱の身体の表面を切り裂き、虎綱の右手を上方に弾き飛ばした。その影響で虎綱に巻きついているベルトが再び動き出す。

 

 それを見逃さなかった銑治郎は、自由が利いた右腕で今度は虎綱の左肩ごと露出した部分を切り落とし、緩んだベルトの拘束から即座に脱出することに成功した。返り血を浴びつつも、無傷で脱出できたのは彼にとって僥倖だった。

 

 

 

「銑治郎さん! ご無事ですか!?」

 

 

 

 刀を支えに何とか立っていられた銑治郎の下に、透明な柱を出現させた張本人が近寄ってきた。

 

 

 

「……シンと申したな、小娘」

 

「は、はい!」

 

「戯け、何故ここにおる! 燈火とやらと先に行くよう、全員に伝えたじゃろうが!」

 

 

 

 桃色の着物を着た呪術師、シンに対して銑治郎は激昂する。

 

 しかし、シンはそれに屈しようとしない。

 

 

 

「ど、漂流物(ドリフターズ)を護ることが、我ら行燈機構(ラント)の使命です! その命に半分従い、半分背かせていただきました! 私だけ、ここに残らせていただきます!」

 

「な――――よ、よりにもよってお主か……?」

 

「ふ、不満でしたか!?」

 

 

 

 ――――満足じゃよ。満足なんじゃが、うむむ……。

 

 

 

 銑治郎はかつての初恋の相手を思い出す。その若かりし頃の初恋の人物と、目の前にいるシンと言う少女が酷似している。この場に一人で残ってくれると言う忠誠さは実に有り難いのだが、同時に戦場にシンが来てしまったことに怒りを覚えていた。

 

 感情が混濁し、シンに対して無暗に起こることができず、かと言って素直に喜ぶこともできない銑治郎は、自分の心内で悶々とする。

 

 

 

「せ、銑治郎さん?」

 

「――――ぬっ? い、いやぁ、何でもなか。こう助けられてしまったら、無下に帰れと言えやせんのう……。燈火や虎蔵殿らは脱出できたか?」

 

「恐らく。今頃は脱出口に到達している頃かと――――」

 

 

 

 

 

「――――そんな簡単には逃げられないんじゃないかな?」

 

 

 

 

 

 銑治郎とシンはその声に一瞬硬直してしまう。

 

 その声の主は、左肩から先がなく、体中切り傷塗れで血だらけになっている――――筈だった。

 

 ゆっくりと立ち上がった声の主は、左肩から先を無理やりベルトで固定し、切り傷も上からベルトで押しつけて止血している。まるで木乃伊かと思わせるようなその風貌に、二人は思わず一歩下がってしまう。

 

 

 

「頼まれていた所要も達成したし、僕自身もほんの少し満たされたし、折角だから教えてあげるよ」

 

 

 

 無謀な応急治療で立ち上がった虎綱は、死んだ魚のような目で二人を見つめて微笑む。その容姿に加え、足元に溜まった鮮血がより彼を死人に近づけていた。

 

 

 

「教える、じゃと?」

 

「そう。僕が頼まれていたんだよ。一人は足止めしておいてくれってね。誤解無きよう補足しておくと、貴方を狙ったのは僕の目的が大半の理由を締めていたからね?」

 

 

 

 虎綱の喋り方が先程よりも生き生きとしている。血が抜けてより生き人に近づくという矛盾に、シンは吐き気を覚えて虎綱を直視できなくなってしまう。

 

 

 

「なんでもよい。とっとと教えるなら教えんかい。享受してやろうぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「簡単なことですよ。あの脱出ルートを知っていた廃棄物(エンズ)が、中で待ち伏せしてるんですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◆ ◇

 

 

 

 “悪七兵衛”の像から通ずる脱出口は、このコウガ第三帝国の地下に張り巡らされた地下道に通じていた。しかもその地下道の中でも、“悪七兵衛”の失踪により建設段階で放置されてしまった未完成のものだ。

 

 それを見つけた燈火は行燈機構の力を使い、最悪のケースを想定して脱出のルートを作っておいたのだ。その逃走経路を作り上げたのは今から五年前、燈火が廃棄物に初めてであった頃だ。

 

 

 

「――――シンはいないのか。残念。じっくり“観察”しようと思ったのに」

 

「お、ぐ……!」

 

「燈火さん。五年ぶりですね」

 

 

 

 逃走経路の中腹に、彼らの行く手を阻む人影が出口の光を背に立ちふさがっていた。それは川神学園の制服を着ているが、その中に着ているものが異様だった。

 

 決して服とは呼べないような厳つい袖なしの黒いベスト。それを堂々と見せつけるように制服の前ボタンは締めていない。決して学園生が着るとは思えない、一体何と戦うために来ているか分からない防御性の高いベストを強調した彼は、真っ黒な指ぬきグローブを両手に嵌めながら会話を続ける。

 

 

 

「もう少し喜んでくださいよ燈火“先輩”。爽やかなお顔が台無しですよ」

 

「ぐっ、ふぅ……!?」

 

「――――僕の非凡なパンチ二発でそんなに苦しむことはないでしょう? 武神に比べたら蚊蜻蛉ですよ? 仮にも漂流物(ドリフ)なんだから、頑張ってほしいなぁ。そう簡単に壊れないでほしいなぁ」

 

 

 

 そう言いつつ、蹲る燈火を彼は嘲笑う。

 

 

 

 

 

 その場に倒れている“四人の漂流物(ドリフターズ)”を見下しながら、彼はにっこり笑う。その笑いは決して純粋なものではない。喜びを悦びと表記し、少しだけ濁った雰囲気を出しているようだった。

 

 

 

 

 

「――――本当に、この世界は最高だね。漂流物(ドリフターズ)になら何してもいいんだから」

 

 

 





 あとがきしょーとすとーりー 共同企画控室

王貴「……」ソワソワ

エリカ「少しは落ち着いたら?」

王貴「ふん、何を馬鹿な。(オレ)は常に冷静だ」ソワソワ

エリカ「そう言えばもう十話越えてるのね」

王貴「まったく、焦らしてくれるではないか」ソワソワ

エリカ「戦争に参加する気? 本気?」

王貴「甚だ不本意ではあるが致し方あるまい。王たる(オレ)の出番を今か今かと首を長くして待ち呆けている木偶どもに、少しは慈悲を与えてやろうと思い、な」ソワソワ

エリカ「…………」

王貴「…………」ソワソワ

エリカ「…………出番、延期らしいわよ?」

王貴「」ガタッガシャン

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