MAJIKOI×DRIFTERS   作:霜焼雪

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第十三幕 世の中ワンダフル

 

 

 ――――どうしてこんなことに……。

 

 

 

 木々の生い茂った山々が霞んだような深い翠の髪からピョコン、と犬のような耳を生やした少女は思案する。思考が廻らされている脳漿が混乱を対処しようとすればするほど、犬耳はピコピコと不規則な動きを繰り返す。

 

 少女の自慢の尻尾もパタパタ震えているどころか、時には針金でも入っているかのようにピーン! と立ったり、ねじ切れてもおかしくないような勢いで回転するばかり。

 

 少女のアイデンティティ足る耳や尻尾は、少女の内面に敏感に反応していた。

 

 

 

 ――――さっきまで漂流物(ドリフターズ)を捜索していただけなのに……。

 

 

 

 少女はほんの数分前、激しい爆音が聞こえ戦場に到着したばかりだった。

 

 少女の師とも言える人物に命じられた通りに、漂流物(ドリフターズ)の捜索のために東奔西走していた少女。その最中、耳に届いた多くの悲鳴と明らかな戦争の臭いに、少女はこの世界以外の存在をかすかに感じた。

 

 ただの紛争ではない、崩王の絡んだ殺戮だと、少女の感覚器官が訴えかけていた。

 

 少女はその戦争の下へ全力で駆け抜けていった。その走りは犬の耳や尻尾が伊達や酔狂で生えていると言わせない、人間が到底追いつけないような獣の走りを連想させた。蹴った地面が抉れ、木の葉が少女の引き裂いた風によって叩き落とされた。

 

 

 

 ――――廃棄物(エンズ)だけなんてことがありませんように。

 

 

 

 少女はそう強く願いながら駆けること数分、少女は戦場へ到達した。

 

 

 

 

 

 その瞬間、天は貫かれ、地が裂けた。

 

 

 

 

 

 恐ろしい衝撃の余波に少女は吹き飛ばされないように大木に身を隠したが、その大木すらも根元から引き剥がされそうになっていた。少女は巻き添えにならないように木々を転々としながら事なきを得たが、その衝撃の中心は実に凄惨なものだった。

 

 少女の記憶には、この辺り一帯は自給自足の生活を営む大人しいハーピーたちの村があったとある。畑の面積も大きく、かと言って居住区が少ないわけでもない。コミュニティーとしても小さいわけではない。

 

 

 

 その村が、完全に崩壊してしまっている。

 

 

 

 家は根こそぎ吹き飛ばされ、畑と居住区の区別は一切つかない。嵐にあった方がまだ被害は抑えられたことだろう。

 

 ただ少女が不思議に思うのは、周囲に隠れていたハーピーが恐る恐る姿を現しても、その中央にいる人間は何食わぬ顔で佇んでいるということだ。

 

 人間とはかけ離れた化け物のような行動をした異質な少女、その気配は異常ではなく泥状である、という矛盾だ。この惨状を引き起こした人間が、生存者に対して殺意を向けていないのだ。

 

 

 

 廃棄物(エンズ)の所業に、漂流物(ドリフターズ)のような態度を兼ね備えた、危険人物。

 

 

 

 ――――どっち? どっちなの?

 

 

 

 漂流物(ドリフターズ)との遭遇は初めてではない少女にとっても未知との遭遇。混乱を招いた少女の頭を落ち着かせようと、少女は自分の師の言葉を思い返そうとした。

 

 

 

 ――――漂流物(ドリフターズ)は目を見ればわかる。お前もできるはずだ。

 

 ――――め、目か……。よし……!

 

 

 

 少女は木々の隙間からそっと、村の中央にいる漂流物(ドリフターズ)と思しき人物の双眸の奥にある性質を見極めようとした。その瞳に宿しているのは人情か、無情か。

 

 

 

 

 

『静止セヨ』

 

 

 

 

 

 ギリッ……! と、少女の背後から何かが撓る音がした。少女の耳はこの音を知っている。この世界の戦争における重要な遠距離武器、弓が発射体制に移った時の弓と弦がこすれる音だ。

 

 少女は本能的に両手を上げて降伏の意思を示した。

 

 

 

 ――――なんで漂流物(ドリフターズ)の捕虜にされてるの? 私……。

 

 

 

 少女は自分の置かれている状況を確認して涙目になりつつ、両手を頭に着けた状態で二人のハーピーに剣やナイフを向けられていた。

 

 

 

『与一さん、どうするの?』

 

『今暫ク監視スル。アノ怪物ノ動キヲ優先サセル』

 

『分かった!』

 

 

 

 ――――勢いよく刃物を突きつけないでくださいぃ……!

 

 

 

 ◇ ◆ ◇

 

 

 

「さぁ、話してもらうわよ。お前はどこの誰で、何でこんなことをしたのかを」

 

「あ――――へ――――」

 

 

 

 ハーピーの村の跡地、その中央にある巨大なクレーターを作った張本人、川神千李は敵将、川神一子の胸倉を掴みあげてガクガクと揺さぶった。一子が体中に着けている武具の重みなど関係ない様に、千李は実に軽々と一子を乱暴に扱っていた。

 

 仕置きの意味合いが籠った扱いなのだろう、決して壊したり殺したりだとかは考えていない程度の力の入れようだ。尤も、桁外れの仕置きが既に実行されたことはこのクレーターが証明しているのだが。

 

 自分の知らない一子という存在に対する扱いを、千李は掴みきれないでいた。

 

 一方、一子はとうに虫の息。まともな人語を使える訳もなく、ただだらしなく口を開けて焦点の合っていない目で空を仰いでいた。痛覚など関係なく、既に意識すらも飛んでしまっているのだろう。

 

 

 

「……やっぱりやりすぎたわね」

 

 

 

 千李は一子をゆっくりと地面に下ろして軽く溜め息を吐いた。怒りに我を忘れてここまで叩きのめしてしまったことに、精神面での弱さを痛感してしまった千李。

 

 これではまるで妹のようだと、千李は我が振りを見直して猛省した。

 

 

 

 ――――家族を侮辱されたとはいえ、こうしちゃった相手が家族に酷似してるし……。やれやれだわ、まったく。

 

 

 

 一子のことで頭の中が混乱しそうになったのを、千李は頭をブンブンと横に振って靄のような思考の残滓を振り払った。

 

 一子のことも大事ではあったが、千李からすればもう一つの問題があった。その問題の二人に向かって千李は足を進める。

 

 千李の攻撃の余波により狼は皆消し飛んでしまったが、確りと気絶している二人を護ってくれたようだった。倒れている二人には確保した時と比べて追加されたダメージは見受けられない。それだけで千李は一先ず安心して起きく息を吐き出した。

 

 

 

「おーい、井上くん、生きてるー?」

 

 

 

 ペシペシと、千李は気絶している二人の内一人、井上準のスキンヘッドの頭をリズムよく叩いていく。死んでいないと分かっているからこそできる行為だ。

 

 千李は頭を叩きながら、少しずつ自分の気を分け与えていく。ほんの少しでも回復に向かえばいいとの思いでの行動だったが、それが功を奏したようで、準が呻き声を上げる。

 

 

 

「お、起きたね?」

 

「うっ……? あ、あれ……?」

 

 

 

 地に伏せていた準が両手を使って何とか体を起こし、現状を確認しようとして周囲を見回そうとしたが、それよりも先に目に飛び込んできたのは、準の頭をひたすらペシペシと叩き続ける見覚えのある人物だった。

 

 

 

「お義母さん!?」

 

 

 

 次の瞬間、ペシペシという小気味の良い音が消え失せ、準の頭蓋骨が千李の握力によって悲鳴を上げた。

 

 

 

「ぅおぅわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」

 

「誰がお義母さんよ」

 

「し、しっつれいしました千李先輩ッ!!」

 

「よろしい」

 

 

 

 まだ万力の方がじわじわと力をかけてくれる分優しいのではないだろうかと、準は千李の握力地獄から解放されてそう感じた。

 

 

 

「……せ、千李先輩は、俺のこと分かりますよね?」

 

 

 

 準は痛みが残る頭を摩りながら、千李に恐る恐る質問を投げかけた。千李はその質問に笑いながら疑問符を浮かべるが、準にとってはそんな軽いものではない。

 

 

 

「……知ってるに決まってるじゃない。さっきの一子擬きより親近感があるわよ」

 

「……ようやく会えたぜ……。俺と同じ世界線の人に……」

 

「世界線? ちょっと、どういうこと?」

 

 

 

 準は余程安心したのだろう、再び意識を手放して地面に大の字で倒れ込んでしまった。周囲の状況を確認し、村が更地になっていることに驚くどころか気付きもしなかったようだ。

 

 千李は準に言葉の真意を聞き出そうとするも、流石に千李も怪我人を一度強制的に起こしたようなことをしていながら、もう一度目覚めさせるのは気が引けたのか、準から離れてもう一人の学生に意識を変えた。

 

 はだけた服から垣間見える擦傷や腹部にある痣の治りをよくしようと気を送りつつ、千李は少年の存在自体に疑問を抱いていた。

 

 

 

 ――――私と同じ?

 

 

 

 見たこともない顔、感じたこともない気配、明らかに初対面だとしか思わせないその邂逅は、千李の頭を混乱させるだけだった。

 

 千李が気を送り込んでいる最中、その気と少年の身体の親和性が異常であることに気がついたのだ。並の人間ではこうはいかない、武を嗜み気に精通している人間でもこうはいかないだろう。

 

 あり得る可能性は千李の頭に浮かんだが、千李はそれを即座に否定した。否定しかできなかった。

 

 

 

 ――――川神の血族? それも私とすごく近い……。

 

 

 

 まるで姉弟のようだ、という考えは決して浮かばせないようにしていた。そう考えること自体が既に、その可能性が最も高いことを示してしまっている。

 

 

 

 ――――隠し子? いや、でも外見的にも年齢は近そうだし……。

 

 

 

 千李の疑問を解消できるかどうかはともかく、千李の話をまともに聞いてくれるような人間は今弛みきった表情で倒れている。千李の頭にかかった霧はどうやっても晴れはしない。濃くなり答えを隠す一方だ。

 

 濃霧を生み出しているのは、千李の否定自身であるのだが。

 

 

 

「――――っだああああああああああああああああああああああああ!! うだうだ考えてもしょうがないじゃない!!」

 

 

 

 やけになった千李は大声を上げた。その大声は生物の危険信号を本能的に発令させるものなのか、周囲に隠れていたハーピーたちはさらに千李から距離を置いてしまう。

 

 千李はそうなったことに気づいていながら気に留めなかった。ハーピーと言う存在自体、まだ千李の否定の中だからだ。

 

 

 

「一子はよく分からないし、井上くんは寝ちゃうし、隠し子みたいな男の子もいるし、よく分からんコスプレ連中もいるし、何なのよもう!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーおー、荒れてるねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千李の遥か後方から、感じ慣れた莫大な気と聞き慣れた声が圧し掛かった。威圧でも威嚇でもなく、かと言って緩和や友愛でもない。

 

 これは守衛だ、千李は経験でそう察する。

 

 千李は両手に気を集中させつつ、勢いよく身を翻して声の主に殺意を向けた。明確で鋭い殺意、並の武人ならばその殺意だけで気絶してしまうことだろう。

 

 しかし、声の主は倒れない。

 

 声の主の気配はその殺意を当てられて増徴する。まるで油を注がれた焚火のように、火の粉を散らし燃え盛る劫火と化す。

 

 

 

「いい殺気だ。変わらねぇな」

 

「……釈迦堂さん?」

 

 

 

 声の主、釈迦堂刑部は殺意に対して怯えたように肩を震わせたが、その表情は殺気に対して狂喜する。

 

 へらへらとしている刑部の装いに、千李は不審の視線を向ける。裸の上から真っ黒なコートを羽織っており、筋骨隆々とした肉体を見せつけて元師範代であるということをアピールしているようだった。

 

 普段から変わらずグレーの無地のポロシャツを着ていた千李のイメージとは打って変わり、ゲームやアニメに出てきそうな服装である刑部に千李は疑惑しか覚えない。

 

 

 

「似合ってると思ってるんですか?」

 

「おいおい、二言目にそれかぁ?」

 

 

 

 けたけたと笑う刑部に千李は溜め息を吐きつつ殺気を送り続ける。ほんの少しだけ、準の先程の質問を体で分かった気がしたのだ。

 

 

 

 ――――なるほど、疑ってかかる世界ってこと。

 

 

 

 千李の知っている釈迦堂の気配ではあるが、その上から何かが付け足されていると千李は感じ取った。

 

 

 

「…………なぁ千李よ。そんな親の仇でも見ているように見つめてくるんじゃねぇよ」

 

「だったらいつも通りの格好をしてくださいよ」

 

「これはこっちの大将からもらったもんでよ。そうそう簡単に脱げるもんじゃなくてな」

 

 

 

 刑部はそういうとコートを軽く叩いて風に乗せた。材質は分からないが、やけに丈夫そうであると千李は見込む。

 

 

 

「まぁそんなくだらん会話は置いておこうや。本題に入ろうぜ?」

 

 

 

 刑部は笑いを崩すことなく千李を睨む。しかし、その笑いに明確な殺意が宿り始めた。千李に対して向けられたものかは分からないが、千李が殺意を向け続けている状態での変化だ。

 

 千李に対する殺意の返事、そう受け取って何の問題もないだろう。

 

 しばらくの沈黙が二人の間に流れ、その沈黙を刑部が切り裂く。

 

 

 

 

 

「川神一子、回収させてもらうぜ?」

 

 

 

 

 

「そう、釈迦堂さんも一子擬きと同じってこと」

 

「ちょっと違うぜ? 俺はお前から見たらお前の知ってる釈迦堂刑部だ。擬きじゃねぇよ。コイツもお前に取っちゃ一子擬きなのかもしれんが、あのムッツリから見れば川神一子本人なんだよ」

 

 

 

 刑部は千李に講釈を垂れるように、上からの物言いで状況を説明しようとするが、それは千李にとって煽りにしか受け取れないだろう。

 

 何より、刑部は彼が言う所の千李から見た一子擬きの肩を持った、その時点で千李は刑部を敵とみなした。

 

 

 

「丁度いいです。聞きたいことに全部答えてもらいましょうか。気絶寸前まで殴った後にね」

 

 

 





 キャラクター紹介

・川神千李
 川神が産んでしまったチート、誕生したらMOMOYO越え。
 精神修行が終わった後著しく察しがよくなった、AKYだった疑惑。
 気が付いたら周囲を崩壊させていた、なんだNASAでさえ納得できない。
 気づいたら鉄心越えの情報が出回り世界恐慌になった。厄介。

・立花虎蔵
 日本が産んだ剣聖、人斬りは嫌い。
 花火に感銘を受けて老後はただの爺になる、飲んだくれ。
 身内に優しく厳しい、どう考えても古き良きお爺ちゃん。孫には徹底的に厳しい。
 癌で死んだと思ったら別世界の酒を飲み散らしていた、コイツも厄介。

・大道寺銑治郎
 日本が産んだ剣士、ジジイ。
 いまどき着流しだけで過ごすお爺ちゃんなんてそうそういません、時代錯誤。
 世間知らずの癖にハイカラな言葉が好き。
 別世界で出会ったジジイと酒を飲み散らす、コイツも厄介。
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