MAJIKOI×DRIFTERS   作:霜焼雪

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第一幕 DOWN BY THE RIVERSIDE

 

 

 ズドンッ!!

 

 怪力乱神と語られる少女による無慈悲な拳が、眼鏡の少年の腹部に叩きこまれた。くぐもった嗚咽、脂汗の滲む額、目尻に浮かぶ涙。少年の吐き気は最高潮に達する。

 

 平衡感覚を失い、視界まで歪んできた少年は無様にも倒れ込む。少年の視界にあるのは、少年をそうさせた張本人の踝と、自分たちが大切に使ってきた秘密基地の床や家具だけ。

 

 少女の表情は見えない。会心の一撃が決まり悦に浸っているのか、無様な少年の有様を冷ややかに見下しているのか、少年には分からなかった。

 

 少年が分かることは一つ。自身はただの障害物としか見られておらず、明確な敵意は向けられていなかったこと。その目線は別の標的を指しており、その直線状に少年がいた、それだけだ。

 

 少女にとって少年を地に伏させることは、周囲に飛び回る羽虫を軽く手で払う程度のこと。少年の抵抗など無意味だと言わんばかりに、少女はその場を何の未練もなしに立ち去った。

 

 少年は少女を追いかけようと、肩から床に体重を預けていた体勢を立て直し、両腕を付いて四つん這いの状態になり――――口の中に溜まっていた唾液と、消化器官から逆流した吐瀉物を盛大にぶちまけた。

 

 突き上げるように放たれた少女の拳は、少年の臍辺りから上腹部に向かって衝撃を与え、少年の嘔吐感を促進させ、吐き出させたのだ。

 

 目の下に隈ができたと思わせる程に顔色を悪くし、二、三度に渡りドロドロしたものを吐き出す。それは僅かに黒く染まっており、どこかで出血した血が混じっていることが分かる。しかし、少年自身はただ吐いているという認識しかなく、色が黄色だろうが白色だろうが黒色だろうが、そんなことは些細な問題だった。

 

 今、少年が意地を見せてすべきこと。それは自分を殴ってくれた少女、自身の姉を追いかけ足止めすることだ。

 

 少年は口の端に付いた小間物をグイッと拭い去り、眼鏡に付いた汚れを袖で拭い取り、壁に寄りかかりながら震える足で何とか立ち上がり――――再び吐き出した。

 

 今度は唾液の方が多い。そこで少年は一つの確証を得る。

 

 

 

 ――――吐き出せるものは吐き出せた、かな。

 

 

 

 ふっと笑みが零れるが、決してそれは、過食からの嘔吐という流れに覚える快楽から来ているものではない。少年自身自覚していない、この一合により自分は満たされているという優越感から来ているものだ。どちらにしろ、若干狂った快感に値する。

 

 少年は自身の中身に溜まっていた反吐が撒き散らされ、悪臭とともに醜く染まった部屋を後にする。部屋の清潔さより、自身と姉の貞潔さの方が大事だった。

 

 ふと、僅かな殺気の増徴のようなものを肌で感じ取った少年は、通路の窓を開けて発信源である何かがいる下を覗き込んだ。

 

 そこには、少年を一撃で蛙の様に喘がせた少女と、対峙する二人一組の人影があった。

 

 あのままでは二人は襲われてしまう。二人の内一人は刀を持っているが、相手が悪いと少年は判断していた。それほどまで、少年は実の姉が危険人物だと認識していた。

 

 しかし、それこそ自分が割り込んでどうにかなるものではない。相手は自分の姉、怪力乱神と恐れられ、武神と評価される人類最強クラスの武人。どう足掻こうが勝てるはずがない。蟻が像に勝てないと比喩されるよりも、絶対的な敗北が少年に圧し掛かる。

 

 

 

 

 ――――だからどうした。

 

 

 

 

 戦力差の明らかな戦いに挑む無謀さを自問自答により理解し直し、それでもなお少年は諦めなかった。

 

 窓を全開にし、淵に足をかけ、上枠を手で掴み体勢を整える少年。未だに混乱する脳内、今にも途切れてしまいそうな意識、高層ビル故に押し付けるように襲い来る突風で体が吹き飛ばされそうな状況を必死に耐える。

 

 ガタガタと震える手は、吐き気や虚脱感から来る激しい動悸によるものか、化け物に立ち向かう手前の恐怖から来るものか、少年の今の思考回路では判別できない。

 

 しかし、少年にとってそんなことは関係ない。少年は今、体が動くことだけ確認できればいい。体を蝕むものが身体(ハード)の問題なのか精神(ソフト)の問題なのかは二の次だ。少年は、何故危険を顧みずに行動ができるか。

 

 

 

 

 

 ――――意地があんだろ! 男の子にはよッ!!

 

 

 

 ――――そうだ、意地なんだよ!

 

 

 

 

 

 ほんの少し前に自身が宣った言葉を反芻し、覚悟を決め直す。

 

 パッ、と上枠を掴んでいた手を放した。そのまま体重を前面に押し出し、少年は落下する。くるりと一度だけ体を回し、足を突き出し、武神目がけて蹴りを放つ。

 

 当たるか分からない、あたったところでどうなるかも分からない。それでも、少年の体は落ちる。それでも、少年の足は少女の頭上へ降りかかる。それでも、それでも――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――カツッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自身の足音が高く響いた瞬間、少年の世界は一変した。

 

 

「――――は?」

 

 

 ビルから落下する際に見られた夕焼けの綺麗な風景は霧のように消え失せ、築けば一本の通路の中に少年は閉じ込められていた。

 

 通路は狭くもなく広くもない。人が寝そべっても僅かに余裕の持てる幅と、人が二人縦に並んで天井に届くか届かないかの高さと、前も後ろも果てがなく、通路の端は暗くて何も見えないほど深い奥行き。それらの要素からこの通路は成り立っている。

 

 永遠に引き伸ばされた直方体の中、通路は正しくそれだった。出ることができないと思わせる閉塞感が充満していた。

 

 何の音もない、何の光もない。それなのに静寂を裂くような音が少年の耳を貫き、通路の色や形状は少年の網膜を焼き付ける。

 

 矛盾だらけの一本通路。

 

 少年の崩壊した平衡感覚を無視するように、その通路は綺麗に直方体を維持していた。少年の感覚は未だに乱れている。その乱れに合わせて通路が歪んでいるのかと錯覚させる程に、通路は少年から見て正確な点と点を結んだ図形を維持している。

 

 しかし、それすらも些末なことと思わせるような光景が、通路の奥から迫ってくるひょっとすると、少年が引き寄せられているのかもしれない。壊れた感覚での判断は難しかった。

 

 少年の両脇の壁を添うように、大量な何かが等速度で並べられていく。

 

 それは、扉だった。

 

 それは一つではなく、数えきれない程多い。それらは統一されておらず、素材も開け方も、使われていた時代背景も全て異なり、造りが同じ扉は二つとない。扉の博物館にいるようだった。

 

 一本の通路の壁に等間隔に設置された扉は一つも開いていない。開く気配がしない。堅く固く、壁画かと思わせる程に締め切られている。

 

 通路は何の面白味もない真っ直ぐで真っ白なもの、そこに扉が装飾として張り付けられているようだった。まさしく、扉のためだけにあるような世界に豹変した。

 

 

 

 

 

 そんな閉ざされた扉のための空間の中央――奥行きが解らない以上、完全な中央とは言えないが――に、オフィスデスクのような幅の広い木製の机に、整理整頓の精神など投げ棄てたようにプリントと書類を山積みにし、ポットで湯を沸かし珈琲をじっくりと入れ、煙草を加えながら新聞を読んでいる眼鏡の男がいた。

 

 

 

 

 

 男は無表情、何の感情が今彼に宿っているのかも解らないが、その瞳の奥には何かが宿っていた。それが読み取れない程に、深く深く、暗い瞳。

 

 男は新聞の頁を、捲らない。ただただ同じ頁を開いて目を通していた。

 

 少年は男に声をかけようとする。こんな不可思議な場所に投げ出されたのだ。少年の頭は正しく機能しておらず、普段の彼らしさも失われているようだ。

 

 

 

 

 

「――――次」

 

 

 

 

 

 男は少年を一瞥すると、直ぐにペンを取り出し、机の上に置かれていたバインダーをどけて、新しく広げた本に名を刻む。

 

 

 

 

 

 刻まれたその名は――――川神十夜。

 

 

 

 

 

「お、おい。何で、俺の名前――――」

 

 

 

 少年、川神十夜が男に自分の名前を知っている理由を尋ねようとすると、少年の右側にあったドット絵のような扉が勢いよく大きく口を開けた。扉の先には何も見えない。それこそ暗闇だった。混沌として、正体不明で、何故か暖かい。

 

 十夜はまるで飛行中に開け放たれた扉に吸い込まれるかのように、その身を暗闇に浸すこととなる。

 

 叫んだ。言語として伝わることのない、悲痛で恐怖と驚愕に塗り固められた本能の咆哮を。しかし、それが眼鏡の男や誰かに届くことはない。

 

 

 

 

 

 

 

 その声は、扉の先へ届けられるのだから――――

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◆ ◇

 

 

 

 MAJIKOI×DRIFTERS

 

 

 

 ◇ ◆ ◇

 

 

 

 ざわざわと木々が風で揺れ、山に積り始めたばかりの乾いた落ち葉が巻き上げられ、十夜の顔を掠めた。スッと引っ掻かれたような白い線と、水分を多く含んだしけった腐葉土が十夜の顔を汚す。

 

 ほんのちょっとした刺激と、泥の僅かな冷やかさが、十夜の意識を真っ黒な沼からゆっくりと引きあげ、沼の水面にまで持ち上げることに成功した。

 

 あとは、ほんのちょっとしたきっかけがあれば、十夜は眠りから掬い上げられる。そしてそのきっかけは、まだ未成熟な少年の幼い声という網だった。

 

 

『お兄さん、生きてる?』

 

 

 十夜が目を覚まして最初に聞いた声は、何を言っているのかよく聞き取れなかった。その声で意識がはっきりとしたようなものだから、理解に及ばないのは仕方のないことだと思い、もう一度耳を澄ませる。

 

 

『ねぇねぇ、お兄さん?』

 

 

 

 ――――何言ってるか、さっぱり分からん。

 

 

 

『大丈夫? お腹空いてるの?』

 

『少しだけなら木の実もあるよ?』

 

「あいむ…………のっと、おーけー……」

 

 

 

 自身が使える精一杯の異国語で、自分の現状を伝えようとする十夜。しかし、十夜の周りにいる声の主がそれを理解できていないというのは、返答がすぐに帰ってこない時点で分かってしまう。

 

 言語によるコミュニケーションを諦めつつあった十夜は、せめてその声の主の容姿を確認しようとして、今にも落ちてしまいそうな瞼を必死に抉じ開ける。

 

 

 

 

 

 瞳の中に映える橙と黒のコントラスト、肌の角質化などでは言いくるめられない細かな鱗のある手、シャギーカットのように見えるふわふわとした髪型。

 

 明らかに人間離れした、背中から映える翼が、彼らが十夜の未知の存在であると示していた。

 

 

 

 

 

「あ、はは……。自殺紛いなことした罰が、当たったか……? はは、羽生えてら……。天使かよ……」

 

 

 

 十夜かすれるような声でそう呟き、目の前の異世界のような光景に失笑して意識を失った。

 

 バタリと倒れてしまった十夜をじっと見つめ、背丈の小さな方の少年が、もう一人の少年に向けて訊ねる。

 

 

 

『ねぇ、フィル。何喋ってたか分かる?』

 

『分からないけど分かったよ、リュネ』

 

 

 

 声の主である鳥と交わってしまったような少年、フィルとリュネ二人が、純粋な人間である十夜を見て相談をする。

 

 その結果、少し背丈の高い方のフィルが十夜を指さし、こう告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『こいつは、“漂流物(ドリフターズ)”だ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『え、ええっ!? それじゃあ、“あの男たち”と同じ?』

 

『そう、“あいつら”と同じだ』

 

 

 

 半人半鳥の彼らには、十夜の正体と、同様の人間の存在を知っているような口ぶりだった。しかし、気を失ってしまった十夜には、その僅かながらに希望を与える会話は届かなかった。

 

 ざわっ……、と大気が揺れ、木々が恐れる身震いするように枝葉を擦り合わせ、木漏れ日が慌ただしく模様を変えて山道を染める。川神十夜と、彼らが言う“あの男たち”との遭遇に、山が怯え焦燥しているようだった。

 

 鳥としての能力なのか、敏感に山の異変を感じた彼らは、十夜を案内することを躊躇い始めた。

 

 

 

『今は木々より高く飛ぶのは自殺行為だ。できるだけ連れて行ってあげたいけど……』

 

『本来なら接触は禁じられてるしね。どうしようか――――』

 

 

 

 

 

『静止セヨ』

 

 

 

 

 

 ゾクリ、と彼らの鳥のような鱗が生えた肌ではない、二の腕あたりの人のような肌が粟立ち、思わず目を見開いて立ち竦んでしまった。

 

 彼らの背後から、キリリ、という何かが高い圧をかけられている音が響いた。いつ弾け飛んでしまうか分からない、恐怖心を煽る限界すれすれの音。首筋にナイフを突き立てられているかのように、彼らは一気に冷え込み戦慄した。

 

 

 

『此レヨリ先、我ラガ根城ナリ! 近ヅクモノ敵ト判断《ミ》ナシ、神罰ノ牙ガ、汝ラヲ穿ツ! ナニヨウダ!』

 

 

 

 発せられた声はたどたどしくありながらもハッキリとしたもので、殺意だけでなく言葉も用いて半人半鳥の彼らを威嚇することができた。

 

 その殺気に怖気づいたのか、捲し立てるように背の低い方のリュネが、両手を上げ敵意がないことを表し、決して振り返ることなく返答する。

 

 

 

『こ、この人が倒れてたのが見えたから駆け寄っただけだよ! 別にあんたらの住処に行こうなんて考えてない! 木の実も渡そうかと思っていたくらいだよ!』

 

『お、おいリュネ! 何で食料を!』

 

『だって! 元々介抱したら少し分けようって話してたじゃないか!』

 

 

 

 あまりにも怯えていたせいか、リュネはフィルの意に反することを口走ってしまったようだ。彼らの背中に籠はなく、かと言って何かを仕舞っているような袋もなかった。恐らく、衣服に入れられるだけしか所持していないのだろう。そう考えれば、フィルの慌て様もうなづけた。

 

 しかし、彼らの背後にいる人物は眉間に皺をよせ、僅かな苛立ちを見せる。

 

 

 

『……我ガ知覚器官ニ正シク届カズ、チエン・ジツヲモチイテ話セ』

 

『ちえん、じつ…?』

 

『ゆっくり喋れってことだと思う……。多分』

 

 

 

 何とか意思疎通ができた彼らは、今ここにいる大きな理由の一つである十夜を二人で担ぎ上げ、勢いよく振り返った。

 

 

 

 

 

『『ほら、これ!』』

 

 

 

 

 

 その姿を見た殺意の発信源である人物、リュネやフィルから見ても同年代に見えるような黒いシャツの少年は、大きく目を見開いて驚きの表情を顕にした。数秒ほど硬直し、直ぐに殺意の滲み出る表情へ変化させ威嚇する。

 

 

 

『我ニソノモノヲ委ネ、立チ去レ』

 

『もう、なんなんだよもう。訳わかんない』

 

『置いていけばいいさ。違ったら止めてくれるだろうし』

 

 

 

 リュネとフィルは顔を見合わせ、ゆっくりと十夜を地面に下ろし、肩を撫で下ろしてそそくさと山を後にした。

 

 半人半鳥の二人が視界から消え、戻ってくる様子が感じられない圏外にまで気配が離脱したところで、その人物は弓をおろして十夜へ歩み寄った。

 

 十夜は起きる気配がない。しかし、十夜が目覚めるかどうかは問題ではなかった。問題なのは、十夜が今着ているその服。

 

 

 

「……川神学園の制服か。俺と同じ世界の住人かは分からんが、保護することに越したことはないな」

 

 

 

 十夜を背負い、黒いシャツの少年は山のさらに奥へと進んでいく。

 

 目指すは、彼の根城――――

 

 

 





 あとがきゆかいしょーとすとーりー 崩王様御乱心


崩王「えー、それじゃあ今日もドカドカジャンジャン世界滅ぼしていこーと思いまーす!」

黒王「じゃあSkypeするんじゃない。あとそれ私の台詞だ」

崩王「うるせえええ! ジャンヌよこせ! あのバレー部部長愛でさせろ!」

黒王「なんなの? あんな絶壁がいいの? 良いケツしてるわけでもないよ?」

崩王「巨乳主義のくせにアナルスタシアってなんなの? ケツに現を抜かしていていいと思ってんの?」

黒王「ケツもエロくていいの。ジャンヌだけ行進の際揺れないんだよ。板々しい。まな板。揺れない震源地状態」ジャンヌゲンキダシテ

崩王「じゃあ大きくしてやれよ」

黒王「以前にも言ったけどね? おっぱいは自然が一番なの」

崩王「だったらステータス貧乳可愛がれ」

黒王「私が作ってるの、オール90オーバーのおっぱいランドだから」

崩王「じゃあ私はスレンダー帝国作る」

黒王「ジャンヌあげる」コクオウサマナニイッテルンデスカ!?

崩王「うわまじか。全力で保護する」

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