MAJIKOI×DRIFTERS   作:霜焼雪

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第十九幕 誰ガ為ノ世界

 

 

 

「この阿呆共がぁ!!」

 

 

 

 村の中央で騎兵に囲まれ今にも殺されそうになっていたケットシーの下に三郎が駆けつけ、敵の騎馬の後ろ脚に鋭い刺突を入れる。痛みに驚いた馬は前足を高く振り上げ倒れ込み、騎兵の動きが止まる。

 

 その三郎の動きに恐れをなした他の敵兵の動きが若干鈍る。それを三郎は見逃さなかった。

 

 

 

「今だ、切り崩せ!!」

 

 

 

 三郎の言語はケットシーとは違う。言葉によるコミュニケーションは愚か、ハンドサインすら通じるか怪しいほど、彼らの文化には差異が生じている。

 

 しかし、ケットシーは三郎の声に応えるように騎兵に攻めかかる。言葉は分からずとも、何を言いたいかは理解できる。戦闘意欲が向上した状態での意思疎通は、奇しくも単純で伝わりやすい。

 

 騎兵は足に群がる虫を払う様にもがくが、ケットシーの軽やかな動きに翻弄されつつ短剣で体を切られてしまえば一瞬にして倒れてしまう。

 

 

 

「殺すなよ! 尋問が済んでないからな!」

 

 

 

 ――――言葉が通じていてようが、こいつらが止まるとは思えんが。

 

 

 

 三郎は念のために忠告をするも、ケットシーの瞳孔が大きく開いた表情を見てその忠告が意味をなさないのではないかと心配しつつも、危機に陥りかけたケットシーを救いにその場を後にする。

 

 

 

 その直後、黒き兵士の増援が現れる。数はおよそ五十、一つに固まって村の正面から突撃してきた。黒い波と表現されるほど、不気味で気味の悪い大軍だ。分が悪いと判断したケットシーの少ない槍兵は僅かに引け腰だ。

 

 それに対処すべく高台の弓兵が矢を構えるが、その必要はないとキツがそれを制する。英雄もまた大声量で味方の援護を遮った。その大群から離れるようにと告げられたのは彼らの安全を図るためではあるが、その安全は黒き波からくる脅威に対してではない。

 

 それは、その五十の兵団を凌駕する剣士の余波に充てられぬように放たれた、巻き添いを食らわないようにと憂慮した結果から来た撤退命令。

 

 剣士は馬の尻尾のような髪を揺らし駆け抜け、走り込んで生じた力を全て刀に乗せて叫ぶ。

 

 

 

「全員……っ、寝ていろぉおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

 

 

 たった一閃、義経の薄緑が吠えた瞬間、敵兵は竜巻に舞い上げられた木の葉のように吹き飛んで行ってしまった。砂埃を吹き飛ばすように、黒き兵士たちはなす術もなく森追い返されてしまった。

 

 

 

「ケットシーさんが混じっていないのであれば、手加減する必要はない!」

 

『何をぼやぼやしている! 素早く敵騎兵、を……?』

 

 

 

 その光景に唖然としていたケットシーたちの集中力を取り戻すために叫んだ英雄だったが、残っていた敵騎兵たちが一目散に村から逃げ出して行ってしまった。泣き喚き、懇願するように馬を走らせ、馬のないものは防具を外して軽装になって敗走した。

 

 あまりにも突然で不可解な現象に漂流物(ドリフターズ)たちは首を傾げるが、ケットシーは勝利を確信し歓喜の声を上げる。互いに剣を打ち鳴らしながら凱歌を奏で、生かしておいた敵騎兵を吊し上げて尋問しようと意気揚々としていた。

 

 しかし、肝心の問題が解決していない。

 

 

 

『みなさん! まだ廃棄物(エンズ)が来ていない! 油断しては駄目だ!』

 

 

 

 キツがケットシーたちに呼びかけるも、ケットシーは達成感に浸り集中力を切らしてしまっている。勝利と言う目先の褒章にかじりついたまま離れようとしない。

 

 その様子を見ながら決して刀は仕舞うことなく、周囲のあまりの静けさに違和感を覚えながら参集する三人の漂流物(ドリフターズ)

 

 

 

「一体、何の狙いが……?」

 

「何かを考えての行動としても、あれほどまで必死に逃げるものか? 演技には思えん」

 

 

 

 義経の訝しがる疑問の声を三郎が断じる。しかし、三郎も奇妙な違和感を感じているのは確かであった。そう感じているのは英雄も同じようで、三郎に問い質す。

 

 

 

「黒き兵士どもの策略だと?」

 

「知るか。奇策のような行動だったが作戦に思えん動き方をしている。義経の攻撃に怯える様などは到底演技とは言えん」

 

「面妖な……。だとすれば、何故あのような連中が責めて来たというのだ――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「簡単なことだ。あの愚か者どもは兵士になりきれなかった、ただそれだけのことよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは唐突に訪れた。

 

 音もなく、気配もなく、村に一歩足を踏み入れた。その瞬間に漂流物(ドリフターズ)の肌がぶわっと粟立ってしまう。

 

 

 

「農民が兵士に太刀打ちできるのは、死ぬ覚悟がある者だけである。これは至極当然のこと。死にに逝く勇気のない農民なぞ、財産抱えたまま切り捨てられて死ぬだけよ」

 

 

 

 その声の質は安らぎを与えるようで、伝える感情は恐怖をもたらす。齢十歳程度に見える小さな体躯の背後から、人とは思えない黒い何かがずるりと顔を覗かせているようだった。それはさながら幼き鬼が災厄を引き連れて来たかの様。

 

 その声を、その鬼哭を、その姿を、その鬼面を、彼らは知っている。

 

 天狗の伝説に現れる紅葉のような羽扇子。真っ黒な帯と紐で縛り上げられた銀色の長い髪。袖を全て切り落とした白衣(びゃくえ)に黒色の袴。額に刻まれた畏怖すべき×印。

 

 

 

「索敵が優秀なようだが、レーダーのように常時起動できないのは痛手であるな。その隙を縫って一気に詰めればこの通り、簡単に到達できる」

 

 

 

 少し本気を出して走ったがな、そう付け足して自身の脚を叩いて労う鬼が、ゆっくりと英雄に視線を向ける。その瞳は血の色に染まり、彼らの記憶を穢す。

 

 

 

「嗚呼、この九鬼紋白、貴方に御逢いするのを心待ちにしておりましたぞ、兄上……!」

 

「何を、何をしているのだ、紋……!」

 

 

 

 驚愕を隠せない英雄。必死に問い質そうとするその声は無様に震え、体中の汗腺が洪水を起こしたような不快感が英雄を襲う。

 

 義経も三郎も声にならない程驚きながらも、決して刀を下ろそうとはしなかった。得体のせれない部分が多すぎる以上、彼らの知る九鬼紋白とは違うと分かってしまった以上、決して警戒心を解くわけにはいかなかったのだ。

 

 そんな剣士の対応など視界のすら入れず、紋白は英雄に一歩近づく。

 

 

 

「こんな家畜ばかりの世界に一人で投げ出され二百と七日、いつ何時も家族のことばかり考えておりました。何時か必ずあの世界に帰ると願いながら……!」

 

「何をしているのかと、聞いている……!」

 

「しかし、ようやく兄上に会えました。それも、我と同じ世界の兄上! 臭いで分かりますとも、あの男の臭いがする兄上です!」

 

「何をしているのかと聞いているのだ! 答えんかぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 

 痺れを切らした英雄の咆哮が紋白の鼓膜を引き裂きにかかる。

 

 しかし、その激しい大声量の叫び声すらも、紋白を快楽を与える要因に他ならない。頬を紅潮させ、両腕を交差させながら身震いするその様は実に官能的だ。

 

 

 

「ああっ……! 懐かしい声、懐かしき覇気……! これで高笑いを「おまけ」されてしまえば、我はすぐにでも果ててしまうでしょう……!」

 

「紋、お前っ……! 一体どうしてしまったというのだ!!」

 

「……この世界の人間から聞いておりませんか? 廃棄物(エンズ)という存在について……」

 

 

 

 その瞬間、英雄の目の前が真っ暗になる。目の前にいる愛しき妹、三郎に三つ首の犬として例えた最愛の肉親の一人が、今こうして英雄に敵対する立場を取っている。それも、キツの説明でいう所の「同じ世界線の兄妹」だ。動揺してしまうのも無理もないだろう。

 

 

 

「この世界を滅ぼすために参集された負の体現者、などと言われております」

 

「お前も、お前もそのような愚かなことに参加しているのかっ!!」

 

「そのために呼ばれております故。だからこそ今こうやって殺戮に興じている訳でありますが」

 

 

 何かおかしいところでもありますか、そう付け足して小首を傾げた。

 

 一切嫌悪感を示さず、命を奪うことを肯定した紋白。その姿を見た英雄の胸に、電柱が貫通してもおかしくないような穴がぽっかりと開いてしまったように、英雄は激しい虚無感と眩暈に襲われてしまう。

 

 その姿を見てもなお、紋白は冗談だの嘘だのと言葉を取り消そうとしない。心からの発言であろう。

 

 

 

「ご安心ください兄上。兄上は私が責任を持って殺して差し上げます」

 

 

 

 刹那も苦しまぬように、そう付け足して紋白は右手を開いた。

 

 

 

「動くな九鬼紋白ぉ!! それ以上動けばその腕たたっ切る!」

 

 

 

 三郎がその動きに即座に反応して一歩足を踏み出し牽制しようとした、その瞬間だった。

 

 

 

「…………下郎めが……。我と兄上の間を引き裂く気か?」

 

 

 

 先程の恍惚な表情から豹変し、それこそ鬼のような怒りの形相を浮かべた紋白の右手が三郎に向けられた。すると、三郎の足もとから巨大な西洋剣のような刀身が現れ、頭部を狙って突き出された。

 

 

 

「うおっ!?」

 

 

 

 その刃を何とか弾いていなすが、三郎の左肩を刃が切り裂き出血させる。三郎を切り裂いた刃は役目を終えた直後、住処に戻るウツボの様に再び地中へと姿を隠す。しかし、紋白の腕はまだ挙げられたままだ。

 

 

 

「ぐっ……!?」

 

「石田君下がって!!」

 

「義経、お前も邪魔立てするか」

 

 

 

 三郎を庇うように前に出た義経目掛け、再び地中から刃が襲いかかる。しかし、義経は「来る」と分かっていたために対処は容易だったのか、その巨大な刀身の腹から叩き切り真っ二つにしてしまう。

 

 真っ二つにした、が――――

 

 

 

「……ふむ」

 

「…………な、なんだこの感触……!?」

 

 

 

 驚きの表情を浮かべていたのは義経の方だった。紋白は自身の攻撃が切られたことに対しては大して驚く素振りを見せず、義経の驚く様だけを見て愉しんでいるようだ。斬られることが既に念頭に置かれていたように。

 

 一方の義経は鋼鉄のような刃を切ったその時に伝わった感触を奇妙だと感じていた。石田の肩を服の上から引き裂くほど鋭利な鋼鉄の刃を切ったはずなのに、手に残るのは藁でも切ったような手ごたえのなさ。藁の束の強度は相当であっても、鋼鉄の硬さには及ぶことはない。

 

 義経は鉄を切ったように感じることはできなかった。

 

 

 

「あっさり斬られるもの、か。ならば数を増やしてやろう」

 

 

 

 僅かに動揺する義経に向けて、今度は細い直剣(レイピア)のような細く鋭い棘が波のように襲いかかった。それはさながら針の莚だ。

 

 しかし、義経がこの程度を裁ききれぬわけがない。

 

 壁を越えた者と称される実力を如何なく発揮し、迫り来る数十の刃を全て粉みじんに切り裂いてしまう。鉄と思わず切り裂いてしまえばそこまで、行うことに変化はない。

 

 

 

「おっと、すまぬ。一本出す場所を間違えた」

 

 

 

 ブシュッ、と何かが噴き出す音が義経の後方から聞こえた。

 

 

「あっ、ぐ……?」

 

「えっ……?」

 

 

 

 響き渡る悲痛な呻き、何があったかは直ぐに判断できる。しかし、義経はそれを己の目で確かめようと、ゆっくりと背後を振り向いた。

 

 するとそこには、義経に迫ってきた細い針に腹部を貫かれた三郎が、膝をついて激痛に顔を歪めていた。

 

 

 

「し、死角からとは、卑怯なっ……!」

 

 

 

 義経の影に隠れた三郎にとっての死角。そこから高速で伸びてきた一本の棘が三郎を射抜いていた。義経に襲いかかっていた針の群衆から離れた一本の「はぐれ」が、三郎へ容赦なく突き刺さる。

 

 義経の対応が一点に集中しすぎていた結果招かれた、防ぐことができたはずの被害。

 

 紋白はここぞとばかりに嘲笑う。

 

 

 

「守らなくてどうする。甘い性格の癖に、ここぞという時に何もできんのか」

 

 

 

 ――――甘っちょろい。

 

 

 

 その言葉が義経の頭の何かを、ブツリ、と切断する。

 

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 

 

 戦場を跳ねるように闊歩し、義経は紋白に刃を向けて突撃した。

 

 

 

「両腕を斬ってでも止める!! 覚悟!!」

 

 

 

 ギラリと鈍い光を放つ刀が紋白の頭上から常軌を逸した高速の一閃を描く。空気も何もかもを引き裂き、紋白の肩を真っ二つに引き裂かんと刃が鳴った。

 

 壁を越えた武人の放つ必殺の一撃を前に、紋白の顔は一切の恐怖を滲ませず、歪んだ笑顔を張り付けていた。

 

 

 

「その両腕とは、お前のことか?」

 

 

 

 ガキッ! という音と共に義経の身体が空中で止まった。

 

 義経の刀が紋白の剥き出しになった右肩に触れる寸前のところで、刀が何かに捕えられたように一切の挙動を許さなかった。それだけでなく、義経の身体の節々にも鋭い圧迫感が襲う。

 

 

 

 

 

 

 

玉繭(ブレイド)

 

 

 

 

 

 

 

 義経の柔肌に見えない細いものが食い込んでいき、義経の両腕がハムのように圧迫されていく。その鋭い痛みに耐えながら義経は刀を押し込む力を弱めようとしない。その絶えない闘争心に呆れたように関心する紋白。

 

 

 

「弛めない、か。少しでも力を抜いてしまえば、その両腕は真っぷた――――」

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

 

 

 激しい咆哮と共に義経の腕を添う様に、鋭い電撃を帯びた斬撃が走った。

 

 

 

「なに――――」

 

 

 

 大量の血をシャツに滲ませ、顔を酷く汚しながらも剣を振るい義経を解放しに突撃した三郎は、義経を縛る何かを切り裂いてそのまま倒れ込んだ。地に顔を擦らせ、血塗れになりながらも泥だらけになりながらも、三郎は気骨を折らなかった。

 

 血塗れの剣士の意地によって義経の拘束が僅かに緩む。腕や足の自由が確保できたその隙に、義経は刀をさらに強く押し出した。

 

 

 

「はぁあああああああああああああああああああああああっ!!」

 

 

 

 ズブリ、と紋白の肩に刀が食い込んだ。

 

 紋白が僅かに顔を痛みに歪ませた瞬間、義経と三郎の背後から一人の男が飛び出してきた。

 

 

 

「ホワッタァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 

 

 紋白の小さな体に巨体の跳び蹴りが突き刺さり、紋白は義経の刀に肩を引き裂かれながら後方に吹きとんでいった。

 

 肩で息をし、腹部にサラシと下半身にふんどしだけを付けた半裸の身体が噴き出した汗で艶を出している。その表情は非常に痛々しく、直視することが躊躇われるほどだ。

 

 男は疲弊しきったまま、倒れ込んでいた三郎を抱え上げて自陣まで義経と共に引き返し始める。

 

 

 

「く、九鬼……。 お前――――」

 

「言うな!!」

 

 

 

 三郎の言葉を声で制する英雄。言いたいことは分かっていると言わんばかりに、三郎を鋭い眼光で射抜き黙れと威圧する。

 

 

 

「内部分裂を見てきたのだろう!? ならば察せ! 正さねばならんのだ! 力づくでも、分からせてやらねばならんのだ!!」

 

 

 

 英雄の目から涙が零れ落ちる。自身の妹の変貌ぶりと、その妹を罰せねばならないという状況にどうにかなってしまいそうだった英雄が、今こうして一撃を与えただけでどれほどの気力を使ったのか、三郎には予測もつかない。

 

 英雄は紋白が立ち上がってこちらに向かって来るまで、紋白から視線を外さなかった。責任は背負ってやると、兄の体裁を保とうと必死だったのだ。

 

 しかし、彼が背負うのは兄としての責務だけではない。

 

 この世界の構造は非情なものだ。

 

 

 

廃棄物(エンズ)は、殺さねば、ならん……っ! 例えそれが友人だろうが、家族であろうが!!」

 

 

 

 その決意の裏に何があるのかは分からない。しかし、家族を手に掛ける覚悟を手に入れるだけの何かが彼に降り注いできたのだろう。

 

 

 

「――――そう。廃棄物(我ら)漂流物(兄上たち)は争わなくてはならぬ」

 

 

 

 英雄の視線の先で紋白がゆっくりと立ち上がる。

 

 

 

「兄上は、誰を殺めたのでしょうね」

 

「っ!!」

 

 

 

 廃棄物と言えど元は人間、それを殺めることは人間を殺したということと同義である。決してそれを口にはしない紋白ではあるが、十分にその意図は英雄に伝わってしまっている。それが英雄への言及と成り得る上、効果が高い。

 

 

 

「この世界は非情なものでありますなぁ。かつての仲間や友人が仇敵と成り得るのですから。この異能も、クラウの犠牲なしではこのような発展には至れませんでしたぞ」

 

 

 

 ヒュンッ、と何かが空気を切り裂く音が聞こえる。

 

 

 

「その我に対する全力の一撃を繰り出せるようになるまで、何人殺めました?」

 

 

 

 自分の腹部を摩りながら微笑を浮かべる紋白。その服の下には内出血で肌がおどろおどろしいことになっていることだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「少なくとも、あずみは兄上に殺されたはずですが、ね?」

 

 

 

 

 

 

 

 すっかり黙りこくってしまっている英雄に、紋白はほくそ笑みながら糾弾する。自身の従者を殺したということに対する非難に加え、好奇心が見え隠れする口ぶりだ。

 

 その言葉により生じた罪悪感にぐるぐると脳みそをかき回されているような錯覚に襲われながら、英雄は自身の犯した罪を振り返る。

 

 

 

 ――――感謝の言葉も、ありません……。

 

 

 

「ああ、そうだ。我がこの手で殺した」

 

 

 

 手をかけた人間の言葉で英雄は我に返った。

 

 

 

「別にあずみを殺めたからと言って責め立てたりはしませんよ。我らの宿業となった戦いに情など――――」

 

 

「あずみは、強かったぞ」

 

 

 

 紋白の言葉を遮り、英雄は過去を見つめて言葉を紡ぐ。

 

 

 

「廃棄物の宿業とやらに最後まで抗い、我に殺してくれと頼んだ。再開した当初はそれこそ宿業に支配されつくしていたが、いやはや全く、我が最高の従者ながら天晴なものだ」

 

 

 

 英雄は自分の両手を見つめ、脂汗を額に滲ませながら苦笑いを浮かべる。

 

 

 

「比べて……。紋、お前は「弱い」な」

 

 

 

 その一言が紋白の機嫌を損ねてしまった。

 

 紋白は目を見開き右手を振るい、見えない何かで英雄の右肩を狙った。英雄と違い、この世界にやってきた時点で人としての(しがらみ)を越えてしまった紋白にとって、人の四肢を落とす程度に何の罪悪感も覚えない。

 

 罪悪感を乗り越えた者に、罪悪感を踏みつぶした者の手が忍び寄る。

 

 

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 

 

 そうはさせじと、まだ罪悪感を知らぬ者が英雄を左手で押しのけた。

 

 

 

「いし――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギチッ、と三郎の左腕が圧迫され、するりと切断された。

 

 

 

 

 

 

 

「ぎぃっ――――!!」

 

 

 

 吹き出す鮮血が雨となって彼らに降り注ぐ。それを浴びる者の対応は三者三様、吐き気を押さえながら嫌悪感を顕にする者、その光景に目を疑い駆け寄ろうとする者、あまりに悲惨な出来事に何もできず呆然としてしまっている者。

 

 自分の服で切り口を必死に抑え始めるが、その服は直ぐに血を飽和して垂れ流してしまう。ぐじゅぐじゅとした血だまりが発生してしまう。

 

 他人を助け、剣士にとって命であるてを失った男を見下し紋白は吐き捨てる。

 

 

 

「気でも触れたか、西の愚か者」

 

「…………全く、だ……」

 

 

 

 紋白の侮蔑するような言葉に三郎は耳を傾け、苦笑する。

 

 

 

 ――――誰かを助けようなど、今までしてこなかった、ツケが来た、か――――

 

 

 

 苦笑したまま、三郎は激痛に意識を失って倒れ込んだ。

 

 

 

「石田君!!」

 

 

 

 英雄同様に三郎に駆け寄ろうとした義経に対し、紋白の異能が襲いかかる。

 

 

 

「義経、お前も無様に腕を落とすと良い。お似合いだぞ」

 

 

 

 刀を構えて紋白の攻撃を弾きながら英雄と三郎を背中に庇うように立ち、紋白の右手に全神経を集中する義経。あまりの眼光の鋭さに、紋白は掌に穴が開いたと錯覚してしまうほどだ。

 

 

 

「いい覚悟だ。では……どれだけしのぎ切れるかやって見せよ!!」

 

 

 

 先程義経と三郎を襲った脆く鋭い針の束が義経に降りかかった。

 

 

 

 ――――決して、一本も見逃すものか!!

 

 

 

 襲い来る幾百の棘を全て切り裂く覚悟を宿した義経が刀を構え、全身全霊を刀に込めた――――その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 義経たちと紋白を隔てるように、紅に染まった水面のような壁が空間を断ち切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 紋白の繰り出した全ての針を弾き返し、一瞬にして崩壊させた。壁に触れる寸前に全ての力を奪われ、文字通り門前払いされてしまう。

 

 水面のようでありながら、流体のようでありながら、決して何物も寄せ付けようとしない厳かさを秘めたその壁に、紋白は一歩後退してしまう。

 

 義経たちはそれに守られる形となったが、決してそれに近寄ることができなかった。義経たちですらその壁の前にはどうしようもできず、触れることすら拒絶されている。しかし、この中で唯一その壁に惹かれかけた存在がある。

 

 義経の刀が、ガチガチと音を立てて震え始めたのだ。

 

 刀だけではない。軸を失っているその鞘でさえも、生きているかのように動き始めたではないか。

 

 その震動に義経の意識が戻された。刀を押さえるように両手で握るが、刀の震えは止まらない。刀、薄緑そのものが武者震いを起こしているようだ。このようなことは義経にとっては初めての現象、戸惑いを顕にしてしまう。

 

 

 

 ――――宝の終着点、なるほど。

 

 

 

 義経の刀が再び囁き震えた。

 

 

 

「な、に――――」

 

 

 

 一方、壁を隔てた対面にいる紋白は驚愕の表情を浮かべる。自分の右手を見つめ、異能から通じて何かを確信したようだ。

 

 弾かれた自身の異能が通らなかったこと、その異能が壁に触れさえもできなかったこと。

 

 これは、この世界のルールに触れたということだ。

 

 

 

 

 

「――――これが、扉だと言うのか!?」

 

 

 

 

 

 その声に呼応するように、水面のような壁が大きな波紋を生じさせる。波紋とは言ったものの、実際の海面の波の様に動きはしない。もっと軟い、流体に鉄球を落としたようにぬるりと動く。

 

 その波紋は一つだけではない。自動車の車輪程度の直系のものから、アドバルーン級の大きさのものまで最少様々だ。その中央に何が沈んだ訳でもないのに、その波紋には「何か」の気配を感じる。

 

 

 

 その数ある波紋の一つ、一際大きな波紋から、ずるりと、穢れた力を拒絶した主の腕が――――

 

 

 





 あとがきしょーとすとーりー 快楽即堕椅子

十夜「人をダメにするソファ?」

準「ああ」

十夜「○印良品のあれでしょ? 一時期話題になった……。効果あるんですかね」

準「その検証結果があれだ」

千李「ほえぇ…………ぇ…………」ダルーン

紋白「むふぅ………………ふふぅ…………」グテーン

虎綱「わふふふ…………わふっ、ふぅ…………」ダラーン

伊予「べいぃ…………すたぁ…………」ハマーン

虎蔵「ぬふぅ……ぬっ、はぁぁぁぁん…………」ドルーン

エリカ「むふふふふ………………ふっ、んんぅ……」トローン

十夜「待て待て待て待て」

準「な?」

十夜「待て待て、人選待て」

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