MAJIKOI×DRIFTERS   作:霜焼雪

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第十九幕 moments

 

 

 

 空気を切り裂き空間に蜘蛛の糸のように張り巡らされた白銀の異能、玉繭(ブレイド)

 

 九鬼紋白が扱うその異能は、銀食器のような光沢を放ちながらも蜘蛛の糸よりも細く、それでいて鋼よりも硬い異次元の素材からなる糸状の能力である。僅かな光の反射でしか視認できないそれは対象が気を緩めずとも、確実に相手の死角に潜り込む。

 

 縛り上げれば肉を断ち骨すら切り落とし、編み込めばダイヤモンドより硬く弾丸すら通さない高度を誇る、攻守兼ね備えた武器にもなり得る汎用性の高い能力だ。堅甲利兵不可視の能力。

 

 とは言ったものの、その汎用性を活かすために必要なのは経験と発想だ。

 

 元々紋白はこの能力を“武器”として扱ってはいなかったのだが、かつての自身の従者との邂逅によりこの応用にまで行き着いた。行き着いたとは表現するが、完全に模倣しきれている訳ではない。従者の糸による技には遠く及ばない。

 

 それでも、人を殺めること自体は容易になった。首に巻けばするりと(かしら)が落下し、張り巡らせておくだけで走ってきた者はこま切れとなる。こちらが躍起になる必要性が無くなる、利便性に長け過ぎた能力に昇華した。

 

 その怠惰を誘う能力で糸を編み込み、剣や槍のような武器を象るような技は紋白の発想だ。分かりやすく明確に、視覚から死と言うイメージを与え付けることに着眼点を置き、糸を不可視な細さで扱うのは基本的には拘束の時だけ、と言ったスタイルに発展した。今まで見てきた糸の技が拘束ばかりだったことも影響していることだろう。

 

 そんな戦闘方法を取っていた筈の紋白が、全力を以て一本の腕を細々と輪切りにするべく縛りつけるような糸を躍起になって放った。燻製される前の食肉のように縛りつけ、餃子の種になる玉ねぎの様にみじん切りにせんとする。

 

 

 

 その対象となった“扉”から突き出された腕が、グッ、と拳を作る。

 

 

 

 次の瞬間、襲いかかってきた見えないはずの糸は見えない壁のようなものに弾き飛ばされ、紋白の手を引きちぎる寸前で見捨てられる。再度編み込んだ剣を何本も精製して仕向けるが、それすらも弾き返されてしまう。

 

 紋白が悔しさに顔を歪めた。次の瞬間、水面のような壁に浮かぶ波紋が音を立てずに大きく(たわ)み、拳が握られたその腕が更なる姿を現していく。腕の主がようやく顕現しようというのだ。

 

 十秒以上の時間をかけてゆっくりと、腕の主が産み落とされた。

 

 決して筋肉質と言えない、英雄と比べればか弱くか細い華奢な体躯。この場にいる誰もが血塗れ泥だらけと体を汚している中、一切の穢れを良しとしないような純白の装い。鬱陶しいほどに伸びきって視界を覆わんとする黄金色の前髪から、ギラリと鈍く輝く紅の双眸。

 

 そして何より、それら全ての異常として助長させたる膨大な圧。彼の中性的ともとれる脆弱な身体を、歴戦の勇者を打ち負かす英雄の体躯と魅せる彼の圧倒的な存在感がこの場の生物全てを圧迫する。木々は恐れ慄き震え上がり葉を擦りあわせてざわざわと呻き、彼の周りを避けるように空気中に漂う煙が道を開ける。

 

 鎧袖一触、金城鉄壁の立ち振る舞い。あまりにも傲岸で不遜で遠慮を知らないその姿を、九鬼英雄は、九鬼紋白は知っている。

 

 

 

「お、王貴……!?」

 

 

 

 思わず、英雄は其の人物の名を口にする。古くから知るその男の名前を、英雄は間違えるはずがなかった。少しばかり態度は変わってしまったが、全てが変わってしまった訳ではないと信じている英雄の幼馴染。

 

 それに応えるかのように、半身を傾け振り返る。ふわりと浮き上がった金色の前髪はこの戦争に不釣り合いで浮いている。その異常性が、この場における救世主らしさを表している。

 

 

 

「……英雄か、貴様?」

 

 

 

 救世主とされた男、霧夜王貴は問いかける。

 

 

 

「……うむ。フハハハ……!」

 

 

 

 変わらぬ気配、変わらぬ風貌。彼の全てが懐かしい。英雄は思わず歓喜の声を漏らし、緩みかけた涙腺を親指で押し潰す。

 

 その様子を見ながら、王貴は僅かながらに疑問を覚える。

 

 

 

「老けたように見えるが、英雄だな。そのような臭いがする」

 

 

 

 臭いとは表現したが、王貴の嗅覚に飛び込んできているのは戦争の臭いだけ。英雄自身を連想させる臭いと言うものが漂っていたとしても、王貴はそれを感じ取れる獣のような嗅覚に特化している訳ではない。

 

 目の前にいるのは自分の知っている英雄だと、本能がそう告げていた。

 

 

 

「……天神館に、川神学園か」

 

 

 

 英雄を護る様に立ち塞がっている義経、英雄の後ろで気絶している三郎、二人へ意識を移した。気絶している三郎は何の反応も示さなかったが、義経は王貴の意識が移ったのを感じ取って警戒心をさらに強めてしまう。

 

 

 

 ――――この男は危険だ。

 

 

 

 義経の遺伝子的な本能に加え、義経の握る刀がそう訴えかける。

 

 しかし、英雄は警戒心の欠片もない。一切の疑惑、動揺を抱かぬまま王貴を見つめている。目の前に現れた王貴に対する期待がメーターを振り切っているようだ。

 

 

 

「場違いな連中が“相も変わらず”呼ばれている」

 

 

 

 ただし、王貴の訳知り顔な態度と物言いには疑問を覚えざるを得なかったようで、英雄は思わずそれを問いただす。

 

 

 

「どういうことだ」

 

「……(オレ)にも分からん。何故この世界に呼ばれたのかも、この世界自体も何なのかは分からん」

 

 

 

 だが、と付け足して自分頭を人差し指で小突く。

 

 

 

「以前はどうだった、前回はこうだったと、身に覚えのない情景が頭の中を這いずってな。ここに至るまでの奇妙な空間で苦しめられた」

 

 

 

 

 

 ――――次。

 

 

 

 ――――やれやれ、呼ばれてしまったか。

 

 

 

 ――――何をしに来た、“違反者”。

 

 

 

 ――――私は彼と対峙しようと画策していたところでね。今呼ばれるのは都合が悪い。

 

 

 

 ――――貴様に“扉”は開かない。

 

 

 

 ――――厄介なことだ。まあ、今この場にいることは、鉄道で上京する息子を入場券片手に見守る親のようなものだ。乗車券がないことは承知している。我が子の上京を受け止めきれない部分までそっくりだ。

 

 

 

 ――――貴様ら、何を勝手に話を進めている。

 

 

 

 ――――ああ、これは失礼した。紫と私のことは忘れてくれて構わない。ただ、君は“過去の参加”を忘れたままでいられると困る。崩王に至る前に死んでもらっては、困る。

 

 

 

 ――――っ……!? ガ、ァァァァ――――

 

 

 

 

 

「だが、何となくだが分かる」

 

 

 

 勝手に、一方的に、身勝手に、王貴自身のことなど何も鑑みない勢いで流れ込んで来た記憶。たった一つ、単純であって莫大な記憶群。

 

 

 

 

 

 ――――行こうぜ霧夜! 乗せてってやるよ!

 

 

 

 ――――(オレ)を差し置いて酒を呷るか、無礼な女だ。

 

 

 

 ――――貴女が私を男だと思うのなら、私は男で良いよ。

 

 

 

 ――――おかあさんは、わたしがたすける。

 

 

 

 ――――悪いけど、君たちにはここで脱落してもらうよ。僕と武神のために。

 

 

 

 ――――行くぞ焔。大将首取らなきゃ港が浮かばれない。

 

 

 

 ――――足りなかったな、僕たちには、何もかも――――

 

 

 

 

 

「お前は護らねばならんのだ、英雄」

 

 

 

 この世界に連れてこられたことに対する怒りもあるだろう。目の前で繰り返された惨劇に多少の思う所もあるだろう。頭の中をぐちゃぐちゃに掻き乱され、記憶にない記憶を投下されて何も思わないはずがない。

 

 それら全てを弾き飛ばし、英雄を生かすことを宿命とでもしているような言動を見せた。英雄を護る義経にも完全に背を向けて、王貴を殺そうとしている一人の少女に立ち向かう。

 

 

 

「紋。思い切った反抗期だな?」

 

 

 

 紋白に対し、王貴は笑いを向ける。実に余裕綽々たる態度をして紋白に話しかけた。

 

 

 

「――――気安く話しかけるな」

 

 

 

 対する紋白は、王貴に対して笑顔の一つも示さない。英雄に対する表情とは全くの別物だ。ごみ溜めに群がる害獣でも見つめるように冷ややかな視線、憎んでも憎み切れない仇でも見つけた様に歯を剥き出しにし、王貴に嫌悪感を体現する。

 

 

 

「…………ふ、クッ、ハハハハ、は。おおお、面白い冗談だな……」

 

 

 

 不機嫌そうに睨まれる。たったそれだけのことで王貴の悠然たる態度は瓦解した。長距離走り切った後かと思わせる程額から汗を滲ませ、視線も紋白を直視できずに優雅に泳ぎまわり、疲労や傷害など一切感じていなのに膝が笑い始めた。

 

 

 

「霧夜とか言ったな。ギラギラした指輪なんぞ身に付けおって、学生身分に粗暴な風貌だ」

 

 

 

 加えて罵倒、既に王貴自身に余裕がないことは、後ろ姿しか見えない英雄や、出会って間もない義経にさえ筒抜けだった。

 

 

 

「…………く、は……」

 

 

 

 必死に笑おうとしているのだろう。しかし、口から洩れる声は余りにも掠れていて、目は開き切って動揺に支配されてしまっているのが火を見るより明らかだ。

 

 目の前で自らを罵倒してくる親愛の対象に情けない姿は見せられないと、これ以上ないくらいに気を張っているのだろう。

 

 

 

「血の繋がっていない者は全て他人、汚らわしい存在なのだ。我はそう学んだ。教えられた」

 

 

 

 だが、王貴の親愛の対象である紋白の瞳に、既に温かみのある光はない。

 

 

 

「故に、“元”兄様。決別の時だ。苦しんで死ぬがいい」

 

 

 

 

 

 

 ズシャァ!! と盛大に膝から崩れ落ちた救世主。

 

 

 

 

 

 

「お、王貴!」

 

「か、覚悟はしていたが、こ、これほどか……!? 頭がどうにかなってしまいそうだ……!!」

 

 

 

 義経たちから救世主のような第一印象を消し去り、敵方の紋白ですら若干引かせた王貴。

 

 

 

「先刻の頭痛の方が幾分かマシと思える……」

 

「よ、義経はどうしたらいいんだ!?」

 

 

 

 ――――これは危機的状況の打開にはならぬやもしれぬなぁ。

 

 

 

 状況を理解できずに慌てている義経と、四つん這いになって遂には吐血しそうな王貴の姿を見て、英雄は大きく溜め息を吐いて頭を抱えてしまった。

 

 その僅かに空気が弛緩した瞬間、紋白は糸を放った。

 

 王貴と義経の間を掻い潜り、英雄の身体を拘束しようと糸が伸びた。伸びた筈だった。

 

 ベチン! と音を立てて糸が“見えない何か”に阻まれたのだ。それも、霧夜王貴という関門を突破する前に。的確に死角に潜り込んだはずなのに、紋白がそう思った瞬間、王貴の姿が紋白の目の前から消え、遅れて爆風が周囲を襲う。

 

 煙と雲で完全に陽光が遮断されたが故の油断、上空に王貴が飛んで影ができたことに気が付けなかった一瞬の判断ミス。紋白は盛大に自身の甘さを呪った。

 

 王貴を見上げた瞬間、王貴の姿が再び紋白の視界から消えた、瞬間――――

 

 

 

「がぁっ――――!?」

 

 

 

 紋白の身体は遥か後方の森まで一切の減速を許されず、まるで大砲から発射された球の様に弾き飛ばされた。

 

 ほんの一瞬の出来事に、一体何が起きたか分からなかった義経は思わず口を開けたまま唖然としてしまう。王貴のその技を多少なりにも知っている英雄でさえも、王貴のこの行動には絶句してしまう。

 

 王貴が紋白に手を挙げた、それだけで天地がひっくり返ってもおかしくのない行動だ。

 

 

 

「英雄」

 

「……なんだ?」

 

「後で(オレ)を殴ることを許可する、いいな?」

 

 

 

 紋白にぶつけたと思われる右手を挙げ、英雄にそう告げた。

 

 

 

「反抗期を正す役目は、(オレ)に譲れ」

 

 

 

 ◇ ◆ ◇

 

 

 

「あの金髪、殺していいんでしょ?」

 

「落ち着けって。そういう衝動に駆られるのは分かるけどよ」

 

「君は違うの?」

 

「楽しければいいし、崩王ちゃんの機嫌を損ねさえしなければ何もしなくてもいいんでね」

 

「怠惰なんだ」

 

「心外な。こうやって君の手綱を握っているだけで十分な仕事をしてるつもりだぜ?」

 

「私のポニーテールはそういう類のものじゃないんだけれど」

 

「掴みやすかったし」

 

「十分なセクハラよ」

 

「どっちかってーと、パワハラだな。俺、上司だし?」

 

「蹴り飛ばしてやろうか?」

 

「どうどう。あとでいいコトしてあげっから」

 

「馬じゃないっつってんでしょ! あといい加減手ぇ離せ!!」

 

 

 





 あとがきしょーとすとーりー 裏方人材不足

崩王「カット! もうちょっと派手に吹っ飛ばしてあげて!」

王貴「ええいこの【自主規制(ピー)】めが!! 何度(オレ)は紋に手を挙げなければならんのだ!!」

千李「紋ちゃん、メイクし直すからおいで」

紋白「うむ!」

準「素直に膝の上に乗ったはいいものの、メイクされることに慣れていないせいか、ギュッと目を瞑っている紋様を、心の底から安心させてあげるのが俺の役目じゃないかと思うんだが、どうだ?」

十夜「いいから早く音声確認してくださいよハゲ」

虎綱「照明角度は大丈夫ー? さっきから吹き飛ばしては取り直しだから位置が分からなくなっちゃって」

瑠奈「だいじょうぶー!」

準「俺のロリコニアはここにあったのか」

三千尋(不死川にその視線向けたら絶対に許さない)

虎之助「もう少し霧夜には背中から哀愁を漂わせてほしいんですよ」

エリカ「分かった、そう伝えておくわ」

灯「暇だなー」

梓「そうねー」

義経「な、何故義経の髪まで握るんだ灯くん!?」

百代「オイコラ酔いどれ爺共!! 大道具係なんだからちゃんと起きてろ!!」

崩王「はいそれじゃあTAKE18行きまーす!」

盟主(すごい現場に来てしまったかもしれません)

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